第57話 この世の支配者 1
今回も読んで下さって本当に有難う御座います。さて新しいエピソードに入ります『この世の支配者』の1をお届けします。
また新しい登場人物が現れますが、どうなる事やら^^;。なんだかまたひと騒動ですが^^;(笑)。
評価やブクマ登録など貰えると凄く嬉しいです。最近は少しづつ増える事もあり、書いていて良かったと想う事も有りますが、更に登録貰える様頑張りたいと思います。
どうか最後まで宜しくお願い致します。
「だからそのセットじゃ違うんだって、何度言ったら分かるの? ここは日本なのよ。自分の国と一緒の考えで良い分けないでしょ、もう」
芹那が廊下に出るところでアテナに大声で叫んでる。
いつもの朝。
いつもの学校の風景で有った。次の科学室に移動する時間であった。毎日この調子だもんな……蒼は呆れ顔で二人を眺める。顔を合わせればケンカばかりだから毎日学校に来るのが憂鬱になる。
「ちょっと蒼も何とか言ってよ。これじゃもうコッチの奴に決まってしまうわよ。変な物に決まったら、それはあんたの責任になるからそう思ってよ!」芹那は何かのカタログか何かを持って騒いでる。どうも何かを選んでる所らしい。話に参加してなかったのに、責任は取らされるという制度が確立してるとの事である。
「何言ってるの、私は全員の意見を尊重します。しかし、こいゆう物はセンスの問題なのです。意見は聞きますが、最終選考には残せないと言っただけですわよ!」凄い剣幕で蒼と自分との間を行き来する芹那を前にして、アテナも一歩も引かない気らしかった。
「神憑君の意見も聞きます。しかしそんなに当てに成らないと思いますわよ。彼は地中海のあの焼けるような太陽と、日にさらされた白い壁とそこを流れる海の風を知らないのですから……」アテナは思い出したように目を瞑って語っている。
いったい何をそんなに言い争っているのか?
気になっているそのカタログを見ようとするのだが、芹那がてにして振り回すので全く見れないのである。いい加減、けんか腰もやめて欲しかった。
「いったい何見て騒いでるんだ? アテナさんも少しは折れてくれないと、困りますよ。ちょっとさっきからなんの話しで揉めてるんですか?」
ついに痺れを切らして聞いてみた。
「何言ってるの、最初から言ってたじゃない。今度レヴィアタンのコスチュームを決めようって話しでしょ。それをこの人は何か胸の大きく空いたシャツに、スリットの大きく入ったスカートに替えようと言うから止めてたんじゃない。私には関係ないけど、ブリュンヒルデさんは関係有るんじゃない?」
「胸の大きく空いたシャツ?」その言葉に驚いてすぐに聞き返す。
「だから何度も言ってるじゃない。どうしてもあの店にはこちらのセットの方が似合うのよ。だって目指してる物がイタリアのリストランテで、和食レストランではないのですから!」アテナは憮然として蒼の方を見て困ったような顔をした。
驚愕の事実だった。
コスチュームは手伝いだした時に思い思いの状況で差し出されたので、今は統一性は確かに無かったのである。だが、問題はそんな所にあるわけじゃなかった。問題は、『胸の大きく空いたシャツ』の方に有ったのだ。
「……」思わず、それを着ているレヴィアタンやアテナを想像してしまった。かなりセクシーさが増してしまう。自分のコスチュームは変えないだろうが、ついでにガブリエルも変えてしまうと、これまたその妖艶さが半端なかった。これももう犯罪級である。きっと皆の期待と正反対にもっと男性客が増加して、店が大変な事になるのは間違いなかった。
「あんた何想像してるのよ。まさか賛成する気じゃないでしょうね? ブリュンヒルデさんも関係有るって言ったでしょ!」
怒った彼女の言葉に、ブリュンヒルデがそれを着た所を想像した。
「!」―――― きょとんとしてこちらを見るブリュンヒルデを見て、思わずそこでフリーズした。「ダメだダメだアテナさん。そんな破廉恥な格好、ブリュンにさせられるわけ無いでしょ!」
大声で彼もアテナの示したコスチュームの写真を破り捨ててしまうのであった。
「あーあ、何てことするのよ。せっかく取り寄せたカタログなのに……」アテナはビリビリに破かれたカタログを見て呆けた様に呟いた。ブリュンヒルデが着てる所を想像したら、居たたまれなくなってしまったのである。まったく不謹慎にも程があった。
カタログの破れた残骸に、アテナは短く溜め息をついた。残念ではあるが、提案の一つ目は消えてしまったのである。
「まさか神憑君まで反対するなんて、いつになったら保守的なコスチュームを変更出来るのかしら」
アテナの呟いた言葉を聞き逃さなかった。保守的という部分が特に気になった。
「だから、ここは日本だって言ったじゃない。もう一度選びなおすから、そのカタログ貸してくれる? あっ」――――とそこで、芹那がアテナの持ったカタログに飛びついた時だった。
