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お父さんと一緒  作者: 熊沢五月


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6/10

お父さんの好きなもの

今日も一日歩く。途中木の上からザザッと何かが向かってきたけど、お父さんは嬉しそうに刀を抜いてザックリと斬っていた。斬られたら何か落ちてきそうなものだけど、どうやら消えてしまうみたいでグロいものを見ずに済んだ。


足元に肉まんくらいのスライムが10匹くらい現れた。

ムウが足で踏みつけると消えたので私もやってみる。

けれど私がいくら踏みつけても、足の下からムニュンと出てきて消せない。

「ヨシ。お父さんに任せろ」

お父さんは刀を抜いて突き刺していく。途中動きながら踏みつぶしたのもあったから、わざわざ刀を使わなくてもよかったような気がする。

うん。まあ、お父さんが楽しそうだからいいか。


スライムがいなくなりまた進み始める。

歩きながらちょいちょい草むらや気に枝から飛び出してくる大きめな虫を、お父さんは刀でバサバサ斬っていく。

前にムウ、後ろにお父さん、真ん中に私がいるのもだから、お父さんの刀がすぐそばを通る。お父さんが私を傷付けることはない、とわかってはいるけどなんだか恐い。

それにけっこうドジなところもあるから、当たった後に「あっ、ごめん」とか言いそう。

なんて考えてたら本当に目の前をお父さんの刀が通っていった。


「ちょっと!そんな長い刃物を振り回しながら歩かないでよ!

だいたいスライムとか虫とかなら刀じゃなくていいよね!」

「そりゃぁ、そうだけど...」


私がお父さんに怒っているのをムウは黙ってみている。

昨日と違ってほとんど無口になっているムウが小さく小刻みに頷いていた。


「だってせっかくカッコいいのに...。使いたいし...」

「ご主人。移動中はナイフなんかどうでしょう。刀では長いし、そろそろ扱いも慣れたのではないでしょうか」

「うーん。なかなか手になじんできたからもっと使いたんだよ」

「今のところ出てくるのは小型のものばかりですし、大型のものが出てきたらまた使うということで一旦鞘に治めて。

そうだ、小型のナイフを複数この辺に付けて、今度はナイフ投げなんかどうです?」

ムウは甲冑のお腹辺りを指して言った。

「うん。それもいいな」

お父さんはウエストポーチをゴソゴソして小型のナイフを5本出した。

ナイフの柄の部分はフックになっていて甲冑の前面の隙間に下げられた。

「ムウ、ナイス」

私が小声で言うと、ムウは口元だけで笑って親指を立てたグーをした。


お父さんのナイフ投げの腕はよくない。

試しに一度投げてみたけど手のひらサイズの虫には当たらなかった。虫が構わず向かってきたところ、お父さんは正面からグーで殴り落ちたところを踏みつけていた。

私からすると確実な攻撃だと思うけど満足してないんだろう。


お父さんは小石を拾って投げる練習をしている。

最初は何をしているかわからなかったからお父さんに聞いてみた。

「何してるの?」

「ん、ちょっとな」

明らかにどこかを狙って投げて、その度に「チッ」とか「ヨシ」とか言ってるから、何か練習してるんだってわかる。

そういえばお父さんって、関心が無いようなフリをして何日も前から準備してたり、人一倍張り切っていたような気がする。

小学校の運動会の時。お母さんがお弁当を出し始めると、後ろからクーラーボックスを出してきて、キンキンに冷えた麦茶やジュース。フルーツやプリンを出して

「こんなに食べれるわけないでしょ」

と叱られてたな。

少し思い出しながら歩いていると、前方の草むらがゴソゴソ動いた。

お父さんは私の前に立ち、左腕を伸ばして通せんぼのようにした。

ムウは私の左側に立ち、視線は鋭く草むらを見ている。

緊張した空気が流れる。

お父さんの視線は前をみているけど、右手をウエストポーチに入れ何かを探している。

ゴソゴソして出てきたのは弓と矢だった。しかも普通に弓道の弓と矢。

さっきまで刀がとか、ナイフ投げが、とか言ってたのに、いきなり肩透かしをくらった気分。

それにしてもそのポーチは凄い。よくそんな大きなものが出てきたと感心してしまう。

いやそれよりも

「お父さん!なんでそのチョイス?」

「お父さんは地区の弓道大会で5射3中だったんだ。的も大きいし大丈夫だ」

お父さんは自信満々で答えるけど、答えになってないから。


お父さんは弓を構え矢をギリギリと引く。

草むらから頭を出したのは豚だった。

「オークだ!任せろ!」

お父さんは

「トンカツゥ!」

と言って矢を放った。その矢は真っ直ぐ草むらに向かい豚の頭を貫いた。

お父さんは刀を抜き豚に向かって走る。

頭に矢が刺さった豚は二本足で立ち上がった。そしてゆっくりと両手を上げ「ウォー」と声を上げる。

私が今まで見たことのない素早さでお父さんは走り、肩から脇腹まで一気に刀を振り下ろした。

大きな豚はパッタリとお父さんの横を通り倒れた。

そして消えた。

お父さんは悲しそうな、悔しそうな顔をして戻ってきた。

「消えたよ」

「そうですね」

「トンカツにしたかったのに」

「お腹が空いているんですか?」

「いや、そうじゃないけど、好きだから。カツは別腹だし」

お父さんは握り拳を作って言う。

「お父さん料理出来たっけ?」

「カツは作れる!好きだから!」

お父さんは私とムウに、いかにカツが好きかを力説し始めたので私は聞いてみた。

「そもそもトンカツって豚肉があれば出来るものではないでしょ?」

「それはきっとカバンから出せるよね?」

お父さんはムウに問いかけるけど

「それは私にはわかりません。ご主人のポーチなので」

私はお父さんに追撃してみる。

「材料や道具がなんとかなったとして、解体出来るの?丸ごと一頭食べれるの?」

「解体は出来ない。でもきっと...」

お父さんの言葉を遮るようにムウが言う。

「私も出来ませんし、大量のトンカツはいりません」

「私もそんなに食べれないし、解体も出来ないよ」

お父さんはしょんぼりして下を向いた。


私達はまた歩き始めた。

お父さんはトンカツショックから立ち直れていないのか大分ペースが遅い。練習のために投げていた小石も、ヘロヘロとその辺に落ちる。

重い空気に耐え切れなくなったムウがお父さんに言った。

「ご主人。門の向こうには街があって、希望すれば今までと同じ生活がおくれると言われています。私は行ったことがないので、今度はご主人と一緒に行ってみたいと思っています。ご主人はどうですか?」

顔を上げたお父さんの目に光が戻り少し笑顔になった。

「うん、そうだな。とにかく門に行ってみなきゃな」

お父さんはやっと元のペースで歩き出す。

ムウのお父さんの扱い上手さに私は関心した。

甘えたくても甘えられない。反抗もしきれない。言葉や態度は冷たいし素っ気ないけどお父さんのことは好きなハルカです。

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