お父さんは甘えんぼ
どのくらい歩いただろうか。自分では歩いていないからよく解らないが、そう遠くない場所にケンの家があった。木造の小屋。昔話に出てくるような、少し大きな物置のような小屋の前で私はお父さんの背中から下りた。
「大したもてなしは出来ないけど、ゆっくり休んでくれ」
ケンはそう言って小屋の扉を開けた。
中は板張りで、玄関のような造りはないのでそのまま入っていいようだ。
入ってすぐのところに木のテーブルとイスが一脚。奥の方に一段高くなった板間があった。
「せっかく招待したけど、一人だからこの広さで十分なんだ。狭いけど適当にやってくれ。
後でメシを食べに行くついでに村長に挨拶に行こう。
オレはこれを納品してくるから」
ケンは網を引き摺って、村の中心に向かって行った。
小屋の中に最初に入ったのはムウ。鼻をクンクンさせながらあちこちを見て回る。そうは言っても小さな小屋なのでさほど時間はかからない。
「罠や毒の類は無いですし、悪意の匂いもありません。ご主人、ハルカ様、どうぞ」
「そんなのあるわけないだろぉ。ケンはいい奴だってオレの勘が言ってる」
「それって当たるの?」
「当たるときもある。当たらないときもある」
お父さんはそう言って笑ってるけど、信じていいレベルなのか微妙だ。
お父さんは一脚しかない椅子に座った。私とムウは小屋の奥の一段高くなっている板間に進んだ。隅には布団がまとめてあって、どうやら部屋ではなくベットのようなものだった。それでも私の部屋の半分くらいある。キングサイズ?それよりも大きいかも。あの大きな体が横たわるんだからこれくらいの大きさは必要なんだろう。
私は布団のまとめていない方の奥に行き横になる。ムウは手前に座っている。
横になって体が伸びたのを感じるとそのまま眠ってしまった。
何か美味しそうな匂いがして目が覚めた。
ベットから降りてテーブルに行く。椅子はやっぱり1つだったけど、木箱のようなものが3つ増えていた。小さなテーブルの上には暖かなスープが4つ並んでいた。
椅子にはやっぱりお父さんが座っていて、ムウはお父さんの後ろに立っている。ケンは部屋の隅にあるコンロの前でフライパンを覗き込んでいる。
「ハルカ、起きたか?もう平気か?」
お父さんは私が起きるのを待っていたようだ。椅子に座り背筋を伸ばし、両手は膝の上。給食の配膳を待つ間はその体勢なんだよね。
「うん、まぁ、多分」
「簡単なものだけどよかったら食べて」
ケンがフライパンを覗き込みながら言う。
私はお父さんの隣にある木箱に座った。
「ムウも座りなよ」
お父さんが言うとムウは仕方なさそうな顔で私の隣に座る。
私もムウもお父さんと同じ体勢でケンが座るのを待つ。
ケンはなかなか気づかず、コンロの傍から離れない。
なかなか食べださない私達を見てケンは大きな目をさらに大きくした。
「えっ、もしかして待っててくれてるの?」
「そうだよ、早くケンも座れよ」
お父さんがニコニコしながら言う。
ケンは満面の笑みでテーブルに駆け寄る。とは言っても小さい部屋で、大きな体格だからほんの2、3歩なんだけど。
「じゃあ、そろったところで」
お父さんと私は両手を合わせて「いただきます}と言って頭を下げる。我が家では食べる前は必ずすることだ。
ムウとケンもそれを見て同じようにする。
急いで作ったんだろうか、少しいびつな形をした木のスプーンで野菜が沢山入ったスープをすくって食べる。
「美味しい」
「うん、美味しいな」
私とお父さんが言うとケンは嬉しそうに笑った。
「そう、よかった。ありがとう」
具は人参、玉ねぎ、ジャガイモと鶏肉、味付けは塩味であっさりしてる。
「この肉はアレですか?」
ムウがスープの肉を食べて言う。
「そう。意外に美味しいよね」
ケンとムウが通じ合っている。
お父さんも「アレかぁ」とか言いながら食べてる。
「ねえ、アレって何?」
「さっき見たでしょ。今日は大漁だったから全部卸さなかったんだ。それでスープに入れて、もうすぐ肉も焼けるからね。あとパンも買ってきたんだ」
