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第60話 この世の支配者 4

今回も読んで下さって本当に有難う御座います。さて今回のエピソード『この世の支配者』の4をお届けします。

なんとか今日の更新も落とさないで書けたので、楽しんで貰えたら嬉しいのですが^^;。

どうか最後まで宜しくお願い致します。

 そこから闇が噴き出すように渦巻いていた。 


 魔方陣の中である。その魔方陣の中に黒い光と噴き出す暗雲の上に蹲り、片膝を抱えた悪魔がそっとこちらを見つめていた。


 “ベルゼブブ”―――― それがその悪魔の名前だと言った。


 彼の詠唱した呪文に呼応して魔方陣が現れて、そこから黒い闇を纏わり付かせ彼が姿を現したのである。

 あの店の本に寄れば、魔界の君主と呼ばれている『蝿の王』と異名を取る、強大な力の持ち主と書かれていた。それぞれ悪魔界の実力を有する悪魔を束ねている軍団の君主。

 その悪魔の中でも最上位に居る悪魔が、彼の呼びかけ一つで今は冷たく青白い光の魔方陣の中で、こちらをじっと見つめているのであった。その自分の背よりも大きな蝙蝠の羽に身を隠した格好のまま、彼に自分の名を告げたのであった。


 暗くなった生徒会室であった。


 その階の教室は誰も居ないのは確認済みであった。


 だが、どうした物なのだろうか。

 しかし、今は信じられなかったこの悪魔の召喚も、あの本を読める事からだんだんと自分でも有る程度の事が判るようになっていた。やはり自分は選ばれたのだと思ったのだ。あの本を読める知識などは毛頭無かった。しかし、それが読める能力を持っていた。つまりこれは持って生まれた能力なのだと。


「やはりそうなのか……」1人納得したように思っていた。やはり自分は特別だったのだと。


 しかし、もしそれが違っていたらどうする?

 不意にそんな考えが頭を過ぎった。この悪魔がなんでも出来る力が無かったらどうするのか――――?


「今、私を疑ったな……。このベルゼブブに不可能が有るかもと、考えただろ? もし良かったらお前をこの場で八つ裂きにして、また灰の中からお前を作り直してやっても良いぞ。ま、一度死ぬ事になるが、なーに大した事ではない。どうせお前たちは一度死ぬのだ。それが少しだけ早まるだけなのだから」


 地の底から響くような低い声が小さく笑う。完全に心を読んで話しているのであった。疑った事も全て見通して話している。それが悪魔と言う物なのかと酷く当たり前の事に感心をしていた。


「しかし私はお前に呼び出されたのだ、お前の望みを叶えよう。それが流儀と言う物だ。だが、それには契約が不可欠だ。そうでなければ私は働けない。だが、試したいと言うのなら何でも言うが良い。先ずは何でも言ってみろ。今すぐここで見せてやるから……」


 凄みのある笑い声が耳元で聞こえている。明らかにその場で言って居る筈なのにだ。どこにも動いていない。しかし、耳元で声がしていた。恐らくは喋ってる声が聞こえてるのでは無いためである。心に直接聞かせていると言う事なのか。


 だが、そこで止めてしまう訳にはいかなかった。試しに何かを言えと言った。ならば言って試させてもらおう。こちらとしても好都合だ。さすが心を読んでいるのだと思った。


「なら先ず最初にあそこにある机を俺の前に……」ガタンという音がした。見れば自分の足元に当たる机の感触に思わず息を飲んでいた。言葉で言い終わる前に生徒会室の奥にある机が自分の前に運ばれていた。動く所さえ見ていなかった。見ていた風景の中で何も変わってないと自信が有ったが、実際は目の前で机が無くなって自分の前に置かれているのであった。こんな事も出来るのか?


「分かった。なら次に私の部屋にある机の上のアフリカに行った時の人形を持ってきてくれるか……」


 ガタンっと再び言い終わる前に音がして、今、運ばれて目の前に移動した机の上に、既に木製の人形が置かれてるのであった。手に槍を持った何かの呪いの人形のようである。それが、目を逸らしても居ないのに、独りでに現れるのであった。その間もベルゼブブはその場に居て姿さえ消していないのである。その不思議な力こそが、やはり悪魔なのかと思わせるのであった。運んでくるとかそうゆう物では無いのだろう。理由の判らぬ現象であるが、だからこそこれが悪魔の力だと信じられる所もあった。


 だがそれで信用してしまっては勿体無い。もっと不可能な事をさせて確かめられないだろうか。例えば『命』。それを蘇えさせる事など出来ないだろうか。それこそ、奇跡の事だろう。例えば今朝、見かけた事故の女性教諭だ。彼女は先ほど生徒会にも呼び出しで職員室に呼ばれたとき、小声で話してるのを聞いてしまったのだ。今夜が山だろうと教頭が言っているのを聞いていた。病院に着いた時も手の施しようが無かったのだと。それを助けられたら本物なのは信じられるかも知れなかった。


「そんな事で良いのか? お安い御用だ、明日を楽しみにしていろ。今は少し姿を消した方が良さそうなのでな……」


 すると突然、後方に位置する扉が開く音がして、急いで彼は振り返るのであった。


「なんだ北条院が1人だけか?」――――、一瞬にして血の気が一気に引いていた。もう遅い、完全に見られたに違いない!


