第23話 風邪引き者の観察者 6
駅に向かう道を4人で歩いて居た。
蒼を挟んで左側に芹那とアテナが並んでいる。
そして、それぞれが蒼の腕を掴んで歩いてるのであった。
その後ろを囁木呪歌がついて歩いてるのであった。
なんだか、おかしな行軍である。
その一連の集団を上空から姿を消したブリュンヒルデがついているのであった。
「なんであなたも一緒に帰るのよ。何も蒼と一緒に帰らなくても良いでしょ?」
蒼の反対側の腕に強引に自分の腕を絡めてるアテナに蒼の身体の影から文句を言っていた。
「あら、なんでそんな指図をされなきゃいけないのですの? 私も同じ中囲町に帰るのです。それに、あなたの万が一の場合の為に付いて来てるとさっきから言ってるじゃないですか」
しかし、そんな事を芹那に言われると、反対側のアテナも蒼の身体の影から顔を覗かせて逆に言い返すのであった。
「あたしの万が一って言ってるけど、それなら何故蒼の腕をとったりするの? それにあたしは蒼一人が居れば大丈夫だから、心配しないで帰ってくれて結構です! ね、蒼も蒼思うでしょ?」
「何言ってるの。人の親切は素直に受けるものよ! 人間素直が一番って何かの本に書いてあったでしょ、神憑君もそう思うわよね?」
蒼の両側で何を張り合ってるのか二人の女神はバトルが蒼の顔を覗き込みのであった。
気がつくと蒼の顔を二人がなんと返事をするのかと見つめてる。
「そんな、仲良く一緒に帰れば良いでしょ。どっちも同じ方向なんだから。なんとか言ってあげて下さい呪歌さん……」――――蒼が困り顔で答える。
それを聞いた二人は声を揃えて言うのだった。
「どっちか答えてって言ったでしょっ、もうその優柔不断を直してっ!」
え? なんでそこまで言われなきゃいけないの。
呪歌は怒られた蒼の横で二人に近づいた。
「なんとか」
?
蒼は、その言葉を言った呪歌を見つめながら、再び口ゲンカを始めた二人に引きづられて行くのであった…………。
2人が言い合いをしてるのでまったく話が出来ないが、どうにか電車には乗ることが出来た。
基本、自転車での通学が多い薔薇原高校であったが、駅からも比較的近い為、蒼のように電車で通学する生徒も多かった。
蒼と隣同士の芹那も一緒で呪歌も隣の町の為、帰れるときは一緒に帰っていた。
ただ、芹那と呪歌は普段は部活の為一緒に帰ることはなく、その上風邪で芹那が休んでいたここ数日は一緒に帰らないからアテナとの衝突も避けていられたという訳だったのである。
振り返るとブリュンヒルデが居ないので辺りを慌てて見回すと、ブリュンヒルデは窓の外をだいぶ上空を飛んで蒼に合図をくれたのを見て、ほっと安心するのであった。
電車に乗っても、二人の冷戦状態は続いていた。
芹那が座ると言えば、アテナが蒼の腕を取るので、結局3人は電車の中でも立っていた。
しかし、基本的には具合が悪い芹那の荷物を呪歌が持とうとするので、その荷物も蒼が持つ事になる。結構、荷物が多くて辛い状態に蒼は成っていて、こんな事なら座らせてくれと内心思っていた。
電車が発車すると外の景色が変わってきた。
走り出すと陸橋の見える景色から次第に海が見えてくる。夕暮れが始まる時間帯で、その海に写る景色が蒼は好きだった。
だが、暫く黙って見ていると脇腹を突く人間が居る事に気付き、そっとそちらを見る。
アテナだった。
アテナが気付いた蒼にまだ分かって居なくてもう一度突いた。
「痛いのですが、どうしました?」
アテナに顔を近づけて言うと、芹那も怪訝そうに蒼とアテナの間に顔を近づける。
「ほら、あれ!」
2回ほど顔で方向を示されると、向いた方向では例の無表情の呪歌がアテナの顔をジッと見上げ、何かを探るように見ているのであった。
それには、蒼も参ってしまう。
いくら芹那の親友で一緒に帰る事もたまには有るのだが、呪歌に直接注意出来るほど蒼は仲良くなかったのである。
