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第16話 ありがとうの伝言(ことば) 2

 ニュースの緊急放送は、しきりに東京湾の近海に突如出現した3つの大渦を映し出し、非難を叫んでいた。

 報道用のヘリが多数飛び回り、望遠カメラでその様子を詳細に知らせようとしている。


 しかし、それでもその映像に写りこんで居る物は、他の人々には見えている様子は無かった。

 もし、見えているようならば、それこそこの程度の騒ぎでは済まされないからである。

 蒼達の見ているテレビの映像の海には、そこに渦の中に見え隠れする巨大な海竜の姿がはっきりと見えていたからである。


「レヴィアタン。……あの竜の名前が?」


 蒼は、自分の名を呼んだブリュンヒルデを振り返った。

 その名を何処かで耳にした事は有ったような気がしたからである。


「はい。恐らく間違いないと思います。あれは伝説の海竜レヴィアタンだと思います」


 ブリュンヒルデは放心したような声で蒼に返事をした。


「そうね、西方の神の一人が作り出した、海の怪物に間違いないようね……。これほど迄に大きいとは知らなかったけれど」


 アテナもブリュンヒルデの言った言葉に、付け加えてため息をついた。その巨大さは、映像の中でも収まりきれて居なかったからである。

 らんらんと光る目があたりを照らし、口からは炎が立ち上っていた。


「でも、何故今ここに居るのかが判りませんが……」


 ブリュンヒルデも思わずその思いを口にしていた。

 蒼もその姿を見て、息を飲んでいた。

 テレビの中継で湾の上空の映像が繰り返し流されるが、渦の場所はすぐ近くなので有った。

 他の人間には見えないだろうが、その三つの渦の中にはその巨大なレヴィアタンという海竜が何度もうねりながら湾の中に進んで来ようとしてるのである。

 この世界にこんな化け物が居たことも驚きだが、それが何故今ここに現れたのか、それが蒼にも判らない。

 

 しかし、今、それを考えてる余裕は無さそうであった。

 蒼はブリュンヒルデを見て、それを彼女も理解してるようであった。


「行くしか無いんだろうね。あそこにあの怪物が居るのを知ってるのは僕達しか居ないんだろうから? トホホ……」


「はい」


 ブリュンヒルデも努めて明るく、蒼の諦めの提案に答えて見せた。


「そうなるわね? ま、私が行けばあっという間にあの怪物を海に返すから問題無いんだけどね」


 二人のその言葉を聞いたアテナが振り返り、自信満々の顔を見せてテレビのレヴィアタンを鼻で笑うのであった……。






 広い空の中を進んで海の近くに下りてきた時には、すでに当たりは嵐になっていた。


 蒼を抱えて飛んできたブリュンヒルデも、アテナも鎧に身を包み手には武器を持っていたが、それを撮影するテレビ局のヘリも退避していて、人目を気にする必要もなくなっていたので、蒼も安心した。


