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第6話 僕の女神が微笑むとき  6

今回は、なんとか地上に女神様も降りて来たようです。

最後まで読んで頂けたら嬉しいです。

 蒼は丘に辿り着く所だった。


 見上げていた丘がもうスグ目の前に迫っていた。

 すると、改めて見た空に浮かぶ影がいよいよ実体化する形がはっきりとしてきているのである。

 獣の頭のような、顔が前に突き出たような、まるで犬か、狼のような形……。


「神様、どうか僕に力を貸して下さい……」


 すると、その声に応えるかのように天から新たな声が聞こえて来るのであった。


「力を貸してやろうか、地上の人間よ。そなたの力になる者、『勝利の女神』を向かわせよう」――――


 突然、耳に響いた声に蒼は辺りを見回したが、やがてそれが自分が剣を手にしたから聞こえてくるのだと悟るのであった。


「有難う御座います。もう時間が無さそうなので、お願いします。神様……」


 蒼は天を仰いで剣の柄を握り締め、今聞こえた神の声に改めて祈りを捧げるのであった。






「今連絡があったようですが、別の女神様がそちらに向かう事になったそうです。お嬢様は、そこで戦いを見守ってください!」―――― オペレーターの声が激しい耳元の風の中聞こえている鎧の女性。


「なんで、私じゃダメなの? 地上の人に剣を渡した人が居る。彼はこれまでも酷い運命ばかりだった。なのに何故、今回もこんな酷い運命を背負わせるの? 神とは人を弄びすぎだわっ!。フェンリルが地上を占拠する前に、守ってあげるのが私達の役目で無かったの?」


 鎧の女性は悲しい顔をして必死に叫んでいた。


「神がやらないなら、私が今回は手助けしてあげる! 今から別の女神が出たって、間に合わないじゃない! それじゃ、彼が運命に押しつぶされて死んでしまう。人が死んでから助けに来たって、それじゃ私達が居る意味ないじゃないっ!」


「ですが、人の運命に関われるのは、運命の三女神ノルン様達だけです。それをお嬢様がすれば、今の罰ではすみません。お願いです! 今の会話は報告しませんから、どうかこのままお戻り下さい!」

 

 鎧の彼女の言葉に、会話していたオペレーターも必死で懇願した。

 彼女も、今、会話してる鎧のお嬢様を大事に思って居るのであった。


 その時、何処からとも無く太い良く通る声が鎧の彼女の耳に届いてきた。その声は低く、また、荘厳な響きで聞くものに深い畏敬の念を抱かせる声だった。


「≪人の運命に手を出すのは、それはお前の仕事では無いだろう。勇敢な戦士の戦場での勝利の手助けをし、戦死した暁には、戦士の宮殿へと導くのがお前の役目。違うか? 誰よりも勇敢な、我が娘よ≫」


 彼女の父、オーディンの声そのものだった。


「≪人間の運命が不運なのが気に入らないか、それならこれから向かうノルンの三番目ならお前も満足だろう。スクルドは、戦場でも働けるヴァルキュリアでもあるのだから……≫」


「スクルドを……」


 鎧の彼女は一瞬顔を上げた。その名に聞き覚えがあったからである。


「しかし、彼女でも今すぐこの場には間に合わない。私がそれまで時間稼ぎをする!」


「≪やめろと言ってるのが分からんのか! ≫」―――― 一瞬、オペレーターの女の子の周りだけでなく、鎧の彼女の傍も空気がたわんだ様な衝撃が広がった。


「…………」


「≪これ以上、地上の人間の運命に手を出すと言うのなら、厳罰は必至。一生、想う者と結ばれぬ『運命の呪い』を受けると知るが良い。その覚悟があるか、お前にっ!? ≫」


 鎧の彼女が一瞬応えるか迷った瞬間であった。


「辞めて下さい!」―――― オペレーターの女の子が泣きながら叫んだ。「拘束用ヘルフレイム、打ちますっ!」

 

 空の一点が一瞬光ったように見えた。


 ドーーーーーーーンッ!


