舞VS優香①
今回はすべて魁人視線です。
「……っおい、なんだこれは!」
静まり返っている夜中の住宅街で、ギャーギャー騒いでいる宇佐見。騒音妨害で通報されるぞ、と小さく呟いた。
「なんだ、とは何ですか? 早くしないとあなたが『好きな』浅野舞が殺されるかもしれませんよ?」
――次は猿ぐつわにするか……
一瞬意識が飛んだ僕は、無意識のうちに宇佐見に手錠をかけ、ロープでつなぎそのまま外へ飛び出したらしい。
お前の所の組長、好きだから。
あぁ、今思い出しただけでも頭が痛くなる。こんな馬鹿警察が、舞様を好きだと……? いや、もしかしたら聞き間違いかもしれない。僕も切羽つまっていて――
「んっ、んんっ!」
「……おっと、また」
どこからか出てきた布が、宇佐見の口を塞いでいる……これで、とりあえず静かになった。
月も見えない黒い空。そんな中、遠くで囲むように電灯が並んでいる――優香さんと待ち合わせした公園へたどり着いた。僕はスピードを上げ、宇佐見を引きずるように引っ張る。
優香さんは、ベンチに腰をかけていた。遠くから見ても顔が青ざめているのが分かる。舞様の誘拐と、確実に関係ある。
「優香さん、遅れました」
「……あぁ、彼氏さん。今晩は」
彼女はぺこりと頭を下げ、立ち上がった。そして、もう一度大きく頭を振り――
「すみませんでした! 多分、いえおそらく……私のせいでっ……」
「詳しく、説明して頂けますか?」
「はい、えっと……!!」
彼女が目を丸くした。それと同時に、月の光が彼女を照らす。すると、彼女の体に異変が起こった。ガクンと首がうなだれたと思ったら、急にクククと喉を鳴らしながら笑った。
「……へぇ、アンタ達がターゲットの被害者?」
「……!」
態度、言葉遣いが今までと全く異なった。おどおどとしていた表情とは違い、今の彼女の目は自信にしか満ち溢れない目をしている――二重人格者? そんな考えが頭をよぎった。
「残念だったねー、もうそろそろ殺されるよ」
「なんだと?」
怒りがこみ上げた。受け答える声も、少し震えているのが自分でも分かった。
「あんな大きな豪邸に住むんだから、ただのお嬢様と思いきや……いやー、予想外。あの有名な浅野組の組長だったなんてね。あたしもあなどり過ぎてた。すぐに浅野舞のことを恨んでいる人に情報流して、あたしは大金ゲットってわけ。どうも有難う……ところで」
高笑いしながら、不思議そうな顔で宇佐見のことを指差す。
「それは、アンタの犬か何か?」
「……聞いたか、警察」
僕は猿ぐつわと手錠を外す。それとほぼ同時に、宇佐見は彼女に向かって走り出した。
「誘拐罪と監禁罪。それを知った上で情報を流すのは犯罪だ。お前を現行犯逮捕する!」
すると彼女は慌てずに言った。
「ちょっと、動かないでよ」
彼女の手には、黒光りする拳銃があった。僕はとっさに宇佐見を止めた。僕らの間に、冷たい風が流れる。
「あたしなんか相手にしていないで、舞を助けたら? しかたないわね、舞が監禁されている場所教えてあげる。ヒントは工場。洗いざらい探してみなさい。まぁ、間に合わないと思うけど」
優香さんが拳銃をしまったところを見て僕らは動いたが、
「私は善良な市民。アンタらはヤクザ。こんな真夜中に男二人で襲ってきたら……誰が来るでしょう?」
この公園の近くには、交番がある。間違いなく事情があっても、僕らが襲いかかったら負けだ。
「じゃあね」
はき捨てるように彼女はいい、闇に消えていった。
「……畜生」
宇佐見は歯を食いしばりながら言った。
「罪悪感が残っているのなら、さっさと追いかけて下さい」
「へ?」
「聞こえませんでしたか? さっさと優香さんを追いかけろ。あの人、二重人格者だ。正常になったときを狙って捕まえろ」
「そ、そう言う事か!」
どうして僕より頭が回らないんだか……僕はため息をついた。だが、彼は行動だけ早い。もう姿が見えなかった。本当に犬みたいなやつだ。
おっと、冷静にあいつのことを分析している場合じゃない!
「おいてめぇら、組長は市内の工場のどこかだ! 見つけ次第俺に知らせろ。いいか、五分内で見つけろ!」
無線機で、全員に知らせる。それと同時に、僕も走り出した。ここから近い、廃工場があるのは知っている。
――あんな短時間の間に、舞様を遠くまで運ぶのは不可能に近い。なら、逆に近くに置くという判断かもしれない……!
舞様、待っていて下さい。必ずあなたを助けます……この僕が。
作者「遅れてしまって申し訳ありません!」
舞 「ちょっと、いつになったら私の出番?(イライラ)」
作者「えっ、とぉ……また次回で会いましょう!!」
舞 「終わらせるなー!!」