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第76話 本当の気持ち 5

今回は最後の話になってしまいましたが『本当の気持ち』の5をお届けします。大切な人の事を想う気持ちを伝えたくてこのエピソードを書きました。

彼女はどうなってしまうのか。

どうぞ最後まで宜しくお願い致します。

 しっかりとした足取りで闇の迫る道を進む蒼の姿があった。

 踏みしめる土の道。夕闇の迫る丘へ続く道だった。

 いつかの日曜日をブリュンヒルデと一緒に過ごした丘へと続く道だった。


 その道を一人歩いて居た。


 水族館の裏手から大好きな海岸の風景を見せていた時だった。

 すると青の言葉を言われたのであった。


 『一つだけお願いを聞いてもらい事が有るのですが、宜しいでしょうか…………?』


 彼女が申し訳無さそうに言った言葉は、初めて会ったこの丘に行きたいと言うものだったのである。

 その彼女の事を思い出すと独りでに顔がほころんでしまう。ここに来ると彼女は嬉しそうに言ってくれた言葉が忘れられなかった。


 『ここは、私が蒼さまと初めて会った場所だから……』――――。


 けれどその言葉を言った彼女はもう居ない。


 思えば不思議な出会いだった。この世の終わりだと言う『世界の終末宣言』を聞いた時、彼女が地上に降りて来てくれたのである。

 そして戦女神と言って契約をして、あっという間にフェンリルをぶっ飛ばしてくれて。そしてアテナが来てレヴィアタンに会い、ガブリエルが地上に居る事になって……思い出すだけでも彼女が着てからは毎日がジェットコースターのように目まぐるしく過ぎて、大国主命主にあったり悪魔なんかともやりあったり、大変だけど面白い毎日を送れたのであった。それも全ては彼女のお陰だと思うのだった。命があったのも、そして毎日がこれほど充実していられたのも全てが彼女のお陰だと。

 思い出すと、彼女の真剣な顔が目に浮かんだ。

 いつでも真剣でいつでも彼を信じきっていて、心から話してくれて、何よりも彼を第一に考えていて、自分の事は二の次に考えてしまうブリュンヒルデ。

 その彼女が笑う顔を思い出すと、何とも言えぬ胸の痛みが湧き上がってくるのだった。

 その笑顔の人はもう居ないのだ。

 映画館にもポップコーンを頬張る彼女は居ないし、水族館にもペンギンにエサをやりたいと魔法を使う彼女はもう居ないのだった。

 もうどこを探しても彼女は居ない。


 昨日までは手を伸ばせば触れる事が出来たのに、どうして自分は彼女を行かしてしまったのだろう?

 行かせないで、ずっと傍に居て欲しいと、どうして素直に言わなかったのだろうか?

 かっこ悪いと思ったからか?

 いやそれは違う。

 戻ると決めている彼女の足手まといに成りたくなかったからである。どこかで彼女の手助けをしたいと、彼女の為に何も出来ないが少しでも、一つでも、何か役に立つように成りたいと思っていたからである。彼女に相応しい人間で居たいと思っていたからなのである。


「けれどその為に君に会えなくなるなんて、馬鹿だよね?」


 自分にそう言って苦笑いを浮かべる。

 彼女の為にしてるのに、その為に彼女にもう会えなくなるなんて、やhり痩せ我慢もいい所だったのだろうか。一人そんな考えが浮かんで思わず口にしてしまった。


 彼女がこの世に居なくなる事がこんなにも苦しいとは思わなかったのである。相手の為に自分の気持ちを押し殺すなんて、かっこいいと思っていたが死ぬほど苦しいとは思って居なかったのである。


