第50話 お騒がせ颱風(タイフーン)の来襲 1
さて年末も押し迫りましたが新しいエピソード『お騒がせ颱風タイフーンの来襲』お届けします。
今回は『家族』という事をテーマに初めてのお正月のほのぼのエピソードを目指しています。それが上手く表現出来れば良いのですが。最後まで読んで頂けると嬉しいです。面白かった時はどうぞ宜しくお願い致します。
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どうか最後まで宜しくお願い致します。
「ありがとうございました~」
店を出る客に皆が揃って挨拶をする。
リストランンテ「レヴィアタン」の店内であった。
昼の部がもう直ぐ終わる頃だった。あとは片づけをして休憩だ。
「そう言えば毎日ここに来てるけど、面白いですね~。休みなのにアテナとガブリエルさんもここで会えるから、なんか冬休みの感じがしない」蒼が店の中を見回すと、ウェイトレス姿のアテナとガブリエル、それにフェンリルも居る。
「そうだな、なんかフェンリルまでも居て、不思議だが。学校が無くても忙しくて休まる気がしないのは気のせいか……」ガブリエルも蒼の言葉には同感のようだった。店の客の相手をする時間が延びて、いつもより大変な思いをしてるような気がしていた。
「前は何処に居たんだろうってくらい今はここに来てますけどね。ま、来ないとお店成り立たないくらいお客さん多いから良いんですが。なんか不思議ですね」ははは……と頬をかきながら、苦笑いをする。「だけど、こう日曜も休みが無いのはきついですよね? ここ定休日が無いから」
「仕方ないだろ。お客さんに食事出して食べてもらうのがレヴィアタンの店の趣旨なんだから。喜んで貰えればそれで良いんでは無いかな?」
「レヴィアタンさんの気持ちは知っていますが、こうも休み無く働くのも結構辛い物があります。それにここでバイトしてるって事で小遣いが無くされちゃったし、こんな事なら無償で働いてるってちゃんと説明するべきでしたよ。トホホ……」
「そうなのか……」哀れんだのか、ガブリエルも顔をしかめた。
しかし、そこまで言ってある考えに辿えいついた。
よく考えると、毎日働いていてもブリュンヒルデもアテナも疲れた顔を一つ見せた事が無いのだ。ああ、ガブリエルもフェンリルも。もっと不満とか言いそうな人たちだと思うのだけど。よく考えると彼女たちは女神だったり巨人族だったり、ガブリエルにしても大天使にレヴィアタン至ってはこの世で最強の生き物なのだった。ひょっとして疲れないとかあるのではなかろうか。まさか人間の自分だけ疲れていたとか?
蒼は1人不公平な労働環境についてぶつぶつ言いながら考え込むのである。
それを奥の方で聞き耳を立てている影がある事に気づく事もなく…………。
「お疲れさま~。今日は休憩に入る前に少しみんなにお話しが有ります……」
午後の3時、みんなの前に立って頭を下げたレヴィアタンが皆に声をかける。
「ええ~、こう毎日お店の手伝いをみんなにきて貰ってるので、一つ私も判らなかったので申し訳なかったのですが『定休日』なる物を設けようと思います。延いては今年は最後の為、来年からは日曜日にお休みにしますので、宜しくお願い致します――――」
急に振って湧いた朗報に1人ガッツポーズをする者があった。その者は一人高らかに腕を上げ、薄っすらと涙すら浮かべている。横ではアテナが不思議そうな顔をしてみていた。
だが、その様子に気を良くしたレヴィアタンがさらに追い討ちをかける。
「そして、バイト代も出さないで申し訳無かったのですが、これからは週休でお支払いするようにしますので、取り合えずここ2週間の分を支給したいと思います。名前をお呼びしますので宜しくお願い致します」
「週休?」――――その発言に色めき立った蒼がレヴィアタンの顔を凝視した。
週休? 一週間分づつ貰うという方式か、まるでアメリカみたいだ。オープンした日からずっと働きづめだった。若しかしたら凄い働いてるからって沢山くれるつもりでは無いだろうか。いや、あまり多い場合は勿論断ろう。しかし、自分もかなり役に立っていると思うのだ。多すぎないときは失礼になると活けないからここは貰うようにしようかな。だってここは日本、相手の感謝の気持ちを無下にはしたくないから――――そこまで考えた時だった。
「そんなもの要らなくってよ、レヴィアタンさん。私たちは皆好きでここに手伝いに来てるのですから。ね、そうですわよね、皆さん?」
アテナがレヴィアタンの申し出に即座に言葉を返したのである。それも要らないと宣言した後、御丁寧にガブリエルとこちらを見て呟いたのだ。
「あ……」蒼は何も答えられなかった。
心の中では『アテナ、貴様何を言い出したんだ! 折角、折角レヴィアタンさんが苦心の末、用意してくれた有り難い提案を付き返そうと言うのでしょうか? 僕は今、猛烈に落胆しています! そんなレヴィアタンさんの優しい心遣いに対してどうしてそんな発想が浮かんだのでしょうか? ああもう僕は、僕は――――。
蒼がそれでも言い出せない胸のうちを隠して泣く泣くアテナの意見に賛同しようとすると、レヴィアタンは嬉しそうに言葉を遮るのであった。
「いいえ……。そう言われると思いましたが、これは私の感謝の気持ちです。どうかささやかだけど受け取ってください」涙さえ浮かべそうな満ち足りた笑顔でそう言うと、優しい声でその名を呼ぶのだった。
「神憑 蒼さん」
「はい!」思わず蒼が嬉しそうに明るく答えてしまった。
皆も仕方ないなという表情を浮かべ、次々に呼ばれる名前に返事し前に進み出るのであった。
