放課後 〜友紀〜
「だぁ〜っ、俺、何やってんだ」
休み時間の度に、美結の席の近くをうろうろしてはいたものの、いつもの会話さえもできずに、隣の席の生徒に、邪魔だと怒られる始末で。
昼休みも、美結が教室に居なく、ラストチャンスの帰りのホームルーム後は、美結の兄が教室に迎えに来ていて友紀は近寄れなかったのだ。
この学校に一歳上の兄がいるのは友紀も同じなのだが、学校ではほとんど顔を合わさない。兄弟と兄妹では違うのかと思っていた。
なかなか美形な為、クラスの女子達は嬉しそうなのだが、友紀はいつも睨まれてる気がして苦手だ。さっと美結達の後ろを通り抜けて、そのまま部室まで来てしまった。
「王子とか呼ばれてるらしいけど、森野キャプテンのがかっこいいぞ」
「誰よりかっこいいって?」
いつの間にか後ろに立っていた森野の言葉に、驚いた友紀が慌てて振り返る。
「あわ、キャプテン、いや、あのですね」
口元に手をあてて、首を傾げた森野が、ああ、と思い出したように呟く。
「王子って二年の夏目のことだろ?」
モテる男同士で交流があるのだろうか、友紀が動揺しておかしなことを考えていると、森野が気の毒そうな顔をして友紀の肩を叩いた。
「もしかして、お前の彼女って夏目の妹か?あのシスコン王子の?」
気の毒そうな顔をしてるのに、何故か笑顔の森野を見て、友紀はますます落ち込む。小さい頃に母親を亡くした美結にとって兄は、忙しい父に代わって美結のそばにいてくれる大切な人だと聞いた事はあった。
朝は弱いらしく、美結が先に出てくるので、何度か一緒に登校できたのだが、帰りは教室にまで美結の兄が迎えに来る。今日もおそらく、あのまま帰ったに違いなかった。
「その様子じゃ、誘おうとして王子に邪魔されたな」
楽しそうに笑う森野について、友紀は肩を落として部室に入る。まだ誰もいない部屋で着替えながら、まだ楽しそうな森野に若干イラついて、友紀は乱暴にロッカーを閉めた。
「荒れんなよ。あとでメールすればいいだろう」
森野の言葉に、友紀はため息をつきながら、ベンチに座ってタオルで顔を覆う。
「彼女、携帯持ってないんですよ。兄貴が禁止してて」
「さすが、ぬかりない兄貴だな。まあ、でもなんとかなると思うよ」
着替え終わった森野が、何故か笑いながらグラウンドに向かうのを、ぼんやり見つめて、友紀も立ち上がる。
「なんとかって、ならないよな」
部室に入ってきた先輩達に、力無くお辞儀だけして、森野を追って友紀は走り出した。部室棟を出たところで、顔を寄せて話す森野と真冬を見つけると、友紀はますます落ち込んだ。
「マネージャー、顔、緩みすぎっすよ」
二人の横を通り抜ける時に友紀が呟くと、真冬は真っ赤になって森野から離れた。相変わらずおかしそうに笑う森野の手が真冬の肩を抱いたのを見て、友紀も真っ赤になってグラウンドに向かって走った。




