第28話 風邪引き者の観察者 11
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だが、そんな地獄の時間もついに昼休みまでは乗り切った。
「あのさ、芹那は今日は昼ごはんは何食べるのかな?」
蒼が、いい加減背中に刺さってくる物の多彩なバリエーションに耐えかねて話しかけると、芹那は首を横にブンブン振って答えるのであった。
「あたしはあんたが想像してるとおり、食堂で呪歌と美味しいマサラカレーを食べるのよ。だから、あんた達と一緒に食べる事なんて出来ないの!」
その鬼気迫る顔が笑っているのか、怒っているのか判別つかない。
そうの後ろには、ブリュンヒルデが蒼と自分のお弁当を持っていた。
蒼がその様子になんとか取り付こうと近づくと、廊下に表れた呪歌を見て、そそくさと食堂へ向かってしまうのであった。明らかにひがんでる。
「あんた達は、揃って仲良くこの天気の良い空の下、屋上でも何処でも行けば良いんだわ。きっと、小鳥達も歓迎してくれる!」
そう言い放つと、廊下を凄い速さで駆け抜けて行くのであった。
今どき、小鳥達が歓迎してくれるっ……て、どこの想像の世界から来たんだよ、芹那は?
蒼は、芹那のそんな頑な態度に内心こころが折れそうであった。
そして、それは蒼の気持ちをいつも見ているブリュンヒルデも同じであったのだ。
「ああ、どうしたものかね、あの頑固さにも困っちゃうよね。ごめんね、余計な心配をかけさせて……」
いつもの屋上の給水塔の上で、蒼はブリュンヒルデと隣りあわせでお弁当を食べていた。
しかし、いつもと違うのは、目の前に居るブリュンヒルデの姿が見えている事だ。
晴れて、この世界で、薔薇原高校に留学生として編入してしまったのだ。もう、姿を隠して会話する必要も無くなったのである。
ま、ある意味、姿を見せて二人で居るのは、目立つと言えば、かなり目立つ行為なんですけどね。芹那の事で頭いっぱいの2人は、そこまで気が回って居なかったのである。
だが、不意に蒼が何かを思い出してブリュンヒルデを振り返った。そう言えばあの事を聞いていなかったのだ。
「そうだ、ビックリしたよ、急に教室に来るんだもん。ま、アレが無かったら、芹那にばれてたかも知れないけど、言う前に良く判ったね?」
蒼は、不思議そうにブリュンヒルデに聞いてみた。
「それは、私もビックリしたのですが、アテナさんが聞いた事を内緒で私に伝えてくれたのです。私も迷ったのですが、同時にガブリエルさんからも、このピンチを突破する方法は『留学生と言ってるのだから、これしか無いだろ?』と言う事で、決まりました。私は、蒼さんに心配かけるから迷ったのですが時間も無いため……」
「そうか……」
ブリュンヒルデが済まなさそうに答えると、蒼の頭に教室を出るときのガブリエルのニヤついた笑顔が蘇った。
あの人、楽しむ為にブリュンヒルデを学校に入れたな……。
蒼は、今頃教室の様子を見て腹を抱えて笑ってるガブリエルの様子を想像して、何か腹が立って来てお弁当をかっ込むのであった。人をオモチャ扱いしやがって、偉い天使が聞いて呆れる。
「ですが、その為に芹那さんは怒らせてばかりで、結局は蒼さんに迷惑ばかりかけてすみませんでした。やはり、この方法は間違っていたみたいです。少なくとも、芹那さんには……」
しかし、そこまで言ってブリュンヒルデはすっかりしょげ返ってしまうのであった。
頑張った甲斐が無いとは、正にこの事。蒼は、慌ててブリュンヒルデを励ますのだった。
「いや、ブリュンヒルデが悪い訳じゃない。悪いのは、僕が芹那が家に来てもどうにか誤魔化せる方法を考えてなかったのが原因なんだよ。だから、そんなに落ち込まないで」
そんな言葉で焦る蒼がブリュンヒルデの腕に手をかけると、ブリュンヒルデも少し嬉しかったのか、顔を上げてにっこり笑うのであった。
「でも、傷ついた芹那さんには本当に申し訳無いのですが、私は、今日は傍で一緒に居られて一緒にいつでも話が出来るので、凄く楽しい一日を過ごせています。それが、一番嬉しいです」
そう満面の笑みを浮かべて笑うブリュンヒルデを見て、蒼は流石に涙を流しそうになってしまった。
高々、自分と教室で話が出来る事なのに、彼女はそこまで喜んで居てくれるのだ。
