第17話 ありがとうの伝言(ことば) 3
「天使……様?」
蒼がその姿を見上げ、思わず口にしていた。
「大天使だ。大天使ガブリエル、神の御使い、七大天使の中でも相当に上の天使ね」
少し、気に食わないと言った風な感じで、横から小声でアテナが蒼に耳打ちする。
七大天使とは天使の中でも最も神に近しい重要な存在の大天使であった。その中でも、大天使のミカエルとガブリエルとラファエルとは最重要天使と言っても過言でなかった。
「七大天使……ガブリエル?」
蒼はその名を呼んで、今自分を見下ろして降りてくる天使を下から仰ぎ見ていた。
金髪の髪に、神の調べを纏わり付かせた白い衣の天使が、優しく蒼を見て居る。
口元に浮かべた、たおやかな笑顔は何にも増して美しい。
しかし、その笑顔を見ている自分の横のブリュンヒルデをそっと見ると、ブリュンヒルデの方が蒼には何倍も優しげで、美しいと思えるのであった。
優しいと言うのか、暖かいと言うのか……。
「私は、そんなに冷たく見えますか?」
蒼の目に前に降り立ったガブリエルが、急に蒼に話しかけてきた。
心の中で思っていた事を、ガブリエルが指摘して。
「あ、いや、そ、そんな事無いです……あははは」
嫌なことを言う大天使だなぁ……。蒼は大天使を前に冷や汗を掻いてしまった。
しかし、そんな事言ってる場合で無いので、蒼は直ぐさまガブリエルに思ってることを聞いてみた。
「食料って何のことですか? 神の下した命令って……」
蒼は、再び自分達に背を向けて進みだそうとするレヴィアタンを指差して、ガブリエルに聞いてみた。
ガブリエルは蒼をじっと見つめた。
蒼がその事を気にする真意を確かめるように暫く見つめ、やがて誰にとも無く呟き始めた。
「彼女は……レヴィアタンは、神がこの世界を創造した五日目に創り出した生き物で、人間にも決して捕らえる事も傷つける事も出来ない、言わばこの世の最強の生き物なのです。そして彼女は、先ほども言ったように神によって、その世界の終末に生き残った人間の食料として存在してるのです。その為に、ここへ来たと言っていましたが……」
「世界の終末の人間の食料……?」蒼はガブリエルを見て詰め寄った。「そんな運命を背負って生まれてきたんですか。レヴィアタンは?」
「そうだ。どうしてかは私にも判らないが……」
ガブリエルは、レヴィアタンを見た。
それを見ると、蒼は急いで橋の袂に駆け寄って、レヴィアタンに叫んでいた。
「何かの間違いです、レヴィアタンさん、世界の終末なんてまだ来てないんですよっ。だから、地上に行かなくても良いんです。止まって下さいっ!」
ザザッ…………!
すると、その声が聞こえたのか、レヴィアタンが進むのを止めた。
すでに、東京湾内は嵐になろうとしていた。
風力は既に最大速度100mで台風のそれをはるかに上回っていて、雨の上に竜巻も幾つも発生させてるような状況になっていた。
それでも、レヴィアタンは蒼の声を聞き届け、そこに留まったのである。
レヴィアタンは、ゆっくりと蒼たちを振り返った。
「嘘です。つい先日、私はこの世界が終わるとこの耳で聞きました。その為、急いでここまで来たのです。私の使命を果たす為に!」
「つい先日……?」
蒼は何かを思い当たって、フェンリルを振り返った。それと同時にアテナとブリュンヒルデもフェンリルを見る。
「う~ん、何の事だかちぃ~っとも判らないな~、私……」―――― フェンリルがその視線を受けて、口笛を吹いて誤魔化している。
「『私が悪う御座いました』と、お前が今すぐ謝って来いっ!」
アテナがフェンリルの頭を剣でペシペシ叩いている。
しかし、蒼はそんなフェンリルを見て、レヴィアタンに話を戻した。
「それは間違いだったんです。だから、どうかここで止まって引き返してくれないですか? 神様も、間違いであなたに死なれたら困るだろうからっ!」
「間違い……?」
「そうです。間違いです。だから、僕を信じてください! ここで止まってくれないと、陸地では多くの人が流されて、それこそ大災害になってしまいます」
「…………」
