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姫の暴走

――――姫様は、下手すれば一生帰れません。


今なお、儚げに微笑んでいるチェイスの顔と一緒に、先ほど彼から聞いた言葉が頭の中で何度も何度もこだまする。


心臓をいきなりわし掴みにされたような衝撃からやっとのことで搾りたしたのは、自分で聞いていても笑えてくるような、そんな情けない声だった。


「ゴメン、チェイス。・・・ちょっと一人にしてくれる?」


「・・・はい。」









「下手すれば一生帰れない・・・か。」


チェイスが出て行って誰もいなくなった部屋の中、ベットに寝転がりながらつぶやいた言葉は一層空しく聞こえる。

簡単に帰れないということは分かっていたけれど、まさか一生なんてことは全然考えていなかった。


しかも、私をこの世界に連れてきたのはほかならぬチェイスだし・・・


自分の中にある感情をどう表したらいいのか分からなくて、とりあえずゴロリと寝がえりを打つ。

視界に入ってくる揃えられた家具と大きいはずの空間は、なぜかとても狭苦しく感じる。

まるで檻だ。


悲し・・・くはない。怒りを感じているわけでもない。

かといって楽しいわけでは絶対ないし・・・。


本当に、この世界に来てから分からないものが一気に増えた。


もう、分からないものだらけじゃない・・・。


考えるのに疲れて、柔らかな布団に顔を埋めれば意識が遠のいていく。

夢の世界へ引き込まれる前に浮んだのは、さっきまで「儚い」と感じていたはずの、チェイスの心底愉しそうな笑顔だった。



あれは・・・本当に微笑んでいたの?












アリスの部屋がある塔の最下階の廊下の突き当たりにある小さな部屋。

チェイスはその中に入って扉を後ろ手でパタンと閉めて、一人でふっと口元を緩める。


アリス姫様・・・あなたはもう逃げられません。


「ははは、あはははははははは・・・くっくく・・・はぁ。」


最初は少し笑みを浮かべていただけの顔が今では、狂おしいほどの哄笑に染められている。

立っているのも辛いと言うとうにしゃがみ込み、口を手で押さえて笑いをかみ殺したかと思えば

今度は

「・・・これで、やっとやっと始まる。」

さも嬉しそうに破顔する。


その瞬間


―――――ドゴォン!!


天地を揺るがすような音が響き渡り、塔全体がビリビリと震えた。


常人でも耳をふさぎたくなるような音に、兎の獣人であるチェイスは顔をひどく歪める。


・・・まさか!!


けれども音の正体に思い当り、脳天に五寸釘をうちこまれているような頭の痛みを振り切って部屋を飛び出し、急いで階段を最上階まで駆け上がる。


その階にあるただ一つの部屋の扉を乱暴にけり飛ばし、中に突っ込むと、布団の羽毛が飛び散り、大きく穴のあいた壁の横で、無残にも木片と化したベットの上に清藍の繭に包まれて宙に浮いているアリスの姿を確認してチェイスの顔から血の色が引く。

もともと白い彼の肌は、いまでは白を通り越してもはや青に近い。


っこれは・・・


目の前で、光に包まれ浮んでいる少女の瞳は死んだ魚のように濁っている。


魔力の暴走。


この世界では数百年間起きたことのなかった事態だが、それはそもそも魔力が溢れだして暴走するほどに魔力を持った人間がいなかったゆえの事。


だが、歴代の統治者を遥かに凌ぐ魔力を秘めているアリスの話となればそれは別だ。

しかも、この世界に連れてこられたばかりの少女は自分自身の力を制御できないばかりか、そんな恐ろしいほど大きな力が自分の体の中に存在することすら知らない。



くそっ、完全に俺のミスだ。

普通なら、アリスの心がもう少し落ち着いてから話すべきだったのに。


心が不安定な今、魔力がその影響をうけることは、少し考えれば分かることだった。


このままじゃ・・・姫様が危ない!!


漏れ出した魔力は目に見えるほど強く、それは持ち主の命さえも削り取る。

青色の光は弱まる気配もなく、焦って近づけばその濃厚な力に、胸が押しつぶされるような衝撃を受ける。


「くっ・・・なんて力だ。」


何とか前に進んで光の繭に手を伸ばせば、触れる寸前にバチッという音と、焼かれるように激しい痛みが体を駆け走る。

これが漏れ出した分のみの魔力のなすことなのだから、本当に眠っている分を考えると心底恐ろしい。


「うっ・・・くっ・・・。」

それでもなお、少女に触れようと激痛をこらえながら繭のなかに手を入れ、アリスのだらりと力なく浮んでいる体から垂れている手首を掴むと――――








「・・・や、め・・・て。」







そう、アリスが呟いた。


そしてそのまま、濁った輝きのない瞳から涙があふれて、それはポタリ、ポタリと頬を、服を伝ってチェイスの手に落ちる。


「・・・なん、で・・・。」


魔力が暴走している状態で意識が戻ることなどあり得ないのに。

ましてや、しゃべるなんて・・・。


この少女は・・・なんなんだ?


思わず痛みも忘れて、やっとのことで掴んだ細い手首を放す。

得体のしれない怖ろしさに駆られて光の繭から離れて後ずさると、それを待っていたかのように、少女は目をつぶった。


その瞬間、青い光はまるで今まで暴れていたのが嘘だったかのようにその色を段々と薄め、少しずつアリスの胸に吸い込まれていくように収まっていった。


「・・・っと、危ない・・・ふぅ。」




青色の光が完全に収まり、空中から落ちてきたアリスが地面にぶつかる前に慌てて抱きとめると、その寝顔を見てチェイスはホッと胸をなでおろした。


腕の中でコテンと首をかしげたまま昏々と眠る白い顔は、微笑を誘うほどあどけない。

さきほど泣く前に見せた、無感情に見えるはずなのに激しく哀愁を感じさせる表情とは似ても似つかなくて、その訳の解らなさにチェイスは一人苦笑した。




本当に、今回の姫はよくやってくれる・・・。



・・・先が思いやられそうだ。



抱えている少女を起こさないように慎重に抱き直すと、銀髪の青年は静かに部屋を後にした。











知っている人はお久しぶりです、知らない人はこんにちは、作者のcherryです。

さてさて、本当に読んでくれている方には五か月も待たせてしまってスイマセン!!と地面に頭をこすりつけて謝りたい所存でございます。

いや、もう本当にスイマセン・・・。

言い訳としましては、学校の忙しさが半端じゃないということなんですが・・・

はい、これも全部私めがヘタれであることに起因しています。

どうやったら趣味と学校生活を両立できるんだろう・・・うぅ。

時間の使い方が分かりません。

というわけで、これからも更新は亀の後方100メートルを爆走していく速さで行っていく思われますので、どうか温かい目で見守ってもらえると嬉しいです。

ではでは、何時になるか分かりませんがまた次話で!!(^.^)/~~~

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