舞の過去
私は不貞腐れた状態で、家の玄関の前に立った。相変わらず、私の家は馬鹿でかい。
「ヒロインがそんな汚い言葉使ってはいけませんよ」
「……相変わらず、わたくしの家は大きいこと!!」
すかさず魁人のツッコミが入り、私はしっかりと訂正を加えた。
だからと言って、昔ながらの造りで、時代劇で出てきそうな家には変わりない。てっぺんには変なオブジェが乗っかっている――近いうち、外そう。
魁人が前に出て、戸を開けた。私が入り、閉めた瞬間――。
『お帰りなさい!! 舞様!』
黒ずくめの……間違えた。これじゃ違うアニメになってしまう。
黒いスーツを着た何十人もの私の部下が私を挟むように二列で並び、頭を下げていた。
「近所迷惑だ――!」
「そこに関しては問題ありません。ここは防音設備完璧なので」
ダメだ。私のツッコミが全て受け流される……。私は魁人を睨んだが、全く動じていなかった。それが、日常だったから。
「舞様、コートとスクールバッグを」
誰かにそう言われ、私は素直に渡した。気が利く人がいるもんだ。
「帽子と手袋を」
「……有難う」
「服を」
「うん――って?! なんでここで脱がなきゃいけないのよ!? 作者が描写に困る……?」
魁人は珍しく茶々を入れなかった。何か起きたのかと思い、魁人の顔を見てみると……。
「あのですねぇ……もう、話は始まっているのですからちゃんとして下さい。今の舞様の行いのせいで、浅野組がどれだけ馬鹿か教えているようなものなのですよ? しかも。今日はこれから大切な仕事があると言うからわざわざ迎えに行ったのに、なんですかあれは。夕日をバックに友達とニコニコ歩いて……確かに恋愛小説のスタートはほんわかしたものが定番かもしれませんが、貴方はどう考えても違いますよね?! 分かりますか? 大体……!」
私は、ほとんど耳を貸さずに部屋へと走った。逃げるが勝ちとは、本当にいい言葉だと思う。逆にあのまま聞いていたら、あと三十分は説教だった。読者様、ラッキーですよ! これで話がちゃんと進みます。私のおかげ――
「自己アピールはいいから、さっさと着替えろ!」
「すみませんっ!!」
とどめの怒号が家の中に鳴り響き、私は部屋のドアを閉めた。
制服を脱ぎ、私はTシャツを着た。ダメージパンツをはいて、黒いジャケットに袖を通す。これが私の私服だ。そして、おろしていた前髪を上にあげ、縛ってピンで止める。――よし。
薄く色のかかっているサングラスをかけて、私は部屋を出た。こんな服装子供がみたら、絶対に「不良だー!」とか叫ばれそう。まぁ、そう言われたら否定は出来ないけどね。
全身が映る鏡で、自分の姿を見た。
あぁ、やっぱりこれはかっこいいとは言えない。
「舞。今日からお前は浅野組の組長だ」
そうお父さんから言われたのは、私が十二歳の時。現役小学六年生。
「え? ……嫌だよ。なんで?」
「そう言う運命だからだ。もう私も歳なんだよ」
「トシ? それってこの前テレビに出ていた……」
昔は、ボケの方を受けもっていた。というか、お父さんの方がツッコミをやりたがるから仕方なく譲っていた。私って大人。
「今回ばかりは……真面目に聞いてくれ」
「…………!」
初めて、お父さんが怖いって事をその時知った。蛇に睨まれた蛙のように、私は硬直した。
「紹介する。今日から、お前の護衛をする魁人だ。舞より、二歳年上だからしっかりしている」
「ワガママそうな人だな……失礼。よろしくお願いします、時期組長」
初めて魁人と会ったときは、すごく嫌だった。初対面のくせに「ワガママそうな人」と言った。私はしばらく、恨むことに決めた。
「まぁ、なんにせよ……頼んでいいか、舞」
「……なんで? お父さんがもうやめるなら、皆やめちゃえば良いじゃん。しかも、そんな悪い仕事してたらいつか警察にも捕まっちゃうし……」
「おい」
魁人が、私の肩をつかんだ。
「な……なによ!」
「組長は、行き場のない俺たちに手を差し伸べてくれた。素晴らしい人なんだ。それに比べ、お前はなんだ?!」
「だって、私には関係ない!」
「それはもっともな意見だ。だが……運命には逆らえない」
その言葉を聞いた瞬間、私の心は大きく揺れた。
『運命』。その言葉を聞いた瞬間、私は目を伏せてしまった。
「舞……頼む! 今後はこいつがボケてくれるはずだから、お前がツッコミしてもいいから……」
「いや、ちょっと待って下さい?! 僕はそんな事しません!」
訳の分からないことを言うお父さんたちを無視し、私は大声で叫んだ。
「…………あぁ、もう分かったわよ! ……お父さん、私に合う服とサングラス! 魁人、私のこの組織の内容を教えて!」
「!?」
虚をつかれた魁人は、一瞬目を丸くした。
「命令が聞けないの?! 私は、この浅野組の――組長よ」