6.
マロンは私をにらんで、ニャーニャー泣く。
私はマロンをにらんで、ニャーニャー鳴く。
これじゃあ主従関係もへったくれもあったもんじゃない。
マロンは餌をあきらめると、さっとソファに上がって丸くなった。
なぜか寝間着をなめ始める。また毛づくろいか。
私はそうため息をついた。
かく言う私はどちらを食べればいいのだ。
キャットフード? 食べたくない。
ほっけの塩焼き? 食べてみたい。
食べる食材は決まった。
だが、キッチンに上がれるかどうかが問題だ。
体長の何倍もある流し台が、山のようにそびえ立っている。
人間基準で言うなら、縦に五メートル跳べと言われているようなものだ。
棒高跳びじゃあるまいし、そんな。
「にゃっ!」
意を決して跳んでみた。
視界はぐんぐん上昇し、流し台に着地する。
運動神経は人間の何倍もありそうだった。
「(いただきます)」
そうしまっていた爪を伸ばして、ラップを破く。
食べてみる。味がしない。
塩味は感じるが、人間だったときに比べると無味に近かった。
そんなにおいしくない魚を少し食べたら、また眠気が襲ってきた。
もしかしたら人間に戻れるかも。
私はそうあわい期待を抱きながら、マロンと寄り添うようにして目を閉じた。