新聞がない世界で、天気予報で村を救う(1)
ペンは剣よりも強し、なんて言葉がある。
だが、ペンも剣も実際に腹を満たしてはくれねぇってのが世知辛い所だ。
俺の名前は瓦町文也。
東京都で記事を書いていた、しがない記者だったが
色々あって、今異世界で台車を引いている。
なんせこの世界、『新聞』がない。
俺のキャリアはここじゃ紙切れってわけだ。
「おーい!フミヤ!配達かー!?」
「うるせー!」
思えば、この世界にも随分と慣れたもんだ。
「帰りに寄ってけー!野菜分けてやるー!」
「さんきゅーなー!」
舗装のない田舎道を進む。
「フミヤ、ちょっと、休憩しない?」
「バカヤロウそんなに毎度毎度休んでたら日が暮れちまうよ。」
隣のこいつはヨハンナ。
すぐ休憩したがるモヤシだ。
「今日はジジイのとこ終わったら買い出しなんだからな!」
「待ってよー!」
杖を付きながらヨタヨタついてくる。
大体、こんな平和な村と山の往復で「こいつ」がいるのか?
まぁ、決まりだと言うから仕方ない。
この世界は、とにかく文明が進んでいないようだ。
俺は今、小さな村に厄介になっているところだが、
働かざる者食うべからずは万国共通らしい。
金の当てがなかった俺は、とりあえず村の雑用で小銭を稼ぎ、その日暮らしをしている。
今のところ一番実りのいい配達の仕事に精を出している。
村から歩いて30分程の森の中に住んでいる頭のおかしいジジイへの配達だ。
これやるだけで、2食は食えるくらい貰える。
うまい。
だか、この森に入るには、所謂用心棒が必要で、この村にはもやしのヨハンナしかいない。
何やら魔法が使えるらしいのだが、見たことあるのは
「ちょ、ちょっと待ってよ。杖増やさせて。」
見ろ、杖が増えた。
それだけ。
何だか凄い能力らしいのだが、台車も押せない奴はいらん。
「よぉーきたなフミヤ!!」
「うるせぇよそんな大声出さなくても聞こえるわ!!」
「こんにちはおじいさん。」
「ヨハンナもおったか!!よう来たよう来た!」
俺は引いてきた台車から食い物やら羊の乳やらを卸す。
その間ジジイの相手はヨハンナだ。
「ほいでな?今年の夏はあっちぃぞー!こう、山に囲まれとるから、山の上でな?」
「へぇー、そうなんですか。」
なに言ってるのかサッパリわからんから、正直助かる。
「今年は風が抜けねぇ!だから暑くなんだよ!なぁ?」
「へぇー!凄いですね!」
「ジジイ、終わったぞ。」
「おう!フミヤ!!あんがとな!これとっとけ!」
銅貨が4枚。
このジジイ、どこにこんな溜め込んでるのやら。
「今日はこれから雨が来るけぇ、はよ帰れ。」
「えぇー?こんなに晴れてるから大丈夫ですよ。」
ヨハンナはカラカラと笑う。
そりゃそうだ、今はピーカンに晴れてる。
「空がなぁ、静か過ぎるんだわ。多分上でちべてぇのが溜まっとる。はよ帰れ!!」
いつもわからんことを言うジジイだが、相変わらずだな。
まぁ早く帰れるに越したことはない。
いつもはもっと付き合わされるからな。
「じゃあなジジイ!くたばんなよ!」
「お前も頑張れよフミヤ!!」
「またね、おじいさん。」
ヨハンナはジジイに手を振る。
いいからお前は台車を押せ。
ポツ
ポツ
「ねぇ、フミヤ、暗くなってきたね?」
「あん?・・・あーそうだな。早く歩け。」
ポツ
ポツ
「ねぇ、フミヤ、ちょっと降ってきた?」
「あぁん?・・・あーそうだな。だから早く歩けって。」
ザーーーーーーーー
「うわぁ来たよ!!」
「お前、置いてくな!畜生まだ森抜けてねぇのにーー!!」
「おうおう、そんなずぶ濡れで。傘持ってなかったのか?」
俺達は結局濡れ鼠になった。
「あんな晴れてて持っていくかよ。」
「うぅー、寒いよう。」
「お前最後台車乗ってただけじゃねぇか。」
よろず屋のおっさんのところで、暖炉にあたる。
「ヨハンナ、寒かったら勝手に増やしていいぞ。」
「そうするー。」
ヨハンナは暖炉に手を当てると、中の焚き火が『そのまま』増えた。
「暖かいー。」
なるほど、こういう使い方なわけね。
次の日も、配達。
全く肉体労働は楽じゃねぇや。
デスクで頭捻ってた頃が今は昔。
「待ってよー!」
お前は台車を押せ。
「っていうか、牛でも馬でも増やして使えないのか?」
「生きてるものは無理なんだよぉー!」
「使えねぇなぁ。」
昨日の雨でぬかるんだ道を進む。
「よぉーきたなフミヤ!!」
「そんな大声出さなくても聞こえるっての!!」
「こんにちはおじいさん。」
「ヨハンナもおったか!!よう来た、よう来た!」
毎日同じ会話。ボケてんなこのジジイ。
「今日はちょっとゆっくりしてけや!モヤ出るぞ!」
「へぇー、そうなんですか?」
「こんな晴れてて海もねぇのに、モヤなんか出ねぇよ!」
俺はおそらく小麦粉的な袋を卸しながら怒鳴る。
「今日は雨の後であったたかったろ?悪いこと言わねぇから、少しゆっくりしてけ!茶入れてやる!!」
「あ、やったぁ。」
茶か。
褒めたかないが、このジジイちょっと心得があるのか、茶はうまい。
そのくせ、あまり出しちゃくれねぇ。
どういう風の吹き回しだ?
「あんなぁ、実は村のみんなに伝えて欲しいことがあんだわ!」
ズズッと茶を啜りながらジジイが喋る。
「そうなんですか?なんですか?」
「どうせみんな聞きやしねぇよ。」
「フミヤ、そういう言い方駄目だよ。」
責めるように見るなよ、事実じゃねぇか。
「だからお前らに頼むんだ!!まぁ、聞け!!」
俺も茶を貰うため、ジジイの前に座る。
どんな与太話が聞かされんのかねぇ。
「2週間くらいだ。」
「何?」
「2週間後、水が来る。」
なに言ってんだこのジジイ。
「村のダム、補強するよう言ってくれ。」
「おじいさん、流石にそれはないよ。」
ジジイの世迷い事に付き合ってる場合じゃねぇ。
「これから雨がいっぱい降りそうなんだ。山に水が溜まって、とんでもないことになる。」
「あーはいはい。分かったよ。」
「ちょっとフミヤ!?」
台車を片付け、出発の準備をする。
「今日もあまり時間かねぇんだ。行くぞ。」
「頼んだで、フミヤ。」
「ちょ、待って。じゃあ、おじいさん。またね。」
ジジイの小屋を出て数分もすると、視界は真っ白になってしまった。
霧だ。
「ほら、やっぱりもう少し待ってれば良かったのに。」
「クソッタレ、マジかよジジイ。何も見えねぇ。」
進みは早くならず、結局霧が晴れる頃には夕方になってしまった。
それから3日間、雨が続いた。