今まで生きてきて、こんなに嬉しい言葉を聞いたのは、自分は初めてだと、その時思ったのだ。
よく考えたら、ブリュンヒルデはこの地上に来た翌日からずっと姿を消して、昼休み以外はずっと話も出来ないのに、自分の傍でただ黙って見てくれて居たのだ。かなり、存在感が無くなっていた事も、物語上1度や2度では無かった筈。
それなのに、今、こうして話しが出来ることが嬉しいと言ってくれる。生きてきて、一番嬉しい言葉だと思ったのは決して嘘では無かった。
人間として、自分が傍にいる当たり前のようなその事を感謝してくれたのは、今までで初めての事だったのだ。
それが、何より嬉しかった。
それを嬉しいと思ってくれる人が居てくれた事に、蒼は今更ながら、ブリュンヒルデに感謝するのであった。
「僕も、ブリュンヒルデが今そう言ってくれた事が、凄く嬉しいよ……」
蒼は少し照れていたが、誰も居ないその屋上の為、自然にその言葉を言えたのであった。
すると、その言葉を聞いてブリュンヒルデがビックリしたように蒼の顔を見るのであった。何か、特別な言葉でも無いのに、ブリュンヒルデはそんな言葉を聞いたかのように顔を赤くしてしまった。そして、その事にブリュンヒルデは理由が判らなくて、俯いてしまうのだった。
その様子を見て、蒼も突然恥ずかしくなった。
恥ずかしく成らなくても良いのに、何故かブリュンヒルデの変化に蒼も恥ずかしさが伝染してしまうのであった。
「あらあなた達、さっきからなに屋上で人目もはばからず、二人でおかしな物伝染させ合ってるのよ? またあの子が見たら今度こそ発狂して学校に放火しかねないわよ。困ったものね……」
ビクってして、蒼はその声がした方に急いで振り返った。
すると、そこには給水塔の手すりに掴まって顔だけ出しているアテナが一人こちらを見つめてるのであった。
ほんの僅かだが、見てる目がすっかり大きくなって爛々と光らせて笑っている。この頃、最初の登場したての頃の凛々しいイメージがすっかり失われて来てる様で、作者としてもここで何とか食い止めないと、全てのキャラがエロくなって仕舞いそうで怖くなって来たのである。なんとか、それは切に食い止めたい。
しかし、それでもアテナはニタリと笑った顔は変えなかった。
「アテナさん止めてくださいよ……」
蒼は、すっかりアテナに自分の気持ちを知られたと思い、アテナに声を漏らした。
「私のこの機転の効いた咄嗟の判断に、感謝してくれて良いわよ。私が居なかったら、あなたあの子に正直に話そうとしてた物ね。きっとその正直であの子を納得させるなんて、夢のまた夢だったでしょうけどね?」
アテナの言った言葉に、蒼は一言も返せないで黙って頷く。正に、アテナの予言どおり、芹那は納得できなくて騒いだだろう。
「あ!」
しかし、そこまで話して蒼を納得させたアテナが何かに気付いたように声を上げるのであった。
何かと蒼が尋ねようとすると、それを待たずに彼女は言葉をその理由を自分で話してくれるのであった――――。
「でも、きっとダメだったみたいだわ。また、彼女がこの光景を見て気が変わったみたいだから……」
そう不吉な言葉を呟くと、言葉の意味を聞こうとした2人に、遠くの自分たちのクラスを指差すのであった。
そこに、双眼鏡でこちらを見て騒いでる芹那の姿が見えるのであった。
よく見ると、双眼鏡を持って何かを確認したのか、大口を開けて何かをしきりに怒鳴ってるようなのである。決して聞こえないが、その身振り手振りからは、彼女が相当怒ってるのは火を見るよりも明らかだったのである。
「あれ? きっとこちらに来るわね……」
すると、アテネが呟いた瞬間、教室の窓に居た芹那の姿があっという間に消えて、物凄い速さで蒼たちのいる給水塔まで走ってくるのであった。
それを建物の縁から心配しながら見てる蒼たちの前に、芹那の姿が一瞬で現れるのであった。なんて、速さなんだ。
「コラーッ、あたしと言う者が有りながらそんな所でお弁当を2人で食べやがっていい加減にしろー、そんな所に隠れて居ないで今すぐここに降りて来ーい!」
まるで神にでもなったかのような速さで現れたかと思うと、直ぐに、下から呼びかけるのであった。正に、鬼神である。
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