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第48話 想い続けるから 3

途中にクリスマスエピソードを入れてしまいましたが、ようやく『想い続けるから』の3つ目のエピソードをお届けします。

今回は『忘れられない想い』という事をテーマに短いエピソードを目指しています。それが上手く表現出来れば良いのですが。最後まで読んで頂けると嬉しいです。面白かった時はどうぞ宜しくお願い致します。

評価やブクマ登録など貰えると凄く嬉しいです。最近は下がることも多く、落ち込んでいますが、なんとか登録貰える様頑張りたいと思います。

どうか最後まで宜しくお願い致します。

 彼女に呼び止められたとき、アテナはすぐにその事に気がついた。


 夜の商店街であった。


 人の姿もまだあった。歩き出してアテナの家に向かう路地に入りかけた時、声を掛けられたのである。


 そこに彼女は所在無げに立って居たのである。


「ごめんなさい、脅かしてしまって。けれど、きっと彼にお願いされたと思ってそれで私の方から来てしまいました」彼女は済まなさそうにアテナに謝って来た。


「はい。けれどもっと驚いていることが有りますけどね。それで今は当惑してる所です。なんて彼に言えば良いのかと言う事を……」


 アテナはそこに振り返ったまま答えていた。


「ごめんなさいね。貴方ならきっと見えると思ったもので……」それを聞いて、さらに申し訳なさそうな顔をしてアテナを見るのであった。顔が泣きそうになっていて見ているだけで胸が苦しくなっていく。


 彼女の身体の向こうに道行く人の姿が透けて見えてたからである。そう、彼女はもうこの世の人でなかったからであった。




「彼に会ったのは、私が学生だった頃です。彼も社会人になりたての働き始めたばかりで二人ともお金が有りませんでしたね。私には花屋さんになりたいという夢がありました。だから私はここで働いていた。学校へ通うお金をためる為に」


 彼女はそう言うと、目の前の花屋を指差した。「ここだけの話し、ここの給料だけでは学校の資金を貯めるのにはあと5年は掛かったでしょけどね?」屈託の無い笑顔でアテナに笑いかけてきた。


 風を避ける為、路地に入った所でそこで話しを聞いていた。


「その時彼がお母さんにあげる花を買いに来たの。入院していたわ、その頃は。それで彼に花を選んでくれと頼まれて、彼の事情を知ったの。色々話しを聞いて彼のお母さんに元気を揚げられるように花を選んだ。すると彼は代金を払う時にこう言ってくれたの。『もし母親の見舞いから帰ってきて迷惑で無かったら、お礼にコーヒーを一杯ご馳走させてくれないだろうか』って。『何この人?』ってなってしまったわ。でも彼はそれでも諦めなかったの。『お店が終わるまで待てるけど、迷惑でないかな』ですって。諦めの悪いのは昔も今も変わらないのね……」


 彼女は彼の事を説明していた。それが事情を説明する近道だと判っていたからである。


「仕事だからと断ってけど、店が終わるまで待つと言われたから悪くてね。それでコーヒーをお礼にって事で一緒に一杯だけ飲ませてもらう事になったの。勿論お金は払うつもりだったけど、口実だからと言っていてね。最初から面白い人だったわ。それから時々彼がお店に尋ねてくるようになった。お母さんの病院のついでに。そして時々あの喫茶店で会う事になったの」


 彼女は彼の話をするのには戸惑いはなかった。時折思い出しながら笑ったりもする。それは楽しい思い出である事は間違いないからだろう。


「けれど、私の学校は入学金がたまり春が近づいていた。彼とは何も約束もしていなかったし、私はその学校に入って一から花の勉強をするのは最初からの決まりだったら、4月になれば学校のある場所に引っ越す事も考えていた。彼も賛成し、応援もしてくれていた。ただ、もうあまり会えないねとだけ話していたけど……」


 思い出しているのはその時の事だろう。彼女は下を向いて言葉も歯切れが悪い。思い出して話すのもあまりしたくないと言うのが本当だったのかも知れなかった。


「でも、彼が提案してくれた。月に一度位はあの喫茶店で会うと言う事。それならば、遠くても会えるからと。友達だから夢の勉強時間を邪魔したく無いって言ってくれたから。実際そう言ってもらって嬉しかった。だから勉強にも集中できたし、月に一度会うのも新鮮だったし。けれど、そのうちたまに私が忙しくて会えない時が有るようになった。課題は多く、睡眠時間を確保するのも朝が早い事が多かったから辛かった事もあるし。そして、そのうち彼も仕事が忙しい事が多くなって、月の一度の会う約束は帰還が伸びる事も度々になった。私もそのうち仲の良い日とも多く彼の事を思い出さない日も増えていった。彼もそうなのか、メールも電話も無くなっていった。けれど、最後の頃だったかしら、彼が私の絵を描いたから見て欲しいと言ってくれたの。久しぶりに会えるねと嬉しいけど卒業も近づいていて資格試験が忙しかったから正直困ってたわ。彼には物凄く応援してもらったから、会おうとしていたの。でもその約束があまり実現できなかった……」


