第31話 風邪引き者の観察者 14
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部活が終わり、後輩達に言葉をかけられて芹那は部室を出てきた。
外はすっかり暗くなり始めた午後7時過ぎであった。他の部活もチラホラと帰る生徒が見える。その中を、呪歌と無言で芹那は歩いて居た。
やはり、まだ蒼の事を考えていた。
部活が終わったので、また嫌な考えが頭の中に浮かんで来てしまって居たのだった。
「よ、やっと終わったんだ。お疲れさま」
すると、不意に校門にあと少しという所で声をかけられた。
立ち止まる、芹那と呪歌。
顔をあげた芹那の目の前に、蒼が立って居たのである。
「へ?」
驚いてみてみると、制服姿で蒼はそこで笑って居るのである。つまり、部活も無いのに今まで自分の事を待っていてくれたのだ。それがその瞬間で判った。
嬉しかった。
何よりも自分を待っていてくれた人が蒼だったのが、単純に嬉しかった。
直ぐ様駆け寄って、蒼の顔を見上げた。
幾らも変わらないが、少し見上げるのが、芹那には凄く堪らなく嬉しかった。
「何してるのよ?」
芹那はぶっきら棒にわざと聞いた見た。
未だ怒ってるのである。少なくとも、表向きはそうしとかなきゃ腹の虫が治まらない。
「いや、また帰る途中で具合悪くなるといけないからさぁ。あと……」
蒼は、少し照れながら芹那に答える。いつもの蒼の弱気な態度に戻ってる。だが、何かを言いかけて少し口ごもっていた。
「ごめんな……」
言いにくそうに、蒼は頭を少し下げた。
やはりいつもの蒼だった。自分の良く知ってるいつもの蒼だから、自然に受け入れられたのだとその時思ったのである。
「帰ろうか?」
「うん」
すると、表向きは怒ってる設定だったが、もう芹那の中にはそれが維持出来ないで居た。いつもの蒼の顔を見てしまうと、やはり自分も誤魔化せなくなってしまうのだ。
芹那の言葉に、何かを了解したように蒼も言葉を続けた。
「芹那……」すると、校門の影に行った呪歌が声をかけてきた。そこに、アテナとブリュンヒルデが黙って隠れていた。
姿を街頭の下に現しながら、少し済まなさそうに頭を下げる。何も悪くないが、それでも芹那の事を心配しての態度だとはすぐに判る。
「帰ろうか?」
もう一度、芹那は明るく言った。
もう一度、いつもの自分に戻って、今度はブリュンヒルデ達に向かって言っていた。
電車の中でも時別に何も言わなかった。
自分も話さないが、芹那も自分に何も言ってこなかったからだ。
元々、自分が悪いのだが、それを謝ると芹那も何かを謝ると利かないと思ったのだ。
だから、黙って一緒に乗っていた。
誰も何も言わないまま、呪歌の降りる駅に着いた。蒼たちの降りる中囲町の一つ手前の駅だった。
帰りの挨拶をする時になって呪歌がブリュンヒルデを見つめていた。
それまでも何かを言いたそうにしていたが、降りる時まで何も言わないで居たのだった。だが、降りる時に一言だけ、ブリュンヒルデに言ってきた。
「あなたも、本物?」
呪歌は、ホームに降りて目の前に居るブリュンヒルデにおもむろに尋ねた。中に居る芹那には何の事だか判らない。だが、傍に居るアテナや蒼は慌てて居るのが不思議でならない。
「はい」
すると、それを言われブリュンヒルデは当たり前のように答えて微笑んだ。
呪歌も満足そうに笑って芹那にさよならを言った。
そう言えば、昨日も同じ言葉を呪歌から聞いたような気がするが…………、芹那はそんな事を考えながらホームの呪歌を見送った。
「何が本物だと言うのだ。皆、本物に決まっている。だが、それをあえて言う呪歌の真意とは……」
芹那は、呪歌を見送って外を見ているブリュンヒルデの横顔をじっと見てそんな事を考えるのであった。
「ねぇ蒼。呪歌の言ってた“本物”って何の事か分かる?」
すると、蒼が慌てたように芹那の顔を見てきた。それは、確かにおかしいと芹那も思うが、蒼はなんでもないと答えてくれなかった。
「さぁ、呪歌さんは何を言ってるのか。――――あ、そうだ。きっとブリュンヒルデが本物の外人かって疑ってるんじゃ無いのかなぁ、まるで日本人みたいに言葉が上手すぎるから。あはは……」
そう答える蒼の顔を芹那は思わずじっと見てしまった。
駅について、蒼たちは4人で再び家路に黙って向かっていた。
やがて商店街に差し掛かると、アテナが自分は買い物が有ると、芹那にも挨拶をして分かれることになった。
そう言えば、昨日もアテナはここで分かれた。
どこかの店に用事が有ると言っていたような気がするが思い出せなかった。
果たして、アテナ程のお嬢さまのような人間が、この街の何処かに住んでるのかと考えるとそれも不思議でならなかったが、今は呪歌の言っていた言葉が何か引っかかっていて気にする余裕が無かった。
商店街を抜けて、3人になった蒼たちは芹那の家の前まで来た。
なんだか、お互いに何かを言い出せなくて、暫くは蒼も押し黙って芹那を見てるだけであった。
だが、それもまたいつもの蒼なのだと、不意に芹那には判ったのである。
判っているのに、今日は焦りすぎたのだと芹那はその時、思い出したのであった。
「今日は、ごめんね。私が悪かった。皆の前で蒼に恥かかせて……」
「そんな事無い。ただ、みんなの前で言わなくても良かったんだ。あんな事言うと皆誤解するから……。俺の方が芹那に酷い事言ってごめんな」
芹那にはその言葉だけで充分だった。
蒼を苦しめるくらいなら、言わない方が良いといつも思っていたのだから。
それなのに、今日はどうかしていた。どうかしていたから、あんな事まで皆の前で言ってしまったのだ――――。
芹那は自分の家のインターホンを押して最後にそう呟くのだった。
「今日はごめんね。だけどね、だけど今度お弁当が上手く出来た時には……」
芹那は笑ってそう言った。
「蒼が一番最初に食べてくれるよね? 私、頑張って作るから」
芹那の顔は晴れやかだった。
蒼も、そんな晴れやかな笑顔の芹那が昔から好きなのであった。
「ああ、もちろんそうさせて貰うよ。沢山、胃薬持って待ってるから、その時は言ってくれ」
「うん。有難う!」
芹那は、そう言うと勢い良く家に飛び込んで行った。
最後に見えた芹那の笑顔は、なんだか笑って居るのか泣いているのか判らなかったが、とにかく元気だけは戻っているようだった。
お弁当は、また身体が持つか判らないが、その時まで痺れ対策をすれば良いだろうと思って、ブリュンヒルデを振り返った。
ブリュンヒルデも笑っていた。
2人は、ただ言葉も交わさずに、また目の前に出されるお弁当の事を思いながら有風の待つ家に入っていくのであった…………。
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