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第18話 風邪引き者の観察者 1

 朝から賑やかな登校だった。


 昨日の夕方からずっと東京湾に現れたレヴィアタンを止める為に一日頑張ったのが、まるで嘘のようだった。

 あれほど、聞かなかったレヴィアタンを説得して、なんとか、東京が海に沈むのを防いだが、それを出来なかったらいったいどうなっていた事か想像も付かなかった。

 だが、それを事実止めて、そして朝を迎えたのだ。

 そうしたら、もっと驚くことに蒼やブリュンヒルデやアテナを頼って蒼の街に住もうと言って朝姿を現してしてくれたのだ、それもとっても可愛い女の子の姿で。

 まるで、その姿は子供の様でもあったが、実年齢は言葉で言えるような物でない様だから、そこは何とかなると蒼も思っていた。


「私は、皆さんに沢山ご飯を食べて貰って満足してもらうのが夢なので、リストランテ(レストラン)をしたいと思いまして……」


 そ、はにかんで言われたのだった。

 それを思い出すと、蒼もにやけてしまうが、それ程嬉しかったし、可愛かったのである。


 そして、もう一人、何故か顔なじみの人(?)も、こちらで監視する事になったみたいだし。

 ガブリエルと言う大天使らしかったが、蒼にはどちらでも良かったのだ。

 ま、少しキツイ天使ひとだとは思うが、考えれば地上の一大事に勝手に地上の危機を救いに向かって着てくれた大天使さまなのであった。きっと、本当は凄く良い天使ひとなのかも知れないと思った。

