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【離界の悪魔】元eスポーツ王者は異世界で、魔力無尽蔵・魔法の才能0の少女を操る。  作者: 鈴木井蛙


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第1話 離界の悪魔(イグザルのあくま)

 eスポーツ決勝戦の会場。

 観客は満員。みな会場中央の、メインステージに釘付け。

 2チームが向かい合って座っている。5対5のチーム戦。


 司会「止められなーい! カナエル選手の戦略が見事に刺さっています! スコアは大きく開いているゥ!」


 解説「いやー……脱帽ですね。カナエル選手、まさかここで最弱キャラを投入してくるとは……。」


 ゲーム画面が選手の背中越しに描写。サイバー系FPSが映っている。

 青チーム、全滅。


 司会「ここで青チームが全員ダウン! このマッチもカナエル率いる赤チームが取りました! 一旦ミーティングタイムが挟まります!」


 タヌキのキャラがゲーム画面で満面の笑顔。

 それを見た青チーム、各々ヘッドセットを乱暴に外して立席。

 ステージの端に集合。


 敵選手A「……くそ! あれの対策なんてしてるわけねーだろ!」


 会話の後ろには、先ほどのタヌキのキャラ絵。さっきより嫌味な笑顔を浮かべている。


 敵選手B「……どうする? 今から対策なんて無理だぞ……。」


 敵選手C「カナエルと真面目に向き合う必要ねーよ! あのキャラが見えたら無視! 他でスコアを取るしかないって!」


 敵選手D「……そうだな!」


 青チーム全員頷く。その間、赤チームはすまし顔で座っている。

 カナエルは5人の真ん中に座っている。黒髪で顔には幼さが残る。悠々とミネラルウォーターを口にする。

 青チームの面々は苦々しく見て、それぞれの席に戻る。


 司会「さあ! 最終ゲームゥ! スターーーーートォ!」


 ゲーム画面。青チームのキャラは集団速攻。

 突如、1人が脳天を撃ち抜かれダウン。青チームのメンバー、一瞬止まる。

 画面に「ダウン:Canael→Misonikomi」の表示。


 解説「ああっ! これは! ……カナエル選手、ここでいつもの持ちキャラに戻しています!! なんて男だ! スコアが2倍になるこの最終マッチで!! 悪魔だ! この男悪魔です! 冷酷無比な狙撃(スナイプ)が青チームをおそおおおおおおう!!」


 青チーム、瞬時に全滅。


 司会「青チーム、全員ダウンです!!! あまりにも残酷なエンディングだ!! スコアに大差をつけて……カナエル選手率いる赤チームARCHDEVIL(アーチデビル)が優ーー勝ーー!」


 ARCHDEVILと呼ばれた赤チームのTシャツ。

 炎を模した悪魔のマスコットのプリントにカメラがクローズアップ。

 カナエルを先頭に、不敵に微笑みながら赤チームは控え室に戻る。


『控室──』


 仲間選手A「見事にハマったな! 昨日のミーティング前に言われた時はマジで焦ったけど……。」


 カナエル「……ごめんごめん。まあ、相手が彼らじゃなかったら出さなかったけどね。」


 仲間選手B「お前、どんぐらいあのキャラやりこんだんだ?」


 カナエル「……まるまる一年……かな。怪しまれないように毎日1時間ずつ睡眠時間削って、配信切った後にサブPCとサブアカウントで動きを覚えた。アホほど勝つと目立つから、スコア調整してわざと負けたりもしたよ。」