 そんな気持ちを抱いたままそこを昇りきると、そこにあの日見た丘が広がるのであった。





「牢屋の連れて行け。頭が冷えるまでそこで自分の行いをよく考えるのだな!」


 重く周りの者に有無を言わさぬオーディンの言葉が鋭く響いた。

 神々の審問の場、イザヴェルの神殿でブリュンヒルデは顔を上げてオーディンを見つめていた。

 彼女の願いを聞く気が無い王はそれを遮って彼女を牢に入れようとしていた。

 確かに法律は王である彼の物だ。それに逆らう物はそこには存在しないのだ。それが法であるのだ。平等であるとはブリュンヒルデも思っていない。しかし――――。


「それでも、運命に抗う事を忘れてはいけないと何故人間に、彼に教えてはいけないのです。私は運命に逆らっても一生懸命に努力する彼を良く知っています。自分は運が悪いと思っていても、誰も見ていなくてもその人の為に何も言わず、その人の喜ぶ顔を見たいが為にただ黙ってそうする彼を手助けしたいのです。この世にそうする女神が一人くらい居ても良いでしょう? 他人の為、見返りを求めないその人の行いを一緒に手助けするくらい構わないと、私はそう思いたいのです。誰の為でもないのに、命を落とすとも知れないのに、他人の為にフェンリルに戦いを挑みに行くような人に力を貸して、その人の傍で人の為にしてあげたいと思ったから……」


「何を言うか。そんな事戦女神であるお前の務めでは無いと何度言ったら……」


「だからそんな事すら出来ないのなら、彼の元では神の剣がさずけられた事の意味も無いと思ってるのです。しかし彼の元に剣があり何度と無く危機が迫ってきてるのは事実です。だから私はあの人の傍で……」


「お前があの場に行く運命では無かったのだぞ。それをお前はあの人間の為と言うのか!」


 そこまで言った時だった。オーディンは力任せに床に足を踏みつけてブリュンヒルデの言葉を遮った。


「運命?」


 聞き返すとオーディンは返事をする代わりに顔を逸らした。


「お前はあの物と会う運命では無かったと言っているのだ。何かの間違いであの場にお前が行ってしまった。それだけだ。それ以上は……」


 オーディンの言葉にブリュンヒルデは悲しげな目を向けていた。


「運命なんてそんな物の為に私は居るんじゃない。もしそれが運命に逆らうと言うのなら。私は喜んであの地上に戻ります。あの人の傍で運命とやらに逆らって……」


「それではお前には『神々の呪い』が掛かるとあれ程言ってるのが判らぬのか。お前は一生想う者とは結ばれぬのだぞ。それでも良いと言うのか? そんな事は許さぬ。お前は一生このアースガルズの地で、頭が冷えるまで牢に何十年と入っておれば良いのだ。それが出来ぬと言うなら……」 


 オーディンの言葉にブリュンヒルデがその言葉を言おうとした時だった。


「王がそのような言葉を口にしてはいけないのでは無いですか?」


 おもむろに立ち上がったヘイムダルが口にした言葉に皆が振り向いた。

 見つめたブリュンヒルデにヘイムダルが一つだけ。ウィンクをするのであった。





 丘の上に立ち辺りを見回すと薄暮れの空に染まる中囲町の街が一望でした。


 寂しい車のライトが行きかう町並みが見えている。あの街を守る為に何を思ったのかフェンリルと戦う為にこの場所にきたのか。今はレヴィアタンで働く彼女の事を思うとその不思議さになんだか笑いが込み上げた着ていた。

 何に為の世界なのか。傍に居たいと思える人が居るのが世界ではないのかと、ふとそんな事を考えていた。何故だろうか、何故だかそんな事を思うのだった。


 するとそんな考えに身を任せてみると不意に頭上に何かの気配を感じるのであった。

 何か知っているような不思議な感覚。何か酷く懐かしくて、とっても大事なその感覚が――――。


 まだ見えぬそれを急いでみて、薄い蒼く染まった空を見上げて目を凝らした。


「ブリュンヒルデ?」


 彼のその言葉に呼応するように、蒼く染まった空の奥の方で星の瞬きのような小さな閃きが輝くのであった。



 ようやく見つけたその場所へ向かってブリュンヒルデはただひたすらに飛んでいた。

 目指すはあの日、蒼と初めて会った場所だった。

 その場所へ行き、蒼の家に帰る。

 それだけを胸に、ただ全速力で飛んでいた。自分の力がそれほどとは思って居なかったが、今までよりも更に速く、光よりも速く飛んでいて――――。


「あっ……!」


 その時、地上にその姿を見つけ彼女は小さく呟いていた。そこに蒼の小さな姿を見つけたからであった。



 彼女が遠く姿さえ見えない状態で地表に居て自分を見上げる蒼の姿を見つけた時だった。


「地上に迫った『世界の終末』を王がとめるために地上のものにあのグラムを授けようとした事は判ります。しかし、実際はその者とした契約によってブリュンヒルデ、彼女がフェンリルを倒した。恐らくはそれはその者の力でしょう。それほど強い地上の戦士と言う事ですね、違いますかオーディン様」