 すると、次の瞬間、空気の変化を察知して身を翻した鎧の彼女の横に、巨大な水柱が上がるのであった。


 見れば、近づいていた海面に巨大な爆破後のような空洞が海の中に出来てるのであった。

 その爆風で吹き上がった水が空に上がり、穴の開いた雲の中から射す光で虹を作ってるのであった。


 その光景を横目に空を飛ぶ鎧の彼女は、オーディンの言葉にはっきりと応えた。


「人間の一生に手助け出来るなら、私はその罰を受ける覚悟は有ります。それに」―――― 彼女は空を見上げてこう続けた。「彼は、神の剣を手にしています。戦士と言っても、嘘にならないでしょう?」


 こんな状況でも、彼女は冗談交じりに言葉を返した。

 自分を心配して、王の呪いの話を邪魔しようとしてくれた事への、礼のつもりだったのである。

 その彼女の言葉に、オペレーターの女の子のすすり泣く声が聞こえてきた。


「≪いかな我が娘と言えど、一度口にした言葉はこの世から消えぬぞ。それで良いのだな? 返事をすれば、この呪いは外れない≫」


「悔いなど口にするのなら、最初から言いはしなかったでしょう。――――人を助けてこその私達!」


「≪ぐ……≫」


 その言葉に、声の主の歯噛みする声が聞こえてきた。


 その時、地上が見えてきた。


 物凄いスピードで風を切る彼女の目に地上の丘の上にたった彼が、自分を見上げているのが見えていた。






 その時、見上げた空から、神の言っていた女神の姿がゆっくりと見えてくるのが蒼にも分かった。


 遥か遠くの空の彼方なのに、肉眼では見える距離では無いと言うのに、それはまるでスローモーションのように、自分の立つ大地に向かって今、下りてこようとしていた。


 辺りの音は全て鐘の音に変わり、空気はそこだけ優しい花の香りのそよ風が吹いている――――。


 空の一画から現れたその姿は、白い羽の舞い散る光の中を両手を広げて、地上の自分の元へ、ゆっくりと降りてくるのであった。

 

「これが――。これが、『勝利の女神』さまか……」


 その光景を夢の出来事のように、両手を広げて受け止めようとした。


 だが――――


 その時、とある宮殿の一角で片手に握り締めた一つの槍を、何かの呪文とともに投げる男の姿があった――――。


 見上げる蒼の元へ、鎧をつけた髪の長い女神が舞い降りて、今正に受け止めれる為、手を触れそうになった瞬間だった。




 ドンッ!




 いきなり、蒼の顔をかすめて、足元の地面へ何かが突き刺さる音がした。


 ――っと、それを見る間も無く、物凄い衝撃と風圧で蒼の身体が数十メートル後ろへ飛ばされるのであった。


「あっ!……」手を伸ばして目で追う鎧の彼女の目の前で、蒼の身体がぼろ雑巾のように地面を転がっていく。


 すると次の瞬間、彼女の立っていた地面に、再び巨大な火柱が轟音を上げて吹き上がるのであった。




「拘束用ヘルフレイム(業火)。着弾しましたっ!!」




 オペレーターの女の子の声が、通信室の中にこだました。

 彼女が必至にチャンスを伺って居たのである。彼女を王の言っていた呪いから守りたかったのだ。それほど、彼女を慕っているのであった。


 蒼がその衝撃の中で顔を上げると、炎の渦が取り巻いて、焼けた大地の上に大きな火炎が立ち上っていた。


「――――!?」


 だが、その炎の焼け付くような熱風を避けながらその中の様子に目を凝らすと、中に、先ほど天から降りてきた女神の姿が見えるのであった。

 それも、気を失って倒れてるのである。


「助けなきゃ……」


 蒼は、ゆっくりと痛む身体でその場所に近づこうとしていた。


 どんな衝撃だったのか蒼にははっきりとは分からなかったが、あの凄まじい衝撃を身体で感じていたのに、彼女の身体が無傷なのが不思議だった。


「拘束完了。これより、強制回収の作業に移ります。カウントダウン開始。10、9、……」


 通信室のオペレーターがカウントダウンを始める。

 そこへオーディンの声が響いてくる。


「≪よくやった。だが、早く回収しろ。今すぐに! ≫」


「それは未だ無理です、オーディン様。回収の為のエネルギーがポッドの中で溜まれば、即座に飛ばしますが。それにあのヘルフレイムの中では、神界の者にはのもう目覚める事は出来ないのですから」―――― オペレーターがその言葉に応えて、モニターの彼女の周りにエネルギーの殻みたいな物が固まっていくのを確認している。

 

 カウントダウンの声がゆっくりと進んで行く。


「あっ……」


 だが、そのモニターの中を、燃え盛る炎の中に一気に走りこんで来た人影を見たのである。

 蒼であった。


 彼が駆け込んで来て、必至に鎧の彼女を助け出そうとしてるのであった。


「このシステムではもう目を開ける事は出来ない、無駄な事なのに。あの人間も焼け死んでしまう」―――― モニターを見つめるオペレーターの女の子がまた悲しそうな顔をした。