 仲間選手C「……俺、お前とチームメイトで良かったと心から思うよ。」


 フォーマルスーツにブラウス姿の女性マネージャーがドアを勢いよく開いて入室。

 手にはスマホを持っている。


 マネージャー「みんな! チーム優勝おめでとう!」


 選手は全員立って、会釈をした。


 マネージャー「特にカナエ君は個人戦に続いて大会内連覇ね! すごいわあなた!」


 カナエル「……ありがとうございます。」


 カナエルの表情には、微かに浮かない色合いが見て取れた。


 マネージャー「優勝祝いの記事出てるわよ! "世界的大ヒットゲームEXSUL 15才の王者『忍足しのたり かなえ』の素顔”! もう読んだ?」


 仲間選手A「あ、いえ……今戻って来たばかりで。」


 マネージャーは気恥ずかしそうに手を振った。


 マネージャー「あ、そっか。ごめん!」


 カナエルは赤面してうなだれている。


 仲間選手B「……マネージャー。やめてあげてください、恥ずかしがってるんで。」


 仲間選手D「そういうのは祝賀会でいいじゃないッスか!」


 カナエルはソファに腰を下ろす。深呼吸して、口を開く。


 カナエル「すみません。ちょっと疲れたみたいで……奥の部屋で休んでていいですか?」


 マネージャーは心配そうに聞く。


 マネージャー「もちろん構わないけど……大丈夫? 先にホテル戻っていてもいいのよ。」


 カナエルはバツ悪そうに答える。


 カナエル「ありがとうございます。大丈夫です。」


 カナエル、控室の奥の部屋へ。ドアを閉める。テーブルにスマホを置く。

 画面には「母:優勝おめでとう!今日ぐらいは練習やすんでね。一週間ぐらい観光楽しんで!」の文字。


 カナエルはショルダーバッグから鉛筆とノートを取り出して急いでページを捲る。

 そして凄まじい勢いで文字を描き込み始める。


 カナエル「……一戦目。開始18秒、画面には敵が表示されていたが察知できていなかった。直後のポジショニングに難あり。47秒時点で最初のダウンを奪う。得点に絡むのが遅かった。1分過ぎてからD地点に行く判断は妥当だったが、結果論としては失敗。パワーを遊ばせたままマッチが進んだことはチームの損失だった……。」


 カナエルのくすむように歪んだ眼を、下から見上げる構図。

 執念が黒い霧となってその体に纏わりついている。


 カナエル「二戦目。開始22秒でチームの速攻が決まったものの、相手から思った以上に冷静に対応されてしまった。37秒時点で僕がダウン。相手のリポップのタイミングを数え間違えていた。指示出しでチームに貢献できたものの、僕のアベレージから考えれば0.5ポイントの損失を出してしまった……。」


 カナエルはエナジードリンクを一缶開けた。


 チームメイトのカット。インタビューを受けたり、ケータリングの食事食べたり。


 カナエル「……こんなんじゃダメだ。こんなんじゃダメだ。こんなんじゃ……。」


 うわごとのように呟いている。すでにエナジードリンクの空き缶が数本。


 場面は転換し、大空。綺麗な晴天に穏やかな雲。


『eスポーツ事務所カルペディエム "弊社所属選手に関する大事なお知らせ"

 平素より弊社eスポーツ支援事業にご理解いただき、誠にありがとうございます。

 去る●月●日、弊社EXSUL部門所属Canael選手(本名:忍足 叶)が心不全により夭逝されました。

 弊社一同、同選手のご冥福を心よりお祈り申し上げます。なお葬儀については──。』

 