 ヘイムダルがオーディンを見つめる。それを面白く無さそうに首を縦に振って答える。まったく我侭な王であった。


「そしてあのレヴィアタンも退け、ベルゼブブと言う悪魔でさえ相手に戦う事が出来ました。地上の女神アテナや大天使にあのフェンリルも何故か利用してるような気がします。その戦士の功績は大きいのでは無いでしょうか?」


 ヘイムダルはここぞとばかり矢継ぎ早に捲くし立てる。


「ひょとしてこれは地上を守るにはブリュンヒルデが地上に居る事が良いのでは無いかと私は思ったのです。少なくとも地上に居ればその危機が一番速く対応出来ますので。彼女が居る事は意味があると思うのですがどうでしょうか?」


 ヘイムダルはやや芝居がかって講釈を垂れた。そう言うとフリッグにもニッコリ微笑む。


「ワシもそれは良いと思うな。その時間稼ぎの間にワシが地上に向かえば、多少戦局も好転しようと言う物だし」


 トールが身体の通り大きい声でその場に投げる。それを面白く無さそうに神々の王がチラと見るのであった。まったくこいつらは……という顔をしてヘイムダルとトールを見ていた。


「お前達は何をしたいのだ。ワシの決定は間違っていると言いたいのか?」


「いえ、神々の王が間違うなどと思ってる筈がない。しかしこれは牢に彼女を入れるよりもっと良い方法があるという進言です。これを聞くかは王たる物の裁量に掛かっている。地上に今後も迫る危機に、まさか懸命な我等の偉大な王が彼女を牢に入れる等と言う暴挙に出るはずが無いと……」


 そこまで言ったヘイムダルの言葉をオーディン自らが遮るのであった。


「もう良い! お前達の言ってる事はもう判った。ワシにブリュンヒルデを地上に行かせろと言うのだな」


 その言葉を聞いてブリュンヒルデは顔を上げた。ヘイムダルを見てその後オーディンを見る。

 その顔が輝いているのを認め、彼は観念したように背を向けた。もう議論を交わす気がなくなったみたいに……。


「行けば呪いは本物になってしまう。それでも良いと言うのなら、勝手にするが良い。苦労を知らぬお前に初めての試練となろうが……」


 最後に言った言葉は表情こそ判らなかったが、きっと笑っているに違いないとブリュンヒルデは思った。黙ってその言葉を聞いて心の中で感謝した。

 ヘイムダルとトールやフリッグの顔を見て、ブリュンヒルデは涙を浮かべて礼を言うのであった――――。


 その情景が頭に浮かびながらブリュンヒルデは地上に見えた蒼に向かっていた。


 見上げる蒼の目にもその彼女の姿が近づいてきて、信じられないような気持ちでそれを見ていた。

 もう会えないと思っていた彼女の姿が近づいてきた。


 うっすらと暗くなったその空の中、真っ白い尾を引いて純白の女神が今彼の元に両手を広げて降りて来るのであった。


 その姿は嬉しそうに笑っていて、今にも笑い声が聞こえてきそうなそんな素敵な笑顔で彼女が自分の下に音も無くゆっくりと舞い降りてきた瞬間であった――――。



 その舞い降りてきた彼女の指が自分の伸ばした指に触れた瞬間、ガバっと力任せに彼女の身体を引き寄せて抱き締めていた。



 もう会えないと思っていたブリュンヒルデであった。

 もう放さないと誰にともなく呟いていた。もうこんな気持ちになるのは耐えられない。これほど苦しいとは自分でも知らなかったのだ。彼女の居ない時間は生きていても仕方ないと思い知らされたのであった。

