第67話 近づけない二人 2
誠にすみません。前回約束していた時間を1時間もオーバーしてしまいました。
しかしなんとか今『近づけない二人』の2をお届けします。
喜んで貰えたら嬉しいのですが^^;(笑)
どうぞ最後まで宜しくお願い致しますm(__)m。
海は割れて、火山が噴火して、空にはオーロラが現れても、とりあえず生きては居たので安心した。
しかし、ブリュンヒルデの放ったあの言葉に打ち抜かれた蒼のハート(心臓)は息も絶え絶えだ。生きていられたのが不思議なくらい。
「二人っきりなんて初めてです。それは嬉しいです!」
伏せ目がちにブリュンヒルデが言った。その頬が勘違いかも知れないが少し赤く染まったように見えた。
超弩級の最終爆弾が投下された瞬間であった。
百万のキューピッドが突如彼の頭上に現れて、愛の矢を一斉に射掛けて来た。当然全てが彼のハートを射抜く。一つも外す筈がない。だって彼女のその言葉は自分以外に向いた物じゃないんだから。聞いたが最後、夢の中にいるような気持ちになってしまった。
マズイ。マズイぞ! 家に二人っきりで一晩過ごすなんてどうすれば良いのか?
落ち着け、落ち着いてくれ自分。普通に過ごせば良い事なのだ。考えてみれば毎日家でも一緒の筈、何を今更驚く事なんて有るのだろうか? いやあるはずが無い。普段と同じ暮らしのままだと言い聞かせれば良いのだ。そうむりやり思い込み、傍で夕食の用意を始めた彼女を見る。「うん普通だ。いつもどおりに」
すると何やら色んな表情で1人考え込む彼に、ブリュンヒルデが少し不思議そうに聞いてきた。
「どうかしましたか、蒼さま。何か問題が有りましたか?」考え込む彼の下から、彼女が目を丸くして覗き込んで来た。その顔が又堪らなく愛おしいほど純真な目をしてるのである。
ああー、普通で居られ無いではないか――――!
一人苦悩の表情を浮かべながら、頭を抱えうんうんと床に転げ回るのであった。
しかしいつまでも床に転がっている訳にも行かず逃げるようにお風呂を洗いに行く。まったく、どうすれば良いのか皆目検討も付かなかった。
そこに逃げ込んでから約10分。お風呂を洗い終わってから台所の入り口の影にへばりつく。う~ん、彼女の後姿がまた堪らない。台所に立つ姿はもう新妻のそれじゃないか――――!
『結婚したら毎日二人っきりなんだから……』
再び有風が言った言葉を思い出して、身体の底から吹き上がってくるマグマに身をよじって叫び声を上げそうになった。
「どうしたんでしょうか? そんな所に居ないで少し手伝って貰えますか、有風お母さんが言ってたように」台所の横で狼のように喉を垂直に上げて叫びたいのを我慢していると、チラとそれを見た彼女が言うのだった。それも何か気持ちを知ってるかのように少し嬉しそうに彼を見て、そして再び前を見る。ひょっとして心を読んでるとか……?
そう思うと急いで彼女の横に向かうのであった。
「何を手伝えば良いだろう?」
「…………」
真剣な顔で聞くと彼女は少し考えるように彼の顔をまじまじと見る。「うん?」なんだろうと焦る気持ちで見ると、彼女は又笑ってる。何か気付いてるのか。ひょっとして気持ちが顔に出てるとか?
