第63話 この世の支配者 7
今回も読んで下さって本当に有難う御座います。さて今回のエピソード『この世の支配者』の7をお届けします。
今日の更新は一日遅れてしましたが、何とか早く更新したいと思います。その時は楽しんで貰えたら嬉しいのですが^^;。
どうか最後まで宜しくお願い致します。
気がつけば床にガブリエルと一緒に横たわっていた。
だが、それでも直に板の間に叩き付けられなかった為、蒼だけは痛みが半減出来た筈だった。落下して落ちる寸前、ブリュンヒルデがその身体を抱きかかえて自分が下敷きになって庇ってくれた為である。見るとブリュンヒルデがその腕でしっかりと自分の身体を掴んでいてくれた。
それと同時に沢山の瓦礫も一緒に床に散乱していた。
本校舎に隣接する建築途中の第二体育館のホールであった。
全校生徒も楽に収容できる本体育館があるのだが、そちらが運動メインであるため、演劇や吹奏楽のコンサート、果てはオペラやバレエの舞台全般を公演する場所が新たに必要と言う事で現在入学式と同時稼動へ向けて急ピッチで建築されている場所であった。
そこに三階の生徒会室から壁を突き抜けて、隣り合わせに建設さえているこのホールの壁も突き抜けてしまったのである。そのまま瓦礫と供に落下してここに落ちたらしかったのだ。擂り鉢状のホールで、まだ座席が完成して居ない辺りに落ちて良かったかも知れない。
「怪我は無いでしょうか?」
気がついた蒼に後ろから身体を掴んでるブリュンヒルデが聞いてきた。
しっかりと回された両肩越しに、彼女の目が心配そうに見つめていた。
「有難う。あんな所から落ちたのに……ごめん。ブリュンのお陰で助かったよ……ててて」
身体を起こすとまだジンジンと痺れが来るが怪我はしていないようだ。
その様子を見て彼女も安心したように微笑む。
そこで、彼女の喜ぶ顔に見つめていると横でゴソゴソとガブリエルも動き出した。良かった。彼女も動けそうだった。
「良かったよ。咄嗟にブリュンが庇ってくれなかったら、あいつの稲妻で今頃黒焦げに成ってた所だ」
天井から落ちてきたガブリエルをベルゼブブがいきなり蹴り飛ばしたのだ。床を転がってくる彼女の身体を受け止めた時、悪魔がその手から稲妻を放ってきたのである。もう避けようが無かった。しかしそれを見つけたブリュンヒルデが楯で受け止めたので、命はなんとか助かったのである。
だが、その衝撃は防ぎきれず3人の身体は壁を突き破って落下したのだった。
見上げれば、まだ工事途中の壁に大きな穴が空いていた。
もう夜にかかって居た時間で、そこに誰も居ない事だけが幸いだった。
しかし、そこに何かの影が立っている事に気がついた。こちらを見下ろし笑っているのが見える。それが何だと判るのにそう時間は掛からなかった。そんな所に立って見下ろせる物が他に居なかったからである。
「凄いな。私の攻撃を防ぐ楯があるなんて。それも大天使も無傷とは、少し不満だが……」
ベルゼブブであった。
隣の教室から追って来たのだろう。大きく空いた壁の穴に立ち尽くし、夕闇を背にそこからこちらを見て呟いているのであった。
「だが、それも直ぐに終わるさ!」
そう短く吐き捨てると、再び3人目掛け稲妻が走るのであった。
すれを寸での所で交わし、体育館の奥の方へと飛び退るのであった。3人の居た辺りの床が吹き飛んだ。
「全くチョロチョロと動くねずみどもだな……」
声のする方へ視線を移した。さっきまで居た体育館の床の先の方。いつの間にかベルゼブブと北条院が立っていた。ステージの方向へ向かって逃げた為、ベルゼブブの方が見下ろすようにこちらを見ている。そこでベルゼブブはさも面白くないと言った風に声をあげ、見下すように薄ら笑いを浮かべてるのであった。
「まったく相手にならないから放って起きたいところだが、こちらの話を知ってる以上そうも行かないから、ここで始末するしかないけど。どうするのが良いかな。お前が良ければ始末するけど?」
「始末だって……?」
その言葉に思いっきり蒼が反応した。
ベルゼブブが彼を見ると、素早くブリュンヒルデの影に隠れるのであった。
しかし、その言葉を聞いた北条院は少し考えていたが、何か決心がついたのか暫くすると口を開いた。
「僕が世界を自由にするまでは命があるなら良しとしよう。そいつは何か特別な仲間が居るから始末しておこうか。まさか留学生の彼女が女神様に、ガブリエル先生が本当に天使だったのは驚きだけど」そう冷たく言い放ち北条院は皮肉な笑みを浮かべるのだった。
それを聞くとチラッと姿をだして言うのだった。
「始末しろだと……? 何様のつもりだ、生徒会長だからって!」
だが、北条院とベルゼブブが一斉に見ると、再び攻撃されちゃ適わないのですぐさまサッとブリュンヒルデの後ろに隠れるのである。なんて意気地の無い姿なのだろうか。
それを満足気に見る北条院であった。
「それが妥当だろう? これから世界を手に入れて私の自由にするんだ。この秘密を知っているお前たちは生かしては置けない。だが待てよ、ここで命乞いしたら許してやっても良いかな。下僕として働くなら、少しぐらい大目に見てやっても良いだろう」
再び自信が湧いてきたのだろうか。