レヴィアタンは、蒼をじっと見つめて黙っていた。
「人間のお前の話をどうして信じろと言う? しかし、お前がどうして私の話を理解できるのかも、信じ難いがな……」
レヴィアタンの話を聞いて、蒼もガックリと肩を落とした。
「僕の話を信じられなければ、この大天使のガブリエルさんだって居ます! この人の話だったら、信じられますか? ま、神様の命令で食料になるなんて、僕だって信じられないんですけどね……」
蒼は雨の中でガブリエルの方を手で示した。
レヴィアタンはその方向を見て、ガブリエルの名を呼んだ。
「大天使ガブリエル……?」
「いかにも、私が神の意思を伝える伝令者ガブリエルだ。神の意思を伝えにやって来た。今は、終末のその時でない為、元の海に戻るが良い」
レヴィアタンはガブリエルの言葉をただ黙って聞いていた。
しかし、動こうとはしなかった。
「どうしたのだ、そなたは神の意思でこの世に生まれ、そして終末の時に食料としてその最後を向かえるのだ。今、ここで陸上に上がる事は神は望んでいない!」
しかし、やはり動こうとしないばかりか、その言葉を聞いてさらに陸地の方向へ向き直ろうとするのであった。
「神の命令を聞いても、神でない”天使”という伝令者の命令に従う道理が私には無い。私を従わせたかったら、神が直接来れば良いのだ。伝令などせずに……」
それを聞いて、ガブリエルは黙ってその様子を見ていた。
レヴィアタンは、大天使の命令をまるで聞く気が無いみたいな言い方をした。今も、再び港に向かって進もうとしている。
しかし、それでは困る蒼がガブリエルの前に立って、顔を覗き込んだ。
「どうしたんです、なんでレヴィアタンはあなたの命令を聞かないのです。神の命令なのでしょう?」
すると、ガブリエルは蒼の後ろで移動するレヴィアタンを見ながら呟いた。
「最初から判っていた事なのだ。レヴィアタンは私達と同じ神に創造された生き物なのだ。言わばレヴィアタンからすれば私は自分と同じレベルの存在。私がいかな神の使いでも、言葉を信じるとは思えなかった……」
ガブリエルは思いつめたような顔でレヴィアタンの姿を追っていた。
その表情は、悲しいような、苦しいような表情にも蒼には見えていた。
「それでは、レヴィアタンにはどうやって止まれと言うのですか。間違いでこのまま陸地に上がれと……?」
すると、ガブリエルは有る思いを胸に、はっきりとした言葉で蒼に向き直るのであった。
「その時は、彼女を力ずくでも元の海に送り返す。それが出来なければ、その時こそ、お前らの世界は終末を迎えるだろう……」
ガブリエルは蒼の目の前から飛び立った。
「そんな、ガブリエルさんでも勝てるのですかーっ!?」
飛び立つガブリエルに蒼は叫んでいた。
飛び立ったガブリエルが、物凄い速さでレヴィアタンの真後ろから襲い掛かる。
しかし、レヴィアタンはその攻撃を見もせずに、翼で回転してガブリエルの身体を吹き飛ばした。
一瞬の間をおいて、弾き飛ばされたガブリエルが蒼たちの橋の上に叩き付けられて、建物に激突した。激突した壁が吹き飛んで、反対側の壁を貫通して、そこでガブリエルがやっと止まった。
「…………」
蒼たちが走り寄るとガブリエルが苦しそうに顔を上げた。
「無茶な事を簡単に言うな。相手はこの世で最強の生き物なのだ。私が死ぬか、彼女が死ぬか……そのどちらでも、きっと神が再生してくれるだろう」
「再生……?」
ガブリエルは、少し笑って頷いた。
その表情に、蒼は何かを感じ取った。
「神の意思で来たんじゃなかったんですか。……さっきから、おかしいと思ってたけど?」
「神の意思で来たのなら、きっとレヴィアタンは二つ返事で帰って居ただろうよ!」―――― ガブリエルはボロボロの姿で、笑って付け加えた。「私の言葉なんかじゃ、やはり重みが違いすぎるみたいだなっ!」
ガブリエルは、再びその羽で地上より飛翔した。
「神はいつだって気まぐれだ! 神が命令するまで待っていたら、この世界が幾つあっても足りはしないさーーー!」
ガブリエルは再び全速力でレヴィアタンに突っ込んでいった。
オオオォォォーーーーッ!