 しかし、自分の事も神様が監視しろと言っていたのが、少し気にはなっていたが……。

 ま、考えてもそれは仕方ないと、蒼も諦める事にしたのだった。

 それよりも、今はレヴィアタンが生きる事を楽しみたいと思ってくれた事が何より嬉しかったのだ。

 そう思ってくれた事に、どこか自分も誇らしげに思えていたのだった。


 そんな、蒼の姿を見て、ブリュンヒルデもなんだか嬉しくなっていた。


「なんだか、嬉しそうですね、蒼さま?」


「うん、そう見える?」


 蒼は嬉しそうにブリュンヒルデの方向を向いて、返事した。


「ま、今日はその気持ち悪い笑顔で一日居ることでしょうね!」


 すると、その傍を歩いて一緒に登校しているアテナも、蒼の嬉しそうな表情を揶揄するのであった。

 それを言われて少しズッコケた蒼だったが、その顔はあまり気にしていないようだった。


「あれ……、相変わらず厳しいなアテナさんは。……イヒヒ」


 しかし、その言葉とは裏腹に、なんだかアテナもレヴィアタンにあった朝から機嫌が最高に良かったのだ。

 そう言いながら頭を掻いている蒼に、アテナはひとしきり見てそう言うのだった。


「でも仕方ないわ。あの娘を救ったのはあなたですもの。今日一日は我慢してあげるから……」


 満更でもない言い方で、アテナは優しげな顔で蒼を見つめるのであった。


「そして、あの娘だけじゃなく、どれだけの人間を救ったのか……もね」―――― 聞こえるか聞こえないかのような声で、アテナはそう付け加えるのだった。


 そのアテナの言葉を聞いてブリュンヒルデは蒼に耳打ちした。


「きっと、いつかレヴィアタンさんが、楽しかったと蒼さまに感謝してくれますよ。昨日の事と。そして、これからの日々も……」


 ブリュンヒルデが嬉しそうな声で言ってくれた。

 それだけで。そう嬉しそうなブリュンヒルデの顔の彼女の言葉だけで、蒼は昨日やれた事に満足できた。

 それが、また、蒼には最高に嬉しかったのだ。


 しかし……。


「あ、だけど、昨日もレヴィアタンちゃんに会った辺りから、蒼『さま』になってたから、忘れないでね?ブリュンヒルデ?」


 それを聞くと、ブリュンヒルデがあっとした表情をした。

 そして、済まなさそうにブリュンヒルデはしょんぼりすると、そう言うのであった。


「澄みませんでした、蒼『さん』……」


 二人のやり取りを横で聞いていたアテナは、なんだかそのイチャイチャぶりに、少し腹が立つような気がした……。








 学校に着いて、教室に入る時もアテナと蒼は一緒であった。


「おはよ~」


 皆が、一斉に蒼やアテナに声をかける。


「あれ、そう言えば、みんなからこんなに朝の挨拶貰ってたっけ?」


 蒼は、何気に皆が掛けてくれた言葉に条件反射のように返していたが、今までは朝の挨拶など無いも等しかったのである。


「おはよー、ガウガウ君……。なんか、君への挨拶も多い気がするのが気になったが……」


 すると、昨日まで毎朝蒼に声をかけていた人物、赦亜しゃあだけが蒼の元へ近づいて来て、嫌味を言い始めるのだった。


「ま、多かったのは一緒に登校して来た隣の外人さんの効果だから、気にしないようにしてくれ給えよ。うん、判ったかな?」


 朝から二枚目の顔でそう言われるのも幾分嫌なものだが、その言葉に周りの女子が集まってきて「そうだ、そうだ」と言わんばかりの顔でアテナを取り囲んだので、蒼もいつものように小さな声で答えるのであった。


「そう・・・みたいだね」


 窓の外で、姿を見えなくして聞いていたブリュンヒルデは、それを聞いてまた少し仕方ないと笑うのだった。


 教室に入ると、途端にアテナの周りには男子も女子も集まりだし、すぐに賑やかな話をして笑い声が聞こえて来るのであった。

 そんなアテナを蒼は何気に見ていた。


 アテナの周りに人がこんなにも集まるのは、アテナがこの学校に編入する為に使った魔法か何かの術のせいかも知れなかったが、アテナの元々の明るい性格の成せる技なのかも知れないと、蒼はなんとなく思っていた。

 どこか彼女には、人を惹きつける魅力みたいな物が元々有ったのだろうな……

 蒼は、昨日までの彼女の唐突だが一生懸命に進む姿に、そんな事を思うようになっていたのだった。

 すると、ぼんやりとアテナの顔を眺めてそんな風に考えていた蒼を赦亜は見逃さなかった。


「会っていきなり恋をするなと言う方が無理なのだろうが……?。しかし、君には高嶺の花なので以後、視線の管理に気をつけるようにしないと、親衛隊に掴まるから気をつけたほうが良いぞ」


 その言葉をいきなり言われ蒼はガクッと顎に乗せた顔を落としてしまった。


「あのな……」


 すると、その言葉を聞いた数名の女子が蒼を睨みつける。


「親衛隊って……」


 見れば、腕にアテナのギリシャブロンズ像のマークを模した黄色い腕章の女子が蒼に殴るような威嚇の仕草をして見せるのであった。

 いつの間に……。

 一日しか経ってないのにどういう経緯でその組織がもう発足してるのか知りたかったが、蒼は敢えてそれに触れるのが怖くて、頭を下げてそそくさと荷物を整理するのであった。


「『あのな……』じゃ、無いだろっ?。そこは、頬を抑えて『父さんにもぶたれた事無いのにっ!』……だろ、やっぱり!」―――― そう言うと、赦亜が蒼の肩にポンッと手のを乗せるのであった。


「何でそこでアムロやらなきゃ行かんのだ、いつもっ?!」


 蒼は横で大真面目な顔で振ってくる赦亜に、いつものように突っ込むのだった。


「…………」


 そんなやり取りをしている赦亜と蒼の様子を、アテナは女子の話を聞くふりをしながら黙って見ているのであった……。




「ああ、そう言えばさぁ~赦亜、昨日、商店街でアイアン男さんにまたイベントのスペシャルゲストに呼んでくれって言われて来たよ。どうも相当、お店の評判も上げたらしくって……」


