第64話 この世の支配者 8
今回も読んで下さって本当に有難う御座います。さて今回のエピソード『この世の支配者』の8をお届けします。
今日の更新は一日遅れてしましたが、何とか早く更新したいと思いましたが、どうしても話の流れ上、1話の切れる場所がなく前話のようにテンポを失う為長文になってしまいました。読者の方には大変迷惑ですが、何卒一つの回としてお読み願いたいと思います。内容の方で切れ目がなくて昨日の更新が叶わなかった事もお詫びいたします。どうか昨日の分も含めて楽しんで頂けたら幸いです。
どうか最後まで宜しくお願い致します。
「ベルゼブブ、最初の命令だ! まずあいつから消し去ってくれ!」
「……判った」
含み笑いを浮かべて、ベルゼブブが北条院を見る。その手から稲妻を走らせた。
それを合図であったかのように黄色い雷光が走る中、蒼が暗闇の中を走り出した。床の材木が吹き飛んでいく。
だが、どうやら作りかけの座席の隙間を抜けて攻撃は交わしたようだった。
と同時にガブリエルとブリュンヒルデも闇の中に舞い上がった。
第二体育館のホールの中であった。
隣の校舎から漏れる薄明かりの中、ベルゼブブの攻撃が行く筋か再び伸びるのであった。
「消すだと? なんて事言うんだ。しかし、まだ生きているがな!」
北条院に向けた言葉をわざと大声で言ってやる。
それを聞いて、彼は歯噛みしながらベルゼブブに向き直った。
「何やってるんだ? まだあいつは生きてるぞ。早く始末してくれ!!」
どこかヒステリックに叫ぶ彼を一瞥し、何かを唱えながら片手を声の方向に向ける。
その手にボワッと浮かんだ火炎の玉が、隠れる座席の一角を走るのであった。一瞬の事で目の前の椅子が無くなった後に、姿が丸見えの蒼が飛び上がって逃げていく。それと同時に火のついた座席が燃え出した。
しかし、そのまま彼の姿を見ている視線の中に、ブリュンヒルデが突然槍を構えて切りつけてくるのであった。彼から注意を逸らす為であった。
「させません!」
だが、その攻撃をいつの間にか手にした槍で弾き返す。離れるブリュンヒルデ――――。
しかし、同時に背後からガブリエルも攻撃を仕掛ける。離れると見せた彼女の誘導だった。
「――――!」
だが、絶妙なタイミングで振り下ろされた彼女の剣を背後に出した片手で止めて見せるのだった。
余裕の顔をして見せて、ガブリエルの剣を笑って放す。
「聖剣が利かないとはどうゆう事だ?」
「その程度の物だと言う事だ」
笑って槍を振るベルゼブブがガブリエルを追って攻撃をしてくる。剣で打ち落とすが槍の攻撃が一瞬早くガブリエルの眼前に迫るが、寸での所でブリュンヒルデが槍で切りつけ割って入った。ガブリエルが引きながらその後ろに回りこむのであった。
姿を消して直ぐ様真後ろから剣を凪ぐ、しかし、その攻撃を呼んでいたのかブリュンヒルデを蹴り飛ばし、そのまま真上へと逃げるのであった。
ブリュンヒルデが飛ばされた先で走りこんだ蒼が彼女の身体をキャッチした。だが、その勢いが凄すぎて後ろの壁まで吹き飛ばされるのであった。凄まじいスピーデで壁を粉砕してやっと止まる。
「蒼さま。なんでこんな事を?!」
直ぐ様顔を向けて下敷きになった彼を見る。埃をかぶって見上げる彼が力無く笑う。
「当たり前だろ、男の僕が君を守るのは当然だよ」その言葉を聞いて彼女は震えながら見つめていた。見つめながら心は彼を想う気持ちに打ち震えていたのだった。
だが、その姿を見て遠くの彼が声を上げてきた。その上空ではガブリエルがベルゼブブを睨み剣を構えている。
「そら、人間は弱い生き物だと思うだろう。がっかりするよね。この私を止める事が出来ないのだから……」
彼はゆっくりと歩きながら蒼たちの元へ降りてくる。
「それこそが正義なんだよ。勝たなければ正義でない。負けた君たちは従うしか無いんだよ。私が支配すれば逆に命だけは助けるんだから。この世は勝者と敗者で成り立ってるんだ。支配されなければ生きていけない人間ばかりだから……」
「そこで自分ひとりで何を楽しみに生きていくんだ……?」
蒼が立ち上がりながら聞いてきた。
「はぁ?」まるで馬鹿にするような表情を浮かべ聞き返す。完全に相手を見下してるから出来る態度だった。
