第75話 本当の気持ち 4
今回は切ない話になってしまいましたが『本当の気持ち』の4をお届けします。
彼が出した大事な気持ちのお話です。
想う人が傍に居ない事は本当に悲しくなります。心の中が空っぽになってしまうのは本当に悲しくて、それがどこまで書けるかなと思うのですが^^;。
どうぞ最後まで宜しくお願い致します。
「何度も言っていますが、私は命令を無視する為に地上に向かったのでは御座いません……」
神々しい光に包まれる地で一人ブリュンヒルデは一つの壇上に立っていた。
アースガルズのイザヴェルであった。
眩しい朝陽のような光の中に、広々とした平原が広がっていて、そこの中に建った屋根の無い神殿の広間に立って、周りを囲む神々に一人見られているのであった。
そしてその中央には神々の王であるオーディンの黄金の玉座がその正面に位置していた。
十数人の神々が登壇の上に居るブリュンヒルデをそれぞれに見つめる中、オーディンだけがただ黙ってブリュンヒルデも見ずに座っているのであった。
そこで神々に囲まれて今回の事の顛末を聞かれているのであった。
地上に向かって行った事も事実なら、他の戦女神を差し向けると言った神々の王であるオーディンの命令を無視した事も事実であった。それは動かしがたい事実として罰を与えられる物であった。あまつさえ父である王の「戻れ」と言われた言葉に逆らった事は極刑に値すると言われても仕方ないと思っている。そのために戻って来たと言っても過言ではなかった。
深夜の彼の家で連絡があった時から覚悟していた事である。
これ以上はいけないと心に誓って戻ってきたのであった。
「しかし貴方の行いは間違ってばかりでも有りませんでした。フェンリルが地上に降りた時一番早く駆けつけて地上を救ったことは認められて然りと思いますが、どうですあなた?」
オーディンの妻フリッグが黙り込む王に返答を促す。緩やかに立ち上がりブリュンヒルデの方を見やる。嬉しそうに顔を上げた彼女にフリッグはにこりと頷いた。任せておけといわんばかりの表情だ。
「黙れフリッグ。ブリュンヒルデの肩を持つのは少し止めておけ。お前の魂胆は判っている」
しかし顔も上げずに彼はそれを遮った。怒るとは行かないまでも、少しばかり憤慨してる事は事実だったからである。
王の命令に従わない物は即刻罪人として牢に入るのがここアースガルズの法だ。
その上、地上の者と契約をして戻らなかった事も、また罪を重くしたのは言うまでも無かった。本来ならばスクルドが戦女神として地上へ降りてゆく筈だったからである。
全ての事がブリュンヒルデを罪人とするには申し分はなかった。
「では話を別のことに向けましょうか?」
フリッグは少し抑揚をつけて周りの神々を見回した。
「貴方がどうして運命の女神でも無いのに地上へ向かったのですか?」そう言うとブリュンヒルデへ向き直る。
「それは地上で運命に見放された人間が居たからです。その人は一生懸命に良い事をしていたのに、何の悪戯か全てが負の方向へ導かれてしまう。その事に気づいた時、ある者が彼に一振りの剣を授けたのです。フェンリルが地上に迫った時に……」
その言葉を聞いてオーディンは顔を背けて頭を抱える。
「そうですね。その剣を授けたのを見て地上へ向かったという事なのですね。何故ですか?」
「はい。それは良い運命に見放された彼が更に叶いもしないフェンリル討伐の運命を神が与えるのが許せなかったからです」
「そうですね!」フリッグはそこで向き直ってオーディンを見た。「フェンリル討伐などと言う運命を誰かさんが人間に与えようとしたから向かったという事で間違いなさそうですね」
オーディンがそれを聞いて顔をまた顰めた。全く余計な事を言うもんだと言う顔をしてフリッグをチラと見る。フリッグはその視線を受けても目を逸らすような臆した所が無い。
「そうですが……」
ブリュンヒルデはフリッグの誘導尋問に乗る形で渋々答えていた。
フリッグはオーディンの妻であり、アースガルズで第二位の地位のある神である。勇敢な戦士を受け取る権利も持つ非常に高位な神にしてブリュンヒルデの義理の母でも有った。その為、ブリュンヒルデを擁護する為にはあのような事も言う。そしてオーディンも頭が上がらないのである。
だがしかしそれでもブリュンヒルデにはフリッグが言ってくれた事よりも言っておく事が有ったのである。
それは彼女には大事な事であり、それを言う為にここまで戻ってきたと言っても良かったからである。
「しかし私はその人がどうしてもその運命に逆らわずに居る事が不思議だったのです。今までもどれほど理不尽な事があっても、どんな惨めな思いをしてもその人は一生懸命に生きていて。私はその人にもっと相応の運命を手助けして上げられたらと思ったのです。運命に抗う事を手助け出来ればと……」