悪魔の力が圧倒的な為、今、目の前にいる天使や女神が敵でない事が判って、さらにその気持ちが増したのだろう。命を引き換えにしてもその時が来るまでは自分の自由は約束されるのだ。どんな敵が来てもこの悪魔が倒してくれる。障害は無いに等しいのだ。恐らくその考えに到達できたので、あいつは自信を取り戻したのだろう。その様子を見ながら、蒼はそんな考えを巡らせていた。
「命乞いって、なんだ? だいたい世界を手に入れるってどうゆう事なんだ。そんな物手に入れなくても、確かあんたは何処かの財閥で……」
「しかし、それでは世界は手に入らない。せいぜい親父の小言を聞きながらグループを動かすのが関の山だろ。そんな小さい世界で私は終わりたくないんだ」
北条院の言葉はどこか夢を見てるような響きがあった。まるで謳うように、どこかその言葉に酔いしれてるような感じさえしていた。
「そんな小さいって、なんだ。そんな事して何をしたいんだ。あんたは?」
すると蒼のそんな問いかけに北条院は彼をさも信じられないと言う様な顔をして、笑いを堪えながら言うのだった。
「何って? 本気で言ってるのか。決まってるじゃないか、私がこの世界の神になるんだよ! この世界を牛耳って、思うが侭に過ごすんだ。どうだい気持ち良いと思わないか。今こんな事言ってくる君のような奴が居ない世界に、私がするんだよ。世界に命令してね」
「神だと……?。気でも違ったのか。今だって何不自由ない暮らしをしてるだろうに、それをまだ欲しい物が有るのか。つくづく情け無いこと言うんだな、見損なったぞ」
途中からは金持ちに対するひがみ根性が垣間見えていたが、それでも北条院を怒らせるには十分であるようだった。
「何不自由ない暮らしだと? お前は何も判って無いんだな。何も知らない癖にお前達平民はすぐに決め付けたがるんだ。私には自由なんて元々無いんだよ! 生まれた時からグループを背負うように言われ続け、成績もトップで居続けなければ行けないんだ。毎日毎日家庭教師と稽古事の繰り返しだ。少しでも気を抜けば父に叱られ、成績や運動で2位を取れば、敗者だと罵られる始末。それの何処が自由だって言うんだ。挙句の果てに将来の話をしたら、ダメなら弟に家督を譲る覚悟でいろと言われるんだ。その生活がどんなに苦痛かお前には判るまい!! お前の様に、最近美人に囲まれて楽しいそうにやってる奴には判らないんだよ。楽しいなんて笑って家でも学校でも過ごした事なんて一日だって無いんだ。それの何処が不自由ない暮らしって言えるんだ。お前にこの苦しみがわかるか?!」
胸につかえていた物が堰を切って出るように彼は蒼に向けて怒りをぶちまけて来た。
普段は冷静で落ち着いた彼が信じれないような顔をしていた。追い詰められてるような、どこか悲しげな顔。世界を手にして欲しい物は、自分を満たす欲望でしかないみたいに。
「そんな物の為に神になるだと。自分の都合に合わせた世界を作る為にか? そして、自分の都合の悪い相手は消してしまう気だろう、どうせ?」 聞いてるこちらが気分が悪くなる告白だった。
「そうだ、それの何処が悪い。世界は元々そんな物だろう。腐ってる奴等ばかりじゃないか? 貧困に喘ぐ者に本気で手を貸そうとする者なんかいやしない。毎日餓死する人に必要な食料以上に、廃棄してる国だって存在する。暴力や汚職は当たり前、そんな奴がこの世界を動かしてるんだ。世界の機関だって同じ事。何かが間違ってる。本気で手を貸す気なんて元からないだろ。有るのは自分の保身ばかりだ。そんな世界を許していて良いのか? なんで誰もそれをしないんだ。だから私が神になってお前達を支配してやるんだ。私に敵対しないで服従すれば、ひょっとしたらお前達を幸せにしてやるかも知れない。貧困の一つも無くすかも知れないさ」
そこまで黙って聞いて、彼はそう言った。
「そんな事させるわけが無いだろう?」
蒼は、そう言いながら前に出てきた。
「なんだ。何か言ったか。まあ服従する気になったのなら、命だけは……」
北条院がそこまで言った時、それを遮るように言葉を放った。
「そんな事させるわけ無いと言ったんだ」
彼の言葉に北条院が不服そうに彼をにらみ付けたが、蒼ははっきりとした口調でそう続けるのだった。
「何もかけないで生きてるお前に……この世界を好きにさせる訳がないだろ!」
それを聴いた瞬間ガブリエルとブリュンヒルデが戦闘態勢を整えた。気付いた蒼の横に立って二人は笑いながら言って来た。
「さて、あの男の性根を叩き直なきゃいけないようだな。こっちはいつでも準備OKだが?」
ガブリエルが指をポキポキと鳴らしながらニヤリと笑う。
「あの方をぶっ飛ばしてやりましょう、ね!」
ブリュンヒルデもそう微笑むと、隣で見つめる彼に向かってウインクを一つするのだった。
最後まで読んで頂けて有難う御座います。
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今回はレビューも貰えて書いていて本当に良かったと思える出来事でした。今後も面白かったと思って貰えるように頑張りたいと思いますので、どうか応援宜しくお願い致します!
また次回の話も読んで頂けるよう頑張りたいと思います。
 




