まずは腹ごしらえ
「せっかくなので、ここで少しお腹を満たしましょう」
ムウが河原で石を組みながら言う。
「たき火?」
お父さんが聞くと、ムウは頷いた。
「じゃあ、食材を取りに行く前に道具を作ろう」
「道具?」
お父さんは周りを見渡し、何種類かの石を拾った。
「こんな感じの石。出来たら手のひらに載せられるくらいの大きさで探してくれないか?」
「うん、わかった」
動き出した私にムウが言う。
「ハルカ様。あまり遠くには行かないで下さい。見える範囲でお願いします」
「はーい」
返事をしながら、元脱走常習犯のムウが言っていることに少し笑ってしまった。
すぐにいくつか見つかったのでお父さんのところに持っていく。
ムウは薪を拾いに行っているようだ。
お父さんは私が持ってきた石を叩き合って選んでいる。
黒いツヤツヤした大き目の石を、白と黒のごま塩みたいな石にぶつけて割った。黒い石はスライスしたみたいに大、中、小と3つになった。お父さんは満足そうに笑いながら、大きな黒い石をごま塩みたいな石や灰色の石にゴリゴリ擦っている。黒い石は先の尖った丸みを帯びた三角形の形になった。
お父さんは森の中を歩いているときに拾ったんだろう木切れと草のツルを使って、大き目のナイフ?小さ目の包丁のようなものを作り出した。小さい石は同じようにして、草のツルでカバーまで作り私に渡した。
「危ないから気を付けて持ってね」
お父さんは立ち上がり川へ向かう。
「お魚捕るよ」
私とお父さんは川岸に立った。
「釣り竿も無いし、つかみ取りかと思ったけど魚は見えないなぁ」
「そうなの?」
お父さんの前に出て川を覗き込む。
すると一匹、二匹と魚が寄って来たかと思うと、すぐにワラワラと集まってきた。
「お父さん。魚、いっぱいいるよ」
「おお、本当だ。これはよりどりみどりだなぁ」
私とお父さんが魚に群れに手を出そうとしたところ
「ハルカ様!岸から離れて!」
ムウがものすごい勢いで走ってきた。
ムウがジャンプしたと同時に水面が盛り上がり、1.5メートルはありそうな魚が跳びだしてきた。
魚は真っ直ぐ私に向かってくる。大きく開けた口はぎっしりとギザギザの歯が生えているのが見えた。
噛まれるかも、と身を固くした瞬間、ドスっと音を立ててムウが蹴とばしていた。
「ご主人!トドメを!」
お父さんはさっき作った石のナイフを魚の頭に突き立てた。
ドサリと魚は落ちる。
お父さんとムウはその大きな魚を引き摺って、たき火の近くへ持って行く。私はその後ろをついて行く。
「ハルカ様。すみません。私の説明が不足していました」
たき火の近くに魚を置き、ムウとお父さんは魚の解体を始めた。作業をしながらムウは言う。
「このたき火には結界のような効果があるんです。そしてこのたき火から出る煙の成分が体に付いているうちは多少離れても大丈夫なんですが、時間が経ったり水がかかると効果は消えてしまうんです」
ムウは話しながらたき火の上に鉄板を置き、切り身になった魚とキノコを並べた。
「うわぁ、キノコ...」
「お嫌いですか?」
「うん」
「ハルカはキノコが苦手だったな。キノコは体にいいんだぞ。お父さんは好きだけどなぁ」
三人で鉄板を囲んで焼き上がりを待つ。
いい匂いがしてきたところでムウが箸と皿を出してくれた。
私はそのまま受け取ったけど、お父さんはムウに言った。
「ムウ、なんでも持ってるな。荷物も沢山持ってる訳じゃないのに」
「ご主人も出せますよ」
「えっ」
「ここはご主人の希望した場所ですから。必要なものを思い浮かべて、そのウエストポーチに手を入れてみてください」
お父さんは言われた通りウエストポーチに手を入れてみる。
ゴソゴソやって出てきた手には缶ビールが握られていた。
「おぉ、キンキンだぁ!」
お父さんは缶を開けてグビグビ飲んだ。
「美味いなぁ。キノコもいい具合に焼けてるし」
魚やキノコを食べながらビールを飲んで嬉しそう。
私もジュースを想像してコッソリポケットに手を入れてみたけど何も無かった。
「ハルカも何か欲しいならお父さんが出してやるぞ」
「いや。いい」
私はがっかりしてちょっとあたってしまった。そして黙って魚を食べる。
三人で鉄板をつついていると、お父さんは何か気が付いたようにムウに言った。
「もしかして、これ必要なかった?」
おとうさんはそう言って作ったナイフを出した。
ムウはそれを見て視線を逸らした。
「いや、おかげでさっきトドメをさせましたし...」
少し気まずい空気が流れる。
「よし!これはハルカにあげよう!」
「いらないし」
私は露骨に嫌な顔をしていたと思う。お父さんはは少しガッカリした顔をしていた。
「まぁ、役に立つこともあるかもしれませんし...」
ムウがフォローする。
その後三人で黙って食べ、片付けをする。
「ハルカ様。火を消す前に煙をしっかり浴びておいて下さいね」
「煙たいからヤダなぁ」
「虫除けにもなりますよ」
ムウの言葉にパサパサと私は煙を浴びる。
お父さんははそれもニコニコと見ていた。




