↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【裏ステータス】時間逆行で呪いを巻き戻したら、老人公爵が若返って溺愛してきます  作者: 高八木レイナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/29

幕間・アレクシスの変化

 聖女の治療を受けた翌朝、アレクシスはいつもより体調が良かった。

 祝福の後に毎回決まって襲われていた倦怠感が、跡形もなく消えていた。いつもなら起き上がることさえ苦痛なほど全身がだるいというのに、今朝は寝台を抜け出すのも苦ではなく、手元の書類を読み進めることも容易に感じられた。

 老眼に悩まされていたはずの文字が、若い頃のように鮮明に見えるほどだった。


(……これは夢か。それとも幻覚か)


 昨日は特別なことをした覚えがない。定期的に行われるセレスティナの祝福を受けただけのはずだ。

 老いた顔を直視するのが辛くて、しばらく鏡を遠ざけていた。意を決して手鏡を覗き込むと、目の周りのくすみや皺が薄れていた。思わず、二度見した。


(いったい、何が……)


 これは明らかに、祝福の効果ではない。これまで聖女の祝福に、これほどの作用はなかった。



「アレク様、どうかなさいましたか?」


 朝の光を横顔に受けながら、リリアがそう尋ねた。ふたりを囲むテーブルには朝食が並んでいる。

 最近はできるだけリリアと共に食堂で食事を摂るようにしている。


(……これも、以前はできなかったことだ)


 体調が悪かったということもあるが、何より使用人たちが《老化症》を恐れていたため、アレクシス自身もこの老いた姿を人前にさらすことに抵抗があった。

 けれど今は違う。リリアが手ずから看病を続けてくれたおかげで、屋敷の空気が変わっていた。アレクシスはもはや恐れる対象ではないと、皆が少しずつ理解してくれている。

 ――それが何より嬉しかった。

 今日は朝食の卵粥も、喉をするりと通った。


「粥だと物足りないな。料理長に普通の朝食を用意してくれるよう伝えてくれ」


 そうメイドのミレイユに伝えると、彼女は驚いた顔をしたが、すぐに「はいっ!」と嬉しそうな笑みを浮かべて厨房へ駆け出した。


「アレク様……普通のお食事を? 召し上がれるようになられたなら、本当に良かったです」


 リリアも驚きながら微笑んだ。

 給仕が運んできたパンとスープ、サラダとハムを口にする。焼きたてのパンは表面がほんのり香ばしく、スープは塩気が程よく、驚くほど難なく喉を通っていく。


(体調がこれほど良く、食欲まで湧いてくるとは)


 アレクシスは驚きながらも、それを表情に出さないよう努めた。この急激な回復が、祝福の効果を明らかに超えていると気づいていたからだ。


(偶然ではない。何かが、確実に変わっている)


 リリアは、驚きを隠しきれない表情でアレクシスを見つめている。

 彼女の所作には、育ちの良さが滲んでいた。伯爵家で冷遇されていたとはいえ、その立ち居振る舞いには、きちんと積み重ねられた教養が宿っている。

 感情を表に出さず、それでいて嘘をつけない顔だ。アレクシスはそう思いながら、リリアの横顔をしばらく見つめた。


「……リリア。体調はどうだ? 昨日から何か変わったことはなかったか?」


 問いかけると、リリアは驚いたように目を見開いた。


「体調、ですか? 昨日は少し疲れていましたが、今朝は特に変わりはありませんけれど……」


 訝しげに小首を傾げる。


(無自覚なのか……)


 アレクシスはひそかに安堵しながらも、まだ確信には至らなかった。

 リリアが何か特別な力を持っているのか、それとも偶然のタイミングが重なっただけなのか。


(あるいは神殿が、私に何か特別な処置を施したのだろうか)


 王弟であったアレクシスに対して、神殿側が特別に力を貸してくれた可能性もある。しかし、すぐにその考えを打ち消した。


(いや、あり得ない。神殿にそれほどの慈悲はない)


 神殿の腐敗については、アレクシスは誰よりも知っていた。聖女でさえ道具のように扱われていることも。それがあまりにもひどいため、神殿上層部に働きかけたり寄付を行ったりと、アレクシスなりに支援を続けてきたが、聖女の待遇は一向に改善されない。


「アレク様、どうされました?」


 リリアが心配そうにこちらを見つめていた。


「いや……少し考え事をしていただけだ」


 アレクシスは疑念を手繰り寄せながら、リリアの目を正面から見た。裏表のない、真っすぐな眼差し。嘘を知らないような目だ。

 ――しかし、もしあの時、彼女が何か特別な力を発揮していたとしたら?


(リリアは、自分でも気づかないまま何かスキルを使っているのではないか)


「リリア、食後に庭を散歩しないか? 今日は天気も良いし」


「えっ、本当によろしいのですか? 外を歩いても……」


 リリアが目を丸くして心配そうな顔をした。


「ああ。今日は調子が良いから。たまには外の空気を吸わないとな」


 軽く笑って見せると、リリアが嬉しそうに頷いた。その笑顔を見ると、肩の力がゆっくりと抜けていった。


 窓の外には冬の庭が広がっていた。雪は薄く残っているが、空は澄んで青く、風のない穏やかな午前だった。


(もしも本当に、リリアが何か力を持っているとしたら……私のスキルなら、その正体を見通せるはずだ)


 アレクシスのスキルは、【真理看破】。

 触れた対象の「偽り・契約・呪い」を視認できるというものだ。かつて謀反を企てた貴族の虚偽の誓いを見破ったこともある。王弟として民を護り、国家の要職に携わるために欠かせない力だった。そのために多くの敵を作りもしたが。

 しかし公務から退いて久しい今は、このスキルを使う機会もほとんどなくなっていた。


(……確かめなければ)


 リリアに触れた瞬間に走った、あの感覚の正体を。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押していただけると作者への応援になります!

執筆の励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。