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お父さんと一緒  作者: 熊沢五月


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2/10

ここはどこ?

眩しい。目を閉じているのにまぶたの先がやけに明るく感じる。

暑くも寒くもない温度。フワフワと上質な布団に包まれているような感覚。

ずっと包まれていたい、と思っていたのにあの眩しさ。気になる。


かすかにお父さんの話し声が聞こえる。

耳を澄ましているとお父さんの声のテンションが上がっている気がする。


学校での私はこんな時は聞こえないフリをして聞き耳を立てる。聞こえてなかったか確認をされたら、何も知らなかったことを装う。スキルを発動しお父さんの会話を聞き取ろうとするけど、何故だか話していることはわかるのに、何を話しているのか聞き取れない。


ここは学校じゃない。

私は意を決して目を開ける。眩しい。

せっかく目を開けたのに開けていられない。

半目になって周囲をうかがっても眩しすぎて何があるのかわからない。

仰向けになっている体勢をうつ伏せにて顔を上げると、その先に足が見えた。私はお父さんの足だと確信した。

手を伸ばしても届かない。指先から1メートルくらいの場所にその足がある。

左手を伸ばし、右手と全身を使って近づく。その間もテンションの上がったお父さんの声が聞こえる。

私に中で、今近づかなければ二度と会えなくなる、そんな不安がよぎる。私はズルズルと進む。

左手の先がその足に触れた瞬間眩しさは消え、お父さんの姿を確認した。

「あれ?ハルカ、こんなところで何してるんだ?」

「はぁ?ちょっとそれこっちのセリフなんだけど!」

と、立ち上がろうと体を動かすと指先がお父さんから離れた。途端にさっきの眩しさに包まれる。

立ち上がってお父さんの右腕あたりにに見当をつけて手を伸ばす。お父さんに触れた瞬間に眩しさが消える。ふと私はお父さんに触れる、離すを繰り返してみた。

「スイッチ」

鼻から笑いが漏れる。実験と検証の結果、私がお父さんに少しでも触れていると眩しさがなくなることがわかった。だからと言って、じゃあお父さんとと手を繋ぐのは無理なので右袖の肘あたりを摘まんでみる。大丈夫なようだ。

「どうした?大丈夫か?」

「あ、うん大丈夫。って誰?」

お父さんの前に誰かが立っていた。男性なのか女性なのかわからないし、髪型や服装もよくわからないけど、とても綺麗な人だと思えた。綺麗な人に見惚れてうっかりお父さんの服から手を放すと、その綺麗な人は光の塊に変化した。急いでお父さんの服を掴み直す。


「いやぁ、なんかさぁ、お父さん異世界に来ちゃったみたいなんだよねぇ」


は?50過ぎたオジサンが何言っているんだ。

でも私は知ってる。この人異世界アニメとかマンガが大好きなんだよね。夜中に晩酌しながら録画してたのを見てたり、休みの日にケータイをずっと見てるかと思えばマンガ読んでたし。

仕事で何かあっただろう日(お母さんの推測)の口癖は、「ああ、オレも異世界行きてぇ」だし。

だからってこの状況でその発言?しかもメッチャ嬉しそう。


「で、お父さんはどうするの?」

「もちろん行くさ。そしてオレも勇者になっちゃう?いやぁ、まずは冒険者かなぁ」


 (そのメタボの体形で?)

 (どう考えたってモブキャラだよ)

 (頑張って村人Aだな)


あまりに嬉しそうなお父さんを見て思うことはあったけど、口には出さなかった。お父さんには聞こえていなかったけど、目の前の綺麗な人には漏れていたようだ。

「勇者とか冒険者とか我にはわからぬが、出来るだけ希望を叶えてやろう。先ずはその体だが、別人にすることは出来ぬので過去の自分の年齢を言うがよい」

「16、16でお願いします」

お父さん即答なのか。

「ねえ、なんで16?」

「あの頃、起きたら走って学校行って、朝練して、昼練して、放課後部活して体力が尽きても次の日には回復してて、肩こりも腰痛もなくて、視力も悪くなかったんだよ」


なるほど、私の知っているお父さんとは正反対の時期があったのか。16というと高1。私と同い年のお父さんを見ることが出来る。そういえばお母さんが言ってたことがある。

「結婚する前はお腹も出てなくて筋肉質だったの。それでいて頭の回転が速くて仕事も出来て、お母さんの失敗を何回もフォローしてくれて格好良かったんだよ」

格好いいお父さん、見てみたい。私の知ってるお父さんは物心ついたときからこんなんだった。いや、小さいときはもうちょっと髪があってお腹も小さかったか。私と同い年のお父さんに期待してしまう。


「うおぉ、体が軽い」

横を見ると厚みが半分以下になっているお父さんがいた。

顔の横幅が半分になっていて目が大きい。お父さんの目って肉に埋もれてたんだね。気のせいかいつも下がっている目尻が上がっている。鼻筋がシュッとして高かったんだね。頬の肉に埋もれていてわからなかったんだ。

身長は170でそんなに高くないからイケメンってほどじゃないけど、まあ見た目はいい方じゃないかな。

髪もフサフサじゃん。でも変な髪型してる。両サイドをピッタリと固めて、前髪から後頭部までクルクルした髪が立ち上がっている。リーゼントとかいうやつ?お父さんヤンキーだったの?

