第5話 一緒に来て
東の町、早朝。
ネル、目を覚ます。隣のベッドにベラが寝ている。
起こさないように、ゆっくり宿の2階から降りて朝の散歩へ。
ネル「……綺麗な町並み。」
ネルの肩からカナエルが現れる。
カナエル「……今日は早いね。珍しい。」
ネル「……最近、カナエルと話せてない気がして。」
カナエル、びっくりする。
カナエル「ネル、別に僕に気にする必要ないよ? いい仲間達じゃないか。」
ネル「ううん、そう言うのじゃなくて。……あらためて、ありがとう。ついてきてくれて。」
カナエル「なんだ、そんなこと。むしろ僕がネルの心に置いてもらってるんだから、気にする必要ないよ。」
ネル「……カナエルはさ、夢とかあるの?」
カナエル「夢? 夢……か。」
カナエルは朝焼けを見る。
カナエル「……一つだけ、見てみたい景色がある。」
ネル「え! なになに?」
カナエル「この世界が本当に丸いのか、この目で見てみたい。」
ネル「世界が丸い? そうなの!?」
カナエル「いや、分かんないよ。自分で見てないんだからさ。向こうの世界ではそう教わってたから、こっちでも多分同じなんじゃないかって。」
背後から少女の声。
少女「あの……すいません。」
カナエル、びっくりしてつい隠れる。
ネル「わ! え、あ、私?」
ネルの目の前に少女。12才くらい。
少女「びっくりさせてごめんなさい……。私、アンナといいます。あの、あなたも冒険者……ですか? 服装が……その、そうかなって。」
ネル「はい! ……あ、ちがう! まだ冒険者じゃなくて……その、試験中なんだ。」
アンナ「そ、そうだったんですね……。」
アンナ、残念がる。
ネル「……何かあったの?」
アンナ「……私のお婆ちゃん、右手に火傷があるんです。薬草を塗らないと痛みがひどいらしくて……でも、その薬草が全然町に届かなくなったんです。」
ネル「……。」
カナエル「……。」
ネルとカナエル。沈黙の意味が少し違っていそう。
アンナ「……自分で探してみることにしたんですけど、一本も見つけられなくて……。お婆ちゃん、この一ヶ月間あんまり寝れてないんです! だから、冒険者の人を見かけたら薬草の取り方を知りませんかって、聞くことにしてて……。」
ネル「……その薬草って、名前とか、形とかわかる?」
アンナ「これです!」
アンナはすがるように図鑑の切り抜きを取り出す。
ネル「……マンゲツハコベラ!」
アンナ「知ってるんですか!?」
ネル「うん! 村にいる時よく摘んでたんだ! でもおかしいな、多くはないけど色んなところに生えてる薬草だよ……。」
アンナ「……探し方が悪いんでしょうか。」
ネル「小さな薬草だからね、マンゲツハコベラは夕方から夜にかけて少しの間だけ花を開くから、時間がよくなかったのかも?」
アンナ「あ……私、ずっと早朝に行ってました。日中は弟たちの世話があるので……。」
アンナ、満面の笑顔。
アンナ「ありがとうございます! 夕方に探すことにしてみます!」
ネル、笑顔。そして、朝日を見て焦る。
ネル「あ! ごめんね! みんなのところに行かなきゃ!」
走り出すネル。
少女「……あ! あの、あの! お名前……。」
朝の鐘の音。
東の町の冒険者ギルド、今までのギルドより大きい。
皆が集まった講堂。今までのものよりも小さい。
中年の男「……志願者諸君、おはよう。私は南べラール地方統括責任者、パスカル・ド・ロシュです。今から最終試験の説明を行います。」
講堂に集まった人数は、20人ほどになっていた。
小さなステージの壇上に中年の男パスカル。その背中は大きな布で覆われている。
パスカル「最終試験は"討伐依頼"です。諸君らには今から、指示書に書かれたモンスターを討伐し、その証をここへ持ち帰って来てもらいます。期限は3日後の夕の鐘が鳴るまで。鐘が鳴った時点で扉は施錠しますので、注意してください。」
係の女性が2名、パスカルの背後の布をつかむ。
パスカル「私が合図をして、その時点から試験開始です。討伐書は規定数用意していますが、基本的には早い者勝ちです。今から壁に貼り出されたものを見せますので、受けたい依頼書を剥がして係のものに申し出てください。」
パスカル、ステージから降りる。
パスカル「始め!」
係の女性が布を引き去る。
布で隠された一面に貼られた依頼書があらわになる。
