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【 ローファン連作短編集 】

1回こっきりのテイマー

作者: 塩谷 文庫歌
掲載日:2026/08/15

 迷宮のごとく複雑に入り組む間取り。最低限の明かり取り窓しかない狭い通路。獣の巣に似た匂いの漂う石造りの壮麗な建築物は、外観から受けた印象より遥かに攻略が難しい堅固な城塞だった。


 その最奥、鉄扉を開け放つ。

 薄暗い大広間は儀式空間特有の濃密な空気で満たされていた。

 家具は、玉座がひとつだけ。


 カッ


  カッ


 カッ


  カッ


 カッ


 近付くにつれ、こじんまり横座りする人影が見えてくる。

 率直な感想だが。

 可愛い子ちゃん。


 しかし、その威圧感は、強烈だ。

 意を決して大きく息を吸い込む。


「史上最強のテイマー、それが俺。で、あんたが魔王かな」

「史上最強って。普通さぁ、そんなふうに自分で言う〜?」

「渾名。よく言われるの」

「第一印象、最悪だわ!」


 これが、魔王。

 誰もが最強最悪と認める強大な存在。

 だが、その容姿は少々想像と違った。

 服装は魔法学園中等部の女生徒に似ているし、今日は暑くて勉強やってらんない、オッサンの相手もっと勘弁。そんな不満を漏らしているように見える。


 相対する俺は、どうだ。

 部屋着のまま、ナイフ1本。どこまで行けるか試していて、最終目的地に着いてしまった。「まずはご挨拶だけでも」と帰宅できる状況ではなさそうだ。


 大変、マズイ――――


「ま、よい。魔物を使うテイマーが、魔物の頂点たる魔王に勝てる道理は無い。従魔でもなんでも好きに呼び出すが良かろ? ほれ、ど〜ぞ?」


 あ。


「従魔! 従魔ね? いないんだ、ごめん」

「はぁあ?!」

「だから、ごめんて」

「武器も防具も、従魔も無し。なにを根拠に最強なのよ」


 この経緯、なんと説明したら良いのか。


「あ、そうだ」


 俺はギルドが発行した免許証を手渡した。


「きょ、距離を詰めるなぁ! 免許証? なんなの?!」

「人類は、()()()()()()()()()()()()()()産まれる」

「それ世界の仕組みの説明?」

「俺のテイム()()()()あるの」

「免許証の、条件欄の項目ね」


 そう。

 問題の核心は、回数だ。


「ほら、ここ見て?」 

「ちょ、近いって!」

()()()()()()だろ」

「1回、たかがテイ厶が、たったの1回?」

「ひどくね?」

「だっさ! 【神の恩恵】ケチ臭〜ッ!!」


 いわゆる、スキルガチャ。

 豪快に大ハズレを引いた。


「腐っていても仕方がない。1度きりのチャンスだし、後悔したくないから、()()()()()()()()()()することにした」

「あ〜わかる。ドラゴンとか?」

「1番凄い魔物は、魔王だろ?」

魔王(あたし)をテイムしに来たの?!」


 魔王は半笑いで「ごくろーさん」と呟いた。


「なんか微妙に低姿勢なのも頷ける。ちょ〜っとカッコイイ程度で、たかがテイマーなうえに、なぁんにもテイムしてこなかったんだもんね? ……あれ? どうやって、ここまで来たの?」


 答えは簡単。


「移動は、徒歩でした」

「健脚だ、じゃなく!」

「そうではなく?」

「魔物だらけの道中だったでしょ?」


 魔王は革張りの分厚い本を手に取って、ヨロヨロした。細腕すぎる。魔法特化で戦うタイプらしい。「ふぅむ。この全てが、こやつ1人に?」と呟いた。


 時々魔王っぽい話し言葉。

 でも。

 道すがら倒してきた魔物より弱そう。

 手の内を明かしても問題無いだろう。


「【()()()()()()()()()()()を身に付けた」

「ほぉ? ……面白い」


 椅子からユラリと立ち上った魔王のギラリと輝く獣の瞳、妖艶に裂ける唇、蒼白い頬が紅潮し、背よりも高い豪華な杖を手に玉座から立ちあがる。その強烈な威圧は視覚で捉えられるほどだ。


「神々の【恩恵】に匹敵するチカラか。神の対極として創造された世界改変装置・魔王に抗えるのなら、それは、神をも超越したチカラかもしれぬぞ?」


 明らかな戦闘態勢!!

 迎え討つしかない!!


 最大限に警戒しつつ、言葉を続ける。



「その名も【 () () () () 】ッ!!」



 ニヤリと嗤い「はーっはっは、面白い! 返り討ちにしてくれよう!」と叫んだが、後半は「そのトクシュケン! ぅんにゃ、ト・シュ? と しゅ くう けん、とやらを?」なんて自信無さげに小声でモソモソしていた。


