第21話 風邪引き者の観察者 4
「やはり、怒ってるのか……」
蒼は、その鬼の表情の芹那に手を振って苦笑いを浮かべる。
しかし、その頭から角の生え出している芹那を見てると、ふと隣で芹那に手を貸した“呪歌”と呼ばれた女生徒に視線が止まったのである。
その女生徒はほんの一瞬だが、アテナの子とを静かに見ていたのである。
蒼もその様子に思わず気になって見てしまった。
「どうしたの、呪歌? 先生の所まで一緒に行こうって……」
芹那に促されて呪歌と呼ばれた女生徒は、蒼に視線を移した。一秒だけ、蒼の瞳を何かを言いたそうな目で見ていた。
何だ……?
しかし、次の瞬間には不意に目を逸らして、一つだけ意味有りげに笑って芹那と歩き出すのであった。
「なんか、私の事見てたみたいですわね? 何か怖い目をしてたけど……」
ドアの影に見えなくなった女生徒を見送ると、アテナがボソリと蒼に言うのだった。
アテナの何を見てたんだろうか?
蒼は、何か嫌な感じがして、ブリュンヒルデの方を振り返ると、ブリュンヒルデも心配そうに木の上で蒼を見てるのであった。
すると、芹那の姿が見えなくなると、先ほどドアの所でいきなり立っていた女生徒の姿に、悲鳴に近い声を上げてしまった男子が小さな声で話し始めた。
「しっかし、あの囁木って本当に“怖い”よな。いきなり音も無くドアの向こうに立ってたと思ったら、ドアが開いても表情一つ変えずに話し始めるんだもんな~。実際、あんなで無かったら、結構綺麗な顔なのに勿体無いよな?」
近くの男子に同意を求めるように、言い出した。
「シッ! あんまりそんな事言うと、例の『呪い』で酷い目に合うぞ。お・ま・え・も!」
「やめろよ。そんなの嘘に決まってるだろ、今どき……」
しかし、同意を求めた相手に逆に脅かされて、男子も少し怖がりながら友達の腕を逆十時腕拉ぎ始めた。
囁木 呪歌、それが芹那に“呪歌”と呼ばれていた彼女のフルネームだった。
学校内で彼女の名前を知らない物は居ないくらい彼女は、有名人であった。それは、その誰とも話さないという普通に暗い性格に、一種異様とも言える程の雰囲気と、人前では絶対に笑わないその人間性にあるところが大きかった。笑わないだけなら良いのだが、時折、何かを言ってるような気が皆にはしているらしかったのだ。
蒼たちのクラスとは違うので、誰かの話を聞く程度にしか知らなかったが、皆からは“魔女”ではないかとの噂まで出ているらしかったのだ。
「魔女って……」
蒼も口に出して言って見た。
まさか、本当に信じてる人間が居るわけは無いのだが、それを噂される人間というのが、また問題だなと持っていた。
芹那の親友で、一緒のバスケ部に所属していて、その人間性もある程度そこでは評価されているらしいが、『少し明るい魔女』ってことになってるらしい。
すると、男子二人が話してる呪歌の噂話に、反応した人間が現れた。
「そうなのよね。私のクラスの子が彼女の事を何か悪く言ってたら、突然気分が悪くなってそのまま入院したらしいのよ。ちょっと、信じられる?」
すると、その男たちの話してる机に座ってた女子までが、彼女の噂話に加わってきた。
「おい、なんでお前までそんな事言うんだよ、脅かすなよ。そんな事有る筈ないだろ! 嘘に決まってるだろ、馬鹿なんじゃないの!?」
男はそんな話まで言われてすっかりムキになり、加わった女子に向かって入院の話も否定し始めた時だった。
「あら、あながち嘘とは限らないわ」
また新たに加わった女子がそう発言すると、いい加減にしろと言わんばかりに男は見ると、その女子の顔を見て悲鳴を上げるのだった。
そこに、今、噂されている“囁木 呪歌”本人が、しゃがんで噂話の輪の中に入ってるのであった。
「あ……。もうダメでしょうか、俺?」
一斉にその輪の中に居た全員が叫び声を上げていた。
「あ~、はいはい。もう行きましょうね~……」
すると、芹那がそこでご飯を待ってるような姿勢の呪歌の首根っこを掴むと、そそくさと廊下の方向につまみ出して行くのであった。
「あんたね~。そう言うたちの悪い悪戯するから、酷い噂されるんだよ判ってんの? ……」
その場にいた全員が石化してる教室を後にしながら、呪歌に説教してる芹那のガラガラ声がいつまでも廊下に聞こえているのであった……。
どうも、最後まで読んで頂いて有難う御座います。
さぁ、私の出したかった人、呪歌さんやっと出すことが出来ました。
どうしても、考えてどうしても出せなかった所がある為、今後のお話でどんどんその彼女の素敵な性格を出して行きたいので、宜しくお願い致します。