しかし、今度は目から放たれた光線を一瞬にして避けて、海面スレスレにレヴィアタンの後ろから頭上へ回り込むと、そのままの勢いでレヴィアタンを海面へ殴り飛ばすのであった。
ザバァーーーーッ!
ガブリエルが蒼に向けてグッと親指を立てて嬉しそうに笑った。
蒼たちも何がなんだか判らないが、ガブリエルが必死にレヴィアタンを止めてるのは判っていた。
だから、そのガブリエルの仕草が妙に嬉しかった。
「あ……!」
だが、蒼の目の前で海面に叩き付けられたレヴィアタンの尻尾が、海中に沈みながらガブリエルの身体を殴打したのだ。
突然の衝撃にガブリエルは成すすべも無く、再び蒼たちの傍の橋を貫通して、海の上を小石のように転がって跳ねていった。
「ガブリエルさん!」
蒼たちは、橋の袂へ走って、反対側へ飛んで行ったガブリエルの姿を探した。
「なんでこんな……。なんでこんな間違いで、自分の命を懸けて戦ってるんだ……?」
蒼は、沈んだガブリエルの姿を探しながら、胸を突き上げてくる悲しみを言葉にしていた。
神が下した命令を信じて自分の命を捧げようとするレヴィアタンも悲しければ、その命令が間違ってると神が言わないが為に、命を懸けて止めに来た大天使も悲しかった。
何故そうまでして、神は理不尽な事をするのか蒼はどうしても許せなかった。
どうしたら、どうしたら、その理不尽な神の所業を止められるのか、蒼は必死に考えた……。
すると、壊れた橋の欄干に掴まって、ガブリエルが蒼たちの前にずぶ濡れになって這い上がってくるのが見えた。
「ガブリエルさん。どうして……?」
見れば、その反対側にはレヴィアタンの姿も海中より浮き上がって来るのであった。
ガブリエルはその蒼の後ろに浮かび上がってきた海竜の姿を両目に捕らえ、精一杯の声で負け惜しみを言うのだった。
「それは、お前さんと同じだよ、人間の英雄!」
その言葉を聞いた瞬間、蒼は全てを理解した。
「こんな事があっても何も出来ない。自分の無力さを思い知らされる事ばかりさ。私は、この世界を長く見すぎたのかも知れない。気付いたら、ここへ向かっていたんだ。あんたも同じだろ。自分で何が出来るかなんて考えたりしなかったろ?。でも、見過ごす事なんか出来なかったんだ、自分の力なんて関係なく。それを私も見ていたんだ。そうしたら、人間のあんたより長くこの世界を知ってる私が何もしないで良いなんて出来るかい? 私にも大天使のプライドってもんが有るんだよ!」
弱々しく笑うガブリエルの顔を、蒼は涙でまともに見れなかった。ブリュンヒルデやアテナたちもその言葉を聞いて、黙って涙していた。
蒼がここへ着た理由と同じだと、今、目の前に居る大天使は言った。
この世界を救いたいと、恐らくこの大天使も思ってくれてると、蒼は確信してレヴィアタンを振り返った。
「どけ。お前達ではあの神獣の攻撃は避けられない……」
しかし、蒼の身体を掴みその身体をどけようとしたガブリエルの下へ、レヴィアタンの眼光から凄まじい勢いで光線が発射するのであった。
「神でないお前の考えなど、私には関係ないのだーーー!」
ガーーーーッ!