 しかし、反対に海に近づくには相当な荒れ模様で、まともに飛べなくて近くの橋に一端降りていた。


「凄い風になったわね……。凄い雨でこの先が見えないわ」


 雨になったレヴィアタンの周りを遠めに見て、アテナが愚痴をこばす。


「問題は、あの大物をどうやって倒すかだわ……。まともに戦ってもこちらの存在に気付くかどうかぐらいだろうから」


 アテナはレヴィアタンの姿を眺め、半ば諦めるように呟くのだった。


 レヴィアタンの巨体は、この距離になりさらに巨大に感じた。まるで、山脈を上から撮影してるような景色。

 渦の中にうねる竜の身体が何度も動き、大きな波が湾に向かって流れ込んで、すでに港に停泊する貨物船が飛び上がらんばかりに上下に揺れている。

 よく見れば、その海竜は陸地に向かってゆっくりだが、確実に近づいているのが判ったのだ。

 このままなら、高波に岸が飲み込まれ沿岸の建物を破壊するのも時間の問題であった。


「なんとか、進むのを辞めさせる方法を考えないと……」


 ブリュンヒルデが海竜の姿を見て、蒼を振り返った。

 蒼にも、何故この怪物が東京湾を目指しているのかが判らなかった。


「お前たちでは、無理だろうな……、あの怪物を止めるのは」


 そこへ、聞き覚えの有る声が、空から降ってきた。

 蒼達が一斉に空を見上げた。

 そこに、あのフェンリルが浮かんでいた。


「フェンリル……?」


 蒼がその名を呼んだ。

 昨日、ブリュンヒルデが彼女の国へ飛ばして拘束された筈のあの狼の少女が、頭上に浮かんでいたのである。


「あなたはどうしてここに居るのですか、アースガルドの牢を破るのはそう簡単では無いはずですが?」


「その牢は結構頑丈だったろうけどな……」―――― フェンリルはそれでも余裕の顔でブリュンヒルデを見下ろして言うのだった。


「私を閉じ込めるには少し壁が弱すぎたみたいだな!」


 フェンリルの言葉を聞いたとき、アースガルドの牢の前では牢番の兵士が、穴の大きく空いた壁を見て大声で騒いでいた。

 ブリュンヒルデはその事を想像して、フェンリルの事を上目使いに睨み付けた。


「なら、またここで捕まえて送り返すだけです。私もそう気が長いほうでは無いので……。次は、無いと思って下さい!」


 少し強い口調で言うブリュンヒルデを思わず蒼が見てしまった。それほどブリュンヒルデの言葉は、いつもの上品な優しさが無くなって居たからである。


「おい……」


 だが、いつもはむき出しの攻撃体勢を見せるフェンリルが、珍しくその言葉を聞いても怒り出さなかった。


「そう焦るな……。先ずはあいつをどうするかが先だろうが、そうではないのか、戦女神?」


 フェンリルはブリュンヒルデを見て腕組みをする。

 

「うん?」――ブリュンヒルデは思わずフェンリルの言葉を聞き返してしまった。「それは正論ですが……。何故、あなたが気にするのですか?。あなたに関係の無い筈ですが?」


「それが有るんだよ!」フェンリルは間髪居れずに答えてきた。


「私がこの世界を手に入れるんだ。だから、その前に何処のどいつか判らないヤツにこの地上も荒らされたくないんでね。……私より先に何か取られたら気分が悪いんだよ! 判るだろ、この気持ち?」


 フェンリルはそう言い放つと、ブリュンヒルデの前に顔を近づけて声高らかに笑った。どこまでも、自分中心な性格だ。

 それを聞いて、ブリュンヒルデも蒼と顔を見合わせて笑ってしまった。

 要は、自分以外の誰にも地上を渡したくないと言う、勝手な理由でここに駆けつけたと言うのだ。


「地上を手に入れるのはきっと上手くいかないでしょうけど。でも、何か方法が有るなら、聞きましょうか?」


 ブリュンヒルデの言葉に、フェンリルも笑っている。


「何言ってるの戦女神!。こんなやつの言う事なんて聞いてないで、私が何とかするから急いで向かうわよっ!」


 しかし、そこまで黙って聞いていたアテナが話しに割って入ってきた。

 自分とブリュンヒルデでなんとかする所に、あの忌々しいフェンリルに助けられたなんて事になったら、それこそ自分の女神としての面目が立たなくなると思い、急いで荒れた海に向かおうとしたのだった。


「あん……?」―――― しかし、そのアテナの言動を、フェンリルは聞き逃さなかった。


「私より弱いお前が行った所で、何をするつもりなんだ……?」


「な、……何をっ!?」


 上から物を見下ろす言い方で、フェンリルがアテナに声を掛けて来た。その顔が半笑いである。

 それを聞いたアテナが即座に振り返り、真っ直ぐにフェンリルを見たのだ。

 目には、はっきりとした殺意を浮かべて、それこそ今にも飛び掛らんばかりの形相でフェンリルを睨み付けている。


「貴様、誰に物を言ってるのか分かってるのか……?」


 真っ赤になった顔で見つめるアテナの言葉尻が、僅かだが怒りに打ち震えているようだった。

 それを聞いて、フェンリルはまた鼻で笑いながら、アテナにゆっくりと近づいてくる。そして、息を吹きかければ届くほどに顔を近づけてフェンリルは言うのだった。


「誰にだって……? この前、私にさんざん伸されたあんたに、言ってるに決まってるだろうが!」


「ウオォオォーーーーッ、もう許さーーーんっ!」


 アテナは我慢出来ずに、心の底から叫び声を上げていた。

 手にした剣を頭上に振り被って、フェンリルの頭に打ち下ろそうと本気で迫ってるようだった。

 慌てて、蒼とブリュンヒルデがアテナの身体を必死に止めて事なきを得る。


「なんて言い方するんだ、悪い性格だな……あんたは?」


 取り押さえられてるアテナの姿を見て笑ってるフェンリルに、蒼まで嫌味を言った。


「フン、私より弱いくせに生意気な事を言う小娘に、何を言っても良かろうが。だいたい何も出来ない人間のお前に言われたくないわっ!」


 ゴンッ!