「お前はそこで一人きりで何を手に入れようとしてるんだ。そんな事して、お前が幸せになんて成れる筈がなれると思わない。『世界を手に入れて――』。それの何が楽しいんだ。自分ひとり切りの世界なんて、今のお前と何が違うんだ?」
その言葉を聞いた彼の表情がさらに変わった。
「いつも沢山の美女に囲まれて楽しい思いをしてるお前になんか、判る筈がない!」今まで努めて作ってきた柔らかい表情もそこまでになっていた。「最近のお前の周りには女の人が沢山居るじゃないか? 私の周りには遠巻きに話す人の声しかしない。完璧と思って私の苦悩を判ろうともしない人間ばかりだ。私がどれ程苦労して今の地位を維持してるかなんて、誰も機構ともしないじゃないか。父もそうだ。自分の自慢の対象でしか見ていない。弟に至っては私の失敗ばかりを望んでるのが判るんだよ。いつも羨む彼の目が胸が悪くなるほどおぞましいんだ。だからそんな物、私が支配さえすれば全て従わせる事が出来るんだ。命令さえすれば全て手に入る……」
「本当に。本当にそんな事思ってるのか?」ブリュンヒルデに抱えられながら毒ずく北条院に呟く。「本当に、人がそんな物で自分の事を心配してくれると思ったのか……?」
北条院が何がおかしい? という顔で彼を見返してきた。
「人は鏡だ。人は助けて貰ったからそのお返しに人を助けようとしたりする。お前が心配したり心から言った言葉を聞いて、それに応こたえようとするんだ。ううん、その様子を知っただけでも手を差し伸べようとしてくれる人もいるけど。でも、それはどこかで人に優しい想いを受け取ったからなんだ。そしてそれに報いる為にまた人に手を差し伸べる。本当はお前が本当に心をさらけ出して人と一緒に居ないだけじゃないのか?」
「この私が、人に? そんな事出来る訳無いだろ?!」
「だから人を支配するのか? だから人の自由を奪って、自分だけの世界をつくろうって言うのか? そんな物、世界でも何でも無いだろ! 人は人の為に生きたり夢を叶える為に生きてるんだ。誰かの命令を受けるために生まれてきたんじゃ無いんだぞ! みんな幸せに成るために一生懸命必死になって生きてるんだ。誰かの支配なんて受けるためにこの世に生まれて着たんじゃないんだよ!!」
蒼は彼の元へどんどん進んで行く。その瞳は彼の心をぶちのめしたいと怒りに激しく燃え盛っているようだった。
「お前だって本当は分かってる筈だ。この世に何もしないで助けない沢山の理不尽が横行してるって事を。だが、それをとめるのは誰かの支配なんかじゃなくて、本当はその理不尽に戦うしか方法が無いって事を。立ち向かわなきゃ行けないのはこの世の理不尽では無くて、その理不尽に何も言えず逃げ回っている自分と戦わなきゃ行けないって事をだ! その周りの事に立ち向かうのが怖くて世界を悪魔の力を使って手に入れるだと? そんな事したって何一つ解決なんてしないんだ。そんな事したって何一つ手に入りはしないんだ! 本当に手に入れたい物ならば、自分の全てを精一杯掛けないと、何一つ手に入る訳無いんだから!!!」
「ば……ばかな。この僕が怖がってるだと……?」
北条院は立ち止まっていた。本当は彼も分かっていたのかも知れない。涙が独りでに溢れてきていた。
「本当は分かってるんだろ? そんな簡単な事、頭の良いお前なら判ってた筈だ。そんな物に自分の大切な『命』を掛けたって、そんな方法じゃ何一つ手に入らないんだから……」
「何一つ手に入らない……」
北条院は蒼の足元に膝をついて涙を流していた。
本当に手にしたかったのはもっと他の物だったのかも知れなかった。
彼の姿を見ていたら心の何処かでそんな気がしてくるのだった。
だが、それを許せぬ物が口を開いた――――。
「何府抜けた事を言ってるんだ、人間のガキが……」
その声のした方を見ると、そこにベルゼブブが禍々しい笑顔を見せて立っていた。
明らかに戦う意思を失っている北条院を見て、酷く汚い言葉を吐いていた。
「ガブリエルさん?!」
だが、その言葉よりももっと酷い光景に二人は目を奪われていた。その手にボロボロになったガブリエルの片腕を掴んで、力無くうな垂れる彼女の姿を見たからであった。