「やだ、お父さんちょっと格好良かったんじゃん」

「そうかぁ」

お父さんムッチャ嬉しそう。

「でもさぁ、そんな髪型してたから今ハゲててるんだよ」

「お父さんはハゲてない。ちょっと少なくなってきただから」

お父さんは体が若返ってよっぽど嬉しいのか、腿上げしたり跳ねたり腕を回したりする。その度私の手が離れ、眩しさがぶり返す。着いたり消えたりして目がチカチカしてきた。

「もう、じっとして」

お父さんの腕を両手で攫む。

「はい」

お父さんは小声で言うと「気を付け」の姿勢で止まった。


「喜んでもらえて何よりじゃ。それで続きを話してもよいか?」

「はい」

お父さんが答えると綺麗な人は話始めた。

「本来ならここを出てすぐに門があるのだが、どうやらオヌシは苦難をしたいようなので離しておいた。

方向はこのまま真っ直ぐにに向かうとよい」


アバウトな説明に納得しているお父さん。苦難って何?方向が真っ直ぐって地図も無いの?ちょっと待って。お父さん方向音痴だよ。家族旅行で車にナビ付いてるのに何故か迷う人だよ。

「おとうさん。地図なり、案内人なり付けてもらいなよ。ここにはナビもケータイも無いし、お母さんもいないんだよ」

「うーん。そうか。そうだな」

「あのすみませんが、道案内の方を付けてもらえないでしょうか?」

お父さんと綺麗な人の間に沈黙が流れる。

その沈黙を破ったのは綺麗な人のほうだった。

「ふむ。これでどうじゃ?」

お父さんの前に黒い人が現れた。黒い服に黒いスパッツ、靴も黒。真っ直ぐな長い艶々した黒髪。頭の上には黒い二つの三角。三角?耳?


現れたその黒い女性はいきなりお父さんに抱き着いた。

「ご主人!お久しぶりですぅ」

お父さんもいきなり抱き着かれて固まってたけど、すぐに顔がデレた。私が強めに腕を引っ張ると元の顔に戻った。そして左手でその黒い人を引きはがした。

「あの、どなたでしょうか?」

黒い人はスッとしゃがみ込むと犬の姿になった。真っ黒で艶々な毛並み。赤い首輪をした犬。

お父さんは目を見開いたあと笑った。

「お前、ムウなのか?」

お父さんは左手でその犬を撫でる。犬は尻尾を盛大に振ってお父さんに擦り寄る。

ムウは私が産まれる前から家にいたけど、小学生の時に死んでしまった犬だ。

「もう大分年を取っていたからからな」

と、お父さんとお母さんは言っていた。あの後うちはペットを飼っていない。

「寂しいけどもう見送るのは嫌だし、かと言って自分が死ぬとき残していくのも心配でしょ」

と、お母さんは言っていた。

ムウはお父さんに撫でられて満足したのか人の姿になった。


「ご主人。道案内は私にお任せ下さい。そしてハルカ様もちゃんとお守りします」

人の姿になったムウは自信に満ちた顔で言う。胸を張り尻尾をプンプン振りながら。

するとお父さんはムウに言う。

「えー、大丈夫なの?お前さあ、よく脱走して遊び歩いてたよね。戦闘力とか防御力は申し分ないとしても、面白そうなことがあったらすぐ消えちゃわない?」

「ご主人。私は純血の甲斐犬です。主人には忠実です」

私はお父さんを見る。お父さんは少し考えて言った。

「よし、行くか」

すると綺麗な人は

「ではな」

と言って消えた。



砂漠?

綺麗な人が消えた瞬間、私達は砂地に立っていた。ギラギラ熱するような気温ではなく快適な気温。砂が熱くなっているわけでもない。砂場の重たい砂ではなく、サラサラした薄い茶色の砂。周りを見渡せば積みあがった岩があったり、小さな林のようなものも見える。

「ご主人。この方向に真っ直ぐ進みます」

ムウが指をさしてお父さんに告げる。お父さんは上機嫌。スキップでもしそうなお父さんだけど、私はその場所から動けない。尻込みしてるとかではなく物理的に。

前に進もうとするお父さんの力が強すぎて、思わずお父さんから手を離してしまった。するとゆっくり足が砂に沈んでいく。

「えっ、何?どうして?やだお父さん助けて!」

私を見たお父さんは右腕を、ムウが左腕を掴んで引っ張った。すると今度は砂の上に立てるようになった。

お父さんは何が起こったのかわからず不思議そうな顔をしている。

「ごめんなさい。忘れてました。ハルカ様ははちょっとご主人と離れないで下さい」

ムウはそう言うと自分の髪とお父さんの髪を1本ずつ抜いた。その2本の髪とムウの腰に付いていた小さなバックから何かを取り出し、指先で何かを作り始めた。

すぐに黒いミサンガのようなものが出来上がった。

ムウはそのミサンガみたいな紐を私の左手首に巻いた。

「ハルカ様。これで手を離しても大丈夫ですよ」

ムウに言われて恐る恐る手を離すと、今度は砂に沈まなくなった。

「ほぇー」

思わず間抜けな声が出る。

私は黒いミサンガの巻かれた手を動かしながら、いろんな角度から見てみるけど特に変わった様子もない。そして顔を上げて回りを見ると、さっきまで砂ばかりだった光景が一変していた。


周囲は木が生い茂り、木々の隙間から明るい陽射しが差し込んでいる。

足もとは草花が生えている。

砂地は堅く固まった土になっていて、さっきムウが指を指した方向に1本の道が出来ている。

私は何が起こったかわからず周囲をキョロキョロするばかり。

「では、行きましょうか」

ムウが言うと、お父さんは満面の笑みで

「よっしゃー!」

と気合の雄たけび。

そして3人で歩き始めた。


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