お母さんと二人
最終話になります。
私は事故の後救急車で運ばれいろいろな検査をしたけど異常はなく、すぐに目を覚ますと思われたけど10日間目を覚まさなかったらしい。
その間学校は1週間ほどでゴールデンウィークに入ったので、そんなに休んでいない。あの時、お父さんは即死だったそうだ。私が目を覚まさない間、お父さんが死んでしまったので学校は忌引きとなり、お母さんはお葬式や相続とかいろいろな手続きもあってかなり忙しかったらしい。お母さんは仕事を休み合間合間に病院に来ていたそうだ。道理でお母さんが疲れて老けた感じになっていると納得。
その後私は何事もなく無事退院をして帰宅した。
事故の前と大して変わらない家の中。
唯一変わったのは、居間の隅に花とお父さんの写真がある。
お線香を上げ手を合わせると、お父さんともう会えないことを実感した。
「夕飯はどっか食べに行こうか?何か食べたいものある?」
お母さんの作ったご飯が食べたいと思ったけど、お母さんの疲れ切った顔を見て言えなくなる。居間の隅のお父さんの写真を見る。お父さんは自分の気持ちを言葉にしても怒らなかった。私はお母さんに言ってみることにする。
「あのね、お母さんの作ったご飯が食べたい」
お母さんが目を丸くして私を見る。
「お母さんが疲れてて大変だけど、簡単なのでいいから、私手伝うから、なんなら明日からでもいいから」
「娘にそんなこと言われたら作らないわけにはいかないでしょ。ちゃんと手伝ってよ」
お母さんは笑って言ってくれた。
お母さんと一緒にキッチンに立つ。こんなことは初めてだ。野菜を洗ったり、ピーラーで皮を剥いたりしかしなかったけど、お母さんは喜んでくれた。
「ハルカがお腹にいるときにね、女の子だったらいつか一緒にお料理をしたいって思ってんだ。でも毎日忙しくてすっかり忘れてたわ。思い出させてくれてありがと。叶えてくれてありがとね」
「これからはちゃんと手伝うよ」
「頼むよぉ、これからは二人なんだから...」
明るくいいながらもお母さんは涙ぐむ。
「やだ、ゴメン、お父さんがいなくなって寂しくて悲しくて、でもハルカが帰ってきてくれて嬉しくて、
なんか感情がグチャグチャだわ。うん、でも大丈夫、きっと大丈夫」
お母さんは自分に言い聞かせるように言った。
「ごめんね、ハルカだってお父さんがいなくなって寂しいのに、お母さんだけこんなんで...」
「大丈夫だよ。私お父さんと沢山話をしたし、沢山泣いたから」
「それよ、それ。お母さんなんてお父さんの夢も見てないんだよ。せめて夢にくらい出てくればいいのに...。お母さんだって言いたいことや聞きたいことあるのに、もう...」
その日お母さんと夕飯を食べながら沢山話をした。
私は事故の後、お父さんと一緒にいて話をしたこと。ムウは口数は少ないけど、尻尾が上がったり下がったり。プンプンしたり感情が豊かだったこと。そしてものすごい美人さんだったこと。お父さんにケンという友達が出来たこと。
お母さんは黙って聞いていてくれた。
「あのね、お父さんがね、きっとお母さんは後悔して自分を責めてるんじゃないかって言ってた。ハルカがいたらお母さんは強くなれるけど、それでもお母さんのことを時々助けてあげてって。お父さんのことは大丈夫。あっちで楽しくやってるからって」
お母さんは私の話を信じてくれたのかわからないけど、大笑いを始めた。
「あの人らしいわ。病院で聞いたときはハルカも混乱してるんだなって思ったけど。行きたかった異世界に行けて、確かに楽しんでいそうだわ。ハルカありがとう。帰ってきてくれて。お父さんと沢山話をしてくれて。
お父さんね、ハルカが小学校の高学年になった頃からあんまり話をしてくれなくなったって寂しがってたんだ。学校や友達と何かあったんじゃないかって心配もしてた。
でもその頃からお父さんの仕事も忙しくなって帰りが遅くなる日も増えて、そのうち顔を合わせても話をすることもなくなって、お父さんはそれが心残りだったのかもね」
お母さんは何かを思い出しているようだった。
「あっ、あとね心の戦いはハルカは出来るし、体の戦い方はお父さんのとこで覚えたから、あとは頭の戦い方をお母さんに教えてもらえって言ってた」
「アイツ、人のことどんな風に思ってたんだよ」
お母さんが笑っている。何か澱んだものを吹き飛ばしてしまうような笑い顔。あぁ、お父さんはこれが好きだったんだなぁ。
「よし!じゃあお父さんの望み通り二人で強く生きてやろうじゃん。ね、ハルカ」
「うん」
「それじゃ、早速片付けも手伝ってもらいましょうか」
「うわぁ、マジか」
「うん、マジマジ」
ゴールデンウィークが明けて久しぶりの登校に緊張している。
先ずは職員室に行き、担任の先生に挨拶をする。
「おはようございます」
「おはよう。大変だったな。もう大丈夫か?」
「はい」
「あんまり無理しないようにな、頑張れよ」
「はい」
第一関門突破。次は教室。大丈夫、ボッチ上等。それに私にはお母さん直伝の技がある。
小声で「おはよう」と言って、教室の後ろの入口から入り席に座る。少し早めに登校したので教室の中はまだまばらだ。私はカバンから文庫本を出し読み始める。
斜め前の席の子が登校するなり近寄ってきた。長くて艶々な黒髪、白い肌、細い腕、私の欲しいものを全て持っている美人。でもみんなと群れているところを見たことがない。
「おはよう」
美人が話しかけてきた。今までの私ならキョドって言葉が出なかっただろう。
でも大丈夫。
(口角を上げ相手の目を見る。目を見るのが恐かったら眉間や前髪辺りでいい)
「おはよう」
「聞いたよ。大変だったね。大丈夫?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
言えた。
(何かしてもらったり言ってもらえたら、ありがとうを言う)
美人は微笑んで席に戻った。ドキドキした。相手の顔を見ることはずっと避けてきた。久しぶりに見たのが美人でラッキーだ。うん福眼。まだ目を見て話すことは出来ないけど、きっと出来るようになる。
お父さん、ありがとう。沢山話が出来てよかった。
10日間の点滴生活で労せずダイエットも出来たし(笑)
私はきっと、いや多分大丈夫だと思う。
拙い文章にここまでお付き合い下さりありがとうございました。
またお目にかかれる機会がありましたら、嬉しいです。




