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第22話 風邪引き者の観察者 5

だいぶ更新が遅くなりましたが、最後まで読んで頂けたら嬉しいです。

 その後も芹那の無言の圧力は続いた。


 だが、それでも本人も具合悪いし、こんな時は蒼を頼るのはいつもの事なので、蒼も機嫌の悪い芹那の逆鱗に触れないように、対処しながら一日を終えたのであった。

 それに、芹那の異常に嫉妬するかのような態度に、それ以上アテナが近づく事もあまりなかったので、必然的に芹那の怒る場面も抑えられたのである。

 それはそれで蒼にとっては悪い事ではないので良いのだが、アテナと芹那の仲が悪いのは、蒼にとっても嬉しくなかった。


 昼休み前の授業の終業ベルがなると、芹那は力尽きたようにその場で机に倒れてしまった。


 頭から思い切り机に激突して動かなくなったので、蒼が心配していると机の下から例の無表情な親友が現れて、芹那を口にくわえて蛇少女のように床を引きずって食堂へ連れて行くのであった。




「本当に酷いやつで驚いたでしょ、凄い風邪ひいてるから機嫌悪いのかも知れないけど……」


 ブリュンヒルデが来てからずっと過ごしてる昼休みの屋上の給水塔の上である。


 有風の作ってくれた竜田揚げを美味しいと話しながら、弁当を二人で食べ終わった所であった。


 その間に、芹那の事を知らないブリュンヒルデに説明をしていた。

 同じ保育園に行ってた事や、小学校での失敗した時に芹那が庇ってくれた事、同じ中学に一緒に通い、とうとう同じ高校にまで通ってる事などを。


「そうですか。随分仲が良かったのですね……」


 ブリュンヒルデは蒼の話をひと通り聞いてから、感心したように呟いた。


「そう言えば、あいつ中学の時、元気いっぱいのあいつを好きだって言って来た男子を振って、随分みんなに勿体無いって言われてたんだ。確か学校一の人気者だったけど、あいつの断った理由が、『モテ過ぎて嫌だ!』だったのには驚いたね。変わってる子なんだよ、あいつ……」


 蒼はその時の芹那の事を話して、彼女がちょっと変わってるエピソードを中心に披露していた。


「そうですか? 何か凄い蒼さんにいろんな命令をするから、始め怒ってるのかと思って心配してしまいましたが」


「ああ、あれはいつもの事だから、心配しないで。あれで中々面倒見は良いヤツだから。僕に対しては口が悪いのが玉に瑕だけど……」


「いつもの事ですか……」


 それを聞くと、ブリュンヒルデが少しだけ伏せ目がちに蒼を見るのであったが、蒼はそれには気がついてなかった。


「あとは、帰りも一緒だってのが少し心配だけどね――あの人と。ま、今日はあいつと一緒だから、帰りもブリュンヒルデには姿隠してもらう事になっちゃうけど、ごめんね。一緒に帰らなくなれば、大丈夫と思うから……」


 蒼がブリュンヒルデに申し訳無さそうに頭を下げるが、それをブリュンヒルデが慌てて止めていた。


「誰が心配なんだって言うのかしら、……その人が居ない所で言うのは“陰口”と言うのよ、知ってるかしら?」


 その声に振り返ると、下から上がってくる手すりに手をかけたアテナが、顔だけ出してジっとこちらを見てるのであった……。




「何の問題があるから、あのような仕打ちを私にするのか聞きたいですわ。鳳さんが何考えてるのか判りませんが、もう止めるように言って下さる?」



 芹那の必要な攻撃にもう嫌気がさしたとアテナはぼやいていた。


 給水塔の上に上がって、アテナも蒼の横に座ってブリュンヒルデと蒼に愚痴を言っていた。

 なんだか、蒼とブリュンヒルデのお昼時には、必ずアテナが参加する変な図式が出来上がっているようであった。


「いや、そんな事僕の口から言ったら何をされるか判らないから、アテナさんが魔法か何かで教科書を早く用意してくれれば済むんですよ~。お陰で、さっきから授業中も生きた心地がしないんですから……」


 アテナの申し出は蒼はすぐに却下したのである。女神のアテナより芹那が怖いのは、火を見るよりも明白のようであった。

 だが、アテナにそれを告げたあと、思わず芹那に対する愚痴を言うのであった。 


「しかし、なんであんなに怒るんだろ、別に人助けをしてるだけで悪い事してる訳じゃあるまいし……」


「…………」


 それを聞いて、アテナが蒼を真っ直ぐに見て呟く。


「それ、本気で言ってるの?」


 アテナの問いに、意味が判らないといった表情の蒼がアテナの顔を見返す。


「あなたも相当に鈍いのね? これじゃ相手もだいぶ苦労しそうだわ……」――――そこまで言うと、アテナはブリュンヒルデの肩に手を置いて呟くのだった。「全く、あなたも苦労するわね?」


 肩に手を置かれたブリュンヒルデも何を言われたのか分からないって表情で、アテナを見るのであった。


 その二人の様子を暫く黙って見つめ、アテナは肩をすくませてそう呟くのであった。


「こりゃ、どっちもどっちという所なのね……」








 午後の授業も終わり、終了のホームルームの挨拶が済むと、蒼が立ち上がるのに併せて横でもう一つの影が動くのが見えた。


 ガシッ!