 しかし、それを聞いて蒼にまで文句を言ったフェンリルの頭に、いきなり何かの棒が振り下ろされるのであった。

 見れば、ブリュンヒルデが自分の武器である、槍の柄でフェンリルの頭を叩いたのである。


「地上の英雄である、蒼さまにまで暴言を吐くのは許しません!」


 ブリュンヒルデが怒った表情で振り返ったフェンリルを睨みつける。

 しかし、それにはフェンリルも噛み付いた。


 蒼が『地上の英雄』って呼ばれて自分が殴られたのが、どうにも納得出来ないらしかったのだ。


「なんだよ、いったいこの男の何処が“英雄”なんだって言うんだっ!? こいつは今だかつて何か英雄らしい事したのを、私は見た事が無いぞ?」


「あ、そう言えば……?」


 フェンリルの言葉に、アテナも数瞬考えた。


 確かに蒼を『地上の英雄』と呼ぶ理由が思い当たらない。

 その言葉には、蒼も納得で、恥ずかしそうに頭を掻く。

 実際、『地上の英雄』なんて言ってるのは、あの福引場の女性とブリュンヒルデだけであって、蒼が何かした事など無いのだから……。

 だが……。


「私はずっと見てたから知ってるんです。それにあの『聖剣』を軽々と抜けるのは、蒼さましか居ないのですから、余計な事言ってると今すぐ牢屋に送り返しますよっ!」


 ブリュンヒルデはそう言うと再度、槍の柄を思いっきりフェンリルの頭に振り下ろすのだった。

 フェンリルがブリュンヒルデに殴られて、悲痛の声を上げる。

 ブリュンヒルデの答えには迷いが無かった。

 確かに、ブリュンヒルデの言ってる事も嘘では無かった。聖剣を抜いたのも事実である。

 しかし、問題はいつも戦っているのは『戦女神』のブリュンヒルデだという事なのだ……。

 

 蒼は、少し罰が悪そうにフェンリルを見ていた。


「私が強いんですから、蒼さまが出向くまでも無いと言うことです。雑魚は、私が片付けます、ハイッ!」


 ブリュンヒルデがその横で槍と楯を上に掲げて、ニッ……っと笑うのであった。



「しかし、あの巨体を実際どうするかは、考え物だな……」


 改めて、蒼たちは海に居るレヴィアタンを見つめて呟いた。


 海上封鎖された橋の為、誰も傍には居なかったが、その代わりに雨を避けるものも無い始末。やっと探し当てた灯台のような建物の影に降り立ち、再度近づいて見ていた。


「ええい、考えたって仕方ない。私が確かめてくるからそこで見ていてっ!」


「アテナさん! そんな簡単に行っていいのか?」


 しかし、それを我慢出来なくなったアテナが一人、レヴィアタンに向かって飛び立って行った。

 