 その細い身体も、手も、足も全て放せなかった。もう二度とその手を放さないと心が独りでに叫びそうに成っていたのだった。


「あの……蒼さま、痛いです……」


 彼女の言葉が始めて聞こえてきて、慌てて我に返る。そうだ、自分は何をやっているのか? 彼女の身体を抱きしめるなんて、いったい?! ――――。

 急いでその身体を離すと、胸のところにある箱のような物が浮いてるのが見えるのだった。


「これのお陰で頑張れました。これもある人のお陰です」


 彼女が恥ずかしそうにそれを見せる。

 それは彼女が蒼にこの場所で貰ったあの鏡付きのオルゴールであった。ちょこんと載ったスヴェライがアコーディオンを鳴らしてる。それを見るとまたしても彼女を抱きしめたい衝動に駆られるのであった。しかしそれはもうしてはいけない。彼女はこれを持って神々の国へ帰って何をしてきたのだろうか? 蒼の頭にそんな疑問が湧いてきた。きっと辛い目に沢山合ったのではないかと心配になる。


 しかし彼女はすっと蒼の身体から離れるとトンと地上に降りるのであった。そして一言呟く。


「遅くなって申し訳御座いません。ただ今です。蒼さま」


 その言葉を聞いて一気に涙が溢れそうになった。それでも彼女の笑顔を見て精一杯の笑顔で言ってあげたいと思うのであった。


「いきなり抱きついてごめん。けれど良かったまた戻ってこれて。お帰りブリュン」


 その言葉を聞くと、彼女は満足そうに笑う。


「これのお陰で頑張れました」そう言うと蒼に貰ったオルゴールに目を落とす。「これのお陰で、ずっと、ずっと居られるように……」


 言葉はそこまでだった。我慢していた気持ちをどうにも堪えられないように、ブリュンヒルデは急いで蒼の身体にしがみ付くのであった。


「私、頑張りました。頑張りましたから、今はこのままにお願いします……」


「ブリュン……」


 彼の首に手を回し力の限り顔を埋めて泣いていた。

 それほどまでに苦しい出来事があったのかと思ったが、今はそのままで良いと思った。今はただ何も聞かず、そのまま傍に居て欲しいと思うだけなのであった。



 家に着くと、インターホンを鳴らし有風を呼ぶ。


 するといきなり有風がブリュンヒルデを見て走って来た。

 そして彼女の身体を掴むと思いっきり抱きしめた。何も言ってないのに。何も知らない筈なのに、彼女はブリュンヒルデの身体を力の限り抱きしめて、そして一言言うのだった。「二度と黙って居なくなるな。日本のお母さんは今本気で殴ろうと思ったわよ。もう二度とするんじゃないわよ!」

 その言葉にブリュンヒルデも一言『はい』と頷く。目にはいっぱいの涙を浮かべながら。やはり母親には隠し事は出来ないなと、蒼は一人そんな事を思うのであった。


 家の中に入り居間の灯りが灯る。


 テーブルについた三人は戻ってきた彼女の傍を片時も離れなかった。


 もう二度と離れることは出来ないと、そんな自分の本当の気持ちに蒼は気付くのであった…………。

大事な人が皆様にも居ると思うので、その気持ちはこれと同じかなと思い、文字にしてみました。上手く書けてないかとは思いますが少しでも近づけて居られたら嬉しいです^^。

あとここまでが自分としての一章の区切りと想っていたりして。これから次の2章に入ります。これからは地上での戻る心配の無くなった二人の恋の行方に他の登場人物も動き出すのですが……。それはまた次章で確かめて頂けると幸いです^^(笑)。

少しづつでもブックマークも増える日もあり、書いていて本当に良かったと想いますので、更に登録貰える様頑張りたいと思います。

あと、次の更新は少し判らないので月曜の24時を目標に頑張りたいと思います。今後も読んで面白かったと思って貰えるように頑張りたいと思いますので、どうか応援宜しくお願い致します!

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