警察と名乗る人物
後半、☆の後は三人称になっています。
「なーんであの時言ったんだか……」
今更後悔してももう遅い。あの話をしてから、お父さんは死んでしまった。満足そうな顔をしていたから、心残りはなかったんだろう。それは、私にとって逆プレッシャーだったけどね。私は苦笑いしながら、部屋を出た。
ドアを開けると、目の前には、手帳を持ってひとり言をつぶやいている魁人がいた。深刻な顔をしているので、今回の仕事内容は真面目なんだと感じた。
「相変わらず、行動が遅いですね。予定より十分も過ぎています」
「……それで、今日はどうしたの。早く言いなさい」
「上手く話を変えやがったな……! 失礼。この前から予定していた取引のグループの一人が、サツに捕まったそうです。しかもそいつ、今回の内容を全部話したそうで……警備が厳重になっているそうです。どうします?」
「うわぁ……困るね、それは」
取引の内容は、いたってシンプルなものだ。浅野組の勢力を広めるために、隣町の暴力団と同盟を組もうとしていた。だけど、こういう時は大体交渉が決裂して決闘になることは読めていた。いつもは何百人も引きつれてねじ伏せていたが、今回はそうもいかない。サツに見つかったら――さすがに、やばい。
「……真面目に話すって、大変だね。魁人、見直したよ」
「何言っているか訳分かりません。それより、このまま無視をしていたら、乗りこまれるかもしれません」
「仕方ないね。私と魁人で行こう。相手何人?」
「ざっと二十人くらいではないかと」
私は無言で、お父さんの部屋に行った。慌てる様子もなく魁人も足音を立てずについてくる。私は、机の引き出しから拳銃を取り出す。ポケットに入れて、立てかけてある金属バットを二本とった。
「魁人、十人くらい大丈夫でしょ?」
「僕一人でも全員いけますよ」
「……はいはい。じゃあ、行きますか」
『いってらっしゃいませ!』
まだ立っていた、彼らに私は叫んだ。
「いくら防音完璧でも、耳元で叫ばれたら私に迷惑でしょ――!!」
☆
夜。路地裏で誰かが殴られている。
「おい、金を出すだけの作業もできねぇのかてめぇ?!」
「調子乗んじゃねぇぞ!」
「ご、ごめんなさい……持ってないんです……だからっ……!」
彼らの暴行もエスカレートし、青年は今にも気絶しそうだ。
「誰か……助けて……」
すると、何かの音がした。その音は、近くなってくる。
「おい。その人から離れろ」
黒いコートを着た人が、現れた。街灯が少ないので、顔をはっきりと見られない。
「あぁ?! てめぇは誰だよ!」
彼らが殴りかかろうとすると、その人は華麗に避けた後、足を出して――転ばせた。
「痛っ!!」
「動くな」
コートのポケットから、その人は拳銃を取り出した。
「俺は警察の人間だ。お前らを暴行罪で逮捕する!」
青年は、ポカンとしてから警察にお礼を述べた。
「あの……! 有難うございました。お名前は……」
「……宇佐見です。早く、病院に行って下さい。すぐにパトカーを呼びますから」
宇佐見となのる警察官は、通信機をとりだした。
「二人、東通りで暴行を行った人がいたので現行犯逮捕した。被害者も怪我をしている。俺はこれから――指示を受けたとおり、浅野組の情報をつかみに現場へ向かう!」