 で、キョトンとした顔で、首を傾げた。

 赤黒い髪がサラサラ流れ、白くて細い首が見え隠れする。

 こうしていると、魔王というより反抗的だが可愛い少女。


「ちょい待ち……徒手空拳、パンチとか?」

「武器防具も使いますけど」

「初耳。自分で考えたの?」

「前向きに頑張る気持ちを表現しました」

「それ、名前の話? ど〜でもいい!!」


 どうでもよくない。

 このままでは、失敗する公算が大きい――――



「ここ見て?」と免許証のレベル欄を指差した。


「だ〜か〜ら、近いって!」

「ほら、9999でしょ?」

「なにこれ、レベル? もっ、物凄いレベル?!」

「テイムできるのは、格下の魔物って聞いたから」


 格の違いを自覚させる必要があるのだ。


「魔王より高レベルを目指した。 ……発想、おかしいでしょ〜っ?!」



 魔王はしばらく「とんだ頑張り屋さんがいたもんだ」と苦笑しながら「なぁに? このレベル。【恩恵】も使えないくせに」と、興味深そうに眺めていた。


 この免許証は、【鑑定士】という恩恵を持つギルドの窓口職員が、「えぃやっ!」と念力的なものでなんかしたらピカッと光って更新されたり、項目によっては自動的に書き変わったりするマジックアイテム。

 レベルは、前者。

 更新料がかかる。

 魔物を倒しては定期的に更新していたが、レベル表示は9999で数字が赤く変わって、いい加減レベルアップしそうなものだと何度も試したが、金ばかり取られて、それっきり増えなかった。半年ほど経ってから、ギルドカードの表示上限だと理解した。


 赤くなることすら誰も知らなかった。

 おそらく、初めてカンストした人間。


 付いた仇名が『史上最強のテイマー』

 肝心のテイムは結局まだ使ってない。



「初めて使役を試みる、()()()()()()のだな?」

「たぶん」

「初めて目にする前人未到の高レベル、頑張りは認めよう。なればこそ、ワンチャンで失敗こいたら、お互い取り返しがつかない。テイムは温存するが良かろう」


 かわいいうえに優しい。

 なんて気づかいの人だ。

 いや、魔王なんだけど。


 でも。


「別にいいよ。他にコレといった候補もいないし」

「なんて言い草、婚活アプリじゃないんだよ?!」

「じゃ、別の紹介して」

「そういうとこだよ!」

「それじゃ、やっぱり。魔王をテイムしてみたい」


 ビックリ → 困惑 → 赤面。

 両手で顔を覆って叫んだ。


「イケメンだからってコロッといくもんかっ!!」


 難しい顔になり「ん〜」と、玉座に腰掛けた。

 やおら「よし! こうしよう」と膝を打った。


「5〜60年ほど一緒に生活していたら、『あ〜ん、まおちゃんテイムされちゃうかも〜♪』という瞬間が1度くらいありそうなものだよ。その時は正直に言おう、この魔王に試してみるが良かろ? 一世一代のテイムとやらを、な!!」


 さすがは魔王の感覚。

 ()()()()()()()()()


 ……まおちゃん?


「60年後、もう88歳(米寿)だけど」

「そこは慎重に期するべきだよ」

「慎重に、キス?」

「 ぃ、 今 だ 〜 ! !」


 え?


「そこは、慎重()期する、です」

「今だよ、キュンとしたもん!」

「でも言い間違いが気になって」

「面倒臭、細かっ!」

「だから、ごめんて」

「そんなことより、テイムはどしたの!」

「いやいやいや、突然すぎて無理ですよ」

「そっかぁ〜、焦りすぎは禁物だった?」


 照れ笑いしながら免許証を返却してきた。


「なによ? へんてこりんな顔をして」

「いえ?! ……なんでもない、です」


 困ったな?

 この免許証、()()()()()()()()()になってる。


「まずは同棲だ、善は急げ!」

「魔王も善とか言うんだなぁ」

「なんか言った?」

「いえ……なんでもないです」


 それにしても、一緒に生活するのか。

 なにしろテイム自体が初めてなんだ。


 その発想は無かった……


「ま、いいか。魔物の中でも伝説級だし、見た目どおりの年齢じゃない。同棲したら捕まって、打ち首獄門になったりしない。合法ロリ万歳」


「それについては安心するが良い。頻繁に討ち取られては生き還っているだけで、世界の始まりから存在する、立派な成年魔王なのだ。ちょっとした年の差カップル誕生だな!」


 からから笑っている。

 懸案事項がひとつ減った。


「良かった。もう駄目かと思った」

「14年前の暗殺事件が最後だよ」

「体は見た目、そのまんまなのね」


 なるほど。

 14年前のリセットで、今の体は14年目。

 中等部の女生徒という見立て。

 あながち的外れじゃなかった。


 経験は無くて、知識だけは豊富。

 それは、ただの耳年増な未成年者なのでは?


「追々、寝物語に聞かせてやろう」

「一緒に寝る気なのかぁ」

「テイムの好機を逃さぬためだ、やむおえまいて」


 ついて来る気は満々ぽい。

 引っ越し荷物をリュックサックに詰めている。

 どうやらテイムされた自覚は無いものらしい。


「厳しい拷問ですが……耐えられるか不安だなぁ」


 まぁ。


「なんにせよ、今日からパーティになるのか。よろしく」

「え~! 今夜はパーティするの? 大歓迎じゃん!!」



 うまくやっていけるかどうか。


 物凄く不安だ…………

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― 新着の感想 ―
冒頭の雰囲気や足音から引きこまれました。そして、現れた魔王が可愛らしく、主人公は「史上最強」のテイマー、というのも面白かったです。二人のやりとりがまた可笑しいですね。 読ませていただき、ありがとうござ…
 テイマーなのに一度しかテイム出来ないハズレ。  それなら「一番強い奴を頼む」感覚で魔王城に(素手で物理的に)ノックしてもしもし。  慎重にキスする 言い間違えでテイム判定出ちゃったまちゃん。  多…
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