 蒼がそんな話を赦亜に話している時、また朝のホームルームにあの京都の斑鳩町に住んで居たからと言う理由で、歴史教科の担当になっている聖徳太志しょうとくふとし先生が

 入ってきたのであった。


 すると、その担任である聖徳が入ってくるなり、また昨日に引き続きどよめきが起こった。


 見れば、足の長い黒服の女性が後ろから入ってきたのである。


 女性は世界でもカトリック教会の修道女の格好をしていて、ベールの中に髪をしまっていた。

 静かに頭を下げて入ってくると、胸の前に手を組んで、目を閉じたまま静かに入り口の横に立つのであった。


 蒼もその様子を見たが、初めて見る修道女と呼ばれる女性は、静かな感じの人であった。


「え?何、また何か挨拶が有るの?」


「何か、いつもの教会の人と違うんじゃない?」


「しかし、なんかすっごい美人なんで無い?」


「なんか、外人の人って感じしない?」


「どうも、最近アテナさんの影響で、外人の人がここに来る確立増えてるのと違う?」


「どうでも良いけど、法隆寺のある斑鳩宮の斑鳩って、鳥の斑鳩から来てるって聖徳先生知らないのと違う?」



 皆が、また一斉に話し始めてクラスが一瞬で喧騒のるつぼに飲み込まれそうになった。

 だが、それでは収集が付かないので、すかさず聖徳先生の一括が飛び交うのであった。


「ええ~、何度も言うようだが、皆が一斉に話すことを実行しても、私は聖徳と名の付く一介の教師でしかないので一切聞き取ることが出来ません!。中でも、どうも前回に引き続き先生の出身である法隆寺の斑鳩町の名が、本当の字は『鵤』と言う鳥の名に由来するもので、中国に出向いていた当時の遣隋使の故郷を思う気持ちでその土地に住んでいた『斑鳩』と言う鳥の名にちなんだ文字を持ち帰ってしまって現在は当てて居るという事は知らないので、我が校は今日より二学期制から3学期制に戻して中間試験をいきなり始めますので、そのつもりでっ!!。それでは、いつも来て下さっていたフランシスコ……ザビエル神父からの交代で、今週から不定期で皆様の懺悔を聞く懺悔室の担当をして下さる修道女の方が着てくださって印すので一言宜しくお願いします。カマン、シスターッ!。どうぞっ!!」


 いったい何を聞こえたから、学校の制度まで変えるように宣言してテストをするのか判らない聖徳先生の滅茶苦茶な紹介に促された修道女の人が、挨拶をするのだった。

 一度、皆の方へ頭を下げて胸の前で手で従事を切ると、閉じていた目を開いて、青い空のように澄んだ瞳をいっぱいに広げて皆に向かって言うのであった。


「ええ~、ただ今、紹介に預かりました、皆様の懺悔室の担当になりましたガブリエルです。私は静かな救いの手を差し伸べるよりガンガン行くタイプなので、皆様もガンガン懺悔してくれるようお願い致します、ね」


 そう言うと、また、手を前に組んである一方の方向を見るのだった。


 その声を聞いた途端、蒼とアテナが入り口のドアの横で立った修道女の顔に釘付けになった。

 そして、それは教室の窓の外に居るブリュンヒルデも同じであった。

 何故か、そこに良く知っている今朝も見た人が、こちらを見て嬉しそうに蒼たちの視線を受けて、ニンマリ笑っているのであった。

 それは、昨日、東京湾で神の命令を守るべく食事になろうとしたレヴィアタンを一緒に命をかけて戦っていた、あのガブリエルであったのだ。


 髪の毛を頭のウィンブルと呼ばれるフードで覆っている為、感じが変わり始めは判らなかったが、一言喋り大きな瞳をこちらに見せたその顔は、紛れも無く今朝も会ってきたガブリエルその人なのである。

 ガブリエルはそこまで言うと、やっと自分の事を分かったような蒼に一つウィンクしてまた、慎ましやかにゆっくりと頭を下げるのであった。


「なんでワザワザここまで来ないと行けないんだ……。誰かみたいに……?」

 

 蒼のため息交じりの苦笑いに、ガブリエルは顔を下にして笑っていた。

 笑っていないのは、その横で聞いていたアテナである。


「え~、ザビエル神父も交代で来られるという事なので、ガブリエルさんが物凄いお色気で懺悔室をいっぱいにしそうだから、ガブリエルさんの日だけ殺到しないようにお願いして今日の朝のホームルームを終わりにしたいと思います。日直、号令を……」


 聖徳先生のセクハラ紛いの閉めのスピーチを聞いて、顔を上げたガブリエルが蒼とアテナと、ついでに窓の外のブリュンヒルデを見てもう一度笑顔を見せる。

 蒼は、その笑顔を見てさらに頭が痛くなって、頭を抱えそうになったその時であった。




 ガタンッ!




 入り口のドアに手をかけて教室に入ってこようとする人間が居た。


 皆が、そこに目をやると聖徳先生がまたその生徒の顔を見て声を上げる。


「おお……、幾ら風邪で病院行ってから来るって、2時限目の連絡だったがもう良いのか?」


 聖徳の言葉に蒼も皆も一斉にその人間の顔を見た。


 その瞬間、蒼は自分の横の席が空いていて、アテナが来る日の前まで座っていた人間が誰だったのかを思い出した。


 そこに、マフラーで首をぐるぐる巻きにして、マスク越しにゲホゲホと咳をしている、女生徒を見つけるのであった。


「よっ、……久しぶりだ。寂しかったか? 蒼!」


 そこに、具合の悪そうな幼馴染、おおとり 芹那せりなが立って手を上げてるのだった。

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