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7.
ずいぶんよく寝た。
さてこれで身体も元通りになっているはず。
そう前足を顔に近付ける。
戻ってなかった。
「にゃー!」
私は発狂して、変な声を出した。
マロンはまだ眠ったままだ。
仕方ない。マロンにはほっけの塩焼きをプレゼントしてあげよう。
よく枕元に、ヘビやネズミを置かれる意趣返しだ。
私はそうマロンの鼻先に魚を置いた。
人間の嗅覚だからか、マロンは気付かなかった。
1日中寝ていたせいで、体中がうずうずする。
すこし散歩してくるか。
猫の身体に慣れた私は、キッチンスペースにぴょんと飛び乗り、換気用に開けられた窓から外へ出た。
猫の身体で歩く地元は、別世界のようだった。
轟音を響かせる鉄の塊は、自動車というよりも、飛行機だし。
自転車のタイヤは、大型自動車のタイヤよりも大きく見える。
何気なく歩いている近隣住民でさえ、恐怖の対象になった。
思ったよりも広い土地に住んでたんだなー。
私はしみじみと実感した。
「にゃ」
顔に何かがぶつかった。
痛くはない。
これは。
「(雨だにゃー)」
空を見上げると、黒い雲がせまってきていた。