目覚めと記憶
「んぅ・・・・・」
朦朧とした意識に、ぼんやりと見えるいつもと変わらない卓上の景色。
机の上に広げていた腕をどけると、見慣れた便箋と封筒があった。
いつの間に寝ていたんだろう。
おばあちゃんへの手紙を書いているときに寝るなんて
自分でもわからないほどに疲れていたんだ、きっと。
それにしても・・・・・
頭が痛い。
まるで金づちで殴られているみたいにがんがんする。
いったい、さっきのは何だったんだろう。
右手で痛むこめかみを押さえながら思う。
夢?
それが一番当てはまると思うけど、ちょっとだけおかしいとも思う。
夢にしてはリアルすぎるのだ。
あの不思議な空間にいるとき、体の感覚もあったし、五感がすべて働いていた。
何よりあの浮遊感がいまだに体に残っている。
たまに似たような夢を見るけど、今回はそのどれよりも現実味があった。
そして、どれよりもおかしな点が多かった。
しゃべるウサギのぬいぐるみが出てくるとはねぇ、しかも、姫様、とか言われたし・・・
いま考えて見ても、相当奇妙だと思う。
まぁ、でも思い当たる節がないこともない。
きっと、おばあちゃんの遺品を整理していたときに見つけた、懐かしい絵本と一緒に思い出した記憶が原因だ。
小さい頃、おばあちゃんはよく絵本を私が寝る前に読んでくれた。
両親を早くに亡くして、夜もさみしくて眠れない私を安心させるために、よく動かない手で絵本のページをめくりながら慣れない読み聞かせを優しい声で毎晩毎晩してくれた。
『白雪姫』に『赤ずきんちゃん』、『ロミオとジュリエット』などの名作は勿論、ほかにもいろいろな話をしてくれた。
そんななかでも、おばあちゃんが特によく読んでくれたのは・・・・なんだったか、名前は忘れたけど、笑うピンクの猫だったり、ぶつぶつ時計を見ながら両足で立って走る兎が登場したりする、とても非日常な世界に迷い込んだ女の子が主人公の絵本だった。
おばあちゃんはその物語が大好きで、私にその絵本を読んでくれるたびにほっこりと、しわくちゃな、でもほかのおばあちゃんと比べたらまだまだとっても綺麗なその顔をほころばせて言っていた。
――――アリス、可愛いアリス。おまえの名前はおばあちゃんの大好きなこの絵本の主人公の女の子と同じなんだよ。
私も、そう聞くたびになんだか、自分の名前がとてもきらきらしたすごいものに思えて、おばあちゃんが好きなその物語を、どんどん好きになっていった。
長らく忘れていたこの記憶。
その記憶を無理やり引っ張りだすような、絵本の山をつい先ほどいきなり見つけたんだから仕方がない。
思わず、この退屈な、色の無い日常から抜け出したいと思った。
おばあちゃんのよくしてくれた、あの非日常な世界に入り込みたいと思った。
でも、そんなのダメなのに、そんなのいけるわけないのに。
きっとおばあちゃんの『約束』はこういうことだったんだと思う。
――――アリス、本の中の世界に行きたいと思ってはいけないよ。
あぁ、思い出すたび、なんでか胸がざわざわする。
嫌な、とっても嫌な感覚。
まるで、大切なものがすっと知らないうちなくなっていくような・・・・
―――大丈夫、おばあちゃん。私はそんなあほなこと思いません。
第一、本の中の世界になんていけるわけないじゃないですか。
心の中でおばあちゃんとの『約束』に返事をして、なんとか胸のさざ波を鎮めようとしたとき
『本の中の世界行けますよ?』
可愛らしい、誘惑者の声がした。
はい、色々と至らない点もあるかと思いますが、とりあえず2話目です。
読みにくい点や、感想などあったらお聞かせください。
そして、余談ですが、高校に合格しました。
はい、とんでもない私ごとでスイマセン。
ともかくこれからもがんばるのでよろしくです。