ケンの言葉を聞いて、お父さんとムウはちょっと困った顔をした。
ケンは立ち上がってフライパンの様子を見る。
「よぉし、焼けたよ」
ケンはフライパンごとテーブルに持ってきて真ん中に置いた。
テーブルの真ん中に置かれたフライパンの中で、何か香草で味付けした肉がジュワジュワ音を立てている。そしてそれを起用にナイフで一口大に切り分け大きな爪楊枝、竹串よりも短い棒を肉に刺した。
アレって、さっきのウサギか...。
頭に浮かんだのは、今にも飛び掛かってこようとした憎たらしい目つきのウサギ。
多分お父さんとムウは私が可愛らしいウサギを想像して、可哀そうとか言うのを避けたかったようだ。
私は大丈夫なのに。
ウサギ肉は元々ウという鳥と、サギという鳥に味が似ているからウサギという名前になったって何かで読んだことがある。第一、牛や豚は食べるんだから、動物を食べるなんて可哀そうなんて言えないよ。
ああ、でも私のこんなところが原因なんだろうな、女子となかなか上手く付き合えないのは。
上手く付き合えないから付き合わない。話が合う男子と話していると「男好き」とか「モテないから必死」とか言うような奴らとは付き合いたくない。よくわからない話にただただ頷いて、学校生活なんてストレスでしかなかった。
お父さんは仲良く出来る相手はいつの間にか出来るっていうし。お母さんは人間なんて沢山いるんだからまだ出会ってないだけ、とか言うし。二人とも私にしてみたらコミュニケーションおばけだから。
ああ、ダメだ、ネガティブの泉に潜り込みそう。
私は肉にフウフウと息を吹きかけてから口に放り込む。
熱いだろうとは思っていたけど、予想以上に熱かった。
「あふっ、あふっ。ん、美味しい」
「よかった」
ケンは満面の笑みで喜んでくれた。お父さんとムウにもすすめる。
「うわっ、熱っ」
お父さんは猫舌なのにがっついたようだ。
「お父さん。どう見たって熱々でしょうに」
「だって、美味しそうだったから。それにあんまりフウフウするとお母さんが甘えんぼさんって言うんだよ」
「ここにはお母さんはいないし、私もムウも言わないから」
「えっ、何?なんで熱いのダメだと甘えんぼなの?」
ケンが聞いてくる。
「小さい頃、大事に大事にフウフウしてもらってたから猫舌なんだって。遅いと食べるものが無くなる状態で育つと猫舌になんかなっていられないってお母さんが言ってた」
「へえ、そうなんだぁ」
「でもさぁ、ムウも猫舌だよね。犬なのに」
「私は大事にされていたので」
ムウは食べようとしたところで話を振られて、スンとして言いスープを口に入れた。
お父さんは仲間が増えずに一瞬口を尖らせたけど、またスープをフウフウして口に入れた。
チラチラと二人はフライパンを見ていた。
「あのぉ、ここには市場とかあるんですか?」
「市場ってっほどじゃないけど、中心部には野菜や雑貨を売っている店はあるよ。
オレは狩りで獲ったものを肉屋に売ってるし。パンも買えるし。
本当は食事処に連れて行きたかったんだけど、村長が許可しないと中心部には連れていけないんだって。
ごめんね。オレもこの村に来たばっかりだからあんまり知らなくて」
「ねえ、お父さん。お店とかあるとこ行ってみたい。買わなくていいからどんなのがあるかだけでも見てみたい」
お父さんとムウは顔を見合わせてると、ムウは小さく頷いた。
「じゃあ、行ってみようか。その代わりお父さんとムウから離れないでね
ケン。すまないけど村長への挨拶の連絡と案内を頼めるかな?」
「ああ、任せてくれ」
食事の後、4人で片付けをして出掛けることにした。特に大きな荷物はないし、お父さんには何でも出てくるポーチがある。ポーチは出すだけでなくしまってもおけるらしい。
私はは他の人達にがいることが少し嬉しくてワクワクしていた。
ここまでお付き合いありがとうございます。。
年内最終投稿になります。
よいお年をお過ごしください。




