第20話 風邪引き者の観察者 3
今回、出したかったあの人が少し出ます。
2時限目の授業も無事終わり、蒼は少し安堵していた。
結局、再び教科書の無いアテナに蒼が見せていても、芹那は今度は怒らないで居てくれたからである。
だが、その間も蒼が芹那の様子を振り返ると、顎を机に乗せて目だけ怒ってる芹那がこちらを見てるのであった。
それに気付いたアテナも必要以上には喋りかけないようにしてくれた為、何事も起こらないで居てくれたのが唯一の救いだった。
しかし、終業のベルが鳴ると、机にぐったりとしていた芹那が立ち上がるのが判った。
「よっしゃ、先生の所へ行って来るかな」
芹那は、机に手をかけて立ち上がった。
まだ熱でだるいのか、立ち上がったあと足取りがふらついている。
アテナも頭を叩かれて怒っては居るのだが、実際芹那の危なげな様子にアテナも心配そうに見つめる。
しかし、そんな状態でも行かないと行けない用事なのか、芹那は近くの机に手をかけながら教壇の方向へ進んで行くのであった。
「大丈夫かぁ? なんなら付いていこうか先生の所へ」
朝から何かと怒らせている手前、蒼は芹那に優しい声を掛けてみた。それにそんな状態の芹那を一人で行かせるのは、本当の所蒼も心配したのだから。
「……」
すると、歩いていた芹那の動きが止まった。
振り返ると明らかにまだ怒ってる風であったが、それでも芹那は蒼の言葉を嬉しく思ったのか、その言葉に手を上げて答えた。
「いや、大丈夫。一緒に行くのはもう呼んでるから……。そろそろ来るかな?」
芹那が意味深な言葉を言って、廊下に目を向ける。
その様子に、蒼とアテナが廊下の方へ目を向けた時だった。
「キャッ!」
突然、廊下の方で短い女生徒の叫び声が聞こえてきた。
「あ、着たみたい」
芹那は蒼の顔を見ながら、ホラねと言わんばかりの表情で皮肉めいた笑顔を作るのであった。
芹那はそう言うと、また重い身体を引きずって教室のドアに近寄るのであった。
芹那が教壇近くのドアを開けると、いきなりそこに黒い髪の女生徒がドアすれすれの位置に立っていて、顔色一つ変えないでに真正面だけを見つめてるのであった。
「うわぁっお!」
思わず近くでじゃれ合っていた男子生徒が驚いて飛びのいた。
「よっ!」
「……」
芹那の力なさそうに上げた手に呼応するように、ドアの向こう側の落ち着いて視線の変わらない女生徒が手を上げる。
「元気無さそうね。いつもの10分の1くらいの生命エネルギーしか感じないわ」
「そんな物いつも感じてたなんて、知らなかったよ。今度、いつもの数値教えといてね」
目の前の真顔の女生徒が芹那に向かって変な冗談を言って静かに笑う。
すると、それを受けて芹那も笑いながら、廊下に出ようと教室のドアから手を放すのであった。
「そう言う事だから、ちょっと呪歌と顧問の所に行って来るわ・・・」
しかし、手を放して歩き出そうとした芹那が、ふと思い出して蒼を振り返って言ったのだ。
「やっぱり部活出れないから、帰りは一緒に帰れよ。隣なんだから!」
わざわざ振り返って言った芹那の顔が、正に鬼の形相を浮かべてるのだった。
 




