隠し通そうぜ大作戦!
え? もうカメラ回ってんの?!
ちょ、待って! こっちだって予定があるんだけど――!
私はとりあえず、カメラに向かってピースをした。すると、後ろから誰かが背中を合わせてきた。
「舞様……ちょっと、やばいです。そんな事している場合じゃないので、戦って下さい!」
「だ、だってもう始まっているらしいよ?!」
ちょっとした修羅場ですよ、こんな冷静に語る時間ないけどね――
この前追い払ったやくざ組が、人数増やして襲って来たの。人が寝る前のココアを買いに、外へ出てすぐ……運よく魁人を引っ張ってきたから良かったけど――私は早くココアを飲みたい!
困った事に、戦力になるものを持っていない。偶然ポケットに入っていたサングラスをして正体を隠しているけど――ってそれは関係ない!
「あ、そうか」
私はすぐ目の前にあった自動販売機でコーラをたくさん買った。もったいないな……あとでお金請求しよう。
「こんな時に何やっているのですか!」
私は、思い切り振って蓋をあけた――彼らに、向けた状態で。
「ぐあっ……!」
「この野郎!」
小細工でも、こう言うのはありって事で! 彼らが泡を払っている間に、私はスマホを取り出した。日頃からゲームで使い慣れているスマホのタイピングは、人並み以上なんだから!!
三分以内でパトカー連れて来て。か弱い高校生が、やくざに絡まれているよ。
ウサギにメールをした。これであらかたは片付いた――と思った。
「……舞ちゃん?」
私は後ろを振り向けなかった。その声は、紛れもなく優香の声だったから。
これはやばい――!
どうしても、優香と目を合わせられない。今はサングラスをしているし暗いから、完全にはばれていないはずだ。
魁人は優香と目を合わせず、いつもと違う低い声で叫んだ。
「組長! ここは俺に任せて逃げて下さい! そこの女、突っ立ってたらてめぇも怪我するぞ?!」
「っ……!」
優香は走り出した――と思う。足音が、徐々に遠くなっていく。帰ってくれたのだろう。
「……何やっているのですか、早く逃げて下さい。僕はもう少し片づけしてから行きます」
小さいけど、私の耳に届く声で魁人は呟いた。
「頑張って」
私は小さく頷き、狭い路地へと逃げた。後ろではかなり激しい格闘音が鳴り響いていた。
結構走ったかな。すごく疲れた……。遠くから、パトカーのサイレンの音がしている。
安心したその時、私の目の前が急に真っ暗になった。夜の暗さじゃない。何かで視界を奪われた。
「んっ……!?」
外すと、それはタオルだった。そして……
「この前はよくもやってくれたな!」
同盟を組んだはずの、やくざのボスが長めのパイプを振り上げた姿が目に映った。タオルに意識がいってしまい、避けようと思ったときには遅かった。やばい――
鈍い音がした。上の方から――上?
私はとっさに目をつぶってしまった。開けると、目の前に立っていたのはウサギだった。銃を、ボスに向けている。
「動くな! お前を署まで連行する! ついてこい」
「おい待て! その女が……!」
他の警官が駆け付け、ボスはパトカー行きになった。ウサギは、なにやら仲間と話して私の元に来た。
「……この程度なら、お前と魁人ってやつで終わるだろ」
「ココアを早く飲みたくて」
私は正直に答えた。こんな所で嘘をついたってしょうがない。
「お前は俺の腕より、ココアをとるのかよ……」
腕? 私は反射的にウサギの腕を見た。外傷はなさそうだけど、確かに痛そうだった。あのとき、私の代わりになってくれたんだ。
「これ以上話したら怪しまれるから、今日はもう帰った方がいいね……有難う。助かったよ」
「ん……気をつけて帰って下さい」
いつも見ていたウサギとは、何か違っていた。やっぱり警官としてしっかりしているし、頼りがいがあった。
ウサギと別れた瞬間、後ろから魁人に声をかけられた。息が弾んでいるところをみると、頑張ってくれたんだろう。
「舞様……大丈夫でしたか?」
「ウサギに助けてもらった。私もまだまだだね……」
なぜだろう。魁人が少し悔しそうな顔をした。でも、すぐにいつもの仏頂面に戻って私に話しかけた。
「それより、どうするんですか。あなたの友達……優香さんでしたっけ?」
「あっ、忘れてた?! どど、どうしよう?!」
「知りませんよ」
「明日、優香の反応見てみる。それでやばかったら、ちょっとした作戦会議開かないと。名付けて、『隠し通そうぜ大作戦!』」
「ネーミングセンス最悪ですね」
「うるさい!」