「申し訳ない。こいつを黙らせて置くぐらいしか出来なかった……」
聞こえるか聞こえないかの声でまだ彼女は軽口を叩いていた。
「天使などこの程度だが……」そこまで言った彼女がこちらを見て呟いた。「その男は帰してもらおうか」
彼の傍に立って見上げていた蒼が彼の肩を掴んだいた。
「なあ人間のガキよ。急に何を言い出すのだ。お前は黙って私の言うとおり世界を手に入れて破滅に導けば良いんだよ。何を今更そんな弱気な事を言い出すんだ」
彼女はこちらに向き直り、怒りに満ちた下卑た笑顔を見せていた。可愛い愛くるしい顔で笑う為、一層その卑しさが増していた。何処か奇妙で、何処かちぐはぐな感じに。
「なあ、そこのお前らもそいつを返してくれ、そいつが表に出てもらわないと人を全ては欺けないのでな。どこかで私に気付く者も現れるかも知れないから。そいつの願いどおり世界を手に入れて、そしてこの世界を転覆させてやるんだ。私の事を忘れた人間どもなど全て消し去って。そうすれば、私の偉大さがまた判るだろう? その時こそ、私を崇める者だけ助けてやる。どこぞの神がやってる方法と同じように」
そう言うと手にしたガブリエルの顔をゆっくりと見て笑う。さもどこぞの神が誰で有るかを言ってるかの様に。
「そうなのか……」
しかし、そこまで黙っていた蒼が再び口を開く。
「お前も彼と同じだったのか、ベルゼブブ……よ」
「何。私がこの虫けらと一緒だと?」
彼はベルゼブブを見上げ真剣な顔で言うのだった。
「そうだ。お前も北条院と同じだ。崇めなくなったのは確かにお前の事を邪神扱いした者たちのせいだろう。しかし、それでもお前がお前を信じる物に、また新たな糧や恵みを与えれば良かったんじゃないのか? 豊かな雨、豊穣の神としてお前の恵みを分け与えても良かったのじゃ無かったのかって事だ。忘れてしまったのは、本当は人間じゃなくてお前の方じゃなかったのか?」
「な……!」
「お前が人を救うから、お前を崇めてた人々に、お前がその手で与えてやれば再びお前を神だって崇めるんじゃないのか? なのにお前が戦わないで逃げ回るたびに、人はお前のことを忘れていくんだ。一部の神に虐げられたらなんでお前はそれを認めてしまうんだ。何故それを認めさせないくらいの恵みをどうしてお前は与え無かったんだ。一度ぐらい人の為に無償の恵みを抱えられないくらいに人間に与えて、自分が最高の神だって示さなかったんだ! そんな事じゃ、お前を覚えてる奴なんかこの世から一つも居なくなってしまうぞっ!!」
ベルゼブブは黙って見つめていた。
ホールに上に立って声を上げた自分を見上げてる彼の事を。
自分の事を考えて言う人間を見つめていた。生まれて初めて言われた、戒めとは違う不思議な言葉を――――。
しかし、それでも許すことは出来なかった。
自分を忘れてしまった人間を、自分の手で破滅させる為に自分は、自分は――――。
「私の事を忘れたのが私のせいだと言うのか。人間なんぞに何が判ると言うのか?!」
怒りに任せて彼女が腕を振り上げた。
そして、ガブリエルを何か物でも叩きつけるように、彼らに向かって投げつけてきた。
それをヒシッとブリュンヒルデが空中で受けとめた。勢いに負けて床に迫る。
それを見届けてベルゼブブが両手を頭の上に掲げる。何かの力がそこに集まるのが見えた。
「御託はもう良い! やはりお前たちは余計な存在だったのだ」
両手が振り下ろされた時、巨大な黒い炎がそこから噴き出してきた。しかし、それをブリュンヒルデの元から同じぐらいの光の束を出して、黒い炎にぶつけるのであった。
黒い炎と光がぶつかる時、辺りを染めた閃光でベルゼブブが一瞬目をそらしたのであった。
光がやがて引いた時、そこに蒼たちの姿が無くなっていた。
「どこへ?」
見れば北条院の姿も見えない。
不味い! 北条院が居なくなったと言う事は自分を召喚した事も無効にされるかも知れないと考えた。それを出来る方法をあの女神達がするかどうかが問題だったが――――。
「おいお前えら何処に行った。その男を隠しても、私はこの世界を手に入れるぞ。その男が死なない限りこの契約は守られるからな!……」
