新聞がない世界で、天気予報で村を救う(完)
「人使いが荒いんだから。」
「いいからキビキビ増やせモヤシ。」
昨日晩に書いたものを、ヨハンナに増やさせる。
杖や火の時は気にならなかったが、
この能力、物によって増やす速度が違うようだ。
「家庭用プリンターでももう少し早いぞ。」
「うるさいなー!こんなに同じもの何枚も出したことないんだよ!」
小さな村、といっても大人は結構な人数いる。
ある程度枚数が出来たところで、村の広場に向かう。
「おう、フミヤ、今度は何してんだ?」
「いいところに来た!これ、見てくれ。」
「なになに・・・?天気、予報?」
何やら怪しいものを見る目だ。
そうか、この世界『新聞』の概念がないのか。
『瓦版』以下かもしれない。
「なになに、どうした?」
「フミヤが怪しいことをしだしたんだ。」
そこへ、ヨハンナがヘロヘロになってやってくる。
「フミヤ、やっと、枚数出来た。」
「さんきゅ。今日は台車に乗せてやる。」
「休ませてくれないの!?」
そうこう騒いでいると、人が集まっている。
「今日、明日、明後日・・・一週間。」
「このマークはなんだ?」
「このモクモクは『曇り』だ。天気だよ、天気。」
「ふーん。」
「予報ってなんだ?」
これを待ってた。
「この紙は、この先の天気を予想した代物だ!今日は特別タダでいい!みんな、持ってってくれ!」
だが、反応は
「アホらしい。」
「天気は神様しかわかんねぇよ。」
なかなか渋いものがある。
が、
「ははーん。お天気占い、つーわけだ。」
「フミヤ、これ、持ってっていいのか?」
「おうとも、持ってって見てくれ!」
反応がいいのもいる。
大体、8:2で反応が悪いが、まぁ新聞知らなきゃこんなもんだろう。
「フミヤ、この滝の絵みたいなのなんだ?」
「あぁ、そこな。村に水が来るかもしれないんだ。その前に村の奥のダム?あれ補強した方がいいぞ。」
そう言った途端、全員大笑いし始める。
「種まきの時期にこんな晴れてて、そんな雨が降るもんか!!」
「ホントだって!やばいんだって!」
「種まきで忙しいんだ。秋の長雨までには直しておくよ。」
そういって、紙を持つもの、そのまま捨てるもの様々で、皆野良仕事に戻って行った。
・・・持ってった奴がいる。これだけでも大きい。
「みんなのいう通りだと思うよ?」
ヨハンナまでそんなことを言い始める。
「フン、想定内だ。よし、よろず屋行くぞ!」
「あ、待ってよー!」
散々叩かれてきた聞屋を舐めんなよ。
よろず屋に行くと、店のおやじが鎌やら鍬やらを整備していた。
「おやじ!使わねぇ麻袋ないか?」
「おうおう、今日も元気だなぁフミヤ。」
「こんにちは、おじさん。」
待ってろ、と言って店のおやじは奥から麻袋を取り出してくる。
「さんきゅ!幾らだ?」
「こんなもんに金は要らねぇ。」
「じゃあ、スコップを一つくれ。」
「・・・お前金無いんだろう。何するか知らんが、洗って返せばいい。持ってけ。」
持たされたスコップをじっと見つめる。
ふと、笑いが込み上げる。
「じゃあ、新品みたいにして返してやらぁよ。」
ヨハンナはそれを不思議そうに見ていた。
「じゃあ、行くぞモヤシ。」
麻袋とスコップを持って店を出る。
土盛りもとい村のダムは、この間と同じく水が溜まりぶよぶよとしている。
正直今作業するのもおっかない。
だが、やるしかない。
「ねぇ、フミヤ、教えてよ。朝からいったい、何をしようとしてるの?」
ヨハンナが不満げに聞いてくる、
そういえば、こいつに詳しいこと話してなかったっけ。
察しの悪い奴・・・と思ったが、文化的に知らないだけだったな。
「俺は、この村に思い入れは無い!」
「はぁ。」
「だか、恩がある。借りっぱなしは趣味じゃねぇ。だから、協力しろ。」
「・・・それで?」
「村を救うんだ。」
「・・・最初からそう言えよー。」
ヨハンナは不機嫌そうな顔から一変、はにかむ。
「じゃあ、早速だが。この麻袋を、ありったけ増やしてくれ。」
「これをかい?いいけど。」
スルスルスルスルと、今度はトイレットペーパーよろしく麻袋が出てくる。
「かなりの数がいる。すまねぇが、頼むぞ。」
「わかったよ。」
何が楽しいのか、ヨハンナははにかんだままだ。
「まずは、こんだけあればいいな。」
「ぜぇ、ぜぇ、流石に、休ませて。」
200枚くらいだした辺りで、急に息が上がりだした。
よくわからん能力だなぁ。
「サンキューな。荷台で寝てろ。」
「フミヤは?」
「土嚢を作る。」
「ドノー?」
「見てろ。」
麻袋の中に、その辺の土をすくって入れる。
繰り返すうち、袋がパンパンになるので、口を縛ってダムの壁に沿ってそれを置く。
「これが、土嚢だ。」
「へぇー。でも、効果あるの?」
「たくさん作りゃあな!」
「僕も、手伝う!」
そういってヨハンナは起き上がろうとするが、
「ヘロヘロじゃねぇか。寝てろ。」
「面目ないぃ」