 そう覚悟して自分の後ろを振り返った。そこに魔方陣の中のベルゼブブが居る筈である。若しかしたら暗くして見えないかも知れない。それならば、急いで身体で隠す事も出来るかも知れない。

 だが、そこにはもうベルゼブブの姿は無かったのである。


 いや、魔方陣も、机も、彼の木の人形さえも。

 全てが何も無かったように普段のままの生徒会の部屋に戻っているのであった。いつの間に姿を消したのか? 恐らく教師の来るのを察知して全ても元に戻し消えたのであろう。


「他の連中は帰ったのならもう終了の連絡は良いから、帰りの戸締りをして帰りなさい。暗くなると親御さんも気にするだろう……」


 教師の言葉に「すぐに仕度をする」と答え、部屋を出た。


「明日を楽しみにしていろ」―――― ベルゼブブという悪魔の言った言葉だけが、頭の中で繰り返されていた。 





 正門を出たところで蒼たちの姿が目に入った。


 自分は車に乗り込み今にも走り出そうとした時であった。


 蒼は1人ではなかった。いつも一緒に見かけるブリュンヒルデという交換留学生と一緒だった。今日も一人でないのだ。いつもは他に鳳と、ギリシャからの転校生アテネという女生徒も一緒に歩いている。

 なんだか最近目立っているような気がしていたのだった。それがなんだか腹立たしかった。


 そのまま車を出して視界から蒼の姿を追いやった。


 通り過ぎざま、車を振り返った彼と目が合ったような気がしたが、特殊な遮断用の塗料を塗られた窓ガラスであった。夕暮れの中では中を覗けない為、蒼は車に北条院が乗っていたのを見ることは無かった。


 急に悪寒が走って立ち止まると、蒼は辺りを見回して車の存在に気がついた。先ほども感じた悪寒であった。

 しかし、車のガラスから覗こうとしたが、中に居る北条院の視線とは見える事は出来なかった。

 だが、車からは想像が出来た。自分の高校で見かけない程に高級なリムジンであった。間違いなく、乗っていた人間の検討はついた。

 その様子の微妙な変化を。傍にいたブリュンヒルデも不思議に見ていた。




 車が正門を出てから表通り入っても、頭には走り去り際に見た彼の事が気になっていた。


 元々、それほど目立つ存在で無かったような気がする。顔や名前などを知ったのは最近であった。そう最近、急に女子の注目を集めているような気がし始めたのであった。それが気に入らなかった。


 そう注目を集まるのは自分一人で良いのだった。一般の庶民が注目を集めるなんて、気に食わない。それもあんな美人の人ばかりに囲まれて、自分より良い思いをしてるのが、心底許せなかった。自分の周りには遠めに見ている女生徒は居るが、あのような美人の気品に包まれた美女は居なかった。それも常に2人から3人は侍らせている。そんな事が有ってよい物か。この世の王になる予定の自分よりも良い思いなどと……。そんな事は許せない。


 いずれ自分の前に跪かせたい。いや、今すぐにでも、だった。気に食わないから。


 これからは、気に食わない奴は跪かせよう。見せしめに。そうしないと気持ちが治まらない。そうだ、それが良い。


「しかしそれも直ぐに叶うではないか」――――。


 よく考えると、悪魔の力を自分が自由に出来る日がついに来たのだ。


 だからもう悔しい思いはする事がなくなる。

 一般庶民に思い知らせてやれるのだ。従うべき者が誰かと言う事を。

 ついにその力を手に入れたのだから――――。



 いつの間にか家について、自分の部屋で天井を眺めていた。


 今すぐもう一度あの悪魔を呼び出して力を使いたかったが、それをあえて明日まで延ばそうと思っていた。

 焦るのは馬鹿のやる事だ。普通の人間の最後の夜を迎えるのだと逸る自分の気持ちを無理に押さえ込み、深まる闇に期待を膨らませるのであった……。



 やがて朝を向かえ、学校でその連絡を受けた。またしても教頭にである。


 事故にあった女性教諭が命を取りとめたとの連絡である。

 それも驚く事に一時は危ないのではとの連絡だったのに、今は、歩いてピンピンしてるとの事だった。


 間違いない! あの悪魔は人の命さえも取り戻し、運命までも変える力を持っているのだ。これほど適任の悪魔が居るだろうか? 自分が使役するにはピッタリだ。今日から俺の僕べとして存分に使ってやろう。間違いない。そう、最高の悪魔を自分は選んだのだ!


 その連絡を聞いて、北条院の心はもう決まっていた。


 放課後にまた生徒会の下らないメンバーを早く帰らせる。そうしたらもう一度呼び出して、そのまま世界を手に入れよう。ついに、世界を自由に出来る日が来たのだった。


 ついに。


 ついにその日が――――。



 放課後の暗がりの生徒会室。北条院の口が動いたその身体から、異様な妖気が立ち上るのであった…………。

最後まで読んで頂けて有難う御座います。

評価やブクマ登録など貰えると凄く嬉しいです。最近は少しづつ増える事もあり、書いていて良かったと想う事も有りますが、更に登録貰える様頑張りたいと思います。

また次回の話も読んで頂けるよう宜しくお願い致します。

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