優香のヒミツ
今回は舞の親友『優香』の視点で書かせてもらっています。
あの日、あの時――
もう少し時間がズレていたなら。私がコンビニになんて立ち寄らなかったら。
舞ちゃんの正体を見なくて済んだのに。
塾の帰り、私はかけ足でにコンビニへと向かった。あそこのシュークリーム、とっても美味しいの。週末のお楽しみは、コレに限る!
私は満面の笑みで家に帰ろうとした。いつも通っている道が工事中になっていたから、私はちょっと暗い通りの方へ足を進めた。
少し歩いていると、誰かのうめき声が耳に入った。
「――?!」
私は急いで走った。誰かが倒れたのかもしれない。その場所へ近づくにつれて、激しい格闘音まで聞こえる。覗いてみると、かなり高めな背の青年と、サングラスをかけた女子が数十人に囲まれているのを見た。わぁ、どうしよう――!
その時、一瞬だけ――あの子は気づいていないようだけど、私はサングラス越しの『目』を見てしまった。紛れもなく……
「……舞ちゃん?」
声が出てしまった。でも、あの子――舞ちゃんの肩はピクリと動き、その場に固まった。それとほぼ同時に、私にかけられた声。
「組長! ここは俺に任せて逃げて下さい! そこの女、突っ立ってたらてめぇも怪我するぞ?!」
「っ……!」
私は訳が分からなくなってその場を逃げ出した。でも、本当に舞ちゃんかどうか気になってしまい、途中で足を止めて、現場へと戻った。
その時、またまた見てしまった光景。さっき私に叫んだ青年の声色が戻り、舞ちゃんに話しかけている所を見てしまった。
「舞様……大丈夫でしたか?」
「ウサギに助けてもらった。私もまだまだだね……」
曇り空だった空に、月の光が差し込んだ。その瞬間、私の意識はなくなった。
・・・・・・・・・・・・・
良い獲物見つけた……!
あたしはニヤリと笑いながらスマホを取りだした。そしてとても豪華な家に入っていく女の写真を撮った。――なんだ、あの変なしゃちほこみたいなやつは……。
呆れながらも、その写真をボスへメールを送った。
『良い家、見つけました。きっとそこの娘を誘拐したら、大金稼げますよ』
写真を添付して送信……これで準備OK。
「さぁて、帰りますか……」
なぜかカバンに入っていた、シュークリームを食べながらあたしは家に帰った。
・・・・・・・・・・・・・
「――ただいま……?」
あれ、いつの間に……?
「お帰り。どうしたの、やけにニヤけていたじゃない。彼氏でも出来た?」
「ううん」
私は首を振ってから、部屋に入った。
――ダメだ……またなんかやらかしたな私……!!
スクールバッグの中を見ると、シュークリームが消えている。あぁ、やっぱり勝手に――!
私は小さいころから感じていることが一つあった。不意に、自分の記憶が途切れる事が多々あるっていうこと。なぜ、そんな現象が起きるか分からず……そしてお母さんやお父さんにも話せなかった。でも、この前図書館へ行って自分で調べて、分かったの。
私は二重人格者なんだって。
それしか可能性がないと思った私は、思い切ってお母さんに打ち明けた。初めは笑って「冗談でしょ」とか言っていたけど、私は必死に訴えた。そうしたら、私の気持ちが通じたみたいで、信じてくれた。医者にも相談して、たった今治療中――
「他に、何かしていないかな……」
スマホはよく『もう一人の自分』に使われていた。暗号化してメールを送っている時が多くて、私はとてもじゃないけど読めない。
案の定、また使われた痕跡が残っていた。送信ボックスの所に、見知らぬ件名のメールがあったからだ。私は開いたけど、やっぱり読めない。でも、今回は写真がついていた。
開くと、そこには家――かどうかも分からないような豪邸に入っていく舞ちゃんの姿があった。サングラスを胸ポケットにさし込んでいたから、やっぱり舞ちゃんだったのね!
「いやいや、そうじゃなくて……!」
誰にメールを送ったの? 舞ちゃんの姿が載っている写真を――
悪寒が走った。私はすぐに舞ちゃんへメールした。今、何をしているのと。
『突然どうしたの? 私は元気だよ!』
三十秒以内で返信が返ってきたので、私は安堵の息を漏らした。
「よかったぁぁ……!」
時計と見ると、丁度十二時を回っている。
「いけない! 明日テストあるのに!」
私は机に向かって勉強を始めた。未だ何か残っているモヤモヤを払うように……。
あれから二カ月が経とうとしていた。
いつか話そう、と思っていても忘れっぽい私は、結局本人に言わないまま過ぎてしまった。そして、舞ちゃんの写真なんか忘れかけていた時起こった事件。
夜中に、舞ちゃんから電話があった。
「もしもし、舞ちゃん?」
「夜分遅くに申しわせありません。この前お会いした……舞の彼氏です。今、家の人から連絡があって『舞が消息した』と……優香さんは、舞の事、何か知りませんか?」
私は危うくスマホを落とす所だった。
「あ、あの……舞ちゃんが、いないんですか?」
「はい。きっと、これは誘拐だと思います。何か心当たりがあるのですか?」
「ごめんなさい。電話で話すような事ではないので、直接会って話したいです」
「舞から、優香さんの家は聞いています。向かってよろしいでしょうか」
「いえ、前会った、公園で会いましょう!」
「分かりました」
魁人さんはすごく早口で電話を切った。
私はパジャマを脱ぎ、少し暖かめの格好をして――お母さんたちに内緒で、外を出た。二人とも過保護だから、こんな時間に外へ出たいなんて言ったら絶対断れるもん。
ごめんね舞ちゃん。きっとその事件、私のせいかもしれない……。
私は公園へ向かって、全力で自転車を漕いだ。
作者「来週も更新します!」
優香「お楽しみにしていて下さいね!」
作者「あっ、セリフ……」