 場面、暗転。



 声「……さあ、そろそろ起きて。」


 目が開くように、暗転明け。


 パジャマ姿の幼女が目を開ける。ぽやんとした表情で、正面を見ている。

 髪の毛は寝癖で跳ねたり、毛束が揃っていなかったりの薄いピンク色のプラチナブロンド。

 朝日越しに輝いている。眼は宝石のような濃く深い藍色。

 話しかけていたのは、この幼女の母親である。

 身なりは近世ヨーロッパ風の平服であり、上下ワンピースの長袖ロングスカート。

 腕は袖捲りをしている。


 母「今日からお仕事が忙しくなるんだからね。ほら、朝ごはんにするわよ。」


 幼女「……はーい。」


 幼女は両手でぐしぐしと瞼をこする。後ろ向きにベッドを降りて、靴を履く。

 ドアを開けっぱなしで部屋から出て行く。

 幼女は食卓の用意された部屋に入り、登るように椅子に座る。あくび。

 パンとチーズと、牛乳とが目の前に出された。


 母「ネルには悪いんだけど、私ももう行かないと。何かあったら大声で呼んでね。」


 母はそう言うと、いそいそと食卓から離れる。

 そのまま小走りで外出。


 ネル「……はーい。」


 ネル、もう誰もいない空間に向かって返事。

 目を半分開けながら、食事を始める。牛乳のコップが落下しそう。

 チーズに手を伸ばした瞬間、まさにコップが落下。

 と、コップは急に空中で停止。コップは不自然に持ち上がり、何事もなかったかのように食卓に戻る。

 ネルはコップを見ることもせず、眠そうに食事を続けた。


 場面変わって、養蜂場。

 ネルの父と母が、蜂蜜をゆっくり採取している。ひと段落ついたところで、二人は切り株に腰を下ろす。


 父「……あの子の様子はどうだった。」


 母「ええ。今日は落ち着いていたみたい。」


 ※ここからカットイン。会話は父と母。画面はネルの側へ。


 場面はネルの食卓。ネルは既に食事を終え、小さなワンピースに袖を通している。

 ネルは玄関のドアを開けっぱなしにして、外出。

 画面は少しドアに残る。ほどなく、ドアが勝手に閉じる。


 父「礼拝中に急に大声を出すなんてな……。」


 ネルの笑顔のアップ。ネルは穏やかな陽の中、小道を走る。


 母「……きっと、少し敏感なだけよ。次からは一番後ろに席を作ってくださるそうよ。」


 父「ああ、それはいい。司祭様には感謝しかないな。」


 遠くの草原で、子供十名ほどが仲良く遊んでいる。

 ネル、引率の教会司祭に気づく。真顔。

 振り切って、また走り出す。


 空を鳥が飛ぶ。花畑を蝶が舞う。ネルは笑顔で自然を味わう。

 ふと、道端の花にミツバチが止まっていることに気づく。


 ネル「……あれ? あなた、どこのこ? うちのこじゃないよね?」


 注目されたミツバチは逃げるように飛び立つ。


 ネル「あ、まって!」


 ネルは夢中でミツバチを追いかける。脇目も振らず、森の中へ入る。


 場面変わって、蜂蜜の精製場。


 母「……あなた。ネル、来ていないわよね。」


 作業中の父に、母が話しかける。


 父「そういえば来て……ないな。」


 父が汗を拭き、顔を上げる。


 母「あの子、家にいないのよ。ご飯は食べ終わったみたいなんだけど……。まだ村広場の方は行ってないわ。」


 父「また、森で遊んでるんじゃないか?」


 母「私、心配よ。この間、アルノートンさんの所の羊が何頭か……狼にやられたらしいわ。」


 父は途端に表情をこわばらせる。


 父「……僕も行くよ。大丈夫、すぐひょっこり出てくるさ。」


 母「……ええ、そうよね。ごめんなさい、忙しい時に。」


 画面は、作業場を遠く望む草むらに寄る。

 蜘蛛の巣にかかったミツバチが一匹、もがいている。


