警察の考え
この回は、宇佐見視点となっています。
考えてみれば、俺は不幸なのかもしれない。
昔から頭は悪く、何もかもが出来ない人間だった。だから、努力を続けた。誰にも馬鹿にされないように、何度も色々なことに挑戦した。
だが、人生ってものは残酷だ。中学生でも……高校生になっても友達は出来ず、しまいには親の仕事を引き継ぐ事になった。夢を持つことも、出来なかった。
どんな仕事かって?
――警察だ。良い事は……俺は十七歳だが、警察は十八歳以上しかなれない職業。しかも、退職願を出さない限りクビにはならない。そしてなにより、今後はお金に困らない。それだけのことだ。
「まじかよぉー……」
俺は書類を作りながら、小さなため息をついた。
まさか、俺が長年――と言えば嘘になるが……数年探していた浅野組の組長が、意外なほど近くにいたと言うことが分かったとき、俺は一瞬頭が真っ白になった。
浅野舞。こいつは、俺から見れば何でもできる秀才だった。勉強もスポーツも出来て、性格も悪くない。クラスの中で一番の可愛さも誇っている。何もかも、全てを手に入れた人――だと思っていた。
だが、昨日俺は浅野と取引をしてしまった。
「私の部下にならない?」たった一言だ。俺は初め、首を振りこう言った。
「お前の部下になるくらいなら、俺は死を選ぶ」
だが、あいつの耳には届かなかった。
「選択肢はないよ。今それを拒んでウサギが死んだとしたも、警察の方に影響が出てくる。私たちの正体がばれたとしたら、国内でちょっとした戦争になる。浅野組は、全国規模までいっている。私の指示一つで、街中を――日本を、がらりと変えられる。どう? それでもあなたはこの取引を断われる?」
用するに、何十万の人を犠牲にするぞと言う脅しだった。
もちろんそこまで言われて――俺は、首を横に振ることが出来なかった。頷くと同時に、浅野は俺を縛っていた縄を解いてくれた。
「有難う! これから宜しくね!」
笑顔で、そう言われた。俺の中で、一瞬時が止まった。
「……なぜ、そんなに俺を信じられる? 俺は、逃げるかもしれないんだぞ?」
自分でも信じられないような言葉が口から出た。
「え? ……警察ともあろう人が、嘘をつくわけないでしょ。しかも、今約束してくれたじゃん。ね? 魁人」
「そうですね。男に二言はないですし」
あっという間――何十万人の為に、俺は浅野と契約を結んでしまった。
俺の隣のクラスの、浅野舞が浅野組の組長。この書類にそう書けば、あいつは捕まるだろう。すぐに牢屋行きだ――ちょっとした戦争が起きてから。
「……畜生」
書けない理由が、俺にはもう一つあった。
――俺は浅野のことを目標とし、これまで高校生活を送っていた。いつか絶対、浅野と同じくらい良い人生を送りたい、そう思っていた。しかも。自分じゃ確実と言えないが、俺は浅野のことが――
悩んでいる間に、俺の肩に誰かの手がのった。驚き、俺の肩は軽く上がった。
「よ。どうだ? 浅野組に関して、なにかつかめたか?」
目の前に立っていたのは、貫禄がある親父の姿だった。
「……親父。いや、今回の情報は嘘だったようだ。今日も調べてみたが、手がかりは……何も」
約束なんて守るつもりはなかったのに。すぐに家に帰ったら報告してやろうと思ったのに……俺は親父にそう言ってしまった。
俺は嘘が大嫌いだ。
人を信じられず、汚れた人間がする事――そう言われて、俺は育ったきた。今は、結果的に親父に嘘をついてしまったが、浅野の約束は『守った』。
だが、いつか絶対逮捕してやろうと思った。
告白するのは――その後だ。