お父さんのお願い
今回はハルカとお父さんの二人の会話です。
「ハルカ。それにしてもよく自分の気持ちが言えたなぁ」
お父さんは私の頭をワシワシ撫でながら言った。私の気持ちを言ったところで、怒られるか呆れられるかして嫌われるものだと思ってた。
「お父さん、怒らないの?」
「なんでお父さんが怒るんだ?」
「だって、みんなで目指していたところがすぐ目の前なのに、行きたくないって言ったんだよ」
「そうだね。でもそれはハルカの本当の気持ちなんでしょ?」
「うん」
「じゃあしょうがないよね」
「だって、みんなと違うこと言うと仲間外れにされる」
「ハルカ、それは違うよ」
「違くない」
「確かにそんなことをする人はいる。でもしない人だっているでしょ」
「いたけど、その子はいつも一人だった」
「ハルカは違うことを言っていたその子ことを仲間外れにするの?」
「...したくなかった。けど他の子達がしていたから一緒にしてた。それに一緒にしなかったら次は私が仲間外れになっちゃう。それがすごく嫌だった」
「そっかぁ、だからハルカはいつの間にか外では自己主張をしなくなったんだ」
お父さんは何かを思い出しているのか空を見ていた。
お互い無言のまま並んで座っていた。その先にはムウとケンがこちらに背中を向けて立っている。時々ケンがムウに話し掛けているようだけど、ムウはサラッと躱しているようだ。
「もう落ち着いた?」
「うん。もう大丈夫」
「じゃあさ、少しお父さんの考えを聞いてくれる?」
「うん」
「お父さんはね、一人になることは悪いことじゃないと思うんだ。周りに気を使わなくていいから気楽だし。自分でやろうと努力するし、出来なかったら別に友達じゃなくても誰かにお手伝いをお願いすればいいだけだし」
「そのお願いが難しいんだよ」
「ハルカには先ず最初に話し掛けることが難しいかもね。でも逆にハルカが誰かに手伝ってって言われたら友達じゃなくても手伝うでしょ」
「うん、まあ」
「大丈夫。ハルカなら出来る。ちゃんとさっき自分の気持ちが言えたんだから」
「でも一人は寂しいよ」
「そうだね。でもその寂しい思いを知ってるから人は強くもなれるし、優しくなれると思うよ」
私はお父さんの言葉を考える。私は私を変えることが出来るだろうか。
「ハルカ。お父さん、ハルカにお願いしたいことがあるって言ってたの覚えてる?」
「うん」
「じゃあ、いろいろあるんだけど3つだけお願いしていいかな?」
「3つなら覚えていられると思うから任せて」
「じゃあ、先ず1つ目。ハルカにはお母さんのところに戻って時々お母さんのことを助けてあげてほしいんだ」
「えっ?何?どういうこと?」
お父さんは穏やかな笑みを浮かべている。
「あの時お父さんは死んじゃったんだけど、ハルカはまだ生きているんだよ。感覚の違いは多分そのせい。ハルカと離れたくなくて、もっと一緒にいたくて黙っててゴメン」
お父さんはペコリと頭を下げた。
実は私は生きてると言われてもあまり実感が湧かない。お父さんと別れて劣等感ばかりの生活に戻るのは重たい。私がそのまま黙っているとお父さんは続けた。
「あの日、行ってこいって言って、お父さん死んじゃったからきっとお母さんは後悔してると思うんだ。それにハルカまで死んじゃったらきっとお母さんは立ち直れない」
口うるさくて、小言も多くて怒るととんでもなく怖い。それでも作ってくれるご飯は美味しくて、お弁当だって毎朝作ってくれた。夜遅くまで洗濯や片付けをして、朝も1番に起きてた。
「お母さんはしっかりしてるし、強いから大丈夫だと思うよ」
私がそういうとお父さんは軽く首を横に振って言った。
「ハルカはお父さんにとって大切な存在だけど、お母さんにとっても大切なんだ。お母さんはハルカがいたから強くなれたんだよ。。お父さんもハルカのおかげでお父さんになれた。本当はもっとずっとお父さんをしていたかったけど、ハルカは自分の気持ちを言葉にすることが出来たし、時々は戦うことも出来た。もういつまでも小さなハルカじゃないってわかったからお父さんは安心だよ。今度は時々でいいからお母さんのことを助けてあげて。
それにお父さんはお母さんの笑ってる顔が大好きだから、お母さんには笑っていてほしいんだ」
「私、戦うことなんて出来ないよ」
お父さんはニカッと笑って私の頭をワシワシ揺らしながら言う。
「自分のことは自分で守るんでしょ」
「あれは必死だったから」
「ハルカ。人は生きていれば戦わなきゃいけない時がある。体で戦うか、頭で戦うか、心で戦うか。『戦わない勇気』って言葉もあるけど、それは自分の心との戦いだとお父さんは思う。
ハルカは心の戦いの猛者だし、体の戦いも出来る。頭の戦いはお母さんが得意だから、今度はお母さんに教えてもらいなさい」
「じゃあ、お父さんも一緒に戻ろうよ」
「ごめんね、それは出来ないんだ」
私は何も言えず下を向く。
「そこで2つ目のお願い」
私は下を向いたまま小さく頷く。
「すぐじゃなくていいからハルカには一人になることを怖がらないで、一人の寂しさと仲良くなってほしい」
「無理だよ」
「大丈夫出来るさ。気に入らなければ仲間外れにするようなくだらない奴らとは仲間にならなきゃいいんだよ。ボッチ上等!寂しさと仲良く付き合ってればきっとハルカはもっと強くなれる。
周りを見てみればきっとハルカみたいにくだらないことが嫌いで、キチンと向き合って話せる人がいるから」
私は小さく頷いた。
「出来るかわからないけど、すぐじゃなくていいなら頑張ってみる」
「うん、頑張れ!お父さんはずっと応援してるぞ!」
私とお父さんはグーの拳を合わせた。
「ハルカ。最後に3つ目のお願いいいかな?」
「うん。でもこれを聞いたらもうお父さんとはお別れなんだよね?」
「そうだね」
「じゃあ聞きたくない!」
「それは嬉しいけど、聞いてほしいな」
「うん...」
「あのね、ちょっと恥ずかしいんだけど...お母さんに大好きだって伝えて」
お父さんは顔を真っ赤にして両手で顔を隠してしまった。乙女か!
「ちょっと!何?お母さんを助けることと、私の生き方とか語って最後はそれ?」
「うん」
お父さんは真っ赤な顔を手で覆ったまま頷いた。そして深呼吸をして顔を上げた。
「お母さんには笑っててほしいんだ。だからもしお母さんに新しく好きな人が出来たら、ハルカさえよければ再婚しても構わないって思ってる」
「ホントに?」
お父さんの顔を覗き込んで聞いてみる。お父さんはそっぽを向いて答えた。
「本当!......寂しいけど」
最後は消えそうな声だった。