 それを黙ってフェンリルも見ている。



「聞こえるか、私はゼウスが娘、オリュンポス十二神の一人アテナだ。お前が進むその先は人間の街の為、この場で大人しく止まれっ!」


 ゆっくりと進むレヴィアタンの進行方向に浮かんだアテナが大声で叫んだ。

 海中に居るレヴィアタンに聞こえるか分からなかったが、元々神々の神言の為、それはレヴィアタンの元にも届いてるだろうと蒼たちも思って聞いていた。


 ザザァッ……


 すると、水中を進むレヴィアタンの身体がゆっくりとそこに止まった。

 荒れた波が周囲をかき混ぜて高い波が当たりに打ち付けていたが、それでも揺らめく青白い巨大な身体はそこで止まって様に見えたのだ。


「止めたのか?」


 思わず身を乗り出してフェンリルが呟いた。

 アテナはその状況を見ながら、レヴィアタンの姿を見ていた。

 よく見れば、その身体を覆う海水に濡れた身体は、まるで楯に覆われた鋼の塊のような表面をしていて、剣による攻撃が通るとは到底思えないと思うのであった。

 だが、止まってと思った動きに変化が起こった。

 海水の中にあったレヴィアタンの頭と思しき物が、ゆっくりと水中から上がってくるのが見えたのである。


 ザバッ……。


 頭部だけでも十分に巨大な岩の塊のような顔が海中から現れると、光る目をアテナに向けて顔を上げてきた。

 レヴィアタンの鋭く光る眼光が、アテナのちっぽけな姿を捉えていた。


「こ、こんにちは。始めましてアナタがレヴィアタン?」


 アテナは極力おだやかな雰囲気を装って話しかけたが、明らかにその表情はレヴィアタンの巨体に気圧されていた。


「!」


 ゴォーーーーーッ!


 突如、レヴィアタンの口から火山の噴火のような炎が噴き出すと、アテナの身体を飲み込んだのであった。

 

「アテナーーッ!」


 思わず蒼は叫んでいた。

 いくらオリュンポス十二神の一人、武神アテナとは言え、あのタイミングでの攻撃では助からないと蒼が思った時だった。


「蒼さま、アテナさんはあそこに!」


 しかし、ブリュンヒルデの指差す方へ視線を移すと、アテナがレヴィアタンの頭上の後方に浮かんでいるのであった。

 レヴィアタンの吐いた火炎を寸での所で交わして、アテナはレヴィアタンの頭の後ろに回りこんでいたのである。


「ホゥ。――もう死んじゃったかと思ったよぉ……」


 思わず蒼がそう呟くと、三人は大きく胸を撫で下ろすのであった。


 しかし、面白くないのはアテナの方。

 キッと目を吊り上げると、剣を両手に構えレヴィアタンの頭目掛けて突き進むのであった。


「いきなり挨拶も無しなんて、随分酷い態度じゃないのーーっ!」


 絶好のタイミングでアテナの攻撃がレヴィアタンの頭部へヒットした。


 ガシッ!


 だが、その剣がレヴィアタンの頭の鱗に突き当たって、止まってるだけだったのだ。


「な、……なんなのこの硬さはぁ?」


 レヴィアタンの頭の上で止まった自分の剣を握り締め、アテナが悔しさに言葉を漏らしていた。

 神の元から授かった剣を持ってしても、レヴィアタンの鱗に傷一つ付けられないこの現実。


 だが、その一瞬をついてレヴィアタンの頭が振られた時には、アテナはその動きの速さについて行けず叫び声を上げただけだった。


 キャァーーーッ!


 レヴィアタンの角に当てられたアテナの身体が、宙に投げ出される。

 すると、吹き飛ばされるアテナの身体を追って、レヴィアタンの目が不意に真っ直ぐに見つめて制止したのであった。


「危ないっ!」


 蒼がその瞬間ブリュンヒルデの声を横で聞いていると、いきなりブリュンヒルデの身体がそこで消えるのであった。

 レヴィアタンの目から眩い光線が噴き出して、アテナ目掛けて飛んで言った。

 しかし、突然アテナの前に立ちはだかったブリュンヒルデの楯が、その光線を受けてアテナの身体を庇うのであった。


「ほう……、神々の楯スヴェルか。あれを使いこなすとは、大した戦女神だなぁ」


 フェンリルがその光景を見て思わず呟いた。

 感心するフェンリルの横で蒼もレヴィアタンの光線をも弾き返す楯を片手で構えるブリュンヒルデを見て、改めてその凄さを感じていた。


「ならば、私も行くかっ!」


「うん?」


 すると、今度はフェンリルが蒼の横から姿を消して、レヴィアタンの直ぐ後ろに姿を現すのだった。

 ブリュンヒルデが見てる視界の中で、フェンリルがレヴィアタンの後ろで杖を構えた。


 ヴァナルガンドである。


 幾たびもブリュンヒルデに切って落とされた首が、今度は強化されて黄金に輝く首輪状の装甲で覆われていた。

 フェンリルがこちらに気付いて見つめるブリュンヒルデを見て、ニッと笑う。


「お前に遣られなければどんなに強いか、今、この力見せてつけてやろうっ!」


 破壊の杖、ヴァナルガンドを正面に構えたファンリルが、頭部の狼をレヴィアタンに向けて大声で叫んだ。


「あいつを吸い込めっ、ヴァナルガンドッ!」



 グワァオォォーーーンッ!