しかし、その光線が走った瞬間、目をつむったガブリエルが、衝撃を感じただけで、自分の身体が吹き飛びもしないで居る事に、不思議に思って目を開いた。
目を開いてガブリエルは自分の目を疑った。
そこには自分を庇って立っている蒼と、その前で楯を構えた二人の女神が見えるのであった。
「スヴェルとアテナさんのアイギスなら、あの光線程度、敵では有りません!」
さっとガブリエルを振り返り、ブリュンヒルデが笑ってガブリエルにウィンクをする。
「あいつの攻撃パターンさえ判れば、ざっとこんなもんなのよ。……そのぉ、さっきは油断しただけね!」
さっきレヴィアタンに思い切りやられたアテナも、精一杯の強がりを言ってみた。
「お前達……」
その姿を見て、ガブリエルは失いかけていた力を取り戻したようで、明るい笑顔を見せた。
そして、今度はフェンリルがヴァナルガンドの力で吸い上げた水を、一気にレヴィアタンの後ろに回って放出するのであった――――。
「何も私の杖が吸い込むだけだと思ってもらっちゃ、困るんだよーーーーっ!」
フェンリルは構えたヴァナルガンドの口から、巨大な渦を出してレヴィアタンを吹き飛ばした。
「フェンリル!」
蒼が思わずその名を叫ぶと、フェンリルはレヴィアタンを橋にぶち当てながら、不適な笑みを浮かべて蒼たちを見るのである。
見事な攻撃で、その橋に横になった竜巻状の放水でレヴィアタンは身動き取れずにもがいている。
だが、それを見て、蒼はフェンリルに向かって叫んでいた。
「辞めてくれ……。辞めてやってくれ、彼女は何も悪くないんだから。フェンリル、お願いだから!」
「?」―――― フェンリルが、蒼の言葉にあっけに取られたような顔を一瞬した。
しかし、フェンリルが放水を止めるのと同じくして、その攻撃に耐えられずに橋がレヴィアタンごと倒壊して海に崩れ去るのだった。
「彼女は、何も悪くないんだよ……。悪いのは、神の命令だけなんだ」
崩れ去った橋から、宙に一度飛び立って非難した蒼たちが、再び残った橋の上に降りて来た。
蒼は、橋の上で海中に落ちて上がってこないレヴィアタンを思い、何度も頭の中でこの事実を考えていた。
「≪なんで、神の命令が悪いのだ……?≫」
海中から、レヴィアタンの言葉が蒼の頭に聞こえてきた。
それは、決してフェンリルの攻撃で動けない程のダメージが有ったから、上がって来ないのでは無い事を意味していた。
あの程度で、レヴィアタンを斃せるとは、当のフェンリルでも思って居なかったのだ。
ただ、あの時止めた蒼の言った言葉が、フェンリルやレヴィアタンにも引っかかって居る事を、皆も気付いているのであった。
だから、その言葉が聞こえてきた時も、もうガブリエルでさえ、戦う事はないと予感がしていたのだ。
それに、もうガブリエルにももう一戦交える力は残っていたかどうか……。
その言葉を聞いて、蒼は橋の上から海へ向かって答えていた。
「食料になる命令なんて、しないでくれれば良かったから……」
蒼は、悲しそうに海の中に居るレヴィアタンの事を思って呟いていた。
「何故だ? それは私を創る理由であったのだろうから、それは避けられない運命なのだ」
レヴィアタンは、地上で橋の上から自分に語りかける蒼を不思議に思って、さらに言葉を続けた。
「しかし、何故それを人間のお前が言う。そんな事、お前には関係ないだろ? 人間のお前が悲しむ事なんか何も無いのだから……」
そう言うと、レヴィアタンは静かに蒼の言葉を待っていた。
荒くれだって居た気持ちも、その時には少しづつ蒼のおかげで静まってきているようであった。
「いや、そんな事無い! そんな運命なんて悲しすぎるから」―――― 蒼は、そのレヴィアタンの気持ちを思うと、どんなに苦しかったろうとレヴィアタンの生きて来た時間を思って泣いていた。
「でも、許されるなら……」
蒼は静かにレヴィアタンの心に届くように海に向かって呟くのだった――――
「許されるなら、その日が来るまで、僕たちの傍で楽しく一緒に笑って暮らせれば良いって思ったんだよ!」
