23 飛翔種襲来
街道沿いの林で、クラージュは単身、魔物と戦闘を繰り広げていた。
幸い、街道や町へ魔物が侵入する前に到着出来たので、今のところ人的被害は出ていない。
「恐るるに足りん!」
クラージュが力任せに振り下ろしたバトルアックスが、合成獣のヒヒの頭を両断した。
街道沿いの林に出現した5体のシメールも残すところあと2体。クラージュは一撃もくらうことなく、一人で殲滅を終えようとしていた。
豪快な戦闘スタイル故に、纏う銀色の鎧は不規則に飛んだ返り血により、赤い斑模様へと変貌している。
「所詮は獣か」
正面から迫るシメールの突進を最低限のサイドステップで回避し、すれ違い様に振り下ろしたバトルアックスで胴体を両断した。
「終わりだ」
背後に最後の個体の気配を感じ、振り向きざまにバトルアックスを投擲。刃物がヒヒの顔面に食い込む音と共に短い断末魔が鳴り響き、獣の体は血だまりに沈んだ。
「戻ったら手入れをしないとな」
シメールの顔面にめり込んだバトルアックスを引き抜こうと、クラージュが屍に近づこうとしたが――
「上?」
突如としてクラージュを覆う黒い影。
次の瞬間、空から一体の魔物がクラージュ目掛けて急降下してきた。
「飛翔種!」
獅子の体に巨大な鷲の頭と両翼を持つ、飛翔種と呼ばれるシメール。
ルミエール領は生息域から外れているので出現することは非常に稀。クラージュ自身、飛翔種と対峙した経験は数える程しかない。
急降下の勢いを乗せた、硬質な嘴がクラージュへと迫る。
投擲したバトルアックスはまだ回収出来ていないが、拾っていては攻撃への対処が間に合わない。
「効かん!」
背負っていたタワーシールドを素早く右腕に装備し、嘴の一撃を硬質な盾で受け止める。発生した衝撃は凄まじいものだったが、強靭な肉体を持つクラージュはビクともしていない。
飛翔されては厄介だ。クラージュは反動で怯んだ飛翔種の頭をすかさず盾で殴りつけて昏倒させた。
「終わりだ!」
重量のあるタワーシールドを力任せに振り下ろし、飛翔種の鷹の頭を粉砕した。
「……飛翔種とは珍しい」
大陸全土で魔物の動きが活発化してきているのは周知の事実だが、その土地に本来生息してないはずの種まで出現するようになったとしたらいよいよ大事だ。大陸の行く末に、不穏な気配を感じずにはいられない。
「ともあれこれで――」
瞬間、安堵は緊張へと変わる。
突如として上空から響いた鳥とも獅子とも似つかぬ、あえて言うなら人間の叫びにも似た独特な鳴き声。
一陣の風と共に、クラージュの頭上を2体の飛翔種が通過していく。
「飛翔種が2体……いかん!」
クラージュの顔から一気に血の気が引いた。飛翔種の進行方向には林檎園が存在し、収穫期を迎えている現在、かなりの人数が集まっているはず。
武装していない民間人では、強靭な肉体を持つ魔物に成す術は無い。血肉が乱れ飛ぶ地獄絵図は容易に想像できる。
「とにかく向かわねば!」
迷っている時間も惜しい。クラージュは急ぎ馬を走らせる。
ルミエール領の誇る駿馬とはいえ、空を駈ける魔物に追いつくことは難しい……。