そこまでベルゼブブが言いかけた時だった。
いきなりステージのライトが彼女の目を射抜いた。
「何?」
気付いた瞬間にもう一投。鋭く刺さるようなライトがブリュンヒルデの魔法で次々にベルゼブブの目に向けられた。
「目を覚ませ、バアル・ゼブル――――!!」
いきなり光を背にして声が近づいてきた。
見ればロープを使って見つめるあの人間が、自分目掛けて手を離すのが見えていた。手にはブリュンヒルデの持っていた槍を握っている。光を背にして攻撃を仕掛けて来たのだ。目くらましをして、ロープの反動を利用しての捨て身の攻撃を……。
それを察知して、ベルゼブブは半ば諦めたように声を上げた。
「そんな攻撃で私に立ち向かえると思ったのか? 消えて無くなれ、この虫けらどもよ!!」
しかしその瞬間、蒼がふっと笑ったのが見えた。「その通りだ。僕じゃ勝てないさ。だけど……」放たれた稲妻が彼を飲み込もうとした時、その前にブリュンヒルデが姿を現して楯でその稲妻を真っ向から防いだ。
「これが一人じゃないって事なのさ……」
耳元で聞こえるガブリエルの声。ブリュンヒルデと人間に気を取られて居た自分の目の前に、突如、彼女が現れて剣を構えているのが見えた――――。
「行け、ガブリエル!!!」―――― 蒼が声の限りに叫んでいた。
「おう!」――――。
驚くベルゼブブの視界の中に、剣の瞬く切っ先が見えたのが最後であった。
ドンッ!という重い衝撃と供に、吹き飛ぶベルゼブブの身体――――。周囲の椅子やホールの床を破壊しながらステージをも破壊して奥の壁に向かって吹き飛ばされる。そして、衝撃の余波を受けながら一番奥の壁に勢いよく突き刺さるのであった。
ガラガラと壊れた壁の残骸で砂埃が舞っていた。天井からライトや機材が落ちてくる。その衝撃が余りにも凄かった事を証明していた。
静まり返るホールの中――――。
ゆっくりと床の上に降りて来た蒼がブリュンヒルデを見上げ恐る恐る呟いた。
「やっつけたのか……な?」
動くものは無かった。
ブリュンヒルデも困り顔で彼を見ている。
ガブリエルもボロボロの姿で床に肩膝を突いて顔を上げた。
勝ったのだ。
あの魔界で知らぬ物は居ないと謳われる、魔界の大君主ベルゼブブを倒したのである。もう動く力は残っていなかった。しかし、それでもその勝利は嬉しかった。
だが、そこに声がするのだった。
「やっと少しは本気の攻撃をするようになったな……。だが、その程度だからお前の神はダメなのさ」
笑い声が聞こえてきた。
ブリュンヒルデが蒼の顔を見た。
彼の顔もこわばっていた。
ガブリエルが苦笑交じりに顔を上げる。
もう一度戦うなど出来る状態なのは判りきっていた。
でも、笑った。傍らに居る蒼の顔を見ると、なんだか未だやれそうな気がするから不思議だった。
「よし、もういっちょ軽くやってやるかな! いよいよ、ここからが私の本気を見せる絶好の場面だから……」
「…………」
その顔を黙って見つめていた。
見つめた彼女に彼がそう言おうとしたその時であった。
「どこにそんな力が残ってるのか知らないが、ここはもう止めて貰えるか、ガブリエル?」
ガブリエルが見ていたベルゼブブとの視界の間に、一人の影が現れていた。そう現れたと言っていい登場であった。まるで視線の1コマ前まで居なかった物が、次の瞬間には存在していたからである。人間の蒼ならともかく、大天使や戦女神の彼女達でさえ、その出現は捕捉できなかったからである。
「誰だ……?」ベルゼブブの声にその影が顔を上げる。
ベルゼブブが思わずその場で声を失っていた。
「ルキフェル……?」
ガブリエルがその顔を見た時、魔界の王は少し笑って彼女を見るのだった。
最後まで読んで頂けて有難う御座います。
評価やブクマ登録など、(そして怖いですがw)感想なども貰えると凄く嬉しいです。最近は少しづつ増える事もあり、書いていて良かったと想う事も有りますが、更に登録貰える様頑張りたいと思います。
今後も読んで面白かったと思って貰えるように頑張りたいと思いますので、どうか応援宜しくお願い致します!
また次回の話も読んで頂けるよう頑張りたいと思います。