 森の中。ネルはあたりを見回している。ミツバチは見失った様子である。木漏れ日はすでに夕日めいてきていた。


 ネル「あれー……おともだちになれると思ったのに。」


 ネルは大樹の根元にちょこんと座る。


 ネル「……しずか。きもちいいなー。」


 風が吹き抜ける。葉の擦れる音が森に響く。


 ネル「……きょうかい……もういきたくないな。」


 ネルの元にリスや小鳥が集まってきている。

 ふと見ると、トカゲが近くで日光浴までしている。


 ネル「……おうち、どっちだっけ。」


 ネルは周りを見渡すが、どの方角も同じような景色。

 焦りが伝わったのか、動物達はみな足早に逃げ出した。


 ネル「おかーさんに……おこられちゃう。」


 ネルの目に涙が浮かび始めた。

 そこを、木陰から狼がネルを覗き見ている。着々とその頭数を増やしている。

 ネルは気づきもしていない。


 急にネルの頭の中に声が響く。


 ???「……ネル? ネル!」


 ネルは驚いて立ち上がる。


 ネル「……え? だれ?」


 ???「え? 誰? あ、そうか。えーっと……あのー……ぼ、僕はカナエル。」


 ネルはきょとんとした。そして急に破顔。


 ネル「あー! あなたてんしでしょ! おはなしできたの!?」


 カナエル「え? 天使? あー……まあ、そうかな。僕は天使カナエル……でいいかもう。」


 ネル「わたしずっときづいてたよ! わたしのこといつもまもってくれてるでしょ!」


 カナエル「あ、まあ、守ってたというか……コップ拾ったり、ドアを閉めたりだけど。」


 ネル「いつかてんしとお話したいなって思ってたの!」


 カナエル「そ、そう。いやまあ、そうじゃなくて、ネル! 狼たちが君を狙ってる。このままじゃ君が危ない!」


 ネル「え? ……あ、むらのひつじさんを食べた子かな?」


 カナエル「多分ね。だから……ここは僕に任せて欲しい。」


 ネル「カナエルに?」


 カナエル「そう。やることは簡単だからよく聞いて。目をつぶって、ゆっくり深呼吸するんだ。夢を見る時みたいに、ゆっくりと。できるかい?」


 ネル「……カナエルがそういうなら、やってみる。」


 ネルは木の根っこに再び座りこむ。


 カナエル「ネルならできるよ! ベッドで寝るようなイメージをして……。」


 ネルは静かに深呼吸しはじめた。


 カナエル「……そして、最後にこういって欲しい」


 ネル「……なんて?」


 カナエル「カナエル、君に任せる。と。」


 ネル「……カナエル、あなたにまかせる。」


 途端、ネルの姿から黒紫の光が迸る。

 柔らかかったネルの表情は鋭さを帯び、プラチナブロンドも風に巻き上がるようにはためき出す。

 ※これ以降、「カナエルが操るネル」のセリフと指定は”黒ネル”とする。モノローグはそのまま記述する。


 カナエル(……相変わらずすごい魔力だ。森中の動物の気配までこんなにも感じ取れる。これじゃあ、人手の多いところでは叫びたくもなるよな。)


 木陰から様子を伺っていた狼達は、襲撃をためらう。


 カナエル(本当はもっと段階を踏みたかったけど……ネルがすんなり受け入れてくれて良かった。)


 狼たちは戸惑いながらも黒ネルへにじり寄る。


 黒ネル「かわいそうだけど、来るなら覚悟しろよ。」


 黒ネルの視界。夕闇の中に狼達のシルエットを視認。それらはぼんやり発光している。


 カナエル(……遮蔽の向こうの敵まで見えるぞ。チートだろこれ。)


 光の帯が禍々しく黒ネルの元へ伸びる。


 カナエル(おいおい、これまさか……。)


 その光の帯を追うように、狼が一匹飛びかかってくる。

 黒ネル、わけもなく回避。

 すれ違いざまに雷魔法で気絶させる。


 狼「キャウン!!」


 カナエル(攻撃予知まで見えるのかよ……。)