 響き渡る狼の遠吠えと供に、ヴァナルガンドの狼の頭部が巨大化して、当たりの空気を吸い込み始める。

 その大きさはゆうにフェンリルの30倍は超え、レヴィアタンをも吸い込む事さえも出来そうだと思えるほどであった。

 その遠吠えに、レヴィアタンも後ろのフェンリルを振り返った。


 しかし、レヴィアタンはそれを意にも関せず海中より勢い良く飛び出すと、羽をばたつかせてその場で回転し始めるのであった。


「な……何ぃ?」


 その巨体のどこにそんな俊敏性があるのか、きりもみ状の渦が水中からあがり、やがてそれが竜巻となって辺りの物を引き込もうとするのであった。


 吸い込もうとしたファンリルのヴァナルガンドの方がその勢いに負けて吸い込まれそうになって、慌てて水柱の外に脱出する始末。

 蒼も近くの物に掴まるが、手すりに掴まるその身体が宙に浮き始めて、必死に足も絡めるのだった。


「蒼さま、大丈夫ですかっ!?」


 慌てて、ブリュンヒルデがアテナを抱えて地上に降りて来た。

 それを見ながら、フェンリルも蒼たちの近くに下がって来る。


「なんて乱暴な戦い方するヤツだ……クソッ!」


 自分の杖で吸い込もうとしたが、逆にレヴィアタンの竜巻に飲まれそうになって、フェンリルもどう戦えば良いか見当も付かないと言った有様だ。

 レヴィアタンの巨大な力にはまるで身じろぎぐらいでも、死にあたいする攻撃になりそうな相手だった。

 まるで、今の竜巻も攻撃と呼べるのか甚だ疑問であった。


 しかし、竜巻を起こしたその巨大な海竜も、不意に回転するのを止めて宙に浮きながら、こちらに向き直るのであった。


「!」―――― 蒼たちは、その動きを見ていつでも逃げられるように、身構える。


「地上の人々よ、あるいはそれを導く者よ、どうか私に構わないで下さい。私は、私の運命に従い、陸地に向かっています。そのため、これより先はどうか私の妨げをしないで下さい……」


 巨大な翼を広げ宙に浮くその海の覇者は、鋭く光る眼光で蒼たちを見て、明らかな警告を発しようとこちらを向いていた。


「これは、あの竜が喋ってるのかしら。なんか穏やかな感じだけど、さすがに近寄り難いわ……」


「ああ、なんかその余裕がまた、感じ悪いけど……相手にならないと言わんばかりだな!」


 その声を聞いてアテナとフェンリルも、不服そうに呟いた。


 海竜は、宙に浮いて暫く蒼とブリュンヒルデ達もゆっくりと見ていたが、やがて陸地に向けてゆっくりと反転し始めた。

 もう、蒼たちが邪魔しないであろうと、納得態度だった。


「運命って言ってたね……。何の運命があるって言うのかな?」


 蒼は、ブリュンヒルデに向き直って聞いてみた。


「≪それは、神の下した命令の為だ≫」―――― すると、蒼の言葉にいきなり答えて来る声があった。


 パイプオルガンのような荘厳な調べに載せて、天より実際の声とは違う頭の中に直接聞こえて来るような別次元の言葉のようにそれは聞こえてきた。


「≪この世に最後の時が来て、その日に生き残った者の為に食料として神が創った生き物が居たのだ。それが、レヴィアタンだ!≫」


 蒼が振り返ると、そこに天上の調べに包まれて、ゆっくりと光の中を降りて来る一人の天上人の姿があった。

 背には、鳥の羽に似た羽をつけ、頭には金色の金冠をつけている。


「天使……様?」


 蒼が、その姿を見上げ、思わず口にしていた。


「大天使だ。大天使ガブリエル、神の御使い、七大天使の中でも相当に上の天使ね」


 少し、気に食わないと言った風な感じで、横から小声でアテナが蒼に耳打ちする。

 七大天使とは天使の中でも最も神に近しい重要な存在の大天使であった。その中でも、大天使のミカエルとガブリエルとラファエルとは最重要天使と言っても過言でなかった。


「七大天使……ガブリエル?」


 蒼はその名を呼んで、今、自分を見下ろして降りてくる天使を下から仰ぎ見ていた。


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