始まり
考えてみれば、私は幸せかもしれない。
成績は優秀。友達も、多い方だと思う。顔も、性格も――悪い噂は、聞いたことはない。
他の人から見たら、私は『勝ち組』だろう。
でも。私は普通の女の子になりたかった。
……なりたかったのよ!
「疲れたぁー……」
大きく伸びをしながら、私は学校を出た。夕日がまぶしくて、一瞬目がくらんだ。
「舞ちゃん、これから遊べる?」
誘ってくれたのは、高校生になって初めて友達になった優香。おっとりしていて、最近はあまりお目にかからない根っからの天然。でも、たまに核心をつく。天然キャラは、絶対に何かがあると私は睨んでいる――なんてね。
読者に教えながら、私は歩行をすすめた。
「ねぇ、遊べる?」
断る理由はなかった――私が、ごく普通の高校二年生だったら。
「……こ、これから予定あるんだ」
ダメだ、今日の笑顔は完全に引きつっている。なんて下手な演技しか出来ないの私……。今度から演劇部の友達に、教えてもらわないと。
「そっかぁ~、残念。でも、そんなこと言って二年近くたつけど毎晩なにしているの?」
入学当初から、私は友達の誘いをすべて断ってきた。遊ぶ暇は……私にはない。
「……? 舞ちゃん?」
「ご、ごめん! 本当にゴメン! 今日は、えっと……」
いつもならすぐ言い逃れするけど、優香の前になると何故か考えが浮かばなくなる。曖昧な返事をしてきたけど、ついにネタ切れだ。どうしよう、せっかく話がスタートしたばかりなのにいきなり会話が止まっちゃうとか?!
救いの神は、意外と近くにいた。
「……お疲れさま。帰ろう」
声の方を向くと、正門に寄り掛かっている人がいた。気配が無さ過ぎて、思わず通り過ぎるところだった。一瞬不審者かと思い――わ、思っただけで殺気が。
ここまで言っておいて、初めて会う人だったら私は世界中の中で一番無礼な人だろう。知り合いだ。優香はキョトンとした顔をした後、手を打った。
「あれ、彼氏さん?」
「はい?! いや……まぁ、そんな感じ! これからデートなんだ」
「そうだったのかぁ! それじゃあ私がいたら邪魔だね。お幸せに!」
優香はとびっきりの笑顔を私に見せて、不審者に会釈。「舞ちゃんをよろしくお願いします」ん?! て言うか、あんたもなんで笑顔で返すわけ?! 優香が遠くなって見えなくなった後、小さくため息をつかれた。
「僕は断じてあなたとは付き合いたくありません。さて、舞様。これから……」
「そんなの知ってるわ! 外で話す内容じゃないのは分かっているから、後で」
今まで作っていた笑顔を消した。絶対、誰かがこの顔を見たら逃げるだろう。それくらい、今の私の目は、暗い。不審者に見える人――魁人は、私の彼氏なんかじゃない。続きはウェブで。……嘘です。
私は持っていたスクールバッグを魁人に投げつけた。魁人は全く動じず、華麗にキャッチした後私に微笑んだ。……微笑んだ?
「こんな軽い物も持てないのですか? 太りますよ」
「……疲れたの。持って」
「これ、一㎏もないですよ。舞様の、四六分の……」
「あぁ、ごめんなさい! やだやだ、体重発表しないで――!」
引ったくりのように、私は魁人の手からバッグをとった。何年かかっても、この人の毒舌には勝てる気がしなくなってきた。
私は愚痴をこぼしながら、魁人と歩き始めた。
今歩いている道は、猫一匹通らない、何もない路地だった。太陽もほとんど見えなくなって、空が一気に暗くなった。そういう時、闇は動く。
「……右斜め後ろ」
私は不意に、そう呟いた。すると、魁人は私が指示した方向へと走っていった。
後ろで、鈍い音がした。
そして、地面に何かが落ちた音がした。今の音だったら……ハンドガンかな。悲鳴は聞こえない。これは、一発で気絶したな。
「こいつ、どうしますか」
背後で声が聞こえる。私は、後ろを振り向かないで指示した。
「殺さないでね。起こして、脅しておく程度でいいよ。次に私に銃を向けたら――次は無いってね」
「……わかりました。組長」
やっぱり私は幸せじゃない。
いくら成績優秀で、友達が多くても――私は、裏の商売をしている人は知らないと言われるほど有名な、浅野組の組長。
産まれた時から、そう言われて育った。
父、母よ。なぜ普通の女の子に産んでくれなかった!?
そんな可哀想なヒロインが、恋をしたりバトルしたり何でもする話です――!
え? ……もちろんお客様は神様! サービス精神は大切だもんね。私は、カメラ目線でピースをとった。
さぁ皆さん、舞台の幕開け……ですよ?!
舞「ねぇ作者」
私「な、何でしょう?」
舞「こんなスタートでいいの?! もっと私のすごい所とか、見どころとかアピールしなくて大丈夫?!!」
私「この時点で、大分キャラ推してますよ?!」