こうして土嚢作りを始める。
「今日は・・・ここまでか・・・」
まだ日はあるが、はたして間に合うか。
もしくは、あの『瓦版』の真意に誰か気付けば・・・
幸い、明日は晴れだけじゃない。
朝だ。白い朝が来るんだ。
今日もスコップを持ってダムに向かう。
すると、アルバートが話しかけてくる。
「おはよう。フミヤ。」
「おう。昨日の、どうだった?」
アルバートも、持っていってくれた一人だ。
「あれ、すごいな。半信半疑だったんだけど、畑に布掛けてたから、助かったよ。」
やった。
来た。流石ジジイ。
「親父の奴も信じてなかったが、念のため布かけたんだ。そしたら、驚いてた。」
「お前、遅霜をどうやって予想したんだ?」
ジジイがいうには。
この時期は放射冷却のことだとおもうが、空にあったけぇのがワーッてなって、そのせいで、稀に朝に霜が降りる。
これ、農家は頭悩ませる。
ナイスタイミングだジジイ。
すると、アルバートの後ろからもう一人現れる。
「おい、フミヤ。これどうやって情報仕入れた?」
「親父、どうしたんだよそんな焦って。」
アルバートの親父だ。
「特殊なルートで、特殊な交渉術を巧みに使ってだな」
「真面目に聞いてんだ。」
アルバートの親父は眉毛の角度を更に上げる。
「・・・森の中のジジイだよ。あのジジイ、気候に明るいのか、めちゃくちゃ天気を当てやがるから。」
すると、合点がいったようにため息をつく。
「やはり、ハキムじいさんだったか。」
そういう名前だったのか、ジジイ。
「アルバート、あの紙は捨てろ。」
「何でだよ、フミヤの占い、あれ本当に当たるとしたら」
「当たるんだよ。」
親父さんは、苦々しくこちらを睨む。
「だから、捨てなければならない。ハキムじいさんに関わっちゃいけねぇんだ。」
「なんだよそれ・・・。」
アルバートも納得がいかない様子だ。
あのジジイ、過去になんかあったな。
でも、俺には関係ない。
「好きにしろよ。」
「でも、ジジイはお前らを助けようとしてんだぜ。」
「行くぞ、モヤシ。」
そのまま村を後にする。
「あのジジイ、なにやったんだ?」
「僕も詳しく知らないんだ。でも、あまり深入りしちゃ駄目って言われてる。」
だからお前も話半分だったのか。
土嚢に土を詰めながら考える。
確かにおかしいよな。
農家にとって、天気予報は絶対に必要な情報だ。
ジジイの精度の情報なら余計に欲しいはずだ。
村にとって、不都合な何かがあるのか?
わからん。
「昨日からごそごそ何をやってるかと思えば・・・何やってんだ?」
「あ、アルバートさん達!」
アルバートがスコップを肩に担ぎ、仲間数名を引き連れてやってきた。
「手伝う。その代わり、親父のこと悪く思わないでやってくれないか。あれはあれで、村のこと考えてんだよ。」
「思うかよ。あれが普通の人間だ。それより、人手が足りねぇ、そこの袋にその辺の土入れて、壁の前に積んでくれ。」
「随分簡単なんだな?」
「その分、量がいる。俺だけじゃ間に合わんとこだ。」
アルバート達もすぐに要領を掴んで、効率よく土嚢を積んでいく。
「なかなかしんどいな。」
流石のアルバート青年隊も、休憩しながらだ。
そもそも、こんなもん人力でなんとかなるもんじゃねぇ。
もっと、もっと人手がいる。
そう思った矢先のこと。
「あ、親父・・・」
アルバートの親父連中だ。
みんな、スコップを持っている。
「占い、捨てたんじゃなかったのか?」
俺がニヤついてみせると、面白くなさそうに
「俺たちはフミヤの占いを信じるだけだ。」
違うぜ。
「それはな、『新聞』っつーんだ。覚えとけ。」
来るべき日を前に、土嚢は積み上がった。
この辺り、やはり机で記事書いてた俺とは体力が違う。
大雨の中、アルバートの親父達が畑を見に行くというので、やめろと諭すために一緒に川へ行く。
ゴウンゴウンといやな音を立てながら、濁流が上下している。
「親父!ここは危ない!!」
「ここが駄目だったら、畑も終わりだ!!」
「アルバート、馬鹿やろう腕ずくで下ろせ!!」
堤防の上に水が見え隠れする。
やはり、駄目だったか・・・そう思えたが
奇跡的になんとか川は氾濫せずに済んだ。
アルバートの親父さんは雨が止んでも濁流を睨み付けていた。
「領主の命令なんだよ。」
誰かに向けて、そう呟いていた。
「さぁ!寄ってらっしゃい!」
俺にも食い扶持が出来た。
「来週の天気予報だ!一週間分、銅貨1枚!当たるも八卦当たらぬも八卦だ!」
アルバート以外にも、特に青年連中には好評だ。
しかも、全員2部づつ買って行きやがる。
親父連中は表だってまだ買えないんだろうが、
全く律儀な連中だぜ。
ジジイにも儲けの半分やると言ったんだが、面白いからいらんのだと。
タダほど高いものはないんだぜ、全く。
「フミヤ、ずっと言ってなかったんだけどさ。」
「なんだよ、モヤシ。」
「そろそろ護衛代、払ってよね?」
ほんと、タダ程高いものはないわ。