「…………」
その言葉に、もう海の中から返事は無かった。
ブリュンヒルデが、ゆっくりと近づいてきて、蒼の身体を強く抱きしめて、そして大声で泣きだした。
アテナも、あの大天使でさえも、涙をこらえる事が出来ずに、肩を揺らして泣いていた。
フェンリルだけが、一人皆に背を向けて、空を見上げて誤魔化していた。
ひとしきり泣いた頃、蒼の傍に近づいてきたガブリエルが、そっと蒼に言ってきた。
「今、遠くに行ってしまったレヴィアタンから、伝言があったよ。君に……」
蒼ははっと顔を上げて、ガブリエルの答えを待った。
「君に……。君に『ありがとう』と、伝えてくれと言ってたよ。『生まれて初めての言葉だった』って」
その言葉を蒼や皆は、最後までまともに聞く事は出来なかった。
空は、今までの嵐が嘘のように晴れてき始めていた。
そして、ガブリエルと蒼たちの心も、それに負けないくらいに晴れ渡って居るのであった――――。
翌日、新聞や朝のニュースは、昨日の東京湾の海と異常気象の怪現象をこぞって報道していた。
ニュースによると、突然の大量の渦潮も、台風を超える竜巻や嵐の発生も、まったく見当もつかないと報道するばかりで、その原因が何かなど、理由は不可思議なものばかり挙げて、一行に埒の明かない分析をするのが、妙におかしかった。
それに、いくら分析しても、蒼やブリュンヒルデの知っている本当の理由にはたどり着かないのだと、思っては笑って居るのであった。
「考えても……、いくら考えても、あのレヴィアタンの悲しみは一緒に救えないのだから……」
蒼は、そう思いながら、駅へ向かう道をブリュンヒルデと歩いて居た。すると……。
「ありがとう……」――――どこからともなく、聞きなれた声が耳に飛び込んで来たような気がした。
「え?」
そうは、立ち止まって辺りを見回した。
その、聞き覚えのある声は、海の中から聞いた、あの声であった。
「!」
蒼は、急いで商店街の中をぐるりと見る。
十字路の路地の中で、沢山の人が行きかうが、朝からスーパーのチラシを配る人や、新規オープンの店の宣伝がうるさくて、何処からその声が聞こえて来たの皆目見当が付かないのだった。
「ブリュンヒルデ! いま、あの声が聞こえたんだよ!君も聞こえなかった?!」―――― 蒼は、必死にブリュンヒルデに言うが、ブリュンヒルデはその声を聞いていないらしくて……。
「ここですよ、人間の人。あ、蒼さん?」
しかし、今度は凄い近くで、その声がしたのだった。それも、直ぐ後ろから。
今度は、ブリュンヒルデも聞こえて、一緒に振り返った。
「え?」
すると、見れば目の前に、小さな女の子が可愛い水色の服を着て、蒼を見上げてる。
手には、何かのチケットを持って蒼に差し出している女の子が居るのであった。
「レヴィアタン……ちゃん?」
蒼は、その自分を見上げてる可愛い女の子が、レヴィアタンだと気付くまで、ほんの数秒かかってしまった。
だって、それはあの海竜とは似ても似つかない姿の人間の娘そっくりで、レヴィアタンがその問いかけに答えなかったら、蒼は本当にそれが、彼女だとはきっと判らなかったであろう。
人間の姿になったレヴィアタンは、蒼を真っ直ぐに見つめ、小さく、しかし、力強く頷くのであった。
「ありがとう。それが言いたくて、ここまで着てしまいました」
蒼は、今自分が見てる事が信じられなくて、ブリュンヒルデと彼女を何度も見て、指差して驚いていた。
なんと、昨日あれ程その運命の悲しさに、何かしてあげたいと願ったレヴィアタンが目の前に居るのだった。
蒼は、何をすれば良いのか判らず、口をパクパクするばかりで、まともの考えが浮かんで来ないでいた。
「そして、これは、ほんの私の気持ちです!」
すると、人間化したレヴィアタンが蒼の手を、ぎゅっと握ってくるのであった。
「あっ!」―――― それを横で見ていたブリュンヒルデが、慌てて蒼の身体を持ち上げて、レヴィアタンから離すのであった。