彼女はあまり思い出したくなかったのだろう、話しぶりもあまり嬉しそうではなかった。


「だから正直に彼に話したの、試験の事を。そのかわり資格試験に合格したら会おうって話し合ったんだ。もうすぐ目の前だったから。そして私はそこから寝る間も惜しんで勉強した。合格しなければ私も道が無い。店も持つのが夢だったから合格したら、資格を取ったら何年かしてお金を貯めてお店を出したいと思って、まずは試験に集中したの。そして合格できた。その時はうれしくて、すぐ彼に連絡も取った。そして彼に会おうって初めて素直に思えたの。けれどその日は遂に来なかった。私達が会う約束をしたのが丁度クリスマスの日だった。雪が降っていて、街にもかなり降り注いでいた。そして私はその頃住んでいた街の駅に向かっていた。そうこんな時間だったかなその時も――――」



 駅に向かって彼女はコートの襟を立てた。前も見えないくらい雪が降っていて、彼女は傘を差すのを諦めて走り出した。

 途中何度か転びそうになったが仕方なかった。もう時間が無いのである。約束の時間に遅れていたのだ。今日は彼にお詫びのプレゼントもある。久しぶりだ。当然だと自分も思っていた。凄く親切で、凄く優しい彼。はっきりと言ってくれないが、本当はどう思ってるのだろうと考えもする。しかし、自分はまだその返事を多分出来ない。もう少し待ってもらうか、このまま友達としているか――――。彼女はまだ決めかねていた。


 ガシャン!という音が聞こえた。車のぶつかる音だった。

 音に気付いてその方向を見ると不意に車のライトが目に入った。しかし、自分の方向ではない。心配する事は無かった。歩道に居れば大丈夫。そう思っていたのだ。

 だが、そう思って一歩前に進んだときに判ったのだ。その車がトラックにぶつかってハンドルが効かない状態なのだという事を。

 車が目の前に迫ってくる。ライトが目に入って景色が光に包まれた――――。


「気付いたら、もう今の姿だった。目の前に地面に横たわった私の姿が見えていた。車に轢き摺られて見る影も無かった。後でわかった事だったけど、その車は数人の若者が酒を飲んで浮かれた飲酒運転の車だった。その人間は助かり、私だけが巻き添えであんな姿になったんだ。もう絶望しかなかった」


 その話しをする彼女の姿が辛すぎた。

 志半ばで命を絶たれる。それがどれ程辛い物か想像出来るだろうか。

 夢の実現に必要な国家試験に合格し、これからやっと夢の一歩を踏み出せると決まった直後なのである。いらおんな犠牲も払ってきたのだ。それこそ学校に通うお金も、そのそこまで進む道に掛けた時間も、思いも、全て一瞬にして奪われるその悲しみを、誰が判るというのだろうか。それは果たして苦しみとか、悲しみという単純な言葉だけで表現出来るのだろうか。

 その絶望は計り知れなく、また真っ暗な闇の中をさまよい続けるような無限地獄のようである。出口はなく、ただその苦しみの中をさ迷い歩く、言い知れぬ遣る瀬無い想いだけが繰り返されていく。


「けれど私は仕方なかった。私はあの場所にはもう行けないのだから。私は死んでしまったのだから、もうあの場所へは行けない。でもあの人はその時から、ずっとあの場所で待っているのよ。この季節が来ると待っているの。普通はきっと気付くと思うの、私が来ないのだから。もう私は姿を現さない、若しくは私は結婚して自分の所には来ないだろう……と」


「クリスマスの晩に、ずっとと言う事?」


「そう。クリスマスの近くなった日からずっと待っているの。あの時から、随分時が経ったというのに……」


 彼女は悲しそうに瞳を伏せた。

 もう何年彼はあそこで待っているのであろうか。1年? それとも2年か? あるいはもっと長い年月? ――――。


 それは悲しみ。事故で失った自分の事も悲し過ぎるが、それを待っている人間はまた別の苦しみを抱えてる筈である。もう来ないであろう人を待つのがどれほど悲しい事か。自分を忘れたのかと自分を責めるだろう。もう言葉も交わしたくないと思って居るのだろうかと。それを彼女はずっと傍で見て知っていたのである。


 不意に彼女が涙声で言ってきた。


「彼に言ってあげて欲しいの、『あの娘に頼まれた』と。『あの娘は、結婚して別の場所へ移り住んだ』――と。そう言えばきっと諦めもつくでしょう? お願い、もう彼を私との思い出から解放してあげて欲しいの。もう彼を自由にしてあげて欲しいから……」


 彼女がアテナの手を握って懇願してきた。


 彼女もまた彼を愛していたのだと、アテナもその涙を見て思い知らされるのであった……。

最後まで読んで頂けて有難う御座います。

ここで一つお詫びになります。前回今度の話で最後とお話しさせて頂きましたが、今回も内容の関係でどうしても短く出来ませんでした。申し訳ありません。

次こそは本当に終話とさせて頂きますので、もう少しお付き合いお願いします。どうぞ、面白かった時は評価やブクマ登録も宜しくお願い致します。

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