 その衝撃に自分の腕を見ると、何かがもう自分の掴んでいるのであった。


「…………」


 掴まれた方向を見ると芹那がもう、蒼の腕を掴んで怒った顔で睨みつけてるのであった。

 腕を掴むほどの事だろうかと、蒼も苦笑いを浮かべる始末。


「もう今日は部活行かないから、まっすぐ帰るぞ。もう用意は出来たか?」


 蒼もそんなに自分を掴んでまで真剣に家に帰ろうとしてる芹那に、少し引き気味に笑ってる。


「呪歌さんが一緒に帰れば、俺と帰る必要なんて無いんじゃ無いの?」


「何をたるんだ事を言ってるのだ、貴様は? 私が帰り道で倒れたら、誰が家まで連れて行くんだ。呪歌は隣の駅で降りてしまうのだよ」


 何か変な物でも食べたのか、口調が軍隊の上官のようになってきている。


「あー、もう倒れそうだ……」


 そう言うと、わざとらしく眩暈がしたような仕草で倒れるフリをする。


「おい……」


 蒼は仕方なくふらついた芹那を片手で支える。

 しかし、冗談でやってる割には、その支えた身体はまだ十分に熱つかった。


「…………」


 蒼がまだ具合の悪い芹那を見つめると、芹那は蒼の目を見つめ返して舌を出すのであった。


「演技じゃないって判ったなら、黙って私と帰る事ね」


「仕方ないな……」


 芹那の冗談混じりにするその態度に、言葉通り蒼は連れて帰る事を了承するのであった。


 嬉しそうに鞄を持つ芹那を見ていると、その横でアテナも荷物を持って蒼に明るく言うのであった。


「じゃ、そう言う事なら、早く鳳さんを『私達で』連れて帰りましょうか?」


「…………!」


 すると、芹那の言葉に横に立ったアテナを見た。

 見れば、アテナの腕が蒼の反対側の腕に回されてるのであった。


「はぁ。『私達』って、なんで私を送るのに蒼と一緒にアナタまで来るって言うの?」


 芹那は、アテナの暴挙にいっきに熱がぶり返してくるようだった。

 そう言うと、アテナが回した腕を掴んで無理に外させた。


「だって私も神憑君と同じ中囲町に住んでるのだから、一緒に帰るのが自然でしょ。それに人数は多い方が安心じゃ無くて? もしもの時は私が看護してあげますわよ。私、救命医療のエキスパートですから!」


「『救急医療』のエキスパートって……」


 確かに武神で戦場で死に掛けた戦士の気持ちを生き返らせて戦わせてる事については、『救命医療』と言われると近い物が感じたが、何か根本から違うような気がして蒼は思わず苦笑いをした。

 だが、そんなアテナの思わぬ乱入に、芹那は負けては居られない。


「いいえ、結構です。私は蒼が居れば大丈夫だから、アテナさんは一人で自由気ままにカフェでお茶して帰ってくれれば良いのよ。気持ちだけ受け取っとくから、有難う!」


 芹那は蒼を自分の方に引っ張って、無理やりアテナから引き離そうとする。


「いいえ、そんな遠慮には及びませんわ。神憑君の負担を考えると、私が一緒に行ってサポートするのがベストと考えます。さぁ、そうと成ればみんなで一緒に帰りましょう……」


 そう言うと、引き離された蒼をアテナも再び腕を掴んで、自分の方に引き寄せようとするのだった。

 まるで、ちょっとした人間綱引き状態である。


「何言ってるの。私は、蒼だけで十分だからそっちは自由に帰って良いって言ってるの!」


「何を言いますか、エキスパートの私が一緒に帰るって言ってるのだから、遠慮せずに一緒に帰りましょう。ね、神憑君?」


 二人は、何をそんなにムキになって蒼の腕を掴むのか、仕舞いにはそのまま教室のドアに向かって歩き出すのであった。


「ちょっ……。ちょっと待って! みんな、さようなら……」


 その二人の取り合いに腕を獲られながら、蒼は半ば強引に歩かされながら少し振り返りかえりの挨拶をする……。


 しかし、それを見たクラスの殆どの男子は蒼を見て、感情も無いような顔でそっと呟くのだった。


「神憑……。何を恥ずかしげも無く、お前はこの21世紀の現代で楽しそうにハーレムを体言してるんだ。昨日までかなり活けてなかったお前を、俺は心の中では友達だと思っていたんだぞぉ、もうお前にはもう失望したよ。さようなら、永遠に」――――


 蒼を見送る多くの男子の目には、きらりと光る冷たいものが頬を伝うのであった。


「ごきげんよう、皆さん。明日も、この教室で供に勉学に勤しみましょう!」


「みんな、また明日ね~……」


 二人は、そんな真っ白い灰になった男子の事など気にも留めずに、それぞれの言葉を上げながら、教室のドアを出て行くのであった。


 すると、ドアの処にはいつから居たのであろうか、芹那と一緒に帰るため部活を休んだ呪歌が入り口に現れたかと思うと、ドアを出た三人の後について何も言わずに学校を後にするのであった。


 後には、まだ廊下で言い合いをしている芹那とアテナの声を聞いてるクラスメートだけが、取り残されているのであった。


 その何とも騒がしい様子を見ていたブリュンヒルデが、姿を消したまま困り顔で後を追うのであった…………。

最後まで読んで頂けて有難う御座います。

次回はもう少し早く更新できるように頑張りたいと思います。

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