仲良くなくても、注意は同級生なのだから出来そうだが、それが出来るのは普通の相手だった場合だけである。呪歌についうっかり注意をして何か有ってからでは遅いのだと、心の中の蒼の分身が止めてしまうのであった。
何かあっては遅いって結構酷い話だが、それは天災が自分に降りかからない確証が持てる人間が言える言葉であった。
相手が呪歌ではその考えが起きないのは、神には誰だって逆らえないと考えるのと同じくらいだと蒼は思っていた。何かが起きるか、起きないかのどちらかに賭けるかと聞かれたら、迷わず蒼は『起こる』方に賭ける自信が有ったのである。
蒼はそれほど呪歌の不思議な感じを恐れていたのだった。
「な、なんですの。いったい?」
アテナは恐る恐る聞いている。
隣に並んだ呪歌は黙ったままアテナの引きつった顔を見ていた。
「あなた、本物なのね?」
呪歌はおもむろに聞いてきた。
「何を?」…………。
一瞬何を言ったのか、蒼もアテナは判らなかった。しかし――――。
「!」
「!」
蒼とアテナが同時に何を聞いてきたのか気付いたのだ。呪歌の目が何を見てるのか、思い当たるのは一つだけだったから。
「あー、何の事言ってるのかな~呪歌さんは~? ひょっとして何か勘違いしてるのかな~」
「あら……。何を言ってるのか分からないわ。ひょっとして何かと間違えてるのじゃなくて、私の事を。変な事聞くけど、何か見えたの?」
蒼が歌うかのように誤魔化しながら、軽やかに呪歌の言葉を否定すると、アテナの方も何かの勘違いとして呪歌にさり気無く聞いてみたりした。
すると、呪歌はアテナをスッと指差して、静かに言うのだった。
「アナタの姿が、楯と鎧を着た……」
そこまでが限界だった。
慌ててアテナが呪歌の口を塞ぐと、蒼がおもむろに何の歌か判らない歌を物凄いタイミングで歌い出すのであった。
歌いながら軽やかなステップを踏み、持ち前のバネを生かした白鳥の湖のオデットの如き舞を芹那の前で見せながら、呪歌の姿を隠すのであった。
お陰で、芹那がそのおかしな2人の挙動に気がついた。
「ねぇ、何やってるのよ2人とも? 呪歌が苦しいじゃないのよ……」
慌てて隠した白鳥の湖がどうも気に入らなかったらしくて、不信に思った芹那が口を塞がれた呪歌の身体を引き戻した。くるみ割り人形だったら良かったのだろうか……? 蒼は、密かに反省をした。
引き戻された呪歌の身体を抱きしめ、芹那が呪歌に聞いてきた。
「何されたの、呪歌。 蒼が何か変な事言ってたけど、何かあったの?」
芹那の言葉に促されて、呪歌がアテナを指差した。
「あの人……」
その言葉が始まったとき、蒼とアテナが天を仰いだ。「もうお終いだ……」
すると、呪歌はアテナを指差して言うのだった。
「あの人、アテナさん。本物」
「…………」
芹那がその言葉を聞いて、呪歌の顔を見た。
本物?
確かに、本物だ。
それを聞いて、芹那はアテナを指差す呪歌の腕を下ろさせた。
「ハイハイ。あの人は確かに本物のアテナさん。もう変な騒ぎを起こさないで、蒼と2人で! 唯でさえ目立つんだから、電車の中で白鳥の湖とか止めてくれる? 私もう限界近いんだから……」
芹那はそうブツブツ言うと、まだ何かを言ってる呪歌の口を塞いで立ってるのが辛いのか、すぐ目の前に空いてる席に呪歌と一緒に座るのであった。
「確かに、本物ですわよ……」
「たはは。良かった。他の言い方しないで居てくれて……」
遂に限界に近い芹那と呪歌が席についたのを見て、アテナと蒼は顔を見合わせて疲れたように笑うのであった。
窓の外を見上げると、ブリュンヒルデが電車の速度と同じように飛んでるのが見えて、まるでハヤブサか何かだと思う蒼であった……。
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