精霊科学校
世界で初めて精霊が発見されたのは、日本で立てこもり事件が発生した時だった、当時中学生だった現場に居合わせた少年が精霊の力を持って犯人グループを殲滅したのだ。
その後、世界各地でも精霊を体に宿したとする少年少女が発見され始め、精霊を宿したもののことを精霊を保有するもの「スピリッツホルダー」と呼ぶようになった。そして、各国政府はその力の研究と育成のための機関を作りだした。
その後の研究で精霊についてわかったのは、精霊が宿るのは中学生までの時期でそれ以上の年齢になると精霊が宿ることはないということと、精霊の姿は同じ精霊を宿した者同士でないと見えないこと、精霊は宿主に能力を付加するか、武器や防具などに変化するもの(この武器はだれにでも見える)がいること。これが、世界中の政府機関が調べてわかったことだった。
あれから半世紀、政府はスピリッツホルダーの育成に力を注いだ。そのために作られた精霊教育機関の学校は学費が他の所よりはるかに安く、また生徒のために、無償で寮を提供していた。
寮を提供している理由は、数年前に精霊保持者を拉致もしくはまだ幼い精霊保持者を暗殺しようとする事件が相次いだため、精霊保持者達は精霊が宿ったとわかると、親の同意のもと、保有する寮に入ることになる。もちろん、強制ではなく実家から通っているものもいる。
そんな中、一人の少年―久住海斗は走っていた。
今日は、入学式のある日だというのに寝坊してしまったのだ。
「あぁもう!こんな大事な日に寝坊するなんて!アキなんで起こしてくれなかったんだよ!」
海斗は、寮から飛び出し走りながら腕を顔の前に掲げ叫んでいた。すると、
『恨むんなら壊れていた目覚まし時計を恨むんだな。俺に文句言うのはお門違いだぞ』
呆れたように、腕から―正確に言うならば腕に付いている腕輪から声が聞こえてきた。
「それでも……起こしてくれたっていいじゃないか!」
『いや……気持ちよさそうに寝てたから起こすのも忍びなくてな……それに走れば間に合うぎりぎりの時間にはちゃんと起こしてやっただろ?』
海斗に宿っている精霊アキは苦笑しながら言った。
「確かに……走れば間に合う……けど!そういう……問題……じゃ…ない!」
だいぶ、息が切れてきて言葉がとぎれとぎれになってきた。
『おいおい大丈夫か?喋ったら余計に疲れるぞ』
しかし、もう返事する余裕もないのか海斗は無言で走り続けた。
その後、何とか入学式に間に合い会場に行くと、会場は様々な精霊が入り乱れていた。
肩にフクロウを精霊が乗っていたり、地面に大きな蛇が居たり、
「すごいな……」
あまりの光景に、海斗はそう感想を漏らした。
入学試験の時は試験期間ぎりぎりに受けたため、他人の精霊をいることもほとんどなかったし、海斗は精霊を宿してまだ半年も経っていないため普段の生活でも街中でたまにすれ違うだけで、こんなにたくさんの精霊が集まっているのを見たのは初めてだった。
「アキも元の姿になればいいに」
腕輪に向けて、海斗はささやいた。
『ふん。俺はあの姿が嫌いなんだ。他の奴らに見せるなんてごめんだね』
とあっさり断られてしまった。
「なんであの姿が嫌いなんだろう……か―」
あの姿を思い浮かべて、思ったことを言おうとした時
「会場の準備ができました。扉に近い人から順次会場にお入りください」
とスピーカーから声が聞こえた。
会場に入りしばらくすると
「みなさん。我が精霊教育学校第三校天璇に入学おめでとうございます。」
壇上に上がった一人の女性がしゃべりだした。
「私はこの学校の校長の水澄真由美(みすみまゆみ)です。あなた達はこの学校でこれから友と出会い、学び、助け合い大きく成長していくことでしょう。私はその手伝いがほんの少しでもできるよう努力していくつもりです。もし、何か要望等があったら是非とも校長室まで足を運んでください。どんな些細なことでも私は必ず生徒の声を聞き、できることなら叶えていきたいと思っています」
その後は、新入生代表、在校生代表の挨拶があり、それが終わるとクラス分けの紙が配られた。
自分のクラスに行こうと歩いていると、何かを探すようにキョロキョロと周囲を見渡している男子生徒がいた。
「何か探しての?」
気になって聞いてみると、その生徒は
「ありがとう……じゃあその……どこかでこの顔見なかった?」
そう言ってその生徒は自身の顔を指差した。
「えっと……昔あったことある人でも探してるのかな?」
意味が分からずそう聞くと
「あっ……えっとね。探してるのは僕の双子の兄なんだ会場を出るとき離れ離れになっちゃって」
そう言って再び周囲を見渡す。海斗も一緒に周囲を窺うと、少し離れたところに同じ顔を見つけた。
「あそこにいるのそうじゃないかな?」
相手に教えると
「ほんとだ。ちょっと呼びに行くから待っててもらってもいいかな?お礼もしたいし」
そう言って走り出し少しすると、二人で戻ってきた。
「まったく、探したんだよ朔」
「…………」
「えっ迷子になったのはそっちだろ」
「…………」
「白は今も朔を探してるんじゃないかな黒も?」
「…………」
相手が終始無言だったにも関わらず普通に会話をしていたことに唖然としていると
「ごめんね。探すの手伝ってもらって、僕は久住優也。でこっちが久住朔也。よろしくね」
「僕は藤縞海斗よろしく」
互いに自己紹介が終わると
『優。黒狼を見つけたが朔は見当たらなかった……ってもう見つけたのか』
そう言いながら、二匹の狼が歩いてきた。
「あっ白、黒ご苦労様。海斗君、これが僕たちの精霊白狼の白と黒狼の黒だよ」
そう言いながら、白と呼ばれた白い狼は優也のそばに、黒と呼ばれた黒い狼は朔也のそばに寄った。
「そういえば、海斗の精霊は?」
そう言いながら海斗の周囲を窺い
「もしかして……迷子?」
と遠慮がちに答えた。
『そんなわけがあるか!』
その答えに今まで沈黙していたアキが叫び返していた。
「うわ!びっくりしたな……何?姿見えないけど……カメレオンか何か?」
「あぁ違うんだ……こいつ……アキっていうんだけど、何か自分の姿が気に食わないらしくていつも腕輪に姿変えてるんだ」
腕輪を見せると
「へー……変わった精霊だね。精霊は仮の姿になるのを嫌ってるって聞くのに」
確かに、全ての精霊がこういった形態に変化ができるが、周囲の入学生を見ればわかるように皆この形態になるのを嫌っていて宿主に頼まれてもなかなか変化しないのが普通で、自分の意思で変化しているのは精霊の中でも変わり者の部類に入ると言えるだろう。
「元の姿の方がいいと思うんだけど……いくら言っても聞いてくれなくて……あんなにか」
『そんなことより……さっさと教室行かなくていいのかよ?』
言葉を遮るようにアキが言うと
「あっほんとだ!そろそろ行かなきゃ」
「僕はC組だけど二人は?」
そう聞くと、二人はもらった紙にじっと見て
「えっと……あっ一緒だ!」
「二人とも同じクラスなの?」
双子は別々のクラスになるかとも思っていたが
「…………(こくこく)」
朔也は無言で頷いた。
「じゃあ一緒に行こうよ」
そして、皆で教室に向かった。
最後まで読んでくれて方
心からありがとうです
初めて書いた小説なので読みにくいところやなんだこの設定?って思うところがたくさんあったと思います
それでも読んでくださり本当にありがとうございます