受け取って皆は一様に嬉しい感嘆を漏らす。その中でも蒼などは涙まで流しているのだった。
レヴィアタンも満足そうに微笑んで皆を見ているのであった。
そして嬉し涙を浮かべてるそんな彼にブリュンヒルデは近づいて声をかけるのであった。
「良かったですね、想いが通じて。それで幾らでしたか?」
すると、彼は涙を浮かべながらそう答えるのであった。
「うん、確かに嬉しかったよ。しかし、彼女がこの地上のお金の価値を知らないのを忘れていた。まさか週休¥500円だなんて。期待をしてしまった自分が呪わしい……」
涙を浮かべていると思った彼の仕草は、その金額の予想以上の低さに寄る物だったとは、レヴィアタンには想像も付かないのであった……。
「それでは今年はここまでです。皆さん、気をつけてご自分の国へ戻ってくださいね~」
店も片付け終わりラストの客が出て皆で乾杯をする所であった。
その日を営業が終わって、明日から店は年末年始の休みに入る。張り紙もしたし、留守番電話もセットされた。テープに入った声はブリュンヒルデの声でかなり魅力ある留守電の声に相手は卒倒してしまうんじゃ無いかって彼は心配するほどだった。
アテナはニケを伴って国へ一端は帰ると言った。
ガブリエルも久しく開けている天上界の様子も見てこないと行けないと帰るといっていた。
レヴィアタンも連れて来てる海神界の方に一端は帰ってくると言う。
フェンリルに至ってはどうして今もここに居るのか分からなかったが、取り合えず何処かに帰ると言っている。
「…………」
それを聞いて、蒼はふとある事を考えた。
それはブリュンヒルデも自分の国へ帰るのかと言う事を。帰りたくない筈が無いだろう。しかし、自分が引き止めて今まで居たのも同然であった。
この前の天界とのやり取りでは自分の申し出に応じた形を取って残ってくれたが、もう限界なのでは無いだろうか?
あまり長引くのは、彼女が帰るのにも立場が悪くなるかも知れなかったから……。
蒼は皆と話しながら笑っていてくれるブリュンヒルデの横顔を見つめていた。
もし帰ると言ったら、どうするべきだろうか――――?
答えの出ない気持ちに、ただ深い溜め息をつくのだった。
ふっと、そんな視線に気付いたブリュンヒルデが彼の元に来て尋ねてきた。
「どうしたんですか? 何か元気が無いようですが、心配事でもあったでしょうか?」
彼の顔を覗き込んでくるブリュンヒルデの顔が、彼を元気付けようとゆったりとした物であった。
さっきのバイト代の事を心配してるようだが、その顔を見ていたらなんとも言い出せない気持ちに成ってしまう。
「ううん大丈夫」しかし彼はおどける様にして首を振るのだった。「本当に心配だから、ブリュンには言えないよ……」
「?」
聞き取れなかったブリュンヒルデが首を傾げてもう一度聞こうとすると、彼は笑って誤魔化すのであった。
皆と暫しの別れの挨拶をし、それぞれに空に飛んで帰る姿を見送った。
帰る頃の彼の様子がおかしいのをレヴィアタンも気付いたが、ブリュンヒルデと目が合うと判っていると合図を受け取った。そんな彼女の仕草はもう何年も一緒にいるお嫁さんのようである。レヴィアタンは何も言わずに、二人に言葉を残して地上を後にした。
二人で星空を眺めながら家に向かうと殆ど会話も無く静かに歩いて居た。
それでも良いのだとブリュンヒルデは考えていたが、彼には何処まで判っていただろうか。自分の心配事であまりブリュンヒルデの優しい気遣いも気づいていない様子だった。
そんな考えのまま家に付くと、2人はインターホンを押した。
有風が元気にドアを開けた時も、まだ彼は何かを思いつめたような顔をして、浮かれた様子の母親の変化に気づかなかった。
「あれ。どうしたのコレは?」有風が靴を見ても何も反応がない自分の息子に後ろのブリュンヒルデに聞いてきた。「理由は判らないのですが、少し元気がありませんです。有風お母様」と答えると、有風は納得したようにOKサインを彼女に向けた。居たずらぽい表情を浮かべ、一言小声で言うのだった。
「なら特効薬があるから、大丈夫よ!」
しかし、そんなブリュンヒルデと有風のやり取りも気が付かない彼は、「ただいま」と力無く言うと、そのまま靴を脱いで居間の扉を開けるのだった。
後ろから楽しそうに続いて入って来た有風が笑っていたが、それも気づかない。
だが、空ろな気持ちで部屋に入ると居間のソファーに見慣れない髪の長い女の子の後姿が飛び込んで来るのであった。
「来客か……?」一瞬そんな疑問が頭に浮かんだ彼の間の前で、その彼女が振り返るのだった。するとあたりはまるで一陣の風が渦巻くかのように、キンと跳ねて物凄い勢いで大声を上げるのであった――――。
「やっと帰って着やがった。待ちくたびれたわよ、このお人好しアニキ。まーた人の世話を焼いてるんだってぇ。どこまで損した気分になったら判るのかな。さぁ、その話しを聞いてあげるから私の話しも一杯聞いてよねぇ!!」
そこに台風をも思わせる凄い勢いの女の子が弾ける様に蒼に向かって走ってくるのであった。
そこで一度ソファーの端を蹴って飛び上がると、まさに台風のように彼の身体に飛び込んでくるのであった。
そこに蒼の妹、神憑かみつき 泰菜たいなが満面の笑みを称えてしがみ付いてるのであった……。
最後まで読んで頂けて有難う御座います。
明日の更新したら本当に数日休載となってしまうので、ご迷惑をかけてしまいますが、無事旅行から帰ってきたときはまた続きをお願いしたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。
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