見れば、飛びついた芹那の身体が避けたカタログの辺りに居た男子生徒とぶつかって終うのであった。思わず芹那は「ごめんなさい!」と咄嗟に呟いた。気が付くと、その生徒もこちらを見て立ち止まったのである。少しよろけて、痛い思いはした様であった。
「いや、大丈夫です。私も咄嗟の出来事で、避けられなかったのが悪かったのです。逆にお怪我は無いでしょうか?」
至極紳士的な台詞を吐いて、彼はそこで肩の辺りを押さえた芹那に屈みこんだ。割と背の高い位置だったが、顔を近づけるために下に下りていた。
「あ、なんだごめんね、委員長。悪いのはこのギリシャから来た大オンナだから。文句があったらコッチに言ってね」芹那はそれを見つけると、早口に一気に説明するのであった。見れば、委員長と呼ばれた彼が苦笑いを浮かべているのであった。あれ? 何か間違ったか。
「何言ってるの? 私のどこが大きいのです。正確には貴方が少し小さいだけなのですわ。それになんで私が悪いってデタラメを言うのですか。知らない方が聞いたら本気にしますわよ! ねぇ?」アテナはそこで彼女がぶつかった相手を見るのだった。
「私なら大丈夫です。ですが、間違いが一つ有りましたよ鳳さん。僕は委員長でなく生徒会長の北条院ほうじょういん 昴すばるです。知ってるとは思いますが」
背の高い彼が芹那の肩に手をそっと添えてニッコリ微笑む。“委員長”と呼ばれた所をさり気無く“生徒会長”に訂正する辺りがまた抜かりの無い所だ。
「では私も職員室に用事で急いでいますので、大丈夫ならこれにて失礼致しますね」そう告げると、顔に近くに倒していた背を戻して歩きだそうとするのだった。なんとも優雅な身のこなしだろう。普段から気をつけていてもなかなか高校生風情が出来る身のこなしではなかった。
だがそんな彼の後姿に芹那は肩を抑えて一言呟くのであった。「お、悪ぃな、委員長!」
カチン!と音を立ててそこで立ち止まる北条院。
「今、カチン!と頭に来た音を出した。怒ってる印」その北条院の様子をロッカーの影から呪歌が指差すのであった。いつの間に現れたのだろうか?
ゆっくりと顔だけ振り返り、呪歌を見るのだった。なんだか少し顔が引きつっている。
「怒ってなんか居ませんよ、囁木さん。ですが、委員長でないのも事実なので、もう一度“生徒会長”と言って置いた方が良いですよね?」
「怒ってるのを隠すのは大人気ないの。委員長!」
カチン! ともう一度、北条院の辺りから音が聞こえてきた。
「ま、今のは委員長で無いと知りながら言ってる風なので私はこれで。囁木さんもクラス違うのですから、ご自分の授業に戻った方が良いですよ。では!」少し怒りマークは出てるものの、からかわれた格好のまま彼は爽やかに笑うのであった。
「それは判ってる。怒ってるのを誤魔化すのは止めて、もっと素直に生きた方がいいよ。北条院……」すると、そう呟いた呪歌が皆の目の前で姿を消すのであった。どんなイリュージョン学校で披露してるんだ。まだ昼間だぞ。
苦笑いを浮かべる蒼たちを置いて、北条院と名乗った男が小さく頭を下げて遠のいていくのであった。
「誰ですか?」
ゆっくりと歩いていく彼の後姿にブリュンヒルデが蒼に聞くのであった。
「ああ、北条院 昴と言って生徒会長をやってる人だよ。確か北条院財閥とか言う所のお坊ちゃんなんだ。けれど礼儀正しく皆にも優しい人だよ。人気者だし」
「生徒会長?」ブリュンヒルデは小首を傾げて聞いてくる。
「ああ、判るかな? 学校の生徒側の代表さんだよ。結構、はっきりした人で、先生にも受けが良いし」
「ああそうみたいだね。品行方正を絵に描いたような所有るけど、割と私達女の子にも人気が有るからなぁ。あの外人並みのルックスなら人気が無いわけないよね。ファンも唸るほど居るしね」
と最後は嫌味っぽい言い方になった芹那が、貴族がやるような胸に手を当ててお辞儀をする真似をした。彼の仕草がいかにも貴族の其れに似ていたからである。つまりわざとらしいイケメンンな仕草だと言いたいらしかったのだ。
「だけど、やばい! こんな所で時間を潰して良い訳無かった。間に合わなくなるよ。ああー、やはりアテナの選んだコスチュームのせいだわ……」
そう言うと全員が壁の時計を見て慌てて次の教室へ走り出すのであった。
「何言ってるの。その隣の背中が空いているセクシーなおススメは我慢したのだから、皆さんも少しは我慢と言う物を覚えて欲しいわ……」
その後を付いていくアテナもカタログを指差して急いでいくのであった。
だが、その姿を廊下の奥に歩いていた北条院が振り返り見てるのだった。
やがて、彼も思いなおしたように前を向くと、少し唇の端を上げながらゆっくりと進んで行くのであった……。
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ここまで読んで頂いて本当に有難う御座いました。
ではまた、次回の更新まで宜しくお願い致します^^。
 




