お父さんの装備...
私達は元の道に戻ってまた歩き始める。
日が傾き夕暮れ時だ。
街灯があるわけもなく、きっと周りは真っ暗になるだろう。
「今日はここで野営をしましょう」
ムウは道のすぐ横の少し開けたところを指差した。
そしてそこにまたたき火を作る。私は言われる前に煙を浴びた。
お父さんに出してもらった寝袋に入り横になる。体力的にも精神的にもけっこう疲れていた。
お父さんとムウはたき火を挟んで座っている。
なんとなくウトウトし始めた時、お父さんとムウの話が聞こえた。
「なんかさぁ、中学に入った頃からハルカはあんまり話をしてくれなくなったんだよね。
寂しかったけど、お母さんとはよく話してるみたいだったし、そんな年頃だしって諦めてたんだ。
でも今こんなに一緒にいれて話も出来て嬉しいよ。
ムウも元々人間ぽい犬だな、とか思ってだんだけどまさか今こんな風に話相手になってもらえるなんて思ってもいなかったから楽しいなぁ。
たださ、せっかく異世界に来たんだから、もっと冒険的なものが欲しいなぁ」
「ご主人。言っちゃいましたね」
「えっ?何?何?」
「ここは主人の希望された場所です。ご主人が言うとその通りになっちゃいますよ」
「えー、駄目なの?」
「今はまだハルカ様も一緒です。ご主人にはよくても、ハルカ様にはキツイのではないでしょうか」
「大丈夫だよ。ハルカは人付き合いはちょっと苦手で怖がりだけど、心は強いから。
それにハルカのことはお父さんが守るって言ったから、言ったことは実行しないと嘘になっちゃうでしょ。ハルカには嘘をつきたくないんだ」
「そうですか。ではご主人、早速頑張って下さい」
私が横になっている後ろの方で何かの気配がする。
お父さんは「ヨシ」と言って私を飛び越えて行った。
なにか物騒な音がしていたけど、私は何も聞こえていないフリをしたまま眠った。
目覚めるとムウは無表情でたき火をつついていた。
お父さんは楽しそうに腕を回したり足を上げ下げしていて、その度にガシャガシャ音がする。
「おっ、ハルカ起きたか」
お父さんが私を覗き込む。
「イクサ??」
お父さんの姿を見て思わず口にする。
私とお父さんはずっとウォーキングに出た時のままの恰好だった。
腰に巻いたウエストポーチは何でも出てくる某ロボットマンガのポケットみたいになってたけど、基本そのままのジャージだった。
メタボ体型のお父さんのジャージは、16歳の身体になっても不思議と合っていた。
なのに目覚めたらイメチェンしてるし、しかも戦国武士か五月人形のような姿。
でも兜は被っていない。
日本刀のようなものまで腰の左側に付けている。
よく見ると甲冑の下はいつものジャージだし、靴も履いてる。
甲冑の前、下腹あたりにはウエストポーチがある。
私はお父さんの微妙な姿に言葉が出ない。
「似合うか?」
得意満面の笑みでお父さんは言う。
「やっぱり異世界に来たら装備が必要だろ。どんなんがいいかなぁ、て考えたんだ。
日本人だしやっぱコレだよな。動きやすいし、それにほら」
お父さんは日本刀を抜いて掲げる。
「いいよなぁ、この細身の刀身、輝き」
カシャカシャと音を立てながら刀を右から、左から眺めてはウットリしている。
ああ、戦国物のゲームが好きだったっけ。それに大人気の鬼退治のアニメも休みの前の日は深夜まで見てたわ。
私の頭の中はグルグルいろいろなことを考えていた。
「お父さん、兜はないの?」
「ああ、あれはいらない」
「えっ、なんで?」
「だってせっかくのリーゼントが崩れるじゃないか」
そういう問題?てかその髪型が気に入ってるんだ。髪のことけっこう気にしてたし嬉しいんだろうな。
リーゼント、ジャージ、甲冑、ウエストポーチ、日本刀、スニーカー。
なんだろ、センスとかよりせめて統一感が欲しかった。
お父さんの好きな格好だし、見てると可笑しいような悲しいような気持ちになってくる。
私は考えるのを止めた。
ムウはやっぱり無表情でたき火をつついている。
私の視線に気が付いたのか、ムウは視線を合わせ小さくため息をつき首を振った。
すぐにたき火に視線を戻し突いている。
(なんか最初言ってた冒険者とか、勇者とかからズレてない?)
私は言葉にするのを止めた。
本日の投稿はここまでになります。
娘LOVEなお父さんと思春期な娘のお話を書いていきたいと思っています。
更新は不定期ですがお付き合い下さる方がいたら嬉しいです。




