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呪いで老いた美公爵を救ったら溺愛されました 〜スキルなしと捨てられた令嬢の【裏ステータス】時間逆行〜  作者: 高八木レイナ


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9/13

幕間・古参侍女ミレイユの違和感

 朝の光が廊下に柔らかく差し込んでいた。

 公爵家の古参侍女ミレイユは、廊下の窓越しに庭園を見下ろして、思わず息を呑んだ。

 石畳の小径を、二人の人影がゆっくりと歩いていた。

 アレクシスと、リリアだった。


「まあ……! 公爵様がお散歩をされているわ!」


「本当に。久しぶりじゃないかしら」


 傍らにいた侍女たちも窓に顔を寄せ、驚きの声を上げた。

 無理もないことだった。アレクシスは《老化症》を発症してからというもの、ほとんど外出もせず、庭に降りることすら滅多になかった。陽の光を浴びる主の姿など、誰もが久しく見ていなかったのだ。


「公爵様のお元気なお姿を、また見られるなんて……!」


 侍女たちが感嘆の声を上げる中で、ミレイユは別のものが気になっていた。


(公爵様……?)


 昨日まで目にしていた公爵の姿と、あまりにも違いすぎた。

 顔の皺が薄くなっている。目の色に光が戻っている。まるで昨日とは別人を見ているようだった。


(まるで……時が遡ったかのよう)


 あの衰弱しきった公爵の面影がどこにもなく、別人のように若々しく見える。いや、「若々しい」という言葉では正確ではない。正確に言うなら――《老化症》になる前の、本来の姿を少しずつ取り戻しつつあるのだ。

 今朝、洗面器とタオルを部屋に運んだ時にも何か違うと感じていた。こうして明るい光の下でじっと見ると、もう確信が持てた。肌のくすみが薄れ、皺の数が減り、目の周りの色素沈着が消えている。動作も滑らかで、体に活力が戻ったように見えた。


(……一体いつから?)


 アレクシスは《老化症》の診断を受けてから、日に日に衰弱し続けていた。疲れやすく、食欲がなく、体の節々が痛んで寝込む日が続いていた。

 それなのに今は、まるで別人のように気力に満ちている。


「信じられない……」


 ミレイユは思わず声を漏らした。

 半年ものあいだ、彼女はアレクシスを見守り続けてきた。白さを増す髪、萎れていく体を、ただ無力に目の当たりにしてきた。


(これはセレスティナ様の祝福のおかげ? でも、いつもとあまりにも違いすぎる……)


 聖女の祝福によって体調が一時的に回復することは珍しくない。しかし今回の変化はあまりにも劇的だった。今までとはまったく異なると、断言できるほどに。


(一体何が起きたの……?)


 庭園の奥へと歩を進めるふたりを、ミレイユは目で追い続けた。リリアがアレクシスのそばに寄り添い、何かを話しかけている。その自然なやりとりに、ミレイユはさらに驚いた。


(リリア様が……公爵様を変えてくださったのかしら)


 ミレイユは思わず胸に手を当てた。

 胸の奥に、じわりと期待が沸き上がってくる。

 あの公爵様が笑っている。誰かと並んで微笑んで歩く姿など、いつ以来だろうか。


「きっとリリア様のお力よ。公爵様は変わられた……!」


 ミレイユが呟くように言うと、近くにいた若い侍女が目を剥いた。


「本気で言っているの? 《老化症》を治療できるのは聖女様だけでしょう」


「本当のことを言っているのよ! きっとリリア様は、神様から遣わされた方なのだわ!」


 ミレイユが鼻息荒くそう言い切ると、侍女たちは「またそんなことを……」と苦笑いを浮かべた。

 しかしこの日以降、誰もミレイユの言葉を否定できなくなるのである。

 公爵がどんどん若返っていく――そのことに、ミレイユだけでなく、執事も、料理長も、護衛騎士たちも、屋敷中の誰もが気づいた。


「公爵様が若返っていらっしゃる……!」


「まさか。嘘だろう?」


「いや、見ろよ。あれは間違いなく公爵様だ……!」


 使用人たちはアレクシスの変化に仰天し、その日から公爵家には静かな噂が広まり始めた。

 ――『リリア様に触れた者は、若返る』と。

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