「あ、でもこのままじゃシステムを作動できない。あの人間も回収しちゃう。どうしたら――――」

「7、……」―――― カウントダウンの声が後ろに聞こえる。


 蒼はその炎の中に飛び込むと、見えない火炎と熱の中でやっと炎の渦の中心で地面に倒れてる彼女の姿を見つけて、身体に彼女の頭を抱えて必死に叫んだ。


 蒼はその炎の中に飛び込むと、見えない火炎と熱の中でやっと炎の渦の中心で地面に倒れてる彼女の姿を見つけた。そこは一層炎が大きく渦巻く場所で、どこからも近づけない状態だった。それもかなり遠い。だが間違いなくそこにあの女神さまが横たわって居るのだ。


「目を開けろ、このままだと炎で焼け死ぬぞっ! これじゃ、二人ともここで焼け死んでしまうぞっ! それでも、いいの?! 起きてくれ、僕の勝利の女神さまなんだろーーっ!」


 蒼のその言葉が天にあがった。


 すると、その時炎の熱風の中で、鎧の彼女が目を開けたのであった。


 モニターを見ているオペレーターの彼女が叫んでいた。「ありえない! 拘束炎の中にいたら神族は身動き出来ない設計なのに――何故っ!?」


 その時、自分の上着を脱いで頭に被った。そして少し後ろに下がるとそのまま勢いつけて彼女目掛けて突き進んだのだった――――。


「なんてことを?」


 そのまま突き進むと火のついた上着を放り捨てた。そして彼女の身体を助け起こすのだった。


 蒼は自分の腕の中で、目を開けた彼女を見つめた。


 輝くような蒼いうす緑色の長い髪に、同じ色の瞳を大きく見開いて蒼の顔を見上げていた。

 炎に照らされるその頬は白く、小さな唇が少し開いて、何かを言いたそうに、手を伸ばして蒼の手を取った。

 首筋や手にいたる何処をとっても、肌の色は何物も寄せ付けないような清らかな色彩を放っていた。

 その顔はまさしく女神その物で、自分の腕の中に居てもまだ蒼には信じられなかった。


「大丈夫ですか? 貴方が、僕の勝利の女神さまですよ……ね?」


「はい。私で良かったらの話ですが……」


 天上の音楽のような輝く声をして、蒼の手の中で鎧の彼女ははっと我に返った。―――― 「この炎の中を、私の為に!?」


 蒼は黒い煤になった服を見て、頭をかきながら小さく頷いた。




通信室ではオペレーターの女の子が騒いでいた。


「このままじゃ、地上の人間も回収してしまう為、システムを緊急停止します!!」「5、……」


「≪構わない。そのまま回収しろ。人間など、記憶をなくして送り返せば済むのだ≫」


「それでは規則を破る事になります」「4、……」


「≪規則など、ワシの命令に比べれば問題ないだろう。そのままやれっ! ≫」


 オペレーターにオーディンの声が厳しく命令を下した。

 カウントダウンの声が無常にも最後の時を迎えようとしていた。


「もうどうなっても知りません。このまま、強制回収します!」


 もうヤケ気味のオペレーターの女の子が回収装置のスイッチの安全装置を外した。「3、……」





「有難う御座います。あなたが起こしてくれたから動けるみたいです。でもこのままだと私は直ぐ帰らされてしまいそう。だから……」


 見つめる蒼の顔を見上げてそこまで言うと、いきなり蒼の身体に抱きつくのであった。


「え、……ええっ!?」


 あまりの急な嬉しい事にびっくりして、後ろに仰け反って逃げようとした。「2、……」


「動かないでっ! 私から離れないで下さい!」


 静かに蒼の耳元で彼女が囁くと、蒼は背筋をピンと伸ばしたまま、抱きしめる彼女の腕の中でそっと目をつぶるのであった。「1、……」



 バッ――――!



「システム作動しますっ!」――――。


 オペレーターの声が力強く、回収装置のスイッチを押したのであった。


 見ると、モニターの中では炎が急速に中心に集まり、一瞬の間を空けて、小さなカプセルになって空の彼方に凄い勢いで飛んで行くのであった。


「あっ……」


 だが、それを見つめてるオペレーターの女の子が空に浮かんでいる何かを見つけて固まっていた。


 空には、蒼と鎧の彼女の二人の姿がふわふわと宙に浮いてるのを見つけるのであった。


「やられたみたいですね。あはは……」

今回の、ヘルフレイムの下りは、知ってる方は知ってると思いますが、ブリュンヒルデの話には、欠かすことの出来ない物だったのでどうしても入れたかったのですが、上手くピースが嵌らなかったので、少し無理を言って我が分身のオーディンに強引に行って貰いました(笑)。

私個人も、『想う者と絶対に結ばれるぬ呪い』などあったら悲しくてやりきれないので、いつか必ず幸せにしてやりたいと思っていたりなんかいたりなんかします。←あ、これはナタバレか^^;。

次回も宜しくお願い致します。

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