「だからそれは運命の女神の仕事だと言ったのだ。お前の仕事とは違うとな!」
ブリュンヒルデが一息に地上へ向かった理由を言い終わろうとした時であった。そこまで黙って聞いていた神々の王がグングニルを轟音と供に打ち下ろした。
一瞬で、ブリュンヒルデの言葉が遮られた。
そこまで聞いていた神々もフリッグやブリュンヒルデの言葉に賛同するような顔をしていたが、今のオーディンの一喝でその空気までもが変わってしまったのだ。
「人間の運命に口を挟むなどと自惚れる者は牢にでも入ってその考えを改めさせなければならないだろう。それに意義のある者は前へ出ろ」
オーディンの雷にも似た言葉がイザヴェルの平原に木霊した。
その非情な言葉を聞いて、ブリュンヒルデは小さく震えた。
しかしそれでも負けないと、自分で持ってきた小さな荷物に探すように触れて唇を硬く結ぶのであった……。
学校を出るときには、アテナと二人だった。
そしていつもの駅で降りて二人で商店街を歩いた。
しかしレヴィアタンの傍に来ると蒼が立ち止まる。「今日はやめて置いた方が良いんじゃないかしら?」と声を掛けられて一度は行くと言ったバイトをやはり休むと言ってそこで別れた。
言葉も無く歩き出す蒼の背中。
夕暮れの街に消える彼の背中を見つめるアテナは何も出来ずにただ見送るしか無かった。
暫く歩いていると不意に人に呼び止められた。
見ればその人が怒っている。
横断歩道の前で信号が変わり車が凄い勢いで取りすぎていく。止められなかったら轢かれていたのだろう。その人が怒っているが助かったのだろう。お礼を言おうとするが口が開かなかった。
気がつくと何処を歩いてるのかと思った。
いつの間にか商店街の中を歩いていつか見た映画館の所まで進んで来ていたのだ。「そう言えばここで映画を見たんだっけ?」ふとそんな事を思いながら映画館の前まで来る。チケットブースを覗くと、あの日入った入り口を見上げる。
映画を見たことが無い彼女になじみがありそうな映画を選んでみたのだ。ファンタジー物で、彼女も映画は楽しんでみていたと思う。しかし彼女は映画を見ることよりも音を出してはいけないと思って、口いっぱいにポップコーンを入れて音をさせないようにしていた。まるで木の実などを入れたリスのよう。驚いて吐き出させると上映中なのに笑ってしまった。周りに白い目で見られたがそれでも我慢出来なかった。そんな彼女の事を思い出したが、見上げた映画は今は変わって違うものになっていた。ふっと寂しい気持ちになってその場を急いで引き返した。
「そう言えば……」
その場所から歩き出すと、蒼は急に何かを思いつき少し急ぎ足になる。
街の外れのまで歩いてある場所に向かう。
そこではブリュンヒルデが空にふわふわと浮いていた。彼女としてはクラゲの真似らしい。それを片足を掴んで手品に見せて誤魔化した。
水槽の中で泳ぐジュゴンとガラス越しに喋っていたり、そう言えば思い出すとペンギンショーを見ている傍から飼育員に化けてエサをやろうとしていたな……。そんな事を思い出すと水族館の前に着くのだった。
もうすっかり夕闇の迫る時間だった。
見上げるともうすっかり扉のしまった水族館であった。クローズの文字が揺れている。寒い海沿いの道であった。それを繁々と見つめると、裏に回って海岸に出るのだった。
海岸に面した道路に出ると凄い風を受ける。
その時間に来る者もいない為、少し寂しい通りだったが、ガードレールを越えて歩道を歩く。
その時も今は薄蒼く見えなくなったが、綺麗なこの海岸の景色を見せたかったのだ。
風は冷たく、今は見えないが蒼の好きな海岸の風景であった。
吹き付ける潮風は独特のべたついた物だったが、やはりこの海は好きだった。
しかし――――。
今はその海を一緒に見ていたブリュンヒルデはもう居ない。
そうしかしここを歩いているときに彼女に言われた事を思い出した。
それは彼女が一日楽しかったと言った後に、申し訳無さそうに呟いた言葉だった。
『一つだけお願いを聞いてもらい事が有るのですが、宜しいでしょうか…………?』
「そうだ。あの場所に行かないと……」
蒼は何かを探すようにその場から立ち去るのであった――――。
前回までの話が嘘の様に寂しい話になってしまいますが、決めていた事なのでここまで来てしまいました。この先も読んで頂けたらきっと判って貰えるのでこのエピソードの最後まで宜しくお願いします。
少しづつでもブックマークも増える日もあり、書いていて本当に良かったと想いますので、更に登録貰える様頑張りたいと思います。
あと、次の更新は少し判らないので2/14土曜の24時を目標に頑張りたいと思います。今後も読んで面白かったと思って貰えるように頑張りたいと思いますので、どうか応援宜しくお願い致します!