「本当は手伝って貰ったりしないでも大丈夫なのですけど、有風お母さんがああ言ってた物ですから少しチャンスなので甘えてみました。こうやって一緒に立ってお料理なんて出来たらな……と嬉しくなってしまって。すみません、わがまま言って」
「えええ?」
そんな言葉を言って申し訳無さそうに俯く。その言葉に驚いて彼女を止める。「謝るなんて、お礼を言いたいのは僕の方だよ……」
その言葉を聞いて嬉しそうに顔を上げるのであった。
「本当ですか、なら良かったです。蒼さまにはマッシュポテトをお願いしようと思います!」
マッシュポテトをお願いする彼女の顔はやはり嬉しそうだった。
茹でられたジャガイモを一生懸命に潰す。皮を剥いたのもブリュンヒルデなので串がささるようになったか聞かれて、そこからの力仕事だった。肉に味付けの塩コショウをしながら蒼のやる事を時折注意する感じだ。料理の手際が良いのが凄く判る。肉を焼く傍でまた生クリームを入れる量を黙って直される。手伝って居るが、やっているのはやはり彼女のようだった。
しかし、手伝って傍に居るだけでブリュンヒルデは嬉しそうに笑っていた。
その顔を見れるだけで、やはり楽しいと思うのであった。
無事に完成してブリュンヒルデがお皿をテーブルに並べる。美味しそうな分厚い肉がのった横には彼の力作あのマッシュポテトが鎮座していた。大盛りの上にパセリを少しかけてもらって、向かい合って並べたテーブルにつく。
本当はワインなんかが合いそうな雰囲気だと1人で想像したのだが、それはもっとずっと先だなと嬉しそうに笑う彼女を見て思うのだった。それに肝心の味の方も凄い美味しい筈だったのに、実はドキドキしてあまり味も判らなかったのだった。
食べ終わってお皿を直ぐ傍の流し台に運んでいた。
殆ど彼女が作ったので皿洗いをすると言うと、そんな事はしなくて良いですと断固拒否される。
「ダメだよ。全部作って貰ったんだからせめて荒い物はやるよ……」と手を伸ばすと、それを拒む彼女の手を思わず握ってしまった。「え?」その衝撃にはっとして彼女を見つめてしまう。
「ご、ご、ごめん!」また心臓がオーバーヒートしそうになって慌てて手を離す。そんな彼をキョトンと見つめている。
あまりの事に新幹線が走るくらいの勢いで、心の暴走特急が走り出しそうになってしまった。次はロケットが飛び出すに違いないと、後ろを向いて自分をなだめる。息の上がる彼の後ろでブリュンヒルデは何事かと首を傾げているのだった。
「さぁね、片付けも終わったから英語でも見ようかな。さっき借りた奴を一緒にね」
片づけが終わるとなんか妙に元気になってソファーの方へ逃げていく。
案外早かったので映画を一本は確実に見れる気がしていた。しかし、本当は映画でも見ないと間が持たないのだ。話をゆっくりなんて向かい合ってしたら、心臓がバクバクしすぎて破裂するかも知れないと自分の身を案じたのだ。うっかりするとロケットのカウントダウンが始まってしまう。スペースシャトルみたいに戻って来れない奴だから、それが始まると自分でも制御出来ないと自信があったのだ。
しかし、それがまた危険な選択だったと後で気付く。
コーヒーを入れてくれる彼女の姿を見ながら、メディアを機械にセットする。小人の種族の冒険譚だ。確か何人か尋ねて来た小人と白髭の魔法使いも一緒に国へ行って手助けする話しだと思ったが……。
セットが終わってソファーに座ると彼女がお湯を注いでる姿が見える。何か鼻歌交じりに微かに曲を奏でてる。あ……、その音は知らず知らず天上の鐘のような曲になって耳に聞こえていた。
「さぁ、座ったら始めるよ。早くしないと意外と長いから今日で終わらないかも」
「はい。急ぎますね……」
声をかけて再生ボタンを押すと、テーブルに彼女がコーヒーを二つ置いてきた。
だが、それがまた凄い事なのだった。
横に座るとそれ程大きなソファーでない為、彼女の身体が少し触れるか触れないぐらいの距離に座る事に成るのだ。それも深いソファーである。寄りかかるともっと近くなる。「しまった……!」思わずその事実を確認して急いで少し離れるのだった。ロケットが発射台にセットされてしまった。
しかし、その様子を見て不思議に思って顔を見る彼女。
