侵入者
☆と☆の間は、魁人視点になっています。
「さぁて、どこにいるかな……」
私は、耳をすませた。お、移動中だなこれは。この先は……二階の通路? 足音は、徐々に私の真上になってきている。
「魁人。二階の一番奥の部屋で待機していて。それと、見つけたら――捕まえて」
「分かりました。では、舞様は応接間でお待ち下さい。すぐに連れてくるので――」
それじゃあ、これからは魁人に視点を移そうかな! そっちの方が面白いと思うし……ね?
ほら、ハイタッチ――! 私は手を出したけど、華麗にスルーされた。ノリ悪いなぁ……。
☆
「いちいち面倒なことは僕に押しつけやがって……!」
僕は、珍しく怒っていた。まぁ、舞様のこともあるかも知れないが――。歩いている音が廊下に響く。基本的に気配を消して歩くのが得意としている僕が、今は違う。
舞様の父――元組長は、偉大な方だった。僕を唯一助けてくれ、人を信じるということを学ばせてもらった。そんな素晴らしき方の家の中に、一体誰が侵入したって言うんだ!
僕は舞様に言われたとおりに、待機していた。すると、誰かの話し声が聞こえた。
「……はい。まだ捜査中なので……あとで、また連絡します」
その会話が耳に届いた瞬間、僕は立ち止った。これ以上下手に歩くと、音を立ててしまう。相手は、このドアを開けた先にいる。影が揺れているのが見えた。
一呼吸置き、僕は静かに、そして素早くドアを開けた。
「……!?」
相手は、驚いたようにこちらを見た。一瞬で、どんなやつかは分かった――警察だ。
若い――というか、舞様を同級生くらいのくせに、結構きこんだあとがある制服。これで警察じゃなかったら、コスプレ男として僕が瞬殺してしまう。
「誰ですか」
「……俺は警察の人間だ! ここは、浅野組の……っ!」
僕は躊躇なく相手の後ろに入り込み、首を絞めた。それなりの抵抗をするが、足りない。
「はなせっ……くっ!」
「運が良いですね。もし、舞様があなたを捕まえてと言わなかったら……僕はここで、あなたを殺していました」
手を離すと、簡単に床に倒れた。その隙に、縛り上げる。
「俺をどうするつもりだ!!」
「……騒がないで下さい。耳障りです」
何か、不思議な胸騒ぎがした。
この人がここに現れたせいで、何かが変わるような気がしてならない。
「……おい! 聞いてるのか?!」
どうやら、乱暴に引きずっていたらしい。何故かボロボロになっている。
「あぁ、すみません。つい、考え事を」
「すみませんって謝るくらいなら、この縄を解け!」
「もう――」
小さくため息をつき、僕は舞様が待っている所へと連れて行く。
なんだろう。会わせたくないような気がした。
☆
はいはーい! 皆さんお待ちかね、私が帰ってきましたよー!! 私は自分の両手でハイタッチをした。もう、魁人には頼まない。
ん? それより話を進めろって? 全く、しょうがないですねー……
目の前に放り出された敵は、どこからどう見ても警察だった。
「捕まえてきました」
「有難う」
なんだろう。どこかで見たことのあるような顔をしているな……一体どこだ?
「浅野舞! お前が浅野組の組長だったなんて……!」
「え、なんで私の名前知っているの? 誰?」
一瞬、ストーカーか何かとは思ったけど、警察ならそれくらいの情報を掴んでいるだろう。私は彼に近づいた。
「おい、嘘だろ!? 隣のクラスの宇佐見だ!」
「ウサギ?」
私が聞き返すと、珍しく魁人が笑った。その下では、ウサギが顔を真っ赤にしている。
「う・さ・みだ! どこをどう間違えたら――!」
あぁ、そう言えばいたな。確か名前は、宇佐見……なんだっけ? 学校では優香以外の人の名前、覚えていないもんなー。私は頭を掻いた。失敗失敗。来月までには全員名前だけでも把握しておこう。
「それで? なんでこんな所にいるのさ、ウサギ。もうこの回終わりそうなんだから、要点まとめて喋って」
「俺はウサギじゃねぇ! 俺は……お前を捕まえるために、ここに一人で侵入した。それだけだ。だから、今からお前達を――」
「ほう。なのに自分が捕まっているのですか」
魁人はクスクスと笑い、ウサギに向かって言った。どんどん熱が入っているのが分かる。
ウサギも負けじと反論をしているけど、何かこう……楽しそう。
この人……面白い!
「一人で乗り込んできただけ、褒めてあげる。ねぇ――取引しない?」
「……は?」
私は、拳銃を取り出した。思っていなかったのだろう。ウサギは目を見開いた。
「本来、私たちみたいな裏の世界で生きている人は……自分の正体を知られた時点で、目撃者を殺している。でもここの浅野組は違う。『信頼』と『命』を誰よりも大切にし、極力人を殺さないようにしている。でも、警察にばれたんだから――死んでもらおうと思った」
だけど、と私は付け加えた。
「たった今、気持が変わった。どう? 私の部下にならない? 警察の仕事をしながら」