HELP!
前半は『舞』、☆より下は『魁人』の一人称となっています。
二週連続視点が変わってしまってすみません。
……ん?
私はうっすらを目を開けた。映ったのは殺風景な部屋。全く見覚えがない。
「っ……!」
両手は縛られていて、タオルも噛ませられていた――思い出した! 誘拐……ね。
状況は極めて危険だったけど、私の脳はフル回転してくれた。どうにかして、逃げないと――!
この部屋には小さな小窓がついているけど、とてもじゃないが届かないし助けも呼べない。困ったな……!
ドアの開く音がした。私は睨みつけてやろうかと思ったけど、寝ているフリをすることにした。
「おい、起きろ」
あっ、なんだ。この人私を起こすために来たの……仕方ない、演技を続けよう。
「ったく、よく寝るお嬢さんだぜ。こっちはさっさと家の電話番号聞いて、金をもらえることが出来ればいいのによぉ」
……ヤクザ絡みじゃない。
私は驚いた。色々な所で恨みを買うような事してきたから、それの仕返しかと思って構えていたのに。お金で解決できるなら、今ここで交渉したい。たとえお金が返って来なくてもいい。警察に「被害届」が出せないし、ね。私は起きたように目を開け、驚いた顔を作った。
「お目覚めか」
「んん、ん……」
「おっと、これじゃあ話せねぇな――ほらよ」
案外あっさりとタオルを取ってもらえたのが幸運だった。
「……あの、私になんのようですか?」
「悪く思わないでくれ。簡単に言うと、お前を誘拐した。家の電話番号を教えてくれるだけでいいんだ。そうしたら、絶対に痛い目には合わせないから」
「分かりました。ですが、一つだけお聞きしてもよろしいですか?」
「なんだ」
「私は普段からあまり家の外は出ないような生活をしています。なのになぜ、家に私が住んでいることが分かったのですか?」
私はコレが一番聞きたかった。もしかしたら、情報源に原因があるかもしれないからだ。今ちょっとだけ嘘をついたけど、きっとばれないだろう。
「あぁ、スパイだよ。良い具合の人攫いを教えてくれるスパイがいるんだよ。裏の世界じゃ、結構有名なんだがな……お金に困らないようなお嬢様には、分からねぇだろうがな」
裏で、私の名前を知らない人の方が意外なんですけど――!! ツッコミたかったけど、今回はそんな雰囲気じゃない。
「ほら、こうやって写真を配ってくれるんだ」
その写真を見て、私は目を丸くした。コーラでヤクザに勝った時のだ。
「それにしても、こんな夜中に何してたんだよ」
「あの、いえ……ココアを買いに」
「……まぁいい。質問が済んだなら、こっちが聞くぞ。電話番号を……」
私は淡々と電話番号を言った。二度の確認をしてから、彼はうなづいた。
「素直なお嬢様でよかったぜ。だが、嘘をついているかもしれない。悪いがもう少しこのままにさせてもらうぞ」
彼は満足そうな笑みを残して、部屋を去った。
「……ふぅ」
すっごくお喋りな人だな……あんな根っからの悪じゃない人は、浅野組に入って欲し……いやいや、いくら優しそうでもこの私を危険な目に遭わしたのは変わらない!
あぁ、でも動けそうにないや。本当に何も持っていないし、なんだか眠くなってきた。魁人とウサギのことだから、きっとどうにか……。
誘拐されたのが初めてなだけあって、緊張が解けた瞬間急に睡魔が襲ってきた。そのまま私は、眠りについた。
☆
僕とした事が……!!
「――おいお前ら、聞こえるか!?」
僕は緊急時にしか使わない通信機を取り出し、仲間に向かって叫んだ。
『どうしました?』
「組長が誘拐された! 市外へ行く車を、今から全部見張れ! 何かあれば連絡を!」
命をかけてでも守れ。
僕は最後に言い残してから通信機を切った。
「……ヤクザって本当に怖いな」
僕の後ろでは、マヌケ面をしている宇佐見がいた。
「まだ優しい方ですよ、うちの組は。第一に――うちの組長は、警察のお前を殺してない」
僕は宇佐見に向かって拳銃を向けた。
「っ……! 何考えてやがる!」
「舞様はお前を信じた。だが、僕はまだお前を信じていない……単刀直入で言う。お前、署に連絡とって突き出してないか?!」
冷静沈着に考えて行動する僕だったが、今に限っては頭に血が上っていた。目の前にいるサツが犯人――と言うより、浅野組を裏切ったかもしれないのだ。
すると突然、宇佐見は僕の胸ぐらを――掴んだだと?!
「おいお前! 何を考えて……」
「馬鹿じゃねぇの?! 身内――って言うと変だが……俺は仮にも浅野舞と同級生だ! お前らに弱みだって握られてんじゃねぇかよ……。そんなことしない、絶対にだ。だって俺……」
お前の所の組長、好きだから。
宇佐見がそう言ったとき、僕の意識は軽く飛んだ。
もう少し、シリアスなシーン続きます……。