小首を傾げながら砂糖を入れると、座りなおして彼の身体にそっと触れる位置に来てしまうのだった。驚いて見ると、にっこり微笑んで見てくるのだ。「自覚無いのかー?!」
離れると怪しまれると言うか、避けてると思われるので、それとなく少し身体を横にくの字に曲げて空間を作り、出来るだけ密着をしないように心がけるのであった。もう発射のカウントダウンが始まってしまっていた。
もうそこからは映画の内容どころでは無かった。
映画では小人の大将らしい人が少し大きな小人さんに何やら不満を漏らしてる様子だったが、そんな物漏らさないでさっさと冒険に行けばいいのに、そして出来ればもう竜なんて追い出してめでたしめでたししてくれと思う程に、内容は入ってこなかった。
まだ始まって少ししか経っていないが、もう既にブリュンヒルデからは、あそこの種族はあんなに人は良くないとかあんなにオークは可愛らしく無いとかいろんなダメだしが出ていた。
それを聞いていると、なんだか面白くなってきてしまう。やはりブリュンヒルデの国ではもっと本物は違うのだろうなと感心して、彼女の話に聞き入ってしまった。いつもは聞き役の彼女には珍しく、今晩は饒舌で何か良い事が有ったのかと考えてみるのであった。
そんな事も有ってかいつの間にか物語も中盤に差し掛かると、元から好きな映画の為夢中になって見ているのだった。時折、彼女の腕や身体が触れると驚いていたが、それも気付かずうちに時間が過ぎていた。「もう少しで半分ぐらいかな?」少し寒くなってきたのでトイレに行こうかなと、一時停止の提案をしようと横を見た時であった。
「あ、あわわわわ……」
そこにまさしくこの世の楽園、エデンの園が待ち構えてるのであった。
「ね、ね、寝てるなんて……」横を向くと、ブリュンヒルデがいつの間にか眠ってしまってるのであった。
え、それはマズイでしょ。非常にマズイでしょ?
心の中で非常ベルが鳴り響いていた。眠った彼女の寝顔はまさにこの世の楽園。ミロのボーナスも裸足で逃げ出すほどの美しさなのであった。いや当たり前か、本物の女神なのだから。思わず1人で納得してしまう。至福の時と言うのはこうゆう時の事を言うのだろうと思った。まるで天国に今いるような幸せを感じてしまう。
『でも、もし今なら起きないのでは無いのか?』――――。
ふとそんな考えが頭に浮かんだ。
昼間も自転車で買い物に遠くまで出かけ、その上嬉しくて再度商店街にまでパンケーキを食べに出かけたのである。そして、夕飯の用意もほぼ1人でしてくれたのだ。疲れてるに違いなかった。だから、こんな映画を見てる間に寝てしまったに違いないのだ。
起きない?
その事実に少し心が揺らいだ。ひょっとして、ひょっとして今なら彼女に何が起こってもあまりの疲労の為に多少の接触は判らないのかも知れない。
ひょっとすると、今なら……。
ブリュンヒルデの美しく優しい寝顔に目が逸らせなくなってしまう。
彼女の柔らかそうな唇しかもう目に入らなかった。
『ひょっとしたら起きないかも?』――――。
優しい彼女の寝顔を前にして、最終兵器のロケットの発射ボタンが今、押されようとしていた――――。
最後まで読んで頂けて有難う御座います。前回の話の続きですが、いかんせん今回は最も好きなジャンルな為、今晩で終わる筈がまたしてももう1話伸びてしまいました。なんとか明日にでも届けられたら嬉しいのですが、私のぺースだともう1日掛かるので2/2の月曜日まで更新が無いと覚悟しておいてもらえますでしょうか><。もう少し早く書ければ良いのですが……^^;(笑)
評価やブクマ登録、感想など貰えると凄く嬉しいです。最近は少しづつ増える事もあり、書いていて良かったと想う事も有りますので、更に登録貰える様頑張りたいと思います。
あと、次の更新は2/2月曜の24時を目標に頑張りたいと思います。もし更新出来た時は少し褒めてやって下さい。更新出来てなかったら、仕方のない奴と慰めて下さい_orz。今後も読んで面白かったと思って貰えるように頑張りたいと思いますので、どうか応援宜しくお願い致します!
また次回の話も読んで頂けるよう頑張りたいと思います。
 