圧倒される志願者達。
ドレッドヘアの女オークが飛び出す。
他の志願者、続く。
顔を見合わせるネルたち4人。頷きあう。
リンクス、軽やかにステージへ。
リンクス(……こりゃかなりの数だな。小型モンスターから中型モンスターまで様々だ。)
すでに何名か、依頼書を剥がしている者もいる。
リンクス(俺たちの力量を考えつつ……できればオオモノを狙いたい。そうすると……。)
リンクス、依頼書を1枚剥がす。
リンクス「こいつだ!」
ギルドの外。何組かのパーティが話し合っている。
ネルたち4人も立ち話。
ライチャード「ワイルドボアか! 肉食モンスターも迂闊に手を出せない、森の破城槌! いいところを突いてきたな!」
イザベラ「……D級クエスト。これは歯応えがありそうだね。」
ネル「……わいるどぼあ……!」
ネル、少し興奮している。
リンクス「行こうぜ! 俺たち”山猫突撃隊”の初陣だ!!」
ライとネル「おおー!!」
イザベラ「……そのパーティ名初耳だし、初陣はこの前やっただろ……。パーティ組むとも言ってねぇし!」
イザベラ怒りながら呆れている。
森の中。
冒険者が様々な場所で、それぞれ何かを探しているカットが続く。
日が傾き始める。
?「うおおおお!!」
ドレッドヘアの女オーク。素手で熊を仕留める。
サングラスをかけたドワーフの青年、樹上から降りてくる。
女オーク「……ふう。意外に手こずらされたね。」
ドワーフの青年「さすがだな。素手でグリズリーを倒すとはよ……。」
女オーク「こっからは頼めるかい?」
ドワーフの青年「おう、まかしとけ。」
ドワーフの青年、カバンに手を入れる。
その時、森の奥に何かが蠢く。
女オーク「……ちょっと待って。何か……森の様子がおかしくないか?」
ドワーフの青年「……。」
女オークとドワーフ青年、背中合わせになる。
ドワーフの青年、カバンに手を入れたまま。
それを遠巻きに、深い草むらから覗く視点。
光る二つの目。
画面変わる。
突撃するワイルドボア。その先にはライチャード。
ライチャード「ぬおおおおおおお!!!!」
ライ、持っている盾でワイルドボアの横顔を叩く。
ワイルドボア、バランスを崩して地面に突っ込む。
ボア「ピギィィ!!」
リンクス「ハァッ!!」
リンクス、飛びかかって剣を脳天に刺す。
ワイルドボア、絶命。
イザベラ「……”初陣"は上々だったね。」
ベラ、ネル、微笑みながら草むらから出てくる。
イザベラ「お疲れ様! ライ、まず腕見せて。」
ライチャード「む? いや、特に傷はないと思うぞ?」
イザベラ「何言ってんの! あんだけでかい図体のモンスターを引っ叩いたんだから、体を労ってやんないと……文字通り身がもたないよ。」
ライチャード「……そ、そうか。確かにな。」
ライ、ちょっと気恥ずかしそう。
ベラは腕を触り、肩や腰も軽く触りながらダメージをチェックする。
ネル、物足りなさそう。
リンクス「どうした、ネル? むすっとして。」
ネル「……だってさ。私またモンスター探ししかやってなくて……もっと魔法が上手く使えたら、みんなみたいに役に立てるのにな。」
リンクス「……ライが、昨日寝る時に教えてくれたんだけどよ。」
リンクス、真面目な横顔。
リンクス「騎士の時に何度も魔術師と組んだことあるけど、あれだけの魔法は見たことがない。とんでもない才能だ。あの子がいれば、俺は安心して体を張れる。……そう言ってたぜ。」
ネル、目を丸くする。
リンクス「俺、魔法のことはよくわかんねぇけどさ。普通は出したくてもあんな力なんか出せるもんじゃないんだろ? ネルはもう出まくってる力を抑えるだけ! それって、とんでもなくすげぇことなんじゃないかな?」
リンクス、くったくなく笑う。
ネルもつられて笑う。
ライチャード「よし! じゃああとは、ワイルドボアの牙を切り出すだけだな。……でも、どうやって切るんだこんな牙。」
ワイルドボアの牙、かなり太そう。
リンクス「……おー、そ、そうだな。これどうすればいいんだろうな。」
イザベラ「……期限までには切り出せるよね? さすがに。」
カナエル、急に出てくる。
カナエル「ネル!! 右!!!」
ネル「え! え! なに? 右!?」
その言葉に、3人がワイルドボアから顔を上げネルをみる。