すると、目の前でプリプリ怒ってるブリュンヒルデの横で、蒼がその手に握らされた紙切れを目の前に持って来るのであった。
「リストランテ『レヴィアタン』本日オープン。……てぇ?」
紙切れを呼んだ蒼がレヴィアタンの顔を見ると、嬉しそうに自分の後ろの素敵なオープンカフェを手で示すのであった。
「蒼さんのお言葉に甘えて、ここに暫く居させて貰おうと思って。そのぉ……約束どおり」
蒼とブリュンヒルデはその言葉を聞いて、顔を見合わせた。
「あなた達の傍で、一緒に笑って暮らしても良いですかね、こんな私でも?」
その言葉を聞いた蒼とブリュンヒルデは、大声で両手を突き上げた。
「もちろんですよ!。やったーーっ!」
蒼も、ブリュンヒルデも半泣きであった。
それを言って貰ったレヴィアタンの涙は、言うに及ばずという所だった。
朝からハイテンションで騒ぐ商店街の中に後からアテナも駆けつけると、さらにヒートアップした騒ぎが繰り広げられて、周りの商店から起こられる始末。
しかし、それもこれも、もう会えないと思ったレヴィアタンに会えたなら仕方ない事だったのかも知れない。
「こら、私の伝言が、無駄になってしまったではないか……。文句も言いたくは、無かったのだがな!」
すると、何処からか、更に聞きなれた声が聞こえてきて、蒼は変な予感がして空を見上げるのであった。
見上げれば、そこにあの大天使ガブリエルが立っているのであった。
「ガブリエルさんまでーーーっ!」
嬉しさ余って、つい蒼が抱きついてしまうと、やっぱり思っていた通り、手に何かの感触が大きく伝わって来るのであった。
ガンッ!
ゴンッ!
「何をどさくさに紛れてやってるのかのう? このエロ人間の英雄がっ!」
「やはり、綺麗過ぎる人だと思ってたけど、あんまり強いんで男の人と勘違いしてましたよ……とほほ」
勢い余って飛びついた蒼が掴んだのが、ガブリエルのバスト的なものだったらしく、ガブリエルの神速アッパーと、アテナの女神フックで一瞬でノックアウトされるのであった。
「あはは、あたしがやる前に皆、手が早い……」ブリュンヒルデがその速さに驚いて汗をぬぐってるのであった。
「しかし、なんでガブリエルさんまでここに居るんですか、ひょっとして、レヴィアタンちゃんの様子を見に来たとか……?」
だが、それでも嬉しくて今日は立ち直りの早い蒼が、ガブリエルの来訪の理由を聞いてみた。
あの、昨日の命をかけて戦っていたガブリエルの事は、蒼でなくても気になるところだったのである。
「いや、この人間界にレヴィアタンが住む事になり、私がその監視役になったという訳だ。……それも、あと一人、監視をしろと言われてる人間が居るのでな!」
そう言うと、ガブリエルは蒼の顔に指をビシッと向けるのであった。
「え、……僕が、なんで?」
そう言われると、蒼は苦笑いしながら、ガブリエルに聞くのであった。
「いったい、誰がそんな命令するんですか。また、それも冗談なんでしょ、ガブリエルさんの?」
すると、ガブリエルはすぐに首を振って言うのであった。
「『誰がその命令するのか』だってぇ。お前はまだ判ってないな……。言っただろう、神様は気まぐれだって~!。私が考えもおぼつかない事を命令して来るんだ」
そう言うと、ガブリエルはそんな筈ないと言い張る蒼の顔を見て、自分も独り言のように言うのだった。
「私も、本当に信じられないのだよ。神様が、お前の傍でこの世界を見張っていろと言われた言葉にはな……」
皆の中で、レヴィアタンの事を囲んで笑いあう、蒼とブリュンヒルデとアテナを見ながら、自分がそこに加わっている事を、ガブリエルも不思議に思うのであった……。
こんな話が書きたくて書いてるような人間なのですが、もっと頑張って皆さんに話が上手く伝わるようになりたいと持ってたりして。
さらに、もっと進めるように頑張りたいと想う次第です。
こんな作者でも宜しかったら評価、感想(凄く怖いですが)などお気に入り登録して頂けると物凄く嬉しいです。
ここまで読んで頂けて有難う御座いました。