 そして背後から複数の気配。


 黒ネル「……!」


 察知した黒ネル、狼2匹の襲撃を見ずに避ける。

 また雷魔法。2匹が気絶。


 黒ネル「……まるで訓練されたような動きだな。」


 違和感を覚えるカナエル。集中。

 木々の奥に、大きな魔力の反応。


 黒ネル「……。」


 黒ネル、決心。足元に風が集まる。一気に跳躍し、森の奥に。


 巨大な狼「……!?」


 黒ネル「……やっぱりか。この雰囲気……ただの狼じゃない。これが魔物(モンスター)か。」


 巨大な狼「グルル……。」


 巨大な狼、黒ネルを見て警戒。少し後退る。

 代わりに群れの狼が一歩、黒ネルに近づく。数は20くらいに増えている。


 黒ネル「……逃げるつもりか。」


 黒ネルの視界では、巨大な狼からは森の奥へ光の帯が伸びていた。


 巨大な狼「アオオオオーン!!」


 その遠吠えと共に、群れの狼が一斉に黒ネルへ襲いかかる。


 黒ネル「悪いけど、モンスターは見逃せないな。」


 狼達は黒い霧に包まれる。途端、地面に臥し動けなくなる。

 巨大な狼も地面に押さえつけられている。


 巨大な狼「アウ? ……クゥーン……!」


 黒ネルが少し近づく。


 巨大な狼「!?」


 巨大な狼、頭上の発光に気づく。見上げると大きな火の玉。

 火の玉が沈み込み、巨大な狼が飲まれる。森を揺らす轟音。


 黒ネル「お前らは見逃してやるよ。村には来るんじゃないぞ。」


 黒い霧が狼達の体から消える。群れの狼達、困惑しながら森の奥へ逃げる。


 カナエル「……ここまで魔法を使っても、まだまだ魔力が余ってる……。近いうちにお願いしてちゃんと練習させてもらおう。」


 黒ネル、雷を纏った高速移動。

 後には小さな電流がジジ……と、残っている。


 夜。村の集会所には大人達が集まっていた。


 村人A「……どこにもいないみたいだ。マルコさんが町まで行ってくれてるから、あと1時間くらいでは戻ってくると思う。」


 父「……皆さん、ありがとうございます。」


 母「私のせいだわ……私があの子を置いていったから……。」


 ネルの母は父に抱えられながら椅子に座って号泣。


 村長「あの子は大丈夫だ、きっと見つかる。明日、村のみんなに冒険者ギルドに依頼を出せないか相談してみよう。なんとか持ち寄れば、報酬金も出せるはずだ。」


 父「……いえ……それはさすがに……。」


 ランタンを持った村人が何人か戻ってくる。そして首を横に振る。

 父はその様子を見て、悲壮な表情を浮かべる。

 村人たち村長の近くへ。心地悪い静寂。


 突然、集会所のドアが静かに開いた。明るい表情のネルが立っている。


 全員一瞬凍りつく。母が椅子から立ち上がり、ネルに向かって走り出す。そして力強く抱きしめる。


 母「……ネル!? ネル!! ごめんね! 私が……私が置いてけぼりにしたから……。」


 ネル「え、いたいいたい。やめてよ、おかーさん。」


 父「お……驚いた。どこにいたんだ、ネル。てっきり森に入ったものだと……。」


 父がネルの様子を見る。靴には泥や砂がついているが、衣服はまったく汚れていない。


 ネル「もりにはいったよ。オオカミさんたちにかこまれちゃった。」


 集会所はまた凍りつく。


 村人B「ネ、ネルちゃん。どういうことだい?」


 ネル「あのね、てんしがまもってくれたの。わたしのてんし! カナエルっていうの!」


 全員、絶句。



『10年後──』


 ネルの村。ネルの家も、養蜂場も、作業場も変わらずそのままである。

 父と母はどこかぎこちなさそう。


 母「……司祭様はなんて?」


 父「だいぶ落ち着いていると仰ってたよ。」


 母「……毎日様子を見せにいかないといけないなんて……まるで囚人かなにかよ。」


 父「……しょうがないよ。村のみんなは……あの子を怖がっているんだから。」


 母「あなたまであの子を”悪魔憑き”なんて言うの!?」


 父「そうじゃない……そうじゃないよ。」


 父は水を注ぐ。


 父「来月には、帝都の司祭様が近くに来られるそうだ。そこであの子の様子をゆっくり見てくださる。……なにも心配はいらないよ。」


 母「ええ。ええ……そうよね。」


 父「さあ、昼食の用意をしよう。今日はネルの好きなパンケーキを作ってあげたいんだ。教えてくれるかい。」


 母は笑顔を取り戻した。


 画面はネルの部屋。窓は開け放たれており、机の上に一葉の手紙。


 場面は変わって、村の郊外。草原の間の長い長い道を、15歳になったネルが一人歩いている。肩までの丈の髪を靡かせ、身軽そうな服装。


 肩から、黒煙姿のカナエル。


 カナエル「……本当にいいの? 手紙一枚だけでさ。心配……すると思うけど。」


 ネル「だーいじょーぶだって! 毎月手紙は書くつもりだからさ! ねね、そんなことよりさ! カナエルは15歳でもう世界を旅してたんでしょ?」


 カナエル「……まあ旅をしてたといえばそうだけど、母親は一緒だったよ?」


 ネル「やっぱすごいなーカナエルは! 私も15歳! ね、だから平気だって!」


  ネル、鞄から地図を出す。


 カナエル「まずは町の冒険者ギルドを目指すんだよね?」


 ネル「うん! 毎日のように冒険者たちが新しい生き物、知られてない植物、見たことない景色を発見してるんだって……。ワクワクするよね!」


 カナエル「……まあ僕がしっかり守るよ。僕がここにいる限り、君には誰も触れられない。約束するよ。」


 ネル「えへへ、よろしくっ!」


 ネル、思い切りの笑顔。


 ネル「世界の果てまで……つきあってくれるでしょ?」


 カナエル「もちろん!」


 画面は俯瞰。どこまでも続くかのような道を、遠目に二人が歩いている。

 蜜蜂が一匹、青空に吸い込まれていく。

※9/5(土)23:00本文を改訂、加筆。300字ほど増量。

※第2話「甘言の悪魔」は9/2(水)7:00投稿予定です。

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