ネルから見て右から、女オーク、ドワーフ青年が飛び出してくる。
二人は体が泥だらけ。小さい傷が身体中に付いている。
女オーク「……! おい! 逃げろ!!!」
女オークは4人に気づく。
ドワーフ青年、カバンから2つ宝玉を地面にまく。
宝玉が土に沈むと、その地面がせり上がり、泥のゴーレムが生まれる。
泥のゴーレムは二人が逃げてきた方面へ戦闘態勢をとる。
?「ゴシャアアアアア!!」
そこへ、大きな禍々しい蛇が現れる。
ライチャード「……こいつは!? ナーガ!!!」
イザベラ「ナーガ!?」
ドワーフ青年「聞こえなかったのか! 逃げるぞ!!」
泥ゴーレムは泥水をナーガにかける。泥が目にかかって、ナーガはイライラして振り払う。
4人と2人は、その場から全速力で走り逃げた。
一目散に逃げる一同、森を脱出。
女オーク「悪かったね。……巻き込んじまった。」
ライチャード「……驚いた。まさかこんな……ところに……ナーガが出るとは。」
ネル「はぁはぁ……ナーガ?」
イザベラ「……普段は南の密林で見られるそうだけど……猛毒を持ち、風魔法を使うモンスターだ。」
ドワーフ青年「……B級モンスターだぜ……見習いの俺たちが……手を出せる相手じゃねぇ。」
リンクス「ふいー……助かった。でもここどこだ……早く町に戻ってギルドに報告しねぇと。」
ネル、ふと足元を見る。
マンゲツハコベラ。
ネルの頭に早朝の出来事が蘇る。
青ざめるネル。
回想。
アンナ「夕方に探してみます!」
アンナの笑顔。
皆が何かを話しているが聞こえない。
大きくなる心臓の鼓動。深呼吸して、目を閉じる。
暗闇の中、大きな光の点。魔力の反応。ナーガだ。
その近くに、ふらふらと歩く小さな魔力の反応。
他の光の点はナーガから遠ざかっているのに、ふらふら歩きの光の点は明らかに違う。
ネル、愕然とする。疑念が確信に変わった。
リンクス「……ネル! 大丈夫か!?」
ネル、気づくとリンクスたち3人が近くにいる。
イザベラ「……ネル、大丈夫かい? 顔色がすごく悪いよ……?」
ライも心配そう。
ネル「……みんなごめん! 先に戻ってて!」
ネル、森の中へ走り戻る。
リンクス「あ! ネル!? おい!!」
声を振り払うように走る。
ネル(……私のせいだ! 私のせいだ! 私のせいだ!)
ネル、涙を流しながら走る。
カナエル「ネル! 落ち着け! まだ決まったわけじゃないだろ!」
ネル「……そう、そうだけど!」
ネル、木の根に足を取られて転ぶ。
カナエル「ネル!」
ネル「……うっ! うっ!」
カナエル「ネル、僕が言いたいのは……。」
ネル「わかってる……。カナエル……。」
ネルが怒りの表情で顔を上げる。
ネル「……カナエル! あの子を助けてあげて! お願い!!」
強力な黒い発光。ネルの目が赤く輝く。
黒ネル「……。」
黒ネル、一瞬でその場から消える。
森の奥。すでに時刻は夕暮れ時。
アンナ「はぁ……はぁ……! あっ!」
アンナ、小高い丘から足を踏み外す。
下へ滑り落ちる。
アンナ「うう……あうっ!」
足首に強い痛み。動けない。
アンナ「……うう……おかーさん……助けて……。」
周囲から、ズズ……ズズ……という低い音。
アンナ「ひっ……!」
上からのアングル。アンナはナーガの体に囲まれている。
アンナ「……あ……あぁ……。」
アンナ、恐怖で顔が歪む。
そこへ、上空から炎の槍が降る。
ナーガ、それに気づくが、次々体に炎の槍が刺さる。
ドドドド!!!
アンナ「……え。」
黒ネル、遅れてアンナの横へ着地。
黒ネル「……アンナ。迎えに来たよ。」
アンナ「……おねーさん!」
アンナ、涙が笑顔で吹き飛ぶ。
黒ネル「さあ、家に帰ろう。立てるかい。」
アンナ「はい! あっ! ……ごめんなさい、立てない……かも。」
足がズキンと痛む。
黒ネル(……困ったな、どう運ぼう。こういう魔法は試したことがあんまないぞ……練習しておくべきだったな。)
その二人に、鋭い眼光が投げられた。
黒ネル、思わず振り返る。
ナーガ「……ギシュアアア……!」
黒ネル「……仕留め損なったか!」
黒ネル、再び恐怖しているアンナを見る。
黒ネル(……迷ってる場合じゃない!)
黒ネル、アンナを抱き寄せる。二人の足元を光の風が渦巻く。
黒ネル「……アンナ。しっかりつかまってて!」
アンナ「は……はい!」
ドシュッ!
