幕間~コンタクトレンズ~
無事に仕事が終わり、あまり気乗りしなかったけど……次の日、学校へ行くことにした。
朝は公園で優香と待ち合わせをして、そこから一緒に行くと言うのが日課だった。
珍しく――今日は魁人に叩き起こされたから――優香より早くついた私は、ベンチに座った。おっと危ない。スカートはいてるのに足組もうとしちゃった。癖って言うのは怖いね……
なんて私が考えながらスマホをいじっていると、目の前に誰かが立った。優香かな、と一瞬思ったけど、全然違う人だった。小柄な、おじいさん。
「あの、お嬢さん。ここにコンタクト置いてなかったかい?」
「……はい?」
いやいや、おじいさん。今、信じられない発言しましたよあなた。ここに、コンタクトレンズを置いたって?!
私は、恐る恐る腰をあげた。
「んー……!」
おじいさんは、持参の虫眼鏡で私の座っていた所を念入りに見ている。え、ウソでしょ? これで私が踏んでいたら……
なんて悪い予想は、当たるんだなこれが。
「あった! 半分!」
おじいさんは震える手で、私に割れているコンタクトレンズを見せている。あぁ、ウソでしょ――!?
「ご、ごめんなさい本当に! 今から保護者連れてくるので、ちょっとお待ちください!」
あいにく、お金は――持っているけど、使いたくない! これは、私が遊ぶ……じゃなくて、組織の為に使うお金になるんだから! きっと!
私は躊躇なく魁人に電話した。
「もしもし!」
『……どうしたのですか。今日はしっかりと起きられたというのに……』
「ん? 魁人、寝てない?!」
電話越しに聞こえた声が、眠たそうな声だった。絶対、これは二度寝してたな。私は片手で握りこぶしを作りながらも、魁人に頼んだ。
「実は、近所――かどうか分からないんだけど、おじいさんのコンタクトレンズ割っちゃった……お金持ってきて、公園きて……」
すると、ムカつくくらい大きなため息。
『馬鹿ですか?! 今向かうので、待っていて下さい。ったく、世話のやけるお嬢さんだぜほんと……』
おぉーっと。最後の、聞こえてましたよぉーーー……! これは録音して弱み握るところだったな。惜しい。でも、今は立場的に私が悪い。私はもう一度おじいさんに向きなおし、謝った。
「おじいさん、ほんっとうにすみません!」
「別に請求したわけじゃないけどのぉー……今後は気をつけるのじゃよ」
「あ、はい……」
隙間だらけのベンチに、コンタクトレンズを置くあなたが気をつけた方が良いですよ?! といおうとしたけど、言葉を飲み込む。私っていろんな意味で大人。
「そういえばお嬢さん、高校生かね……?」
「はい。そうです」
「いいのぉ、若いのは。どうだい、青春しているか?」
「それは……!」
いきなり日常的な会話になり、平和な一時を過ごしている途中で優香が走ってきた。
「舞ちゃん、ゴメンねー! 寝坊しちゃったの……って、あれ? 舞ちゃん……二股?!」
「いやいやいや! 違うって! このおじいさんとは今会って……!」
ん? おじいさん、何照れてるの?! え、何なのこの状況! と悲鳴をあげようとした時、魁人の姿が見えた。片手に財布を抱えて、寝癖をつけていた。人のこと言えないじゃない!
「はぁっ、はぁっ……お早うございます。おじいさん。この度は、本当にすみませんでした」
「いや……若いのに、大変じゃのぉ。わしも昔、お前さんくらいの頃……」
おじいさんが昔話をし始めたので、私は優香を引っ張った。
「遅刻しそうだね! これは急がないと――!」
私はその場を去るように走っていった。優香は笑いながらついてくる。視線がものすごく刺さっているけど、気にしない。
「それで、値段は……」
「ざっと――くらいじゃ」
何円だったのかは聞こえなかった。魁人の悲鳴で。相当の額だったのだろう。後ろを振り向かなくてもわかる。
ゴメンね、悪気はなかったの――!
この後、家に帰った私はたっぷり説教される事を知らなかったのだ――って終わり方で大丈夫なのこれ?
コンタクトについて。
舞「で、作者は何でコンタクトしないの?」
作「そこで私の話をします?! いや、まぁメガネの方が良いし……楽だし?」
舞「……はぁ。こんなてきとうな人に作られたから私っててきとうな人間だったのか」
魁人「それは関係ないですね。僕、なにかと完璧な設定ですし」
舞「……(ムカッ)」