黒ネルは大きく踏み出して、二人の体が宙を舞った。
アンナ「……う……うわあああ!」
その二人をナーガの眼が見つめ……そして光る。
二人は急な向かい風に押し戻され、地面に引き戻される。
黒ネル「……何!?」
バランスを崩した態勢を何とか戻そうと、カナエルは魔力をコントロールした。
アンナはカナエルの魔法により柔らかく腰から着地した。カナエルは木の枝に体をぶつけた。
黒ネル「うっ!!」
背中に鋭い痛み。地面に落ちる。
黒ネル(……しまった! あの時、情報をもらっていたのに……!!)
カナエルの回想。イザベラがナーガの説明をしていたシーン(ナーガは風魔法を操るという情報提示のシーン)。
ナーガはアンナの方へ狙いを定めた。
黒ネル「……まずい!」
カナエルの思考が巡る。
黒ネル(高火力の魔法じゃ、位置的にアンナを巻き込みかねない! なんの魔法なら……!?)
次の瞬間、見慣れた大男。
ライチャード「うおおおお! こっち向け、ヘビィィ!!!」
ナーガの眼前へ突っ込むライ。
頭を盾で強打し、脳を揺さぶる。
ナーガが狙いを変え、ライへかみつこうとする。
ライが盾を口に突っ込み、時間を稼ぐ。
リンクス「行くぜ! 西風の瞬撃!!」
リンクスが目にも止まらぬ一撃で、ナーガの目を切り結ぶ。
よく見ると、ライもリンクスも、淡い光に身を包まれている。
そこから少し離れたところ。呪杖を携えたベラが二人に向かって強化魔法をかけ続けている。
ライチャード「今だ! ネル!!!」
カナエルが気づいた時には、ライがアンナを抱えてその場を離れていた。
気づけば、ナーガが一匹。孤独にそこにいた。
黒ネル「……みんな。」
黒ネル、微笑む。次の瞬間、頭上に大火球。
黒ネルが手をかざすと、一瞬でナーガの元へ着弾。
爆音と共に、ナーガは消し炭に変わる。
煙の中、黒ネルは目を瞑る。体から黒い光が消え、目を開くと藍色の瞳に戻る。
イザベラ「……ネル! ネル! 大丈夫? 傷だらけじゃないか!!」
ネル「……ベラ。大丈夫、すり傷だよ。」
ライチャード「嬢ちゃんは大丈夫か?」
アンナ「あ……ありがとうございます。」
ライ、アンナを下ろすが、すぐへたり込んでしまう。
ライチャード「……無理するな! ベラに診てもらうから、そしたらまた背中を貸そう!」
リンクス、ネルの元へ走り寄る。
リンクス「ネル! 心配したぞ!」
ネル「……みんな、ごめんなさい。私のせいなの。アンナが森に入ったのは、私が余計なことを言ったから……。」
ネル、頭を下げながら俯く。
3人は、事情が飲み込めないまでも、文脈は理解した様子。
リンクス「……ネル。事情はよくわからないが、俺たちが言いたいのはそういうことじゃない。」
ネル、顔を上げる。
リンクス「言葉、間違えてたぞ! “先に戻って”じゃなくて、”一緒に来て”だからな! 次は間違えんなよ?」
そして満面の笑顔で親指を立てた。
ネル、泣きながら満面の笑顔を返す。
ネル「うん!」
カナエル、微笑んでネルの肩から引っ込む。
夜。森の周囲に、松明をもった兵士がうろうろ。
アンナの家。泣きながら母に抱きつくアンナ。アンナのカバンにはマンゲツハコベラ。
遠目に笑顔で眺める4人。
翌朝。男子部屋で寝相悪くライ、リンクスがぐっすり寝ている。
女子部屋でネルとベラがぐっすり寝ている。
日はすでに昇っている。
冒険者ギルド。
クエストカウンター。集まる4人。
依頼書とともにボアの牙を出す。ついでにナーガの牙も出す。
慌てる受付。奥から少し偉そうな人が出て、ナーガの牙を見て慌てる。
町の護衛兵士、ギルド騎士団員まで集まる。皆、ナーガの牙に驚く。
執務室。パスカルが座っている。リンクスは少し緊張して、ライは堂々と、ベラは眠そうに、ネルは笑顔で立っている。
パスカル「諸君ら4人は一連の試験を極めて優秀な成績で突破しただけでなく、突如として現れたナーガをも見事に討伐をしたと報告を聞いている。」
パスカルは手元の紙を机上に置き、手を組んだ。
パスカル「リンクス・オーバーダート! ライチャード・ヘディクス! イザベラ・トルディロージャ!」
それぞれの顔のアップ。
パスカル「そして……ヘレネリア・キトロスの4名を、C級冒険者として特任する!!」
勇ましい笑顔のネル。顔のアップの大コマ。
※本作品は賞応募規定を満たすため、この話で終了です。お読みいただきありがとうございました。
※「魔王は紅茶を愛した」「魔女の処刑人」など別作品